第五話:【創造】の力
魔物を作ったあとは、解散となった。
マルコに、魔王は魔物を異次元に収容する能力をもっているということを教えてもらった。
収容している間、魔物の時がとまり収容した状態で変化しない。そして、呼び出したいときにいつでも呼び出せるそうだ。
ただ、収容できる魔物の数は十体だけ。十体を超える魔物は自らのダンジョンに住処を用意しないといけないらしい。
ただ、この収納は魔物の管理をしやすくするためというよりも、むしろいつでも呼び出せる戦力を手元に置いておくところに重点が置かれているらしい。
確かにそうだ。
いつでも最強の切り札が呼び出せるのは心強い。
付け加えると奇襲性も高いだろう。
例えば、街の中に単身で乗り込み凶悪な魔物を呼び出し暴れさせるなんて手段もとれる。
「というわけで、天狐。収納されてくれないか」
「ううう、やだ。おとーさんと一緒がいい」
天狐がぶんぶんと首を振る。
今は子狐の姿ではなく、一二歳前後のキツネ耳美少女の姿に戻っている。
「でも、ベッドは一つしかないんだ」
マルコは三二階層にある居住区へ俺たちを転送し、そこの階層主であるサキュバスに俺たちを紹介してくれている。
主にこのエリアは人型の魔物が住んでいるようで、マルコの魔物たちがせわしなく行き来していた。
三二階層ということは、すくなくとも他に三一階層あり、魔物を配置しているはずだ。いったいマルコは何百匹の魔物を従えているのだろうか。
居住区というだけあって、いくつもの家が並んでおり、そのうちの一つを自由に使っていいと与えてくれた。
家の中には一通りの家具が揃っており、不便はしなさそうだ。ただ、ベッドが一つしかなく一人暮らし前提の家だろう。
「なら、おとーさんと一緒に寝るの! 天狐、おとーさんと一緒に寝たい」
天狐がいい案を思いついたとばかりに目を輝かせてそう言った。
「一応、魔王と魔物とは言え男と女だ」
「男と女だけど、おとーさんはおとーさんなの。おとーさんは天狐に変なことするの?」
天狐は首をかしげて俺の顔を覗き込む。
純粋無垢な少女の問いかけ。
ここの回答は一つしかない。
「そんなわけないよ。俺は天狐のおとーさんだから、変なことはしない」
「なら、一緒に寝ていい?」
「もちろん」
「やー♪」
天狐はにっこりと笑って抱き着いてくる。
一つ気付いたことがある。この子は、嬉しいことがあるとやーっと言う。後ろが跳ねる独特の発音が心地よい。
「眠る前にご飯にしようか」
「ごはん?」
天狐は首をかしげる。
まあ、そうだろう。生まれたときから魔王である俺も魔物も一般常識をもっている。
その一つに、俺たちは食料を必要としないということがあげられる。
食べることはできるが、あくまで嗜好としてでしかない。
「まあ、お遊びと実験かな?」
天狐を連れて、ダイニングに向かう。
用意されていた皿を机に並べ、フォークとナイフを用意する。
天狐は首をかしげながらも席についた。
「【創造】」
俺は自らのユニークスキルを使用する。
『ユニークスキル:【創造】が発揮されました。あなたの記憶にあるものを物質化します。ただし、魔力を帯びたもの、生きているものは物質化できません。消費MPは重量の十分の一』
俺は俺自身のことを何一つ覚えていないが、食べ物のことを考えるといくつものメニューが頭に浮かぶ。
まずは、コーンスープが皿に注がれ、別の皿にはステーキ。さらにフランスパンが食卓並ぶ。
「うわあ、すごい。おとーさんってこんなこともできるんだ。おいしそう!」
キツネの魔物だけあって、肉が好物なのか天狐の目はステーキに釘付けだ。
しかもこれは一ポンド(450g)の分厚い肉汁の滴るステーキ。かなり食べごたえはありそうだ。
「食べていい?」
「ああ、いいよ。でも、その前に手を合わせていただきますと言ってからだ」
「おとーさん、なにそれ? そんな儀式初めて聞いたの」
儀式?
そういえば、そうか。
この動作に意味はない。だが、それをするのが当たり前のように俺は感じていた。
「思い出せないけど、やらないと気持ち悪い。俺に付き合ってくれたないか?」
「わかったの。おとーさん」
まず、俺が手を合わせると、見様見真似で天狐も手を合わせる。
「「いただきます」」
そして二人で食事を開始する。
天狐は器用にナイフとフォークを使用して食事をする。
知性が高い行為の魔物だからできることだろう。
あっという間に巨大なステーキを平らげる。
天狐は空になった皿を見て、残念そうな顔をしたので、【創造】でお代わりを用意する。
すると、天狐はぱーっと花が咲くような笑顔を浮かべた。
「おとーさんありがとう!」
そう言って、キツネ尻尾をぶんぶんと振った。
俺が食べ終わるころ、天狐もお代わり分も平らげた。
「美味しかったの。こんな御馳走を魔法で作るなんて、おとーさん、すごいの」
「食べ物も作れるとは思ってなかったから自分でも驚いている」
俺のユニークスキルはかなり便利だ。
自らのステータスを思い浮かべ、MPを確認する。
MP:1750/2000
MPが250ほど減っていた。重量の十分の一。今回生み出した料理は、2.5キロほどなのでぴったりだ。
最大MPまであると、20キロまでは好きなものを作れる。
「おとーさん、これからどうするの?」
「武器を生み出そうかと思ってね」
MPは、時間と共に自動回復する。
体調が悪ければ回復効率が落ちるが、平常時だと一時間で五〇ほど。
ただ、上限を超えることはない。
MPを有用な道具を生み出せる俺にとって、MPが上限に張り付いた状態で何もしないことがひどくもったいない。
「御馳走を作った魔法で武器まで作れるの?」
「うん、俺の記憶にあるものはなんでも作れる。ただ、生きてるものと、魔力が通っているものだけはだめなんだけどね」
もし、魔力が通っているものができるなら、メダルを量産したのに。
それができないのが残念だ。
ただ、俺は一つ考えていたことがある。
Fランク、Gランクの魔物。そいつらに凶悪な武器を持たせれば低コストで強力な軍団を作れるのではないか?
Gランクのもっとも安い魔物、スケルトンはたった20DPだ。
「【創造】」
俺は【創造】の魔術を起動する。
生み出すのは、いわゆるアサルトライフルと呼ばれる武器だ。
M&K MK416。
全長560mm。重量3.09kg。装弾数30発。発射速度850発/分。有効射程400メートル。
M&K MK416は、数あるアサルトライフルの中でも名機とされている。その理由は圧倒的な耐久性と信頼性だ。この銃は泥水に浸してそのまま射撃するという芸当まで可能だ。
ダンジョンの中、魔物という銃の素人が使うのであれば、性能よりも、耐久性と信頼性を重視するべきだ。
MPが減った。
MP:1450/2000
俺のMP回復量だと六時間でM&K MK416が一つ。一日四つ生産できる。
やろうと思ったら、一月で一二〇丁。
百体ほどのスケルトンにアサルトライフルをもたせて制圧射撃をするのも面白い。
こつこつ作り置きをしておこう。
「おとーさん、その変な鉄の棒が武器なの。ぜんぜん強そうに見えない」
「とんでもなく強い武器だよ。大剣とかよりよっぽどね」
5.56mm×45と口径は小さいが、その分取り回しはいい。
初速890m/秒の弾丸を発射速度850発/分で吐き出すこいつが弱いはずがない。
だが、天狐は俺を疑いの目で見ている。
まったく仕方がない。
「なら、これの強さを見せてあげるよ。マルコの言ってた混沌の渦に行こうか」
マルコから、魔物を狩ってレベル上げをするように言われていた。
DPで魔物を買う場合、購入額の百倍を支払うことで一日一回その魔物が沸く混沌の渦を購入可能らしい。
マルコからは、ランクCの魔物がでる混沌の渦を一つ、ランクDの魔物がでる混沌の渦を二つ、自由に使っていいと許可を得ている。混沌の渦から定期的に出る魔物であれば懐は痛まないそうだ。
他にも、ある程度のレベルにまで到達したら、ダンジョンの外にあるもっと効率のいい狩りを教えてくれるという話だ。
まずは混沌の渦を使って、アサルトライフルの強さを天狐に見せる。
今から天狐がどんな反応を見せるのか楽しみだ。