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第三話:愚かさの代償

 水晶の部屋の最奥で様子を見ていて【粘】の魔王はあまりにも規格外な天狐の力に怯えていた。


 たった一撃。それだけでクイナは【粘】の魔王の心をへし折った。


「ひぃ、ひぃぃ、一階層の第一フロアに集めた、おっ、おいらの魔物、半分がたった一撃でぜっ、全滅したんだな。おかしいんだな、ありえないんだな」


 水晶の最奥の部屋で【粘】の魔王ロノウェは震えていた。

 彼の側には羊と人間が混じったような悪魔が控えていた。【邪】の魔王モラクスの作り出した魔物で、四つ子同士でのテレパシー能力をもっていた。


 この魔物を使うことで、【鋼】陣営の魔王たちはお互いに素早い情報共有が可能だ。


 当初の作戦では、【創造】の魔王プロケルが誰かのダンジョンに攻め込んだタイミングで、攻め込まれた魔王は全力で防衛、その間に残り二人の魔王が第一フロアに用意してある魔物を使って攻め込むというシナリオだった。


 そうすれば、手薄になった【創造】の魔王プロケルのダンジョンなんてすぐに落とせるし、守りも考えないといけない【創造】の魔王プロケルが出せる攻撃部隊なんてたかが知れている。

 数任せで封殺できる。

 そう考えたいのだ。


「一撃で、壊滅なんて、ばっ、化け物なんだな。こっ、こんなの聞いてないんだな。あの化け物が、来てる、来てるんだな。怖い、怖いんだな」


【粘】の魔王ロノウェは水晶に映し出された自らのダンジョンの様子を見る。

 あの化け物、金色のキツネ耳少女を先頭に【創造】の魔王プロケルの魔物たちは、第二フロア以降も、防衛用の魔物も罠もまったく意に介さない様子で軽々と乗り込んでくる。

 数々の罠を見破っているのは、風を司るハイ・エルフと土を司るエルダー・ドワーフの力だとは【粘】の魔王ロノウェにはまったく想像ができなかった。


 居てもたっても居られず羊の悪魔に話しかける。


「ザガン、おっ、おいらなんだな。【創造】の魔王プロケルの魔物が攻めてきたんだな」


 人型の羊の悪魔が口を開く。

 そこから響くのは【鋼】の魔王ザガンの声だった。


「そうか、そっちに行ったか。なら、僕とモラクスで【創造】の魔王のダンジョンを攻めるとするか。すぐに倒してやるからそれまで持ちこたえてくれ」

「むっ、むりなんだな。強すぎるんだな。もう、おいらの魔物、攻めるつもりで、入り口の近くに待機させてた魔物がたった一撃で皆殺しにされたんだな、聞いてない、あんな強いなんて聞いてないんだな! ザガンが絶対大丈夫だって言ったから協力したのに、全然大丈夫じゃないぃ」

「そうか、そんな強力な魔物を手放してくれたのか。これは攻略が捗るな」


 その一言は、【粘】の魔王ロノウェの絶望をさらに深めた。


「ザガン、貸している【誓約の魔物】返して欲しいんだな。このままじゃ、ザガンたちが水晶を砕く前においらが殺されちゃう、お願いなんだな、ザガン助けて、増援もほしい、お願い、ザガン」


 必至に【粘】の魔王ロノウェは泣きつく。

 しかし、【鋼】の魔王ザガンの声音はたんたんとしたものだ。


「それはできないよ。【風】の魔王ストラスを蹂躙したゴーレムを攻略するのに君の【誓約の魔物】は必要だからね。悪いけど、あれを攻略するまでは死なないで欲しいかな」

「ひっ、ひどいんだな、仲間を見捨てるつもりなんだな!?」

「作戦だよ。勝つためには、時に非情な判断もね。まあ、常識的に考えて、プロケルの出せるちっぽけな、戦力に負けるわけがないんだ。もっとどっしり構えなよ。……僕たちにはルール違反まがいをしてまで手に入れた切り札もあるしね」


 その言葉を最後に、羊の悪魔は押し黙る。いくら呼びかけても、もうザガンの声が聞こえることはなかった。


「ザガン、まだ話は終わってないんだな! おいら、死にたくない。ザガンが絶対勝てる、安全だって言うから、協力したんだな。おいら、このままじゃ、このままじゃ殺されちゃう! 話が違う、答えて、答えてザガン!」


 物言わぬ、羊の魔物に、ロノウェは問いかけ続ける。

 しかし、返事はない。

 しばらくして、ようやく一つの可能性にロノウェはたどり着いた。


「……おいら、まさか、利用された。おいらが、馬鹿だから、騙されて、そんな、ひどいんだな。あんな化け物だって知ってたら、協力なんかしなかったんだな」


【粘】の魔王ロノウェは頭を抱える。

 こうしている間にもどんどん、敵の魔物は忍び寄ってくる。

 この調子だと、水晶の部屋まで一時間もかからない。


「いやだ、いやだ、おいら、死にたくない、死にたくない。あでをあでを使わないと」 


 ふらふらと水晶の部屋をロノウェは出る。

 ルール違反ぎりぎりで、できれば使いたくないものがそこにはあった。


 あるいはそれを使えば、あの化け物どもを追い払えるかもしれない。

 だが、それでも。追い払えたとしてもどうしようもないものがある。


「もう、みんな、もどってこない。みんな、死んじまった。なんで、おいら、こんな、戦争、受けたんだ。やるんじゃなかった。みんなを、みんなをがえぜよ、ザガン」


 たった一撃で消滅させられた第一フロアに居た魔物たちは戻ってこない。その事実だけは消えない。

【粘】の魔王ロノウェは、生まれて初めて己の頭の悪さを呪った。

 ザガンの確実に勝てる。その言葉を信じて、自分の頭で考えることをやめて、彼に縋りついた。

 その結果が、大事な魔物たちの消失。


 もし、次があるなら。今度はどんなに辛くても、苦しくても自分の頭で考えよう。そう決めた。それは間違いなく、彼にとっての成長だった。


 彼は切り札を引っ張り出した。

 熟練の魔王から譲り受けた。Aランクの変動レベルによって生み出された最強の魔物。

 彼の魔物とはまったく違う硬質なフォルム。無機質な視線


 普通に考えれば、生まれたばかりの魔王が作り出した魔物になんて絶対に負けるはずがない最強。

 それなのに、彼の不安は消えなった。


 不安を抱えたまま、【創造】の魔王プロケルの魔物がダンジョンの最奥にたどり着く。

【粘】の魔王ロノウェは祈る気持ちで、切り札を送り出した。


「お願いします。お願いしますからたずげで、おねがい」


 この状況になっても祈るだけなのがある意味彼の限界だった。

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