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第四話:イミテートメダル

「君も気づいたと思うけど、今まで教えた方法じゃ強い魔物の数を揃えることは、すごく難しい」


 俺は頷く。

 ひと月に一度しか使えない魔王のメダルがどうしてもネックになる。


「でもちゃんと道は用意されている。さあ、魔王の書を呼び出してみよう」

「【我は綴る】」


 俺の言葉に反応して、手に、羊皮紙で出来た分厚い本が現れる。


「メダルのことを考えながら、ページをめくって」


 言う通りにすると、メダルが書かれたページが現れた。


「そこにはきっと、【獣】、【炎】、【創造】、三つのメダルが書かれているはずだ」


 俺はページを確認する。

 しかし……


「マルコ、違うよ。俺のページにあるのは、【獣】、【炎】、【人】だ」

「えっ、嘘」


 マルコが俺のページを覗き込む。


「なるほど、そういうことか。本来、私たち魔王はね、合成に使ったことがあるメダルをDPと交換で手に入れることができるんだ」

「それは楽でいい。メダルなんて使い放題じゃないか」


 ひと月に一回という誓約が外されるのは非常に助かる。

 DPとの交換レートは500ptと書いてある。

 最低二枚を使うということを考えれば、1000ptで魔物が一体作れる。


「まあ、本物と同じというわけにはいかないけどね。魔王が生み出すメダルをオリジナルメダル。DPと交換したメダルをイミテートメダルと言うんだけどね、イミテートはオリジナルに比べてランクが一つ落ちる」

「ランクが落ちると何かまずいのか?」


 おそらく生まれてくる魔物のランクに関係するとは思うが念のため確認しておこう。

 

「どうして【創造】ではなく、【人】がイミテートに登録されたかは置いといて、まずそっちの話をしようか」


 ごほんっ、とマルコは咳払いをすると説明を始めた。


「例えば私の【獣】はAランクだけど、イミテートはBランクに落ちる。メダルのランクがそのまま生み出される魔物のランクに直結する。例えばランクAのメダル同士だと、三分の二の確率で、Aランクの魔物。三分の一の確率で、Bランクの魔物になる。ランクAとランクBのメダルだと三分の一の確率でAランク、三分の二でBランクの魔物って確率だ」


 やはりそうか。

 そのデメリットは大きい。

 イミテートではSランクの天狐は作れなかっただろう。せいぜい、Aランクの魔物だ。


「繰り返すけどイミテートを合成に使ったところで、DPでそのメダルを交換できるようにならない。だからこそ、魔王たちは他の魔王のオリジナルメダルを喉から手が出るほど欲しがっているし、逆に自分のオリジナルメダルを人に渡したくない。なにせ、ランクが落ちるとは言え、自分のメダルを使いたい放題にされちゃうからね。交換するときも、オリジナルメダルを材料にするのはよっぽどのことがない限りないな。イミテートを渡すよ。イミテートでもありがたいけどね。手持ちにない属性の合成ができるし」


 確かにその通りだ。

 魔王たちがもっとも合成に使うのは自分の属性だろう。

 相手に自由に使わせたら、自分の魔物たちの手のうちがばれかねない。


「覚えておくといい。魔王は常に他の魔王のメダルを狙っている……そして、君のメダルのぶっ壊れ具合がまた一つ増えたことがわかったよ。ここからは、なぜ【創造】ではなく【人】がイミテートの項目に増えたかだ」


 緊張感ある口調から、一転、マルコはあきれたような口調で呟く。


「君の【創造】メダルを使用時に、イミテートが作れるようになるのは【創造】そのものじゃなくて、合成する過程で君が望む形に変化した結果のイミテートを使える。他の魔王が苦労して、奪ったり、取引したりしてオリジナルメダルを手に入れ、地道にレパートリー増やしているなか、君は合成するたびにどんどん、勝手にレパートリーが増えるってわけだ」

「確かに俺は天狐を作るときに、【創造】を【人】に変化させた。納得したよ。一度【創造】を変化させた属性には二度と変化できないって言う制限も、それなら対応できそうだ。【人】みたいな使いかってがよさそうな属性が使えなくなるのは痛い」


 俺の創造メダルは、こうだ。


『【創造】のメダル。Aランク。【創造】以外の二つのメダル(オリジナルを含む)を使用して魔物を合成する際、使用可能。製作者が望む属性のメダルに変化し合成可。また、無数の可能性から、望む可能性を選び取る ※一度変化した属性には二度と変化できない』



「羨ましすぎて殺意すら覚えるよ。私たち魔王がどれだけ苦労して他の魔王のメダルを手に入れているのか考えたことがある?」


 マルコの目が笑っていない。


「ふっふっふっ、天狐のおとーさんはすごいの!」


 なぜか、天狐が得意げにしている。

 だが、俺は同時に弱点にも気づいていた。


「いいことばかりじゃないな。他の魔王って、自分のメダルとイミテートの組み合わせで強い魔物を作れるけど、俺にはそれができないからな」

「まあ、確かにそうだね。私は自分のオリジナルの【獣】メダルとBランクのイミテートメダルだけで、たいていBランク。運が良ければAランクは作れる。でも、君の場合、他の魔王のオリジナルがなければ何もできないからね」


【創造】のデメリット。少なくとも一つはオリジナルメダルではないといけないというのはかなり大きい。

 他の魔王のオリジナルメダルありきの力。

 だからこそ、これだけ壊れている性能なんだろう。

 オリジナルメダルを手に入れる方法はいろいろ考えなければならない。それも安定共有が必須だ。

 他の魔王がAランクの魔物を増やし続けるなか、【創造】メダルを腐らせるのはあまりにももったいない。


【創造】と交換が王道だが、俺の場合秘密を隠すために、それもできない。


「マルコ、勉強になった。イミテートメダルは使える。【創造】を使わなくても、イミテートのBランクメダル二つでBランクの魔物は作れる。それがわかっただけでも収穫だ。」


 DPさえあればそれなりな魔物を作れる。

 それに、本を見ると今回天狐を作ったことで、二ランク下の同系統の魔物、妖狐が買えるようになっていた。Bランクなので頼りになるはずだ。

 天狐の系統は、Sランクの天狐、Aランクの九尾、Bランクの妖狐と連なっている。

 ちなみに交換レートは、1200pt。イミテートメダル二つより少し高い。


「その気になればいつでも魔物を生み出せるのはわかったが、レベル1の状態で生み出されるのはしんどいよな。生み出した魔物を毎回育てるのはしんどそうだ」


 いつの間にか、マルコと俺の会話に飽きて、子狐姿で丸まって眠りはじめた天狐を見て漏らしてしまった。

 彼女がレベル1ということは、今後生まれてくる魔物も全部レベル1のはずだ。

 さすがに高ランクの魔物でも、レベル1では使い物にならない。


「あれ、おかしなことを言ってるね。魔物を合成するとき選べるはずだよ? レベルが固定になる代わりに、種族に応じたレベルで生み出すか、レベル1で生まれる変わりに種族に応じたレベルの先にレベル上限があって、ステータスが良くなる魔物を生み出すか。よっぽど愛着があって、幹部候補にするつもりじゃなければ、固定レベルを選ぶよ」


 まったく、気付かなかった。次からは意識してみよう。

 おそらくだが、天狐を生み出すときにずっと共に居られる存在を願った。だからこそ、無意識のうちに成長する魔物を選んだのだろう。


 固定レベルで魔物を生み出すのは当分先だと思っている。俺はまず、三体の【誓約の魔物】をそろえたい。

 三体は、最後の瞬間まで信じあえる最強の仲間にするつもりだ。

 レベル上限が高く、性能の高い変動レベルでの合成以外ありえない。 

 それより、もっと気になっていることがある。


「DPでできることが分かったけど、そもそもどうやってDPを手に入れるんだ?」


 それが、最大の問題だ。

 何せ、魔王の書を開けば自分の所持DPが50ptしかないことがわかった。

 イミテートメダルは500pt。それを考えると微々たる量だ。

 

「自分のダンジョンに居る人間から自動的に入ってくるんだけど、君にはまだダンジョンがないから無理。一応、魔物か人間を殺して、直接魂を食らって稼ぐって方法もある。魔王にはそれができるよ。実際、君も私のガルムを喰らってDPを得ている」


 なるほど、それで50DPだけあったのか。

 後者は真剣に検討しないと。

 一年間、魔王について教えてくれると彼女は言っているが、逆に言えば、その準備期間である程度、独り立ちの準備は進めないといけない。

 最低でも、【誓約の魔物】。俺の親衛隊になる三体を生み出し、高レベルにしておきたい。


「それとね、お小遣い。先輩魔王は後輩魔王にお小遣いを上げる義務がある。オリジナルのメダル三枚と2000DP。逆に言えば、これ以上はあげちゃいけない決まりなんだ。君にはもう、【獣】と【炎】をあげたから、メダルはあと一つ、【土】をあげよう。あと、DPは……えい」


 マルコが俺の魔王の書に触れる。

 すると、残高が増えて2050DPとなった。


「人間や魔物を殺さない限り、一年間君は2050DPしか使えないし、メダルっだって、ちゃんと考えて使いなよ。一応ね、私のほうで、このダンジョンで狩場を用意してあげる。ある程度レベルがあがったら、危険で効率がいい私のダンジョンの外の狩場もね」


 俺は頷く。

 そして、頷きながら必死に、2000DPの使い道を考えていた。

 イミテートメダルだけに費やせば、四枚のメダルを作って終わり、ランクB以下の魔物二体で打ち止めだ

 この使い方で俺の今後が決まるだろう。

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