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第三話:天狐!

「おとーさん、おとーさん!」


 一二歳ぐらいのキツネ耳美少女は俺をおとーさんと呼びながら、抱き着いて胸板に頬ずりをする。

 温かくて柔らかくて、かわいくて、もうどうにかなりそうだ。


「えっと、初めまして。俺が君を生み出した。俺の名前は……」


 えっと、なんだっけ?

 そう言えば、まだ自分の名前を思い出していなかった。

 キツネ耳美少女は離れ、不思議そうな顔で俺を見る。


「伝えるのを忘れていたね。創造の魔王プロケル。それが君の名前だよ」


 そんな俺に、マルコは優しく教えてくれる。

 プロケル。小声でつぶやくとしっくりきた。

 創造の魔王プロケル……それが俺の名前。


「俺ですら知らない名前を知っているということは、マルコは俺の過去を知っているのか?」

「いや、知らない。私は上から創造の魔王プロケルが新たに生まれるから面倒を見てやってくれって頼まれただけ。君についてはそれ以上はわからないよ」

「さっきから、生まれた、生まれたって。それだとマルコと出会うまでの過去なんて存在しないみたいじゃないか」


 マルコの話を間に受けると俺は生後一日未満の赤ん坊となる。


「その通り。君は生まれたての赤ん坊だ。まあ、魔王はある程度の教養と知識をもって生まれてるくるから勘違いしやすいんだけどね。君に過去なんてものは存在しない」


 それは嘘だ。

 記憶がなくてもそれはわかる。

 なぜなら、青い狼と戦ったときに使った、【創造】で俺はクォーツ 19という自動拳銃を呼び出した。

 だが、俺の【創造】は……。


『【創造】:あなたの記憶にあるものを物質化します。ただし、魔力を帯びたもの、生きているものは物質化できません。消費MPは重量グラムの十分の一』


 つまり、俺はクォーツ 19を知っている。

 過去が存在しないなんてことはありえない。

 だが、それを彼女に問いかけても無駄だろう。


「むうう、おとーさん。わたしと話してたのに、他の人と話をするなんてひどいの」


 目の前のキツネ耳美少女が頬を膨らませる。

 ほとんど無意識に頭を撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細めた。

 なに、このかわいい生き物。


「ごめん、改めて自己紹介しよう。俺は創造の魔王プロケル。プロケルと呼んでくれ」

「わかったの! プロケル様! でも……おとーさんがいいの。おとーさんって呼んじゃダメ?」


 上目遣いでキツネ耳美少女は俺の顔を見つめる。

 おとーさん。その甘い言葉が俺の中で何度も繰り返される。


「もちろん、いいよ。俺は君のおとーさんだからね」

「やー♪」


 少女は俺の首に手を回し、よりいっそう強く抱きついてきて、もふもふのキツネ尻尾を振った。


「おとーさん、大好き。えっと、次はわたしの自己紹介なの。わたしは種族が天狐! すごっく強いの。名前はね……名前はまだない」


 今のフレーズに突っ込みを入れかけた。

 このあたりは俺の消えた記憶が関係しているのだろうか?

 そもそも、魔王になる前は俺はいったい何だったのだろう。


「おとーさん、わたしに名前つけて。おとーさんに名前、呼んでほしい」


 抱き着いた態勢から顔を放し、お願いの目になるキツネ耳美少女。

 もちろんいいに決まっている。

 かわいい名前を考えないと。


「よし、いい名前を思いついた。君の名前は……」


 名前を告げようとした瞬間、俺の口をマルコがふさぐ。


「ストップ、魔王は配下に軽々しく名前をつけちゃだめだよ。特に最初の三体はね。さすが天狐。頭が回るし、ずるがしこい」


 少し慌てた様子で、マルコは告げる。

 キツネ耳美少女は、俺から離れて少し目を泳がせている。


「いいかい、名前を得ることで魔物は、ただ一種族の有象無象からユニークモンスターになる。魔王の場合は、魂を繋ぐことになるんだ。自らの力を分け与え、逆にその魔物力を受け入れる。とくに最初の三体は、【誓約の魔物】と呼ばれ結びつきが段違いに強い。やり直しは出来ない。生涯ともに居る覚悟がなければ、つけちゃいけないよ」


 キツネ耳美少女の可愛さにめろめろになっていた頭が急に冷える。


「天狐は、炎属性としても獣属性としても最高位の魔物。強さも圧倒的、特殊能力も優れ、頭もすごくいい。だけど、能力だけじゃなくて性格や相性もきっちり見ないと、名前を与えるべきじゃない。君、あっさりと三体にしかできない、【誓約の魔物】を作る権利を失うところだったよ」


 マルコがキツネ耳美少女を睨む。

 すると、キツネ耳美少女は顔をそらす。下手な口笛を吹いていた。

 実は、この子は腹黒かもしれない。


「魔王が生み出した魔物は、絶対服従だし、魔王を傷つけることはできない。でも、打算がないわけじゃない。知性をもつ魔物には注意が必要だよ。ねえ、天狐」


 マルコの詰問に耐えきれなくなった、キツネ耳美少女はなぜか、その場で宙返り。

 少女の姿から、可愛らしい子狐姿になる。

 もふもふで、手の先は真っ黒で少女のときとは違った可愛さだ。


「わたし、子狐だから難しいことわからないの!」


 明るい口調でのたまった。

 明らかにごまかそうとしている。だが、それでも……可愛すぎる。

 俺は堪えきれずに子狐を抱っこした。

 もふもふでさらさらで、最高の抱き心地。


「子狐だから仕方ないよね。名前が欲しかっただけだよね」

「おとーさんの言う通りなの。お名前欲しいの」


 心が揺らぐ。

 だが、さすがにそれはできない。

 優しく、子狐を下ろす。


「名前をつけてあげたいけど……それは、君の力と性格を確認してからにする。ずっと一緒にやっていけると思ったときは、改めて名前を与えるよ。それまでは、君の種族である天狐って呼ばせてもらう」

「わかったの! おとーさんの力になれるところをいっぱいいっぱいアピールするの! そしたらお名前をもらうの!」


 一瞬、天狐がつまらなさそうな表情を浮かべたのをちゃんと見ている。なんて打算の高さだ。

 だが、そういうところも小悪魔的でかわいい。


「ふう、危ないところだったね。基本的に魔王は、高い知性を持つ魔物や、言語を使える魔物は避けるけど、初めての魔物がそれなんて、君はある意味もってるよ」


 俺は首をかしげる。


「どうして? 話せると指示が出しやすいし、頭はいいにこしたことはないはずだ」


 俺の言葉に、マルコは首を振る。


「今みたいに騙されそうになるし、何より情が出る。魔物は、私たち魔王の盾で人間を呼ぶ餌の消耗品。辺に話したりするとね、いざというとき、魔物を”使えなくなる”」


 なんだ、そんなことか。

 その心配はない。


「大丈夫だ。俺はこの子を使いつぶさない。この子は最初の魔物だし。生み出すときにずっと共に居られるような子を望んだ。一緒に戦い、生き残る。だから大丈夫……それに冷たいけど、ちゃんと使いつぶすための魔物も作るし、使いつぶすことが前提なら、それに見合った性能で生み出す」

「……ちょっと安心した。それに君が怖くなった。ある意味君は、他のどの魔王より冷酷かもね」


 マルコは苦笑する。

 そして、ポンッと手を打った。


「もう一つ教えてあげる。この世界の生き物はね、相手を注視するとレベルが見える。そして魔王の場合、自分が作った魔物のステータスは詳細に見れるんだ。……まあ、私のようにスキルがあれば人の魔物だって覗けるんだけどね。天狐のステータスを見てみるといい」

「わかった。天狐。見るよ」

「やー♪」


 子狐姿の天狐がコンっと同意の声をあげてくれたのでステータスを見る。


種族:天狐 Sランク

名前:未設定

レベル:1

筋力S 耐久B+ 敏捷S 魔力S+ 幸運A 特殊EX

スキル:変化 炎の支配者 全魔術無効 神速 超反応 未来予知


 なるほど、これがステータスか。


「ステータスはランクで見えるんだな」

「そうだよ。一番重要なのは種族のランク。例えばステータスのランクってさ、Aランクの種族とSランクの種族じゃ意味が違う。種族SランクのステータスAって、AランクのA+相当だし、BランクのS相当なんだ。あとはレベルをあげると、ステータスのランクに応じて能力があがっていく」


 わかりやすい説明だ。

 それを踏まえて、天狐のステータスを見てみる。

 Sランクの種族かつ全てのステータスが超高水準。


「なあ、天狐のステータスってどっからどうみてもぶっ壊れてないか」

「ぶっ壊れてるね。君の【創造】のメダルの力だ。そもそも、Sランクの魔物なんて魔王には作れない。上のほうからの褒美で渡されることがあるぐらい」


 通常、二つしか使えないメダルを三つ、それもすべてAランクのメダルを使ったことでこんな、とてつもない力を持った魔物が生まれたのだろう。


「えっへん、天狐は強いの!」


 俺たちの気持ちを知ってか知らずが、可愛らしい子狐は誇らしげに胸を張る。

 ……こんな可愛い子狐が圧倒的な力を持っているなんて誰が信じるだろう。


「魔物の作り方はわかった。この調子で、どんどん魔物を作っていこう」


 戦いは数だ。

 どんな強い魔物も、数倍の数に囲まれたらどうしようもない。

 そこで、ふと思い出す。


「魔王がメダルを作れるのは一月に一回か……遠いな」


 そのスパンにはあまりにも長い。


「まあ、オリジナルメダルを使う方法なら、一月に一回が限度だね。それに、魔王なら毎回自分のメダルを使うのは考え物だよ。他の魔王との交換用にもっておくのも重要な戦略だ」


 たしかにそうだ。

 特に俺の場合、自分のメダル以外に二つのメダルが必要。

 今回は、マルコの好意でメダルをもらえたが、毎回そういうわけにはいかない。

 自分の力で他の魔王のメダルを得る必要がある。


「理解したよ。魔物を作る手段は三つ、Fランク、Gランクの弱い魔物をDPで買う。一度作った魔物と同系統かつ二ランク下の魔物をDPで買う。ほかの魔王と交渉で手に入れたメダルと自分の生み出したメダルを合成する」


 この三つが軸だ。

 たぶん、二番目が主軸になるだろう。FやGは弱すぎて使い物にならない。だが、三番目の方法はひと月に一度が限界。

 なら、それなりな強さの魔物を数多く作れる二番目がメイン。

 例えば、俺ならSランクの天狐を作ったことで、彼女と同系統のBランクの魔物を買えるようになった。これは大きい。

 ただ、二番目で買える魔物のバリーエーションを増やすためにも三番目のメダル合成は続けないといけない。


「補足しよう、実はメダル合成には抜け道がある。さっきから、オリジナルメダル、イミテートメダルって言い方をしていたよね。その意味と有効活用の仕方を教えてあげる。一番多く使うのはイミテートメダルなんだ」


 そうして、マルコ先生の魔物講座は続く。

 イミテート……直訳すると模造。そういえば、俺の創造メダルの条件にも、オリジナルを使った配合でないと使用できないとあった。

 イミテートメダルとはどんなものだろうか?

 

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