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第十六話:限界を超えた先で

 クイナは劣勢を覆すために新たな力を使おうとしたが、今のクイナですら力が足りなかった。

 だから、俺は【覚醒】を使った。

 魔王と【誓約の魔物】は繋がっている。俺が強くなることでクイナも強くなる。

 クイナへと力が流れ込んでいくのが分かる。クイナが笑った。

 新たな力を使えるようになったのだろう。


 ……そして、それは始まった。

 クイナの体が朱金の炎に包まれる。

 それは【変化】の予兆に似ていた。


 かつて、少女の姿のクイナは本来の姿である成長した姿に【変化】することで本来の力を引き出した。

 そのときよりもずっと激しい炎だ。


「これなら、やれるの。クイナは天狐としての最高の姿になる」


 クイナが本来の姿である十代後半の姿からさらに成長し、二十代の麗しい女性となる。

 あまりの美しさに息を呑む。あどけなさは消え、完成された美しさがそこにはあった。

 おまけとばかりに折れた左腕、全身の打撲、無数の擦り傷、破れた服、それらすべてが癒えている。


 そして、尻尾が四本に増えていた。

【星の記憶】にその姿は存在する。

 キツネの妖怪、野狐は力を得ることで尻尾を増やしていき九本になったとき九尾のキツネとなる。さらに力を積み重ねることで今度は逆に尻尾が減っていき、四本になったとき天狐へと至る。


 本来、天狐のキツネは尻尾が四本だ。

 もしかしたら、成長したクイナの姿でも未完成だったのではないだろうか?

 大人の女性へと変貌し、尻尾が四本の姿こそがクイナの姿かもしれない。


 尻尾が四本になりさらなる成長をしたクイナは圧倒的な力を振りまく、味方である俺ですら鳥肌が止まらない。

 だが、俺には伝わっている。

 クイナは一秒ごとに凄まじい勢いで魔力を燃やしている。

 この力を振るうことはクイナをもってしてもかなりの無茶を敷いている。

 もって三分。


「ロロノちゃん、ティロ、どいて。あとはクイナがやる」

「ん。任せた。情けないところを見せたら私が倒す」

「がうがう!」


 俺とクイナを守るために【豪】の魔王に挑んでいた二人は防御に徹していてなおボロボロだった。

 ……この化け物相手に致命傷を受けていないだけでも上等だろう。

 二人ともよく頑張った。

 ここからは今日の主役であるクイナの舞台だ。

 とはいっても、【豪】の魔王は理性を失って暴れまわっている。

 ロロノとティロに戦う気がなくなったからと言って、クイナだけに集中したりはしない。

【豪】の魔王の剛腕がロロノを捉えて胸を貫く。

 しかし……。


「うがあああああああああああああ!?」


 ロロノが溶けて炎になり【豪】の魔王を包む。

 半狂乱になりながら【豪】の魔王はティロを蹴り飛ばすが、ティロも炎になった。

 いつの間にか、炎で出来た幻に変わっていたのだ。

 本物のロロノとティロが俺の傍に現れる。


「クイナにこんなことができたのか」

「私もびっくりした。……クイナが羨ましい。一人でどこまでも強くなる。一人だけこんなに強くなるあんてずるい。もっと私も強くなれたら」


 そんなロロノの言い分がおかしくて苦笑する。


「マスター、何がおかしいの? 真面目な話をしてた」

「いや、クイナもロロノが羨ましいって言ってたんだ。自分はただ戦う以外で俺の役に立てないけどロロノちゃんは戦い以外にも戦力を増やしたり、街や武器を作りでおとーさんの役に立ててうらやましいってな」


 ロロノが目を丸くする。ロロノはクイナの嫉妬に気付いてなかったのだろう。

 クイナとロロノはお互いに羨ましがってるか。

 いい関係だ。


 クイナのほうを見る。

 何人ものクイナが【豪】の魔王を囲んでいた。

 一体を覗いて炎人形だろう。

 どれが本物かを見抜けないようで偽物を殴ると、炎に包まれる。それもすべてを燃やす朱金の炎。

 確実に【豪】の魔王を焼き、削っていく。


 半狂乱で腕を振り回す【豪】の魔王の背中に渾身の炎が放たれる。本物のクイナが炎人形に気を取られた【豪】の魔王を背中から狙っていたのだ。

 余裕をもって溜めの時間が確保できたこともあり出力も上がっているようで胸に大穴を開けた。


「一方的だな」


 クイナはもともと、優れた素早さと攻撃力でごり押しするスタイルが好きだ。

 だが、今のクイナはその持ち味を生かし、さらにからめ手まで使う。

 直線的な動きしかできない【豪】の魔王を手玉に取っている。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


【豪】の魔王が叫ぶ。

 叫ぶだけじゃない。

 大穴の肉が盛り上がり、黒い力が膨らみ爆発した。

 クイナの炎人形が消滅し、俺たちのところまでその黒い力が届く。

 ……めちゃくちゃしやがる。どれか本物がわからないならすべてを吹き飛ばす。

 力と体力の消耗は凄まじいだろうに。

 ティロとアビス・ハウルたちが結界を作ってくれたおかげで俺は力は無傷で済んだ。


 クイナ本人を見る。

 薄笑いを浮かべて平然としていた。

 クイナを包む朱金の炎は鎧となりクイナに触れるものすべてを焼き尽くす。最強の攻撃であり守りにもなっていた。黒い力はクイナには届ていいない。


 だが、クイナが今の姿になってからすでに百二十三秒。

 姿を保つだけで魔力を消耗し続けている。魔力は残り少なく、この姿でいられる時間は残り僅か。

 ……ただ、クイナには尻尾の予備魔力がある。それを使わないのか使えないのかは俺にはわからなかった。

 クイナの朱金がさらに激しく燃え上がった。

 賭けにでたようだ。ただでさえ少ない魔力をすべて使い尽くす気だ。

 その炎は巨大なキツネを形どる。


「勝負なの。この一撃にすべてを賭ける。この一撃を防がれたらクイナの負け」


 クイナはそんなぎりぎりの勝負で笑っている。

 楽しくてしょうがないというのが伝わる。

 ここまで絞りつくす戦いは、低レベルでエメラルド・ドラゴンだった頃のエンリルに挑んで以来だろう。

 クイナが息を吸い込み、両手を【豪】の魔王に向かって伸ばす。


「【朱金天狐】」


 クイナを覆う朱金の炎すべてを費やして作られた朱金のキツネが走る。

 クイナを守る炎はもう存在しない。


「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 それに応えるように【豪】の魔王アガレスの筋力がさらに膨らんだ。限界を超えたその先の力へとたどり着く。

 あまりにも引き出しすぎて、【豪】の魔王の体が崩壊しつつある。

 壊れつつも限界を超えて見せた。黒い力も底なしに膨れ上がる。

 そのまま、【豪】の魔王アガレスは黒い力を纏い突進、朱金のキツネとぶつかる。


「やああああああああああああああああああ!」

「うがああああああああああああああああああ!」


 クイナと【豪】の魔王アガレスが叫び合う。

 お互い、この後には一滴の力も残さない。

 すべてを出し尽くしている。


 朱金のキツネで倒せなければクイナにはもう手は残されていない。【豪】の魔王アガレスの勝ちだ。

【豪】の魔王アガレスの突進が止まる。そして、朱金のキツネに包まれた。

 黒い力がどんどん朱金の炎に燃やし剥がされていく。

 ついに外殻を焼き尽くし肉を焼く。

 しかし……。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


 叫びではない、怒号。

 力が込められた一喝が響く。

 一瞬で爆発するかのようにアガレスに残されたすべてが放出された。

 アガレスを包む朱金のキツネが粉々に千切れ消し飛んだ。

 アガレスは焼け焦げた肉をむき出しにし、クイナのもとへ歩いていく。

 クイナの前で腕を振りあげた。


「クイナの……負けなの」


 どこか満足そうにすべての力を出し尽くしたクイナが崩れ落ちた。

 ……【水晶】を砕くように指示を出そう。

 そう思ったが止めた。

 なぜなら、クイナの勝ちだからだ。


【豪】の魔王アガレスが膝をつく。

 そして、塩のように全身が白くなりひび割れていく。振り下ろそうとした手が肩から脱落する。

 アガレスは捧げすぎた。

 もう存在するだけの力もない。クイナはすべての魔力を使い尽くしただけだが【豪】の魔王は存在の力すら使い尽くした。


「お、で、の、が、ち、おでは。【竜】のようなまおうになる、ごんなどころ、で、じなない、あごがれた、あのひとにおいつ」


 その言葉を最後に全身が砕けた。

 砕けたアガレスは粒子になって消えていく。

 ……これが力を使い尽くした魔王の末路か。

 覚えておこう。


「【豪】の魔王アガレス。ロロノに手を出したことは許さない。だが、クイナを成長させてことは礼を言う」


 やつに別れの言葉を告げる。

 クイナのところに行く。クイナは気を失っている。

 そして、【変化】が解けるどころか強制的に省エネモードである少女の姿になってしまったようだ。


 起きたら、勝ったと伝えてやろう。

 尻尾が四本の姿。きっと、あれは俺の影響を受けて【星の記憶】から自分の理想の姿を得て、それに近づこうとして得た力だろう。

【覚醒】状態になったおかげか普段はわからないことまでわかる。


 あとは、【水晶】を砕けば終わりだ。

 魔王を殺せば数分後に【戦争】終了で創造主に強制転移されるが、【水晶】を砕けば即時の終了だ。


 その前に【覚醒】を解こうか、【覚醒】を維持するのは疲れる。

 いや、まだだ。せっかくリスクを負ってまで【覚醒】をしたのだ。

 その力を使うべきだろう。


「ロロノに許可を取りたいことがある」

「ん。マスター、何?」

「三騎士たちを、今の俺の力で【創成】していいか」


 ロロノが息を飲む。

【覚醒】時のみに使える【創造】の進化系。

【創造】は記憶にあるものを物質化だが、【創成】はすでにあるものを未来に進める力。


 その物質の役割に応じてより発展させる。

 つまるところ、ロロノが作り上げた三騎士は今よりも圧倒的に強くなる。それも、そのコンセプトを残したまま。


 メリットしかないのに問いかけたのは、ロロノの矜持を傷つけかねないからだ。

 超一流の錬金術士なら自分でより強くしたいと思って当然だ。


「……ん。強くして。私は強くなった三騎士を調べ上げて知識をつける。それから、強くなった三騎士をさらに強くする。だから、お願い」


 ロロノが拳を握りしめながらそう言った。ロロノの悔しさが伝わってくる。

 俺はロロノの頭をくしゃくしゃに強く撫でてやる。


「わかった。そうさせてもらおう」


 ロロノが最低限の応急修理をしてもとの形を保つ。

 そうしてできた三騎士たちに【創成】の力を使う。

 黒い魔力の紋章が三騎士たちの肌をのたうち、脈動し三騎士たちを溶かし再構成し始める。

【創成】は対象物によって消費魔力が変わる。


 さすがにロロノの作り上げた最高傑作たちだ。俺の魔力を根こそぎもっていった。

 できれば、アヴァロン・リッターも【創成】したかったが魔力が尽きている。

 限界以上に引きだせば、塩のようになって崩れた【豪】の魔王の二の舞だ。


「新たな三騎士の姿。なかなかかっこいいじゃないか」


 それぞれの武器と特徴をより強調した姿。

 材質も変わっている。見たことがない金属だ。オリハルコン以上の魔法金属。

 これは気になる。


「すごい。これが【創成】の力。進化の先」


 ロロノが目を輝かせてぺたぺたと新たな三騎士たちの姿を指でなぞる。

 悔しさが消えたわけじゃない。

 好奇心が勝った。


 ……俺も新たな三騎士に興味がある。

 落ち着いたらロロノにどう変わったか解説してもらおう。

【覚醒】を解除する。

 さて、最後の仕上げだ。

 気を失っているクイナをお姫様抱っこし、指をパチンと鳴らす。【水晶】を咥えて待機していたアビス・ハウルが顎に力を入れて【水晶】をかみ砕く。

【水晶】の破壊により。【魔王】の死による数分間のロスタイム後の終了ではなく、即時の終了処理が始まる。


『星の子らよ。今宵もいい輝きを見せてくれた。これにて【戦争】は終局となる。勝者は【創造】の魔王プロケル。ふははは、いつも【創造】の戦いは面白い!』


 全身を浮遊感が包む。


 今回の戦争を追想する。今回は勝てただけではなく得るものが多かった。

 デュークの【強化蘇生】で戦力を奪えた。戦闘経験が乏しいルーエやティロ、アビス・ハウルには経験を積ませ、三騎士たちのデータ収集と進化にも成功。


 なにより、エースであるクイナが殻を破った。

 実りある戦いだ。

 この戦いは、より過酷になっていく反プロケル同盟と戦うための糧となるだろう。

 そんなことを考えながら【転移】に体を任せた。

 もし、本当に創造主を満足させたのなら創造主の元に飛ばされて褒美を得るだろう。

 そうでなければ元いた場所に戻るだけ。

 さあ、口では創造主は楽しめたと言ったが、今回はどうだろうか?

 

応援ありがとう。面白いと思っていただければ画面下部の評価をしていただけると嬉しいです。


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