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第九話:【転移迷宮】の罠

【豪】の魔王のダンジョンの奥に進んでいく。

 このダンジョンは十二階まで、合計三十六フロアを踏破しないといけない。


 今回は時間をかけるつもりはない。

 速攻で叩き潰す。


「全員、急げ。ついてこれない奴は置いていく」

「わかったの!」

「がんばる」

「このアウラの速さを舐めないでください!」


 俺の魔物たちは気合を入れて走っている。

 少しでも早く敵の【水晶】を砕きたい。

 俺が懸念しているのは、強大な敵や罠が待ち構えていることではない。


 俺たちが敵のダンジョンを潰す前に水晶が砕かれてしまうことだ。

 デュークとルーエがいて、さらにアヴァロン・リッターを十体以上アヴァロンに残している。

 真正面からぶつかり合ってデュークたちが負けるとは思わない。

 だが、なにかしらの能力で敵が戦闘を避けて水晶の部屋にたどり着かれる可能性がないわけではない。


 とはいえ、心配していても始まらない。

 俺たち攻撃部隊にできることはただ一つ。

 砕かれる前に砕く。それ以上の安全策はない。


 だからこそ、攻撃部隊は足の速い魔物を揃えている。

 異空間側から、オーシャン・シンガーの報告を受ける。

 異空間側に魔物が配置されていないらしい。


 前哨戦でもそうだった。

 異空間系のメダルを手に入れることができてないのか? あるいは罠か、判断はつかないので警戒を怠らないように指示を出しておく。

 それから一時間ほど経った。


「おとーさん、このダンジョンは変なの。敵が一体もいない」

「私の風でも見つけられませんね。罠でしょうか」

「構うな進め。おおかた、どこかで待ち構えているのだろう」


 次々にダンジョンを踏破し前に進んでいる。

 一階の第一フロア以外は迷宮型のフロアがほとんどだった。

 すでに四階の二フロア目まで進んだというのにまだ一度の接敵もないことが気になる。

 異空間側もそうだ。

 おそらくは、どこかに戦力を集中させて徹底的に叩くつもりだろう。


 いや、先の戦いでアヴァロン・リッターの重機関銃の斉射と、白騎士の爆撃で見せた。

 数で押す戦術を俺たち相手に使えばどうなるかはわかっているはず。

 何かある。

 策もなくどこかで大軍で待ち構えているとは考えにくい。


「アウラ、いつも以上に風での探索を念入りに。ロロノも罠の感知には細心の注意を払ってくれ」

「ん。やってる。データリンクで送信中」


 ロロノは土属性の魔術のエキスパートだ。地面に接しているものすべての情報が手に入る。

 それによってダンジョンに設置された罠などは簡単に見抜くことができる。

 それだけではなく、今回は各隊の隊長たちにはタブレット型の端末が渡されていた。


 ロロノの土魔術で得た情報でマッピングデータ、罠の位置が確認できる

 これのおかげで、口で忠告するよりも大量のデータを迅速かつ正確に伝えられる。

 隊長たちはタブレットのデータをもとに配下に指示を出していた。

 相変わらず、ロロノは芸が細かい。超スピードでダンジョンを踏破できるのはロロノのおかげだ。


「ロロノ、アヴァロンも階層を増やそうと思っているんだが、おまえの意見を聞きた」

「同意。戦争の場合、階層が多いほど有利。時間が稼ぎやすい」

「だな。配置するだけの魔物がなくても踏破に時間がかかるフロアがあるだけでかなり違う。DPが余り始めたし階層を増やして踏破困難な地形のフロアか罠があるフロアを設置しよう」

「賛成。組み合わせしだいで、だいぶ時間を稼げそう」


 魔物を配置することを考えれば、自分の魔物が戦いやすい部屋を配置する必要があるだろうが、ただ敵が突破しにくいことだけを考えるのなら、マグマが満ちた【溶岩】エリアなどでいい。


 もっとも、それだと飛行型の魔物は楽に突破できるので【溶岩】エリアのあとは天井を限界まで低くした【迷宮】エリアを配置するといいだろう。


 特殊地形を効果的な順で並べると敵の速度は一気に落ちる。

【溶岩】【迷宮】【湖】この並びに配置した場合、すべてを簡単に突破できる魔物はごく一部。

 きわめて単純な方法だが、単純故に効果的で対策が難しい。


「さあ、次のフロアに出るぞ。気を引き締めろ」


 全員が頷く、そして次フロアに入った。

 その瞬間、ひどい違和感があった。

 浮遊感。これは【転移】に似た感覚、いや、そのものだ。

 これはあの部屋か。面倒だが対応をしないといけないだろう。


 ◇


【魔王の書】で買えるフロアの中にはさまざまな部屋がある。

【草原】【平地】【溶岩】【海】【荒野】etc。


 シンプルなものほど安く、特殊な地形ほど高くなる。例えば、【溶岩】は【平地】の三倍のDPが必要だ。

 加えて魔法的な要素がある部屋は値段が跳ね上がる。


 例を出すと、定期的に宝箱が作られる【宝物庫】。

 その部屋にいるだけで自己治癒力と魔力回復量があがる【癒しの間】などがある。


 この二つは比喩抜きで桁違いに高価だが、近いうちに買いたいと思っていた。クイナを【癒しの間】に待機させれば、尻尾への魔力貯金が跳ね上がるだろう。


 そして、今回俺たちが踏み入れたフロアもそう言った桁外れに高価な魔法効果を持った部屋。

 その名も、【転移迷宮】。

 その名の通り、このフロアに入った瞬間、迷宮にある六ケ所ある転移ポイントのいずれかにランダムで【転移】させられてしまう。


 転移ポイントはすべて迷宮の外周部にあり、出口は中央部分。迷宮を踏破するまでは他の転移ポイントに飛ばされた者との合流できない上、入り口に戻ることもできない。


「こんな外れ部屋をよくとったな」


 一見戦力を分断できて便利そうに見えるが、同一パーティは同じ転移場所に飛ばされるという欠点がある。

 よって、パーティ単位で行動する冒険者相手にはろくに効果を発揮できない。

 そのくせにケタ違いに高価なので俺は買う気はなかった。

 迷宮の出口に到達するまで、入り口に戻れないという点には魅力を感じてはいるが、それだけのために大金は払えない。


「マスターと一緒でうれしい」

「がうがう!」

「ロロノ、ティロ、おまえたちは同じパーティだったな」


 ティロと俺はレベル上げをするために、ロロノと同じパーティだった。

 当然、ロロノの装備品扱いのアヴァロン・リッターと三騎士も一緒にいる。

 他のみんなは別の転移ポイントに飛んだようだ。

 この状況で、自分が見落としていた重大なことに気付く。


「考えが浅かったな。なるほど、冒険者相手に意味はなくても魔王同士の戦いでは有効な部屋なのか。まんまと戦力を分断されたわけか」


 俺は魔物たちに同じ役割同士でパーティを組ませている。

 今回はそれが裏目に出ている。

 分断された魔物たちは、それぞれの短所を補うことができない。


 最悪なのは、アウラ率いる狙撃部隊が敵の大軍に当たった場合だ。

 狙撃を得意とするアウラとハイ・エルフたちは非常に凄まじい攻撃力を持ち強敵を倒すことは得意だが、広範囲を攻撃する術を持たない。


 しかも迷宮エリアは射程を確保しにくいのも辛い。

 大軍が相手だと成すすべなく敗北する可能性がある。


「マスター、隊長全員に端末を持たせてるからみんなの位置はわかるし、通信ができる。別の場所に飛ばされても同じフロア内だから繋がってる」

「ロロノ、全員に指示を送ってくれ。内容は『速やかに中央の出口に向かえ』だ」

「ん。マップデータも送る」


 ロロノのデータがあれば迷わず、全員すみやかに出口にたどり着けるだろう。


 俺には確信があった。

【豪】の魔王が仕掛けてくるとしたらここしかない。

 敵の狙いは分散させた戦力を叩くこと。

 大軍相手をまったく苦にしないロロノたちはまず放置。

 それ以外を数でつぶしにくる。


【豪】の魔王アガレスは、頭が悪そうな顔をしていろいろと考えているようだ。


「【転移迷宮】を外れ部屋だという考えが間違っていたことを認めないとな」


 対魔王戦では極めて有効な部屋だ。魔王はパーティの上限の十人を超える規模で攻めるの当たり前だ。確実に戦力が分断される。


 そして、今回の件で学ばされた。

 パーティの編成は同じ役割を持った者たちではなく、弱点を補える形で組まないといけない。

 いい経験をさせてもらった。

 このお礼はしっかりとさせてもらおう。


「ロロノ、ティロ、急ごう。ロロノはアウラの位置をしっかりとマークしておいてくれ、出口にたどり着けばアウラのいる分岐へ逆走できる。あいつらが一番やばい」

「任せて」


 そうして、俺たちは走り出した。

 一番の大軍が俺たちの前に来るようにと祈りながら。


 ◇


【転移迷宮】で、パーティ編成の関係で各隊ごとにまとまって分断されていた。

 そんなか、【狙撃部隊】のアウラとハイ・エルフたちは先に進む。

 アウラはいつも以上に陽気にふるまい、どこか不安そうなハイ・エルフたちを励ます。


 そして、ある程度進むと開けた場所に出た。

 迷宮内にあるとは思えない。非常に広々とした部屋だ。

 そこにはオークの軍勢がいた。

 数えるのもバカらしいぐらいの大軍だ。

 オークはゴブリンより強い、そのパワーもタフネスも比較にならない。


「獲物がたくさんで嬉しくなりますね。もっとも弾が全然足りないでしょうが」


 アウラたちのアンチマテリアルライフルは装弾数が少ない。

 もちろん、予備の弾は各自持ち歩いているが、一発一発のサイズが大きいので持ち運べる量には限度がある。


 戦争時は、ロロノが引き連れているミスリルゴーレムが巨大な荷袋を持っており定期的に補給を受けるのだが、残念ながら今回は期待できない。

 数が多いだけじゃなく、高位のオークもいる。


「不利な戦いですね。……ですがこの程度で負けては【誓約の魔物】失格。最近、ロロノちゃんばっかり活躍しているのも悔しいですし、このあたりで一度、見せ場を作るとしましょうか」


 アウラは自慢のアンチマテリアルライフルを構えた。

 次の瞬間、アンチマテリアルライフルの銃声と、オークの叫び声が響き渡り戦いが始まった。

 アウラは笑う。ピンチなことは間違いない。

 だが、あれを使う絶好の機会だ。

 レベルが上がり、Sランクとしての適正レベルにたどり着いたことで進化が可能になったクイナや、【具現化】という強力なスキルを得たロロノ。

 二体の【誓約の魔物】と同じく、アウラもまた、新たな切り札を得ていたのだ。

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