第八話:【豪】の魔王との戦争
【豪】の魔王アガレスが【戦争】を受け入れた。
白い部屋に飛ばされる。
俺のダンジョンであるアヴァロンと、【豪】の魔王アガレスのダンジョンが向かい合っている。
この空間に入った以上、外からは何人たりとも干渉できない。
俺かアガレスか、どちらかが【水晶】を砕かれて魔王としての力を失うだろう。
「なんで、おまえ。襲ったのがおでだと、わがった。おで、うまくやった」
白い部屋には先客がいた。
俺の印象は二本足の豚だ。オークやゴブリンを主力にしているので予想はできていたが、実際に見ると驚く。
その二息歩行の豚は全身に包帯を巻き、わずかに覗く肌はひどいやけどをしていた。
おそらく、ロロノ人形の爆発に巻き込まれている。
ナニをしようとしたかは想像がつく。
「さてな。自分の手の内を晒すバカはいない」
「おまえ、ごろす! おで、ぜったい、ゆるさない! おまえごろす、おまえの魔物おがさせる。おで、アレ、なぐした。いっしょうおがせないいいいいいいい、がなぢいいいいいいいいいいいい! でも、おでの魔物におがさせる!! じぬまでえええええ!!」
豚が息を荒くする。
聞き捨てならないことを言った。
「おまえの有様を見れば何があったかはわかる。だが、勘違いするなよ? 許さないのは俺のほうだ。俺の娘を狙った罪は償わせる。覚悟しておけ」
その一言を放って、アヴァロンに戻る。
今回の準備期間は一時間しかない。
これ以上、こいつと遊んでいる暇はない。
さて、どんな戦略を立てようか。
◇
アヴァロンに戻った俺は階層入替で街部分を地下に隠しつつ、クイナ、ロロノ、アウラ、デューク、ルーエたちに部隊を編成するように指示をだした。
街を破壊させるわけにはいかない。
魔物たちが慌ただしく動くのを見つめながら策を考える。
「マスター。アヴァロン・リッターたちの補給が終わった」
「ロロノ、ごくろう」
ゴーレム部隊の編成完了の報告にロロノがやってきた。
今回の攻撃の要はゴーレム隊に任せる。
攻撃力ならデュークが率いるグラフロスたちも引けをとらないが、どうしてもその巨大な体躯のせいで侵入できないフロアが現れてしまう。なので竜たちには守備を任せる。
もちろん、【収納】できる上限である十体までは連れていく。
基本性能も高い上に、爆撃も強力で必ず活躍する場はある。
報告が終わったのにロロノは去らず、じっと俺を見ていた。
「マスター……ううん、父さん。嬉しかった。私のために【豪】の魔王を怒ってくれて。ありがと」
ぎゅっと俺の裾を掴んできた。
照れくさいのか、顔を真っ赤にしていた。ロロノは肌が白くてわかりやすい。
「当然だ。大事な娘だからな」
強めに撫でてやる。
ロロノは嬉しそうに目を細める。
「そうだ、忘れるところだった。黒はまだ見せてもらってないが、三騎士は赤と白だけでも大成功と言っていいだろう。約束のもっとすごいご褒美をやらないとな。ちゃんと俺に頼みたいことを考えておけよ。何も言わないないなら、俺が決めるからな」
「ん。実はもう決まっている。この戦いが終わったらお願いする」
珍しくロロノが満面の笑みを浮かべる。ロロノのおねだりされるのが楽しみだ。娘のおねだりを聞くのも父の幸せの一つ。
そのためにもはやく戦いを終わらせないと。
「おとーさん、陸戦部隊。編成終わったの! いつでも行けるの!」
「お疲れ、よくやった。クイナもこういうことも慣れて来たな」
「ばっちりなの!」
クイナは陸戦部隊の指揮を執る。
陸戦部隊は攻撃部隊に割り振ったアビス・ハウルの半数と妖狐で編成される。
非常に機動性が高く、突破力が高い。
「私たち後方部隊の準備も完璧ですよ」
アウラがやってきた。
アンチマテリアルライフルを装備したアウラとハイ・エルフは主に後方からの狙撃と、対空戦闘を行ってくれる。
広いフィールドであれば【収納】しているグラフロスたちも加わり最優先で空を支配する。少数だが重要な役割を果たす部隊だ。
さて、これで攻撃隊の編成は完璧だ。
「パトロン、諜報部隊の攻撃部隊と防衛部隊への振り分けは終わったよ。攻撃側に僕はいないけど安心してね。しっかりした子にリーダーを任せたから」
今回諜報部隊は真っ二つにわかれてもらった。
攻めにも守りにも必要になる。
そして、ティロが攻撃に回る以上、ルーエは防衛だ。
Sランクの突出した魔物がいないと、敵にそういった魔物がいた場合にまずいことになる。
「それは頼もしいな。……アヴァロンの異空間の守りはお前にかかっている。よろしく頼む」
「まっかせて。ルルイエ・ディーヴァのルーエちゃんは異空間にて最強!」
ルーエは、また変なスラングを覚えてしまったようだ。
たぶん、一番熱心にアニメを見ているのはロロノかルーエだ。
最後に老竜人が現れた。
「デューク、今回はおまえに防衛部隊の指揮を任せる。アヴァロンを頼む」
「はい、お任せください。我が君がいない間、アヴァロンは私が守ります」
デュークはアヴァロン最強の魔物だ。
元から強かったが、驚いたことに【竜帝】を得たことで、さらに強くなり、さらに竜種への軍団強化スキルを身に着けたうえ、【狂気化】を解放した際のデメリットがなくなり、全力を出す際の時間制限がなくなった。
攻撃に使いたいという思いもあるが、これだけごっそりと戦力が抜ける以上、最大戦力を残しておかないと怖い。
敵は歴戦の魔王であり、変動で生み出し鍛え上げられたAランクの魔物を何体も持っている。
Sランクなしに止めるのは不可能だ。
異空間にルーエを残したように、地上にはデュークを配置する。デュークなら、どんな化け物がこようとなんとかしてくれると信じている。
「攻撃部隊は、すぐに攻められるように入り口に移動だ。ついてこい」
「わかったの!」
「ん。がんばる」
「ふふふ、やっとオークどもの脳天をぶち抜いてやれます」
約一名物騒な返事が帰ってきて苦笑してしまう。
きっと大活躍してくれるだろう。
◇
準備時間が終了した。
『これより、【創造】と【豪】の戦争を開始する。星の子らよ。輝け』
創造主の開始を宣言する声が脳裏に響いた。
攻撃部隊を引き連れて飛び出す。
……デュークあたりは、俺が攻撃部隊にでることに反対するのだが、こうしているのにはわけがある。
俺もレベル上げがしたい。
強さは安全と直結する。
レベルが上がればMPの上限があがる。MPに余裕があれば、もっとたくさんのものを【創造】できる。
そして、何人かの魔王はレベルが上がることで、【覚醒】をせずに自らの能力を次のステージにあげることができていた。
覚醒時には俺の【創造】は【創成】となる。
過去の幻影を形作る【創造】とは違い、今あるものを未来に進める力だ。
【創成】をリスクがある【覚醒】時でなくても発揮できるだけでもいいし、また別の能力が発現するのも面白い。
そういったもろもろがあって、ロロノのパーティに入れてもらった上で前線に出る。
アヴァロン・リッターはロロノの武器扱いなので、一番撃破数が多くなるのは間違いなくロロノだ。
「そういえばクイナ。省エネ形態はとかないのか?」
「強いのが現れたら、そーするの! でも、たぶんクイナが本気にならなきゃならないほど強い敵は現れないと思う」
「その判断は任せる。出し惜しみをして負けたらお仕置きだからな」
「やー!」
クイナは今十三歳ぐらいの姿になっているが、レベルがあがったことで成長しており、十代後半ぐらいが真の姿だ。
だけど、尻尾の毛に9999本魔力を溜めることで天狐は上位の存在に進化できる。
そのために、燃費のいい姿である少女の形をとっていた。
「クイナ、あとどれぐらいで進化できそうだ?」
クイナが首を傾げる。
「えっとね、アウラちゃんが毎日黄金リンゴくれるようになったから、すっごく魔力生産のペースがあがってるの! たぶん、あと三か月ぐらいで9999本を達成するの」
「十分だ」
それなら、新人魔王を守るルールが消滅するよりも速い。
進化したクイナの力は、【新生】したマルコや真の【竜帝】となったデュークすら上回る可能性がある。
足を速めて、【豪】の魔王のダンジョンに向かう途中にゴブリンやオークの大軍とすれ違う。
白い部屋ではお互いを傷つけることが叶わないし、妨害することも許されていない。
こうして、開幕と同時に攻撃部隊がすれ違うのは恒例だ。
本格的な戦いの予感がして身が引き締まる。
そろそろ敵のダンジョンにたどり頃合いだ。
その前にロロノに聞いておきたいことがあった。
さきほど、俺のレベルについて考えていたときに思いついたことがあった。
「ロロノ、もし劣勢になれば……そのときは【覚醒】の力を使う。おまえの三騎士を【創成】してもかまわないか?」
かつて、マルコを救うための戦いの中、大規模破壊兵器MOABを【創成】の力で進化させた。
その際には、ロロノによる技術革新が行われ、さらに魔術要素による強化が行われていたにも関わらずさらなる進化した。
おそらくは【創成】なら三騎士すら進化させるだろう。
ただでさえ、圧倒的な三騎士が【創成】されたらどうなるか?
それが知りたくてしょうがない。
「かまわない。でも、そうはさせないようにがんばる。【覚醒】は危険、そんな力をマスターに使わせたくない」
「それが一番だ。あくまで念のために聞いただけだよ」
それで会話は終わりだ。
楽に勝てるようなら、わざわざそんな力を使うまでもない。
でも、なぜか。それが必要になる。そんな予感がした。
ついに、【豪】の魔王のダンジョンにたどり着く。
俺の魔物たちがなだれ込んでいく。
先の一撃で懲りたのか第一フロア【エントランス】には魔物を配置していない。
ロロノが大地に手をあて土魔術でサーチ。罠がないことを確認した。
好意に甘えて素通りさせてもらおう。
これから先、罠や強力な魔物が待ち受けているだろう。
だが、何を用意しようと俺たちは止められはしない。
それを今から証明するのだ。
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