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第二話:【竜帝】を継ぐものたち

【刻】の魔王の闘技場の中で三体の竜が向かい合っていた。


 皇帝竜テュポーン、黄金の気を纏う赤き四肢を持つ竜。

 黒死竜ジークヴルム、闇の瘴気を纏いし巨竜。

 風騎竜バハムート、翡翠の風を纏いし翼竜。


 さきほどから鳥肌が出ている。

 三体の竜の放つオーラだけで誰もが圧倒されている。

 俺とストラス、そして最強の三柱は、特等席でその戦いを見守っていた。


「ダン、クイナとフェルが戦ったときより、ずいぶんとリングが大きくなっているな」


 今のリングは半径五百メートルほどはありそうだ。

 前まではせいぜい三十メートルほどだったのに。


「竜たちが戦うならこれぐらいはいるだろう? 特別に用意したんだ。苦労させられたよ。僕でもこの広さすべてを撒き戻すのは不可能だからね。今日は【時空騎士団】全員を呼び戻して、協力させている。それでなんとか十分までは巻き戻せるようにした」


 そうだろうな。

 広ければ広いほど巻き戻しの負荷は指数関数的に増える。

 半径五百メートルともなれば、【刻】の魔王一人でどうにかなるものではない。


 そして、制限時間も十分しかない。

 本来の三十メートルほどの広さなら数時間ほど巻き戻せると聞いていたが、それが限界なんだろう。


 ……竜たちにとって。端から端まで一キロというのはせまい。

 ここに居る竜たちは最高速なら音速の倍を軽く超え、二秒で踏破できる。


 そして、制限時間が十分というのは短いように見えて十分な時間だ。すべての竜が一撃必殺の威力を持っている。


 戦いが本格的に始まった。

 先手を打ったのは、皇帝竜テュポーンのシーザー。


 大地を踏みしめ、口を大きく開くと甲高い音が鳴り、黄金の珠が口の前に現れる。


 そして、それは放たれた。

 黄金の光の奔流のブレスというよりは極太のレーザー。

 二体は左右にばらけながら空に逃げる。


 結界に光が直撃した。

 結界を強化しているマルコが冷や汗を流してる。


「まったく、なんて馬鹿力。今の私じゃなかったら貫けかれていたよ」


【新生】し、魔王であったころより力を増したマルコにそこまで言わせる威力。


 余波だけで大地がえぐれて、リングに使われていた石材が消滅した。

 砕かれたのではない、消滅だ。

 今の光の奔流を喰らえばデュークもエンリルも即死する。


「GRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」


 舞い上がったエンリルが空から雷の雨を降らす。

 一撃、一撃がAランクの魔物すら滅ぼす神雷。


 シーザーは上空にいるエンリルをにらみつけて、黄金の光を纏い急上昇。

 雷の雨をかき分けてエンリルに近づいていく。


 エンリルの雷になんの痛痒も感じていない。

 距離が詰められる。

 ぎりぎりでエンリルは風まで併用しての超速飛行で、シーザーの突進から逃れた。

 ……いや、わずかに突進がかすった。


 それだけで、エンリルの魔力を込められて硬度を増した翡翠のうろこが砕かれて、血がにじんでいる。

 しかし、今の一撃でわずかながらシーザーには隙ができた。

 そこを狙っているものがいる。デュークだ。彼もシーザーと同じタイミングで急上昇している。


 瘴気をたっぷり込めた闇のブレスを放った。デュークのスキル【冥界の瘴気】が発動している。

 瘴気だけでなく、【勇猛】の攻撃力上昇効果も乗せた渾身の一撃。これなら、あのシーザーもただでは済まない。


 シーザーは動じない。

 即座に翼を動かして急激な方向転換。さらに纏う光を推進力に変えて速さを増す。


 デュークの渾身のブレスが空を切る。

 デュークは距離をつめて追撃をかけようとするが。あっという間にシーザーに引き離され、逆に背後を取られて上から殴りつけられて地面に叩き落とされる。

 速さが違いすぎる。


 フォローに入ったエンリルはシーザーとの空戦で速度と小回りで圧倒し、優位にたつが攻撃が通用しない。攻撃は当たるものの、黄金の光によってすべての攻撃が弾かれる。


「……まずいな。シーザーは強すぎる」

「速いし、固いし、強い。でも、想定内よ」


 ストラスと二人でお互いの竜を見守る。

 エンリルはシーザーに空戦で勝り、攻撃を加えることはできている。

 だが、エンリルの攻撃力ではシーザーの纏う光を貫けない。


 デュークの攻撃力であればシーザーの纏う光を貫けるが、シーザーに追いつけず攻撃を当てることができない。


 つまるところ、総合力が圧倒的に優れるシーザー相手に、エンリルもデュークも有効打をもっていない。


 逆に、シーザーはエンリルに速度で負けつつも網を張るように広範囲に拡散する技を使い、確実にエンリルに有効打を与えて続けていた。直撃こそ避けているが、そう長くはもたない。


 デュークは何度か直撃を受けているが、持ち前の耐久力で致命傷にはなっていない。


「ふむ。プロケル、ストラス。おまえたちの【竜】は強いのう。だが、シーザーと戦うには早かったようだな」


 どこか、からかうように【竜】の魔王アスタロス……アストが笑いかけてくる。


「いや、ここからだ」

「アスタロス様、私たちの【竜】を舐めないで」


 そう、こうなることはストラスも言ったとおり想定内だ。

 今までの小手調べ。


 エンリルとデュークには、けっして致命傷を受けないようにしながら、データ収集に徹しさせた。


 シーザーがどれほどの力を持っているのかを確認してから仕掛けるために。

 ……今の攻防でいくつか気付いたことがある。


 シーザーの強さを支えるのは、あの黄金の光だ。

 あれが攻撃にも防御にも推進剤にも転用されている。

 だが、逆に言ってしまえば、あの黄金の光をどうにかすれば勝算は見えてくる。


 黄金の光を纏っていなければエンリルの雷でもダメージは与えられる。

 黄金の光を使った推進力がなければ、デュークは追いつけないまでも攻撃を当てられるようになる。


 攻撃、防御、推進剤。そのすべての機能を一度に発揮することはできない。

 そのことをエンリルとデュークが理解した以上、突破口はある。

 デュークとエンリルは今日に向けて、五パターンの必殺フォーメンションを作り上げている。

 ……シーザーがこういう能力を持っているなら、パターン2が有効だろう。デュークはそう考えたようで、エンリルに指示を出す。


 エンリルとデュークが二体並んで飛行する。

 エンリルが風で流線形の鎧を形成し、正面の風を切り裂く。それによりエンリルと後ろにぴったりとついたデュークまでもが、引っ張られるように加速する。


 シーザーは危険を感じ距離を取ろうとするが、風で加速する二体のスピードはシーザーを上回る。


 シーザーが光の推進力を使えば、エンリルはデュークを置き去りにしない限り追いつけないだろう。

 しかしそうしてもらえればエンリルの雷が有効打となる。


 シーザーは光の推進力を使わずに、反転して光を纏ったまま突進してきた。

 エンリルとぶつかる直前、エンリルはさらなる急上昇をした

 シーザーの視界からエンリルが消え、背後に隠れていたデュークがシーザーと向かい合う。

 デュークはすでに【冥界の瘴気】を込めた闇のブレスの発射態勢に入っている。


 シーザーは回避はできないとあきらめ、光をブレスに変換して放った。

 光と闇のブレスがぶつかり合い、せめぎ合う。

 黒と白の光が点滅し、大気が震える。

 中間点で、ぶつかりあった力が膨らみ、爆発した。


 ……その押し合いはぎりぎりでシーザーの勝ちだ。

 デュークは煙をあげながら落ちる。

 ボロボロだ。とっさに体をかばった左腕は消滅、全身のうろこがはがれて血が噴き出ている。翼も吹き飛んだ。

 かろうじて生きているだけの状態。デュークはもう戦えないだろう。


 しかし、この一撃は無駄ではない。至近の爆発によってシーザーも傷を負っている。


 何より……黄金の光をすべてシーザーは使いきった。

 そうせねばならないほど、デュークの闇のブレスはシーザーを追い込んでいたのだ。

 黄金の光の回復に時間がかかる。

 だからこそ。


「GRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY」


 急上昇していたエンリルが雷を纏って急降下。

 何発もの雷がシーザーに降り注いだ。

 シーザーが、悲鳴をあげる。


 黄金の光が尽きた今なら、エンリルの雷は有効だ。

 初めから、デュークの役割は黄金の光を使いきらせること。デュークは己の使命を全うした。


 エンリルはシーザーの背中にしがみ付きながら、何発も何発も落雷を落とす。

 シーザーはエンリルを振り落とそうとするが、雷を受けて痺れて身体能力が低下している。力で圧倒しているのにエンリルを振り落とせない。

 これが、最後のチャンス。


 デュークが離脱した今、黄金の光をチャージされてしまえば、もはや勝ち目はない。

 すべての力を出し切ってでも、ここでシーザーを倒しきる。


 エンリルとシーザーが絡みながら落ちていく。

 俺とストラスは祈るような気持ちで絡み合う二体の竜を見る。

 あと、少しで勝てる。

 だが……。


「狙いは良かったが、残念だったな。紙一重でシーザーが立て直したようだ。これで詰みだ。デュークもエンリルもよくやったが、わしのシーザーにはかなわなかったようだ」


 アストが勝利宣言をする。

 同時に、シーザーが黄金の光を纏う。


 まさか、あれほどの雷を受けながら、力を溜めていたのか!?

 黄金の光によって、雷ははじかれた。

 このままだとエンリルが引き剥がされて終わりだ……。

 いや……。


「まだだ!」


 俺は叫ぶ。

 どくんっ、強い鼓動を感じた。デュークの鼓動だ。

 まだ、終わっていない。

 エンリルが気付けば勝機はある。


 ここから先は、どこまでエンリルがデュークを信用しているかにかかっている。

 エンリルの動きがかわった。

 雷を落とすのではなく風を呼ぶ。黄金の防御は貫くことはできなくても、エンリルの全力の風ならシーザーごと大地に叩きつけることはできる。

 ……エンリルは気付いてくれたようだ。

 そして、彼の主たるストラスも。


「エンリル、ふんばりなさい! あなたは私の騎士でしょう!」


 ストラスの叫びを受けて、エンリルがより力を込める。

 シーザーに翼にかみつかれて悲鳴をあげながら、強力なダウンバーストで、エンリルは大地に向かってシザーごと下向きに飛翔。


「相打ち狙いの墜落か。だが、わしのシーザーはその程度のダメージ、苦にはせんぞ」

「違う。エンリルは信じてくれたんだ。そこに必ず、デュークがいると」


 ブレスの正面衝突で押し負けて大ダメージを受けて墜落したデュークは生きていた。


 翼がちぎれ跳び、全身ぼろぼろ。片腕を無くしている。ブレスすら吐けない。

 だが、二本の脚で大地を踏みしめ、じっと天を見上げている。残った右腕に残った瘴気とすべての魔力を込めて。文字通りありったけだ。


 デュークはエンリルを信じていたのだ。

 必ず、エンリルなら敵をここまで連れてきてくれると。

 まともに動けない自分にできるのは、エンリルが運んで来た敵に最大最強の一撃を与えるのみと考え、エンリルが空で戦っている間、己のすべてを右腕に込め続けた。


 そして、エンリルもデュークを信じた。

 満身創痍でも必ず、最後まで諦めないで出来ることをすると。

 だから、遥か天空からデュークの姿も見ずに風を纏って急降下したのだ。


 シーザーは、地上のデュークを見てぎょっとするがもう遅い。

 エンリルは渾身の力ですべてを振り絞るように風を起こし逃げようとするシーザーを押さえつける。

 地面すれすれ、シーザーがリスク覚悟で光を推進力に変えようとした瞬間に雷を落として、痺れさせ動きを封じた。


「GUGAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」


 デュークは咆哮し、すべてを込めた右腕を振り上げた。

 闇の一撃がシーザーに吸い込まれる。

 轟音と黒い閃光が当たりを包み、土煙が巻き起こる。


 誰もが言葉を忘れて竜たちの、すべてを賭けた戦いに見入っていた。

 煙が晴れた。


 そこには、地面に倒れ伏しながらも、かろうじて一命をとりとめたエンリル。

 大地をしっかり踏みしめ腕を振り上げたデューク。


 ……そして、黄金の光ごと、デュークの腕に貫かれて絶命したシーザーがいた。

 決着はついた。

 エンリルとデュークは勝ったのだ。


「勝った、勝ったわ! デュークとエンリルが勝ったの!」


 泣きながら、ストラスが抱き着いてくる。

 俺も抱き着き返して喜びを表す。

 そう、俺たちの竜は最強の竜に勝ったのだ。


 皇帝竜テュポーン、恐ろしい相手だった。

 デュークだけでも、エンリルだけでも、絶対に勝てなかった。

 静まり切っていた観客席が一転して爆発する。


 十九体の竜たちが、咆哮する。

 竜の言葉はわからないが、それでもわかる。竜たちがデュークとエンリルを認め祝福しているのだ。


「ストラス、行こうか。二人のもとへ」

「ええ、たっぷりとほめてあげないと」


 俺とストラスは腕を組み、竜たちのもとへと向かった。

 いったい、どちらが【竜帝】を引き継いだのかが気になる。

 それもあるが、何よりこんなにもがんばってくれたデュークをほめてやりたかった。

 


 

 

 

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