第十九話:反プロケル同盟
~???視点~
「情報収集は順調に進んでいるか? かつての敗北はプロケルというイレギュラー……その力を甘く見過ぎたとだ。今度はそんな失敗はしない。徹底的に奴を調べつくして、丸裸にし、必勝をもって叩き潰す」
反プロケル同盟の盟主である魔王が配下たちに問いかける。
ここにいるのは、いずれも生まれてから百年ほどの比較的若く、もっとも野心に燃えている魔王たち。
彼は、ここに集まった五人の魔王の中で一番若い人型の魔王だ。漆黒の豪奢のマントを優雅に着こなしている。
なのに、力関係はどうみても彼が頂点にあるように見えた。
”中身”が違うのだ。
そのことは、ここに集まる五人にとって、公然の秘密だった。
中身が変わったのは、つい先日のことだ。
彼と、とある大魔王はお互いのすべてをかけて戦った。
そして彼は大魔王を倒した。
賭けの約定にしたがい、大魔王の遺産をすべて受け取ったのち……己の存在を奪われた。
つまるところ、大魔王の遺産を受け取る代わりに、自らを無くしてしまった存在だ。
……初めから大魔王の策略にはまっていたのだ。
大魔王は才能のある彼に目を付けていて、いずれは新たな器にと考えていた。
しかし、実のところ、大魔王にとっても不本意なことだった。
本来なら、【創造】の魔王プロケルこそを、新たな肉体にするつもりで、数段、格落ちする予備の魔王に宿ってしまった。
それでも、Aランクのメダルを持ち、なおかつ便利な能力を持っているため、許容範囲内ではある。
……たった一つの能力を除いて【黒】の力を失ってしまったが若い肉体と強い能力、なによりも時間が手に入ったのだから文句はいえまい。
「報告をさせていただきます。我らが怨敵は日々戦力を増やしているようです……恐ろしいペースです」
【氷】の魔王クロセルが報告書を読み上げる。
「【創造】の魔王プロケルのダンジョン内では、かつての【獣】の魔王討伐戦で確認された、Aランクをも凌駕する強力なゴーレム増産され、超高度から強力な爆弾を投下するBランクの闇竜に至っては、毎日【渦】によって生み出されているようです。非常に由々しき事態と言えるでしょう」
と伝える。
「そのようなことはわかっているさ。問題は、どうやってその強大な戦力に対抗するかだろう?」
他の魔王たちが押し黙る。
プロケルのゴーレムは反則と言っていい。
通常時で上位Aランクの魔物と同等の強さを持ち、短時間であればSランクの魔物にも匹敵する力を引き出せる。
普通のAランクの魔物であれば、五体がかりでようやく対等と考えなければいけない。
「あのゴーレムが増え続ける限り、我らに勝機はない。どうやって、製造ラインを潰すかが重要なのだ」
調査によると、破格の戦闘力を持つゴーレム、アヴァロン・リッターは一月に四体生み出している。Aランクの魔物換算でニ十体分の戦力。
ついでのようにプロケルが重機関銃と呼ぶ強力な武器を装備し、攻撃力だけならAランクにも匹敵するミスリル・ゴーレムを二十体以上作り出している。
三体でAランク一体分の強さはあるだろう。二十体もいれば、Aランクの魔物七体分の戦力だ。
アヴァロン・リッターとミスリル・ゴーレムを合わせると、なんとAランク二十七体分もの戦力が生み出されていることになる。
「Aランクの魔物など、Aランクメダル持ちでもそうそう作れぬというのに」
単純計算で二か月に一度、Aランクの魔物が生まれるかもしれない【合成】ができ、Aランクの魔物になる確率は2/3。
一年でようやく四体のAランクの魔物生まれる計算だ。
「メダルすら使わずに、たった一月でAランクメダルを持つ魔王の六年分の戦力を作るか……、ゴーレムが作り続けられている限り我々に勝ち目はない。そうでなくてもAランク十体分の価値を持つSランクの魔物をプロケルは生み出してしまうのだ!」
プロケルの急激な戦力の増加はメダルを使わない独自の戦力増加にある。
それは、この場にいる魔王たちの共通認識だ。
だからこそ、こうやって徒党を組んで、早めに叩き潰そうとしている。
時間が経てば経つほど、プロケルは戦力を増していく。おそらく十年もしないうちにプロケルは誰も手が出せないほどに成長してしまうだろう。
「お言葉ですが、ゴーレムだけでなく闇竜も捨て置けません。Aランクの魔物が放つ上級魔術をも上回る爆撃魔術を空から放つのは驚異です」
【氷】の魔王は、再び口を開く。
暗黒竜グラフロスは強い。ステータスもスキルも優れている。
だが、それが霞むほどの魅力を持つのが超広範囲、高威力の爆撃だ。
あんな強力な広範囲魔法をBランクの魔物が放つなんて信じられない。
「脅威ではあるが、対策も容易だ。爆撃をするまえに空で墜とせばいい。奴の竜は闇属性でアンデッドだ。聖属性であれば闇とアンデッドに対する二重の優位となる。Cランクの魔物でもたやすく落とせるであろう。幸い、こちらには聖鳥クレインの【渦】がある。一対一でも圧倒できるうえに、数も勝る。恐れる必要はない」
闇属性やアンデッドの魔物は全体的に高水準の能力を持つが、致命的に聖属性の魔物に弱いという特徴がある。
ましてやグラフロスは闇とアンデッドの二重属性。
十分な数の聖属性の魔物がいればグラフロスなど恐れる必要がない。
「繰り返す! 【創造】の魔王プロケルを倒すのに必要な最優先事項は、奴のゴーレムの製造を止めることにこそあるのだ! 名案があるものはいないか!」
彼は叫ぶ。
しかし、他の魔王たちは顔を下ろしたままだ。
そうそう、名案など浮かぶわけがない。
……いや、一人だけ案を持つものがいたようだ。
巨大な二本足の豚……オークと呼ばれる種族に酷似した魔王が手をあげた。
「オデ、名案ある」
「ほう、【豪】の魔王アガレスか。言ってみろ」
「オデ、調べた。ゴーレムたくさんいる。でも、強いゴーレム、作れる魔物、一体だけ」
アガレスはアヴァロン・リッターとミスリル・ゴーレムを作れるのが、エルダー・ドワーフだけということを突き止めていた。
彼はこう見えて頭が良く、魔物ではなく英雄クラスの冒険者の密偵を放つことで、アヴァロンの内情を深いところまで調べていた。
そして、その読みは正しい。
ロロノは一日一度、ゴーレムコアを生み出し、コアの中でツインドライブのマッチングに成功したもの……せいぜい一月に四対を使ってアヴァロン・リッターを、余ったコアでミスリル・ゴーレムを作っている。
だが、ドワーフ・スミスではCランク相当のゴールデン・ゴーレムとシルバー・ゴーレムまでしか作れない。
「その魔物作る。ゴーレムだけ違う。プロケルの魔物使う武器、竜の落とす爆発する武器。作ってる。プロケルの戦力。ほとんど、その魔物のおかげ」
この場にいる魔王たちが全員、驚愕の表情を浮かべる。
プロケルの強さは、強力な魔物だけでなく独自の武器……銃とプロケルが呼んでいるものにあった。
今まで、それらはプロケルの【創造】によるものだと思っていたが、まさか魔物が作っているとは誰も思ってもいなかったのだ。
彼は押し殺した笑いをする。
プロケルの生命線が見えた。
「ならば、その魔物を殺せばプロケルの戦力は半減以下……いや、奪ってしまえば強力なゴーレムも、プロケルの強さを支える武器も、何もかもが手に入るというわけだな」
「オレ、たくさん調べた。間違いない。魔物はエルダー・ドワーフ、名前はロロノ。作れるだけじゃない。ゴーレムは製作者が操れる。プロケルがため込んだゴーレム、全部、奪える……そして、その魔物……人型の雌。うまそう」
「すばらしい! プロケルを倒せるだけじゃない。我らが飛躍するために必要なものがすべて手に入る」
彼がそういうと、他の魔王たちも盛り上がる。
通常の手段では、魔物を奪うには支配権を持つ魔王の許可が必要だ。
だが、オーク型の魔王、【豪】のアガレスには人型の女性限定で支配権を奪う手段があった。
彼は戦略を練る。エルダー・ドワーフのロロノを奪うことで、プロケルの戦力を奪い取り、自らの力とするために。
……しかし、ここで四つの見落としがあった。
一つ目は、ロロノ本人をゴーレムや武器のおまけと過小評価し、彼女自身を連れ去ることはたやすく、アヴァロンの守りをどう突破するかに戦略の重点を置いてしまったこと。……生産系の魔物は弱い。その常識をロロノにも当てはめたのだ。
Sランクの魔物かつ、数多の戦いを経て成長した【誓約の魔物 】であるロロノに対して、あまりにも見込みが甘すぎた。
二つ目は、グラフロスの空の守りなど、Cランクの聖鳥クレインで簡単に対処できると断定したこと。……グラフロスの弱点をプロケルが放置していると決めつけた。
三つ目は、プロケルとロロノ自身が、ロロノこそがアヴァロンの生命線であると認識し、ロロノを守るためにありとあらゆる守りがアヴァロンには仕掛けられていること。
四つ目は、プロケルがどれだけロロノに対して愛情を注いでいるかを見誤ったこと。
プロケルは娘を何より大事に思っている。娘を傷つけるものに対しては、鬼になる。……それこそ、今までけっして使うまいと準備だけして温存していた非人道的な兵器すら。
彼らはプロケルの逆鱗に触れようとしているのだ。
四つの過ちに気付かぬまま、彼らは必勝の戦略を立てていく。
彼らが自らの過ちに気付くのは、そう遠くない未来になるだろう。