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第八話:出来上がっていくカジノ

 カジノの建設が始まってから一週間ほど経っていた。

【平地】に来て、視察を行っている。

 すさまじい勢いで【平地】の開発が進んでいた。


 ドワーフ・スミスたちが数十体のゴーレムを動員して二千人を収容できるカジノを作っているのも壮観だが、商人たちも負けていない。


【平地】に施設の構築を許されたことで、カジノに来る客を見込んで、新たな宿や飲食店が急ピッチで造られているのだ。

 二週間後のカジノの開園に向けてみんな必死だ。


 今もヒポグリフが【平地】に着陸した。

 あれは流通用に商人たちに貸し出しているヒポグリフだ。

 荷台からぞろぞろと、職人たちが下りてくる。


「荷物運搬用の荷台でよくやる」


 荷物の運搬しか考えていない作りなので、かなり乗り心地が悪かったはずだ。

 ドワーフ・スミスたちを増員して、カジノと並行し、ヒポグリフ空港のために人を運ぶための荷台を作っているところで、まだそちらは完成していない。


 人を運ぶ荷台には、ロロノの【具現化】……自身が使える魔術を機能としてもたせた物質を具現化する力を使い、とあるパーツを作ってもらっている。

 そのパーツの機能は反重力。

 ロロノの切り札たる【機械仕掛けの戦乙女】にも使われているものだ。


 ヒポグリフの魔力は少ない。

 そのせいで、周囲のマナに頼る形になり反重力の出力は大きく落ちるが、おかげで凡そ百人ほどを運べる荷車が完成予定だ。

 ロロノにも負担をかけてしまうが【物質化】でパーツを作るだけで、あとはドワーフ・スミスたちに任せられるため負担は少ない。


 視察はコナンナと共に行っている。彼のクルトルード商会は、カジノの実現に向けてコネクションと、資金力、人材をフル投入してくれていた。


「コナンナ、利権を独占しなくてよかったのか? そっちのほうが儲かったぞ」

「ははは、いくら私の商会でも手が余ります。カジノだけで手いっぱいで宿や土産屋、飲食店まで手が回りませんよ。商人は欲深いですが、できないことは弁えないといけません。そこを間違えるようなら三流です。……間に合わないのもそうですが、私がすべてを独占すれば、嫉妬した他の商会に足をひっぱられ、カジノの運営すら怪しくなる。私は欲に目をくらんで、中途半端な仕事をして金を産む鶏を殺すような三流商人ではない。このカジノを成功させるための最善を尽くします」


 彼の言っていることは正しいだろう。

 たった二週間で、カジノに押し寄せる客を受け入れるための設備を整えるのは大仕事だし、利権を独占しようとすれば間違いなく妨害を受ける。


 実際、クルトルード商会以外もよくやっている。

 近くの街の労働力は取り合いになっているので、各商会は、職人をヒポグリフで招いたように、コネを使い遠くの街で人材を確保し、ヒポグリフで運んでいる。

 それによって、安く大量の人材を手に入れているのだ。


 これは予想外だったのだが、カジノとその周辺施設を作るために多数の職人、それに加えて各施設の従業員になるべく多くの出稼ぎに来ており、アヴァロンの定住者がすでに千を超えるほど増えている。

 カジノを開く前なのに、アヴァロンのDP収入が爆発的に増えているのだ。


 これはうれしい誤算だ。

 そして、人口が増えると当然市場が活気づくし、カジノに対する期待だけでも希望により、強い感情が生まれていた。

 俺はその流れを後押しするために、商人たちの労働者誘致に対して、高めの支援金を出している。

 この調子で、どんどん人を呼んでほしいものだ。


「プロケル様はさすがですな。大規模なカジノそのものが人を呼ぶための装置でありながら、カジノを作り、運営するため、多数の職人と従業員の雇用を生み出し、それによって街を活性化させるとは」

「まあな。観光客が多く来てくれるのはうれしいが、やはり街を発展させるには定住者が必要だ」


 思わず、嘘をついてしまった。

 この流れで、うれしい誤算だなんて言えるわけがない。

 ……それにしても本当に人間の力を借りて良かった。魔物とだけでプロジェクトを動かしたら、悲惨なことになっていただろう。


 カジノを作るだけ作って、人で不足で運営は回らず、飛竜レースだけではすぐに飽きられ、大量に押し寄せる客を受け入れる設備もなく、結局は一度来た客は不満を覚えて二度と来ない。

 商人たちの手腕には感謝しないと。

 彼らなら、集めた客をきっちり満足させてくれる。


「コナンナ、カジノのスタッフ集めは順調か?」

「ええ、名うてのディーラーたちを三十人。彼らのサポートで二流どころを六十人ほど。スタッフは指揮できる一流どころを五十人ほど、そして純粋な労働力として二百人を確保しました」


 すさまじいな。たった一週間で三十人もの名ディーラーを引き抜いてくるとは。

 コナンナの話では、それぞれのカジノの人気コンテンツをそのまま、アヴァロンのカジノでも実施する。

 世界中のカジノの名物が味わえるのだ。もちろん、王道も抑えている。


 飛竜レースのために数百人が入れるシアターを作るが、シアター以外では、コナンナの集めたディーラーが提供するギャンブルを楽しんでもらう。

 すでに、ドワーフ・スミスたちがディーラの意見を取り入れてカジノの設計の細部を変えていた。


 ディーラー以外のスタッフも合わせれば、コナンナはすでに三百人もの人手を集めた。

 それだけいれば、カジノの運営ができるだろう。


「さすがは、アヴァロン一の商人だ」

「お褒めにいただき光栄です。私がアヴァロン一の商人であれば、あなたは世界一の領主だ」


 コナンナは誇るわけでもなく、アヴァロン一の商人という言葉を自然に受け入れている。

 彼にはその自負があるのだ。


 空を見上げる。コンテナを抱えた二匹のグラフロスが飛んできた。

 彼らは急降下して、カジノの隣にあるスペースの地表すれすれを飛び、コンテナを下ろして、変わりに空のコンテナをもち飛翔して帰っていく。

 そこにドワーフ・スミスのひとりがやってきて拡声器で叫んだ。


「みなさん、資材の追加が来ました! 順番にならんで取りに来てください!」


 たくさんの馬車がコンテナに向かって走ってくる。

 ドワーフ・スミスはコンテナに張り付いて、いくつかの留め具を外す。

 すると、コンテナが展開し、木材や石材、鋼材が露わになる。


 グラフロスたちは資材を運んでいるのだ。

 木材は新設した【森】エリアから。石や鋼材は【鉱山】エリアから、それぞれ現地のドワーフ・スミスが使いやすいように加工しコンテナに積みこみグラフロスに運ばせていた。


 いくら労働力があろうと材料がないと建物は作れない。

 近くの街からも資材を購入しているが、それでは流通に時間がかかりすぎるし、急な需要を満たすだけの量がない。

 だからこそ、アヴァロンの資源を使いサポートする。


 コンテナの隣では、別のドワーフ・スミスが待機しており、職人たちのオーダーを受けて鉄を望む形に加工したり、大量の釘などを作って渡している。


 さらに別のドワーフ・スミスはせっせとコンクリートの材料となるセメントを作っていた。コンクリートは、職人たちにはなじみがないものだったが、ドワーフ・スミスが彼らに教えたところ大好評で、今回の建築には積極的に取り入れられており、工期の短縮に一役買っている。


「プロケル様はふとっぱらですね。あれほどの資材を無料で提供するとは。なんという財力だ」

「カジノの開設のためだからな。今回だけの特例だ」


 さすがに、これだけのことをするのはやりすぎだ。人間たちの食い扶持を奪うことになりかねない。

 今回は、こうでもしないと二週間の開店までに間に合わないので、仕方なく行っている。


「カジノが無事に立ち上がれば、あの資材を一般流通に流していただきたい。釘などはすべて同じ大きさで品質のブレがないのが素晴らしい。鋼材も高品質。そして、コンクリート……あれは革命的な発明品だ」


 コナンナは目を細める。

 共通規格の釘などの道具、混じりっけのない鋼材、コンクリートどれも見るものが見れば立派な商材だとわかる。


「抜け目がないな。考えておくよ。コンクリートのレシピは公開するつもりだ。そんなに難しいものでもない、どう使うかは任せる」

「このアヴァロンでは、次から次へと金の生る木がにょきにょきと生えてくる。プロケル様の隣にいると飽きませんよ」


 コナンナが笑う。

 あっという間に、グラフロスたちが運んできた資材はもっていかれてしまった。

 だが問題ない。すぐに次の便が来るし、資源が尽きることもない。

【森】と【鉱山】の資源は、一定時間が経てば回復する。

 改めて、魔王のダンジョンと街づくりの相性の良さを思い知らされた。


 俺が支援しているのは資材だけではない。もう一つもそろそろ来るころだ。

 ほら、来た。

 ゴーレム馬車がアヴァロンのほうからやってくる。

 そこには、妖狐たちが乗っている。


「みなさん、差し入れです! 美味しいご飯と冷たい飲み物です! みんな、がんばってください!」

「「「うおおおおおおおおおお」」」


 荷台には大きくて塩辛いソーセージとトマトが挟まった白いパンが山ほど積まれていた。

 エルフの祝福を受けた大地で育てられた上質な小麦を使った贅沢な白パンだ。塩辛いソーセージとトマトを挟んでいるだけで、十分すぎるほどうまい。


 他にも樽いっぱいの冷たいリンゴジュースがある。

 黄金リンゴほどではないが、アヴァロンで実った普通のリンゴには強力な疲労回復効果がある。

 アヴァロンの最初の特産品であり、今もアヴァロンを支えてくれているものだ。


 職人たちが集まり、デレデレとした顔で妖狐たちから次々とパンとリンゴジュースをもらっていく。


 一日に三回、こうして差し入れをするよう、妖狐たちに指示をしていた。

 朝と昼はパンとリンゴジュースだが、夜はリンゴジュースの代わりに麦酒エールだ。


 うまい飯と疲労回復効果がある冷たい飲み物。

 こういうのがあるだけで、作業効率はまるで変わる。

 なにより……。


「妖狐たちは人気があるよな」

「何をいまさら。彼女たちはアヴァロンのアイドルです。だからこそ、プロケル様は彼女たちに差し入れをさせているのでしょう。男をやる気にさせるには美人が一番いい。さすがはプロケル様です」


 妖狐たちのほとんどは、アヴァロンの直営店で働いていた。

 彼女たちは人当たりがよく、美人でスタイルもいい。なにより、距離が近い。


 おかげで、妖狐たちそれぞれに固定ファンが多い。

 あれだけの美少女に微笑みかけられれば悪い気はしないだろう。


 クイナが言っていたな。妖狐たちが人間に求愛されていて困っているって。

 とうの妖狐たちは「人間とか無理ですよ。だって弱いし、尻尾がないんですよ。やっぱり、殿方にはもふもふ尻尾がないと……あっ、でもプロケル様になら抱かれたいです。さっそく、きゃっ、クイナ様、痛い痛い」とまったく眼中にない。


 こういうのを見ていると、アヴァロンで人間と魔物のカップルがいつか生まれてもおかしくないと思ってしまう。


「さて、順調そうだし俺は戻るよ」

「私はもう少し視察をします。各商会の手腕を確かめるいい機会ですしね。プロケル様、このカジノを絶対に成功させましょう」

「もちろんだ」


 少なくないDPを投資している。

 絶対に失敗するわけにはいかない。

 さて、DP稼ぎも大事だがアヴァロンの戦力アップも大事だ。

 次の仕事に行こう。


 ロロノから、ティロのために作った新兵器の試作型が生まれたと連絡を受けている。

 ティロはそろそろクイナとのレベル上げから戻ってくる時間だ。新しいティロの力、ぜひ見せてもらおう。

 

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