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第十五話:天狼の流儀

~【創造】の魔王プロケル視点~


「みんな、そろそろ休憩にしよう。アウラ、ハイ・エルフたちと結界を張ってくれ。妖狐たちは交代で見回りを頼む」


 ちょうど、休憩が出来そうなひらけた場所に出たので指示をだす。長丁場なので、休みながらでないともたない。


 マルコのダンジョンに入ってから半日が経っていた。

 その間、ひたすら奥へ奥へと進軍している。


【バーストドライブ】や【アンチマジックシェル】を使用して性能が低下したアヴァロン・リッターは半数以上が破壊されていた。

 ミスリルゴーレムたちも無事な機体は三体のみ。


 ゴーレムたちを壁として運用しているおかげで、なんとか魔物たちの死者はゼロだ。

 ただ、重傷者は多い。


 Sランクの魔物を多数有しているとはいえ、敵も歴戦の魔王。その攻撃は苛烈だ。

 怪我をしたものたちは、ポーションですぐに傷が治る者は戦線に復帰させ、時間がかかる者は、カラスの魔物に転移させている。


「ご主人様、結界の準備ができました!」

「ありがとう。アウラたちも休んでくれ」


 アウラたちの結界が周囲を包んだ。

 これでやっと安心して休憩ができる。

 俺の魔物たちに疲労回復と魔力回復のポーションを行き渡らせた。これでまた戦えるようになるだろう。


 俺は目を閉じて、今の戦況を分析する

 あるときを境に、目に見えて敵の抵抗が弱まっていた。おそらく、マルコに渡したポーションでマルコの戦力が回復した影響だ。


 マルコの魔物たちが戦えるようになったことで、俺たちを迎撃するための余裕がなくなってきたのだろう。

 だが、それだけでは説明がつかないほどの急激な変化だ。【竜】の魔王アスタロトが俺の期待以上に動いている可能性も高い。

 そして……。


「【刻】の魔王ダンタリアンはアヴァロンをしっかり守ってくれているようだな」


 俺は彼を信じてダンジョンを空にしている。

 もう、ここにきて半日も経った。


 もし、【刻】の魔王が約束を破っていたら、とっくにアヴァロンは滅ぼされ、俺の愛しい魔物たちは消えていただろう。


 そんなことを考えていると、天狼のフェルシアス……フェルがこちらにゆっくりと歩いてきた。

 狼の耳と尻尾をもつクイナにそっくりな少女だ。

 彼女は【刻】の魔王から借り受けている魔物だ。

 

「【創造】の魔王。どうして、お父様を信じられたのです。他人を信頼してダンジョンを空っぽにするなんて正気じゃないです」

 面白い質問だ。彼女はどんな意図をもって聞いてきたのだろう。


「どうして信じられるか……【刻】の魔王と直接会って話をしたとき、本気でマルコが好きなのが伝わってきたからだね。マルコを助けるために動いている俺の足を引っ張ることはないよ」

「【創造】の魔王は甘いです。敵から守るのと何もしないは別です。お父様が空っぽのおまえのダンジョンをめちゃくちゃにするとは考えなかったですか?」


 考えなかったと言えばうそになる。

 例えば、エンシェント・エルフのアウラが育てた【はじまりの木】を盗まれれば?

 ロロノの工房に押し入って、保管している兵器や設計図を盗まれたら?


 それにより、俺が独占していたアヴァロンの優位性は奪われてしまうだろう。

 だけど……。


「彼はそんな器の小さい魔王じゃないし、信頼の証をちゃんともらっているんだ。安心して背中を預けるには十分な理由だよ」

「信頼の証です?」

「ああ、君だ。彼は愛しいフェルを俺に預けたんだ。フェルを見ていれば、【刻】の魔王がどれだけ、君に愛情を注いだかがわかる。そんなフェルが俺の元にいるのに変なことなんてできるわけがない」


 フェルは、マルコの【獣】、【刻】の魔王の【刻】、俺の【創造】で出来た魔物だ。

 Aランクメダルを三つ使ったSランクの中でも上位の存在。

 純粋な戦闘力も優秀だが、彼が娘のようにかわいがっているというのも大きい。

 それを貸すということは、少なくとも今の俺たちは同じ目標に向かう仲間なのだ。


「ふん、お父様の気持ちによく気付いたのです。褒めてやるのです」


 フェルは、そっけなく顔を逸らすが父親を褒められ、そして【刻】の魔王がフェルを愛していると言われて、よっぽどうれしかったのか、狼の尻尾がぶるんぶるんと揺れている。

 可愛らしい。

 俺は思わず揺れている尻尾を握る。おおう、クイナのもふもふ尻尾とは違って滑らかでしっとりとした毛の感触、これはこれでいい。気持ちいいな。


「ひぎゃっ」


 天狼のフェルは尻尾の先から耳の先まで全身を振るわせてから、飛びのいた。

 そして、警戒心丸出しな目で俺を睨みつけて、ふうふうと威嚇する。


「なっ、何考えているですか!? 女の子の尻尾をいきなり握るなんて、変態です! やっぱり、おまえはロリコン魔王です! 見直したフェルがバカだったです」


 そうして、あっという間に消えていく。

 何を言っているかわからない。尻尾を握ると変態でロリコンなのか。

 心なしか、俺をみる配下の魔物たちの視線が冷たいのは気のせいか?


 天狐のクイナが鼻歌まじりにリンゴをしゃくしゃくと食べる姿が目に映った。黄金リンゴは全部ポーションにしているので普通のリンゴだ。ただのおやつだろう。

 ちょうどいい、試してみよう。


「クイナ、こっちにおいで」

「やー♪ 今行くの」


 クイナが笑顔でこちらに駆け寄ってくる。

 そしてぎゅーっと抱き着いてきた。

 頭を撫でやると目を細めてくる。相変わらずクイナは甘えん坊だ。

 そんなクイナのもふもふ尻尾をぎゅっと握りしめる。


 柔らかい毛が俺の手を優しく包み、さらに力を入れると尻尾のお肉の部分に手が食い込み、心地よく反発してくる。クイナの高めの体温が尻尾から伝わってくる。

 ああ、気持ちいい。もふもふ、ぎゅっ、もふもふ、ぎゅっ。

 クイナの尻尾をにぎにぎしてしっかりと堪能する。


「クイナ、尻尾をにぎられるといやか?」


 そして確認だ。

 クイナはとろんとした目で、顔を赤くして、俺の体にしなだれかかっている。息が荒い。


「おとーさん、尻尾をにぎにぎするの気持ちいいの。もっと、ぎゅっとして、クイナ、これ好きなの」


 注文通り強めにすると、クイナがより喜んでくれた。立っていられなくなったようなので支えてやる。


「おとーさん、これ、すごい、クイナ、尻尾、あつくて、へん」


 ふむ、やっぱり尻尾を握るのは問題ないようだ。


 おそらく、尻尾を握るとエッチというのは天狼という種族特有の価値観だろう。

 一応、あとでその気はなかったと謝っておこう。


 ふと、視線を感じてそちらを向くと、天狼のフェルが物陰からこちらを見ていた。

 顔を真っ赤にして、目を見開いている。しかも尻尾を股の間に挟んで、自分で握っていた。


 口が動いている。俺は風の魔術でその声を拾った。アウラが誓約の魔物になってから風の魔術が使えるようになっていた。

 

「はわわ、親子でなんて変態です。でも、クイナ気持ちよさそう、フェルも、お父様となら……ううう、尻尾むずむずするです」

 うん、やっぱり後でしっかり謝ろう。

 確実に駄目なやつだ。

 とはいえ、フェルの尻尾もなかなか気持ちよかった。もし、許されるのであれば、いつか右手でクイナの尻尾を、左手でフェルの尻尾をにぎにぎしてみたい。きっと、最高に気持ちいいだろう。


 ◇


 しばらくして休憩が終わった。

 陣形を組んで、結界を解除して進軍する。

 休憩とポーションのおかげで、俺の魔物たちのコンディションは完ぺきだ。


 このまま、マルコのところまで突き進もう。

 とはいえ、油断はできない。

【竜】【刻】【獣】の三人は同格の魔王だ。


【竜】と【刻】と相対してわかった。あれは今の俺が手に負える相手じゃない。どれだけの知略を張り巡らそうが、どれだけ罠を用意しようが、軽くひねりつぶされる。

 あれらはそういう規格外だ。

 そして、マルコも彼らと同じだけの力があるはず。

 そのマルコが、複数の魔王から襲われているとは言え、追い込まれた。

 確実に何かがある。


 俺はちらりと、生き残ったミスリルゴーレムが二体がかり運んでいる白い布で囲まれた”あれ”を見る。

 きっと予定通り、”あれ”を使うことになるだろう。


 そういえば、ルルイエ・ディーヴァたちは大丈夫だろうか?

 そろそろ定期報告の時間だ。

 水入りのイヤリングから彼女の声が響いた。


『パトロン、定期報告。今、戦闘中。ちょっとやばい。部隊の半数が重症で部隊として機能してない。今、僕がカバーしてるけどまずいな。敵の総数は百体超えてる。しかもAランクが二十体も見えてる。死ぬかも』


 笑いながら、窮地だとルルイエ・ディーヴァが伝えてくる。


「逃げてもいい。おまえと部下の命を優先しろ。以降は、こちらの情報はすべて異空間から漏れている前提で進軍する」


 次元操作系の魔物は異空間からこちらを覗けるし、ランクの高い魔物は条件次第で完璧に奇襲ができる。

 異空間を完全に制圧されるのはまずい。


 とはいえ、ルルイエ・ディーヴァたちは地上部隊と違い、切り札は存在しない。無理はさせられない。


『やっぱり、甘いねパトロン。……逃げるのは、やるだけやってからにするよ。怪我を負った部下と一緒に逃げるのは無理だもん。見殺しにしたくないよ。はあ、自己犠牲とか好きじゃないんだけどね。これは貸しだよパトロン』


 まさか、あいつは……。

 

「がんばりすぎるなよ。絶対に戻ってこい」


 二つの意味をこめて、戻ってこいと俺は伝えた。


『ああ、もう。そういうこと言うから、がんばらないといけなくなるじゃないか。うん、いいよ。僕が僕でいられる限界までやってみるさ。じゃあ、五分後定期連絡で、僕のステージを見せてあげられないのが残念だね』


 それで通信が切れる。

 俺は彼女と、その部下を信じて前に進む。

 彼女のためには祈る以外のことはできない。だから、俺は俺の仕事をする。


 それに、俺はルルイエ・ディーヴァならこの窮地を乗り切ると信じていいるのだ。

 


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