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第27話

 真っ暗なステージを、薄っすらと見える足場だけを頼りに、所定の場所まで移動する。

お爺ちゃんは真ん中でポスターと同じポーズを取る。


私達は、前半部分はひたすらバックバンドとして、演奏に集中することになっている。

観客席は薄明かりで照らされているけど、人混みが分かるだけで全体像はよくわからない。

どんな事になるのか、どんな風になっていくのか、全然予想も付かないことに緊張する。


最前列辺りの観客が私達に気付き、それが徐々に後ろに伝わっていくと、会場のざわ付きが大きくなってきた。

ステージ真ん中後方の足場の隙間から、暗幕が開くと照明がゆっくりと押し出せれる。

まだ点灯していない。


それを確認した部長さんがバチを3回叩く。

まずはドラムソロでリズムだけが刻まれる。

観客席から悲鳴に近い歓声が上がっていく。

観客の声は少しずつ大きくなっていく。

拍手も混じり否が応でも気分が高揚した。


そこへ姫ちゃんのベースが加わると、更に観客の声援は大きくなっていった。

自然と手拍子が始まり1曲目への期待感が膨らんでいく。

そしてカズちゃんのギターが加わり何の曲だかわかると、更に大きな歓声が響いた。


お爺ちゃんのデビュー曲だ。

若い人の声も聞こえる。

そして私の出番…。


「ラーラーラー………。」

歌詞をなぞって「ラ」だけで静かに歌っていく。

女性の声で戸惑っている感じが観客から伝わってくる。

私はひたすら感情を乗せて、言葉はなくても歌詞を乗せていく。


「なんだこれは…。」

観客席中央招待席に、日の出レコードの経営者の面々が集まっていた。

今日のライブは彼等のお家騒動に答えを出す日でもある。

現社長の雄大が驚いている。

まだ翔輝は歌っていないのにだ。


「ラでしか歌っていないのに…、歌詞が…、情景が伝わってくる…。」

社長の座を賭けている息子の流星も驚いていた。

「ふふふ…。ワクワクしてきたわ。美里さん、あなたはとんでもないものを残していったのかもしれませんね。」

車椅子姿の会長の晴海が微笑んだ。

「まだ始まってもいませんよ。伝説のライブは…。」

夫の優木が背後かから声をかけた。


そして私のコーラスでサビの部分が終わると、最後のラは音響によって大きなエコーがかかる。

演奏が止まる。


バンッ!!!

大きな爆発のような音と共に紙吹雪が舞う。それと同時に背後の照明が点灯される。


逆光によるシルエットにはポスターと同じく、左手でギターを支え祈りを捧げるお爺ちゃんの姿だけが浮かび上がる。


「待たせたな!」


お爺ちゃんの言葉に会場は割れんばかりの歓声が起きた。

格好良すぎだろ…。



「今日のライブは内藤 翔輝のラストステージだ!」


「今日で内藤 翔輝の歌手人生は終わる!!」


「しっかり魂に刻んでいけ!!!」



直ぐにバチが3回なり、デビュー曲「このちっぽけな世界の真ん中で」の演奏が始まる。

お爺ちゃんはゆっくりと立ち上がり、ギターを肩からかけると右手を大きく付き出した。

照明が切り替わりステージ全体を照らしだす。


「このちっぽけな世界の真ん中で~、俺達は~………。」

歌詞は世界なんて小さいだろ、もっと俺達が前に出てもいいだろ、何を躊躇するんだ?みたいな内容だ。

一歩間違えると、いわゆる厨二病歌詞にも聞こえる。

これが過激だった時代があったなんて…。


私は演奏はあまりしない。

歌詞のキーになるコードを入れているだけ。

コーラスの方に力を入れていて、お爺ちゃんからもそっちに集中しろと言われていた。

ギターは最悪エアーでもいいとまで言われたよ…。


だからこそ、私は自分の声を信じた。

お爺ちゃんが信用してくれた私の声に。

内藤 翔輝という早すぎたシンガーの邪魔をせず、盛り上げる。


そして1曲目が終了すると、直ぐにセカンドシングルの「クダラナイ」が始まる。

これは1曲目より内容としては過激だ。

今の時代なら、それこそ古くてくだらない風習と笑われそうだけども、歌われた当時は当たり前のことだった。

それをぶっ壊せと歌う彼は、実質この曲から目をつけられたと言っていいかも。


当時のお父さん世代は、何という礼儀知らずみたいな感情だったかもね。

でも、今聞くとそんな風習が昔あって壊してきたという事実がのしかかる。

一周回って、結構面白い内容になっている。


メンバーは、最初は会場の熱気に押されていたけど、それを押し返すお爺ちゃんの姿に乗せられてのびのびと演奏を続けている。

細かいミスがあったかもしれない。

だけど、そんな事を考えさせない迫力がステージ上にはあった。


2曲目が終わると、大きな拍手と歓声に両手を上げて答えながら、お爺ちゃんは満面の笑顔を見せていた。

凄い感触だったと思う。

私も何というか、もう感動していた。

予想以上の盛り上がりにワクワクとドキドキが止まらない。


お爺ちゃんはマイクに近づく。

「1曲目『このちっぽけな世界の真ん中で』と2曲目「クソクラエ」でした。Thank You!」

再び拍手が巻き起こる。


「久々…、本当に久々にお前らに会えて嬉しいぜーーーーーー!」

お爺ちゃんのMCが始まる。

彼が何か喋る度に歓声が巻き起こっていた。

メンバーは水を飲んだりして、いつの間にかカラカラになっていた喉を潤す。

お爺ちゃんも喋りながら水を受け取って飲んでいた。


「今日のライブはね、チャリティーを目的としているんだ。俺が30年前もチャリティーライブやって設立の手伝いをしたのだけど、最近不景気が続いたからか資金難になってきていてね。俺はそれを聞いて今回も募金の手伝いが出来ればなと、曲がっていた腰を真っ直ぐにして戻ってきたぜ!」

時々ギャグをはさみ笑いを誘いながら続ける。


「ありがとー翔輝さーん!!」

招待席から声が上がった。

「お、今日のヒロインが来ていた。会長COME ON!」

そう言ってステージに上がってこいとジェスチャーする。

足長おじさん協会会長さんが半ば無理やり引っぱり出される。


「今日のヒロイン、足長おじさん協会会長、前田 美津子!皆拍手!!」

大きな拍手が巻き起こる。

私も拍手した。


「彼女はね、事故や病気で両親を亡くしたりして、進学したいけどお金がなくて断念しなくちゃならない子供達をね、もう何百人、何千人も何万人も支援してきてね。そんな助けてくれる協会を発案、設立、運営としてきた人なんだ。」

「俺はその話に感動してね。それで前回も今回もチャリティーをしようって思ったの。」


前田会長にマイクを渡す。

完全なアドリブだ。

「今日は足長おじさん協会の為に、このような盛大なチャリティーライブを開催していただきまことにありがとうございます。」

「固いことはいいの、いいの。」


「ふふふ…。我が協会の為に尽力をくださり本当に嬉しい限りです。なにせね、翔輝さんは1円も受け取ってくれないのです。」

大きな歓声と驚きの声があがる。


「学校にも、場所や学生さんがボランティアをしてくださったので、せめて昼食代だけでもとお願いしたのですが受け取ってくれませんでした。」

若い人達の歓声があがる。


「本当に…。」

前田会長は声を震わせていた。

「おまえら最高だーーーーーー!!!!」


大歓声が巻き起こった。

会長は恥ずかしそうにトコトコとステージを降りる。

歓声に包まれながら自分の席へと帰っていった。


「会長からの暖かい言葉ありがとう!」

「それじゃぁ3曲目いくぞ!しっかりついて来い!!!」

ライブ会場が揺れていた。


伝説の男、内藤 翔輝は確かにそこにいた。

まさしく老若男女が興奮の渦に巻き込まれていた。

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