表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/35

第25話

 ステージも組み上がり、照明や音響のテストの最終調整にはいっている。

会場のセッティングも終盤に入り、本格的なリハーサルや、観客の誘導練習なんかも始まったよ。


全体を通して歌いながら、MCの時間の調整を行ったりもしていた。

休憩も入れて2時間ぐらいになりそう。


映画部の協力を得て、撮影をしながらモニターにてチェックもしたりと、何だか手作りな割に本格的になってきた。


大学生のボランティアは、自分達の特技を生かしたり、試したりしながら、まさしく試行錯誤していた。

それは彼等にとってみれば夢中になれる素材だったのかも知れない。


技術がなくても宣伝に力を入れてくれたり、会場のセッティングや案内看板なんかで手を貸してくれている学生も沢山いるよ。


そんなボランティアは100人を超えたかもしれない。

そんな人達がSNSを通じてライブの情報がどんどん拡散されていく。

ネット上では少しずつ噂が広まっていた。


ポスターにホームページと本格的な準備に対して、壮大な嘘だとかジョークだとか願望だとかとアンチが叩いてきた。

そこで、ライブ会場の準備風景の動画を上げる。


再生回数は1日で軽く万を超えたよ…。

この反響が怖い気もするけど、これってやっぱり伝説の男の帰りを待つ人が沢山いるってことだよね。


なので、次にリハーサル状況を遠目に撮した短い動画を上げる。

曲目は「俺達の歩は止まらない」だ。

お爺ちゃんの生の歌声が小さく入っていて、本人だと判別つきやすい。


ここまで来るとアンチも叩く材料が無くなってきて、今度は妨害をしようとする輩が出てきた。

だけどここは大学校内。

ゴミがぶちまけられたり、案内看板が破壊されたりと、少しずつエスカレートしていった。

そこで校長は器物破損や不法投棄などの理由により警察に応援を要請してくれた。


地元警察から県警へ話も上がり、地元の警備会社も協力してくれることになり、何だか物々しい雰囲気も漂ってきた。

でも、そうなればなるほど運営側に火がつく。


何が何でも成功させるのだという意地が生まれてきている。

かく言う私もそう。

そしてライブの1周間前にはトドメとばかりにお爺ちゃんのインタビュー動画を上げた。


「どうも、お久しぶりです。内藤 翔輝です。」

淡々と語り始めるお爺ちゃんは、ライブを行うことを高らかに宣言した。

それは内藤 翔輝として最後のライブであること。

今回急遽こんな事になった理由である、亡くなった妻への感謝の意を伝えたいこと、そして足長おじさん募金のチャリティーであることを説明する。


歌う曲は12曲で、うち1曲が新曲でありラストシングルなことと、孫のバンドがゲストで3曲歌うことを伝えている。


「僕はね、ただ純粋にライブがやりたいんだ。今回のライブをラストステージとしけじめをつけます。そしてそこで集まったお金は100%全て募金することをここに誓います。もちろんライブに関わった全てのスタッフも無償のボランティアであります。僕は彼等に感謝し、彼等が作ってくれたステージで最高のパフォーマンスをし、天国で見守ってくれている妻に想いを届けたいと思っています。」

少しの間見上げていた表情が切なかった。


「ライブ会場で会いましょう。」

そう言って動画は終わる。

この動画は1日経たずに10万再生を超えた。


ライブの前日。

一番心配していた天気は晴れと確定した。降水確率は0%!

昼間はステージの最終チェック。

機材や案内、運営係の配置や手順も。


もちろんボランティアの人達への食料や水の手配も行う。

そういった物は、黙っていても商店街の人達が準備をし提供を申し出てくれた。

お店の宣伝にはならないのに…。


隣の市からは臨時バスが出ることも決まっている。

なので臨時のバス停の設置やルート表示、それに仮設トイレまでもが準備されている。


警備体制も校長を含めて相談し決められ、やれることは全部やったと思いたいところまできた。

ちなみにライブは、映画研究会によって撮影され録画される。

動画は後日無料公開し、さらに募金をお願いする予定となっている。

全ての準備を終え帰宅した。

もうへとへと。


ダイちゃんやリクカイクウちゃん達、オーちゃんもお出迎えしてくれる。

疲れた心と身体が癒されるよ。

ちなみに家族同然のペット達はライブ会場に連れていくよ。

特にショウちゃんの中身はお婆ちゃんだしね。

凄く楽しみにしているみたい。


肝心のお爺ちゃんは縁側で横になりながら夜風に当たっていた。

「あら、余裕ね。」

「ん?んー。今更慌てても仕方ないしな。」

「私もステージで歌うことに慣れてはきたけど、沢山のお客さんを前に緊張しそうだよ。」


「なーに。客なんてな、野菜だと思えばいいんだ。」

「野菜?」

「ナスやキュウリ、トマトにニンジン。そいつらが見に来ていると思えばいいのさ。ライブが終わったら煮込んで食ってやろうって気持ちで丁度いいわ。」

「なにそれ。」

笑顔が溢れる。


「ありがとな、歩。」

「どうしたの急に。」

「俺はこのライブで気持ちが切り替えれそうだ。」

「うん!それがいいよ。お婆ちゃんの事、忘れるんじゃなくて、見送ってあげるって気持ちが必要だったんだよ。きっと。」

「そうかもな。」


「それにね、きっとお婆ちゃんは見に来てくれている。だから、お爺ちゃんも私も、精一杯想いを伝えなきゃね。」

「ああ。何だかさ、ずーっと美里に見守られている気がするんだ。」

そうだよ!


思わず叫びそうになった。

ぐっと言葉を飲み込む。

「そりゃそうだよ。お星様になっているからね。」

「ほぉ?どれが美里の星かな?」

「一番大きく見えてるやつだよ。」


「そうかぁ。月かぁ。それならバッチリみられているかもな。」

「こっちからもよく見えるしね。」

「そうだな。」

「さぁ、お婆ちゃんの畑で採れた、私の育てた夏野菜を食べて明日に備えよ!」

「そう言えば腹が減ってきたな。」


夕御飯も食べ終わりお風呂も済ませる。

ベッドに倒れこむと、忘れていた疲れがどっと出た。

そうだ…。宿題があったんだ。


ポスター作った時に発覚したのだけど、私達のバンド名が決まってなかったの。

結局時間も無かったから名前は出さずにポスターは作っちゃったのだけれど、やっぱり無いとおかしいよなってことで、今日の夜までに名前を出しあって皆で決めるって約束になっていたっけ。


スマホの電源を入れて、仲間内だけのSNSグループをのぞく。

部長さんとカズちゃんはどっちも譲れないらしく激しく言い合っていたけど、部長さんの提案する「Storageストレージ」とカズちゃんの提案する「Fiberファイバー connectionコネクション」って、どっちもどっちじゃない。


何だか両方共ネットワークやモバイル機器を連想する、いかにも今風を狙ったけど、何だか外しているよねって感じがヒシヒシと伝わってくる。

じわじわと笑いを誘うような名前だよ。


姫ちゃんの「breakブレイク upアップ」ってのは格好は良いけど、名前負けしてるよ…。

オリジナル曲だって、格好良い系じゃないしね。

歌詞をカズちゃんが書く以上、今後もロックにはならないよ。たぶん。


しかも全員英語ってどういうことなの?

ログを辿っていくと、最近のメジャーなバンドも英語が多いよねってところからきているみたい。

皆テンパっているみたい。


話しを振り出しに戻すかのように、和風な名前がいいって言ってみた。

案の定、ブーイングだった。

ここまで議論が盛り上がりやっと英語でいくみたいな流れだったけどね。

だけど和風がいいよ。

和風というか日本語のバンド名。


じゃぁ、何か提案してみてよとカズちゃん。

いやー、こう言っちゃ何だけど何も考えていないんだよね。

だって忙しかったし。


お茶を濁すかのように、お爺ちゃんの最大のヒット曲である「俺達の歩は止まらない」みたいなのがいいって言ってみる。

それ自分で言うの?とか、歩君がそれでいいならいいよとか、何故か是正的な意見が返ってきた。姫ちゃんは爆笑している。


あれれ?何が可笑しいのだろう?

どこか変だった?と聞いてみる。

すると3人とも更に大爆笑…。


もう、ちゃんと答えてよ。

するとカズちゃんが、俺達の歩って、歩ちゃんのことだろ?確かに止められないわって思ったと返事が返ってきた。

意味がわかると、急に照れくさくなった。


ちょっと待って、これはこんな感じがいいって意味で言ったのであって…。

「決定。」

「決定ね。」

「決定かな。」

今度は私で三段活用するな!


ということで、どんなに否定しても誰も話しを聞いてくれなくて、結局覆すことは出来なかったので、バンド名は「俺達の歩は止められない」に決まってしまった。


お爺ちゃんの許可だけはもらうからねと捨て台詞を吐いて今日は寝ることにしたよ。

はぁー………。


無理やりポジティブに考えれば、私達が活動している限り、お爺ちゃんの曲名ということが纏わり付いてくるから、必然的に内藤 翔輝が引き合いに出されることになる。


バンド名を聞く度に内藤 翔輝まで連想されていくから、まぁ、ある意味面白いことではあるよね。


いやいや、流石にこれはこじつけ過ぎる。

そんな葛藤をしているうちに、いつの間にか深い眠りについていた。


そしていよいよライブ当日を迎えるのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ