第24話
「はい…、はい…。あっ、お金はいりません。それはチャリティー募金でお願いします。はい…。そこは譲れないです…。」
商工会からの電話で対応をしているよ。
「ポスター好評ですか!?嬉しいです!ああやってみると、お爺ちゃんもまだまだイケますよね!」
お互い笑いあう。
お爺ちゃんのポスターは写真部の会心の一枚だ。
暗闇の中、逆光に浮かび上がるお爺ちゃんは、片膝を付き左手でギターを支えていて、そのまま祈っているようなポーズだ。
お婆ちゃんに歌を届けるというコンセプトが格好良く浮かび上がっていた。
「内藤 翔輝 ラストステージ 8月29日17時開場 場所:大学野球グラウンド」とだけ書かれている。
問い合わせ先は、急遽家の電話を2回線に増やし、そのうちの1回線を私のスマホへ常時転送させている。
最初はじゃんじゃん鳴って、もう大変だったよ。
直ぐにホームページのアドレスも追加したポスターを作った。
こちらは一時パンクするほどアクセスがあったりと反響は物凄く大きいよ。
今更自分達がやっていることの大きさに気づき始めてきていて、何だか緊張してきた。
「やほー。どう?順調?」
副会長の遥さんだ。
「何とか…。正直、忙しすぎて何が何だかわからないです。」
「あははは!そんな経験、滅多に出来ないから楽しんでおきー。」
「はぁ…。」
まぁ、そう言われるとそうかも。
「そう言えばさ、歩達のバンドも出るんでしょ?」
「はい!お爺ちゃんが経験しておけって。」
「ふーん。ならさ、あんたらのポスターも作って宣伝すれば良いのに。」
「うーん、私達はあくまでもおまけで、ゲストですらないと思っています。」
「えー。勿体無いよ。演劇部の友達に聞いたけどさ、すっごく良かったって言っていたよ。宣伝するだけならタダだしさ、やっちゃいなよー。」
「でも、写真部の人達はお爺ちゃんのポスターで完全燃焼しちゃってて…。今更追加とか言えないかも…。」
「いいじゃん、手作りで。印刷ぐらいならやってくれるでしょ。インク代いくらかしらんけど。」
そう言ってケラケラ笑う遥さん。
こういう人、私は好きだし憧れるなー。
「わかりました。お爺ちゃんは歌の練習ばかりで全然手伝ってくれないし、名前ぐらい使い倒してみせます!」
「そうそう!その意気~。」
早速メンバーに相談する。
「まぁ、、宣伝ぐらいならいいんじゃないかな。」
と、部長さん
「注目度すっごいしね。名前売ってもバチは当たらんでしょ。」
と、姫ちゃん。こんな感じで特に異論もなかった。
「だけどさ、写真どーすんの?」
カズちゃんの言葉にメンバーは考えこむ。
「ここはさ、俺みたいな爽やかボーイが全面に出て…。」
「却下。」
部長さんに即ダメ出しされた。
「それならさぁ、歩の方がいいと思うぜ?」
いやいやいやいやいや。
姫さん、それは駄目だよ。
恥ずかしすぎる。
「うん。歩君ならいいよ。それに祖父と孫の共演ってのを前面に出した方が受け入れられやすいかもね。」
「えー。俺は?」
「チャラい。」
「チャラいかな。」
「チャラいかも。」
「俺で三段活用するなよ…。」
結局私を前面に出すことになったのだけど…。
まぁ、確かに、お爺ちゃんと共演だから、祖父と孫って構図は確かに便利かもね。
だとしても…。
「写真どうしようか…?」
3人は悩んでしまう。
なまじお爺ちゃんのポスターが格好良いだけに、余計に考えこんでしまった。写真ねぇ…。
あれ?そう言えば…。
「あっ。」
忘れていた。
しかも完全に。
「ちょっと待って。」
私は説明するより先に電話した。
「誰に連絡するの?」
カズちゃんの質問に私は答えた。
「アンソニーさん。」
「はぁ?誰それ?え?俺の知らない人?」
何を狼狽えているんだろう?
カチャッ
「Hello!歩です!覚えていますか?」
『Oh!AYUMI!!丁度良いところに連絡をくれました。今、あなたの話題で持ちきりデース!」
「そうなの?」
『YES!だけど、その話はまた後日しマース。僕に電話してきたということは、写真のことで何かありましたカ?』
アンソニーさんからは、写真で困ったことがあれば連絡してと言われていたのを思い出したのだ。
「はい。この前撮っていただいた写真、データをお借りしてもよろしいですか?」
『Oh!YES!全然問題ありまセーン!e-mail address教えてくだサーイ!』
言葉で伝えたけど、どうやら送れたみたい。
カバンからお婆ちゃんのタブレットを持ち出す。
通話しながらだけどテザリングをオンにする。
タブレットはネットにつながったことを示すアイコンが表示された。
メールソフトを起動させチェックするとちゃんと届いている。
写真なのに、かなり大きなファイルサイズでビックリしたよ。
高価なカメラで撮影すると解像度も凄いんだね。
さっそく表示させる。
うんうん、これならいいかも。
「ちゃんとメール届いたよ。ありがとうございます。」
『いいのいいの。全然OK!僕もその写真のお陰で仕事が順調だよー。なので、また後で電話するネー。』
「はーい。あ、そうだ。」
『ん?何でしょう?』
「今度ね、ライブをやるのです。私の通っている大学のグラウンドでね。8月29日の17時からだから、良かったら遊びに来てください。チャリティーなので無料です。」
『WoW!それは是非行かないといけませんネー。そこでまた写真撮らせてもらいマース!』
「はーい。」
プッ
通話を切ると、全員が不思議そうな目で私をみていた。
「うーんとね、あのね、東京へお爺ちゃんの幻のレコードを取りに行った時なのだけど…。」
そこでアンソニーさんに偶然会って写真を撮られたことを伝えた。
「で、その時の写真がこれなの。」
タブレットを裏返して皆に見せる。
ちょっと感想を聞くのが怖いかも…。
照れくさいね。
「いい…。」
カズちゃんの真剣な目…。
何だか怖い…。
「あ…、あ…、歩君…。これは…。」
部長さんもオロオロしている。
「いいよコレ!これは絶対にいけるぜ!!」
姫ちゃんの言葉でホッとした。
「私もね、何だかいいなーって思っていて。お婆ちゃんの帽子なのこれ。」
赤い帽子を指さす。
「それがいいんだよ。何というか古いタイプの帽子だけど、そのアンバランスさと歩の無邪気な笑顔が、東京という街に映えているんだ。」
姫さんの真面目なコメントに一同言葉を失う。
「あっ、いや…、写真とか絵とか好きでさ…。ロックじゃないだろ?」
「どちらかと言うと、クールだね!」
「クールか…。まぁ、それもいいな!ところでその写真、絶対プロの仕業だぞ。名前は何て言うんだ?」
「えーとね、アンソニー・ロジャーさんだって。イギリス人って言ってた。」
名刺を見せると姫ちゃんは持っていたペットボトルを落とした。
その手で私を指差す。
「ア…、アンソニー・ロジャーって言ったら…、今イギリスで超有望株のカメラマンだぞ…。」
「えー……?嘘でしょ…?」
「間違いない。写真部に聞いてみようぜ。」
私は念のため写真部部長さんに連絡する。
姫ちゃんはスマホで調べ始めた。
男達は何が起きているのか理解していないようだったが、この写真がイギリス人のプロの写真家に撮ってもらったのだけは理解した。
「はい…。はい…。その人の名前はアンソニー・ロジャーさんって言うのですけど…。」
あれ?
「どうした?」
「切られちゃった…。」
「やっぱデマなんだよ。もう、驚かせやがって…。」
その時だった。
ガラガラ…ピシャン!
激しく扉が開く。
「ハァ…、ハァ…。しゃ、写真を見せて欲しい。」
「写真部の部長さん。」
「お願いだ。写真を見せてくれ。」
「どうぞ…。」
写真部部長さんはじっくりと写真を見ていた。
そして、涙をこぼした。
「すげぇ…。全ての素材がアンバランスなのに1枚の写真として完成している…。」
姫ちゃんと似たような感想を言った。
「あの…。この写真は自由にしていいって本人に言われてまして、なのでこれでポスターを作りたいのです。」
「是非やらせてくれ!お願いします!何でもするから!!」
「では…、宜しくお願いします!」
写真部の人は、データをポスター作り以外に使用しないという誓約書まで持ってきた。
プロが撮った写真なので、けじめをつけたかったみたい。
姫ちゃんが調べたところによると、イギリスでは写真家の中でも若手だけど、有望株としてもっとも注目を浴びている一人として紹介されていた。
「おい、コンクールで賞を取っているのだけど…、その写真はそれだぞ!?」
「えー…。」
恥ずかしさを通りすぎて、気を失うほどの衝撃だった。
英字の記事には、確かにアンソニーさんと私の写った写真があった。
トロフィーを持つアンソニーさんは満面の笑みをこぼしている。
そんなこんなで出来上がったポスターは、お爺ちゃんのと並べると実に対照的で明るくて爽やかな感じだ。
凄くいいよ!
早速出来上がったのをお爺ちゃんのポスターの隣に貼っていく。
私達のポスターも好評だったし、祖父と孫という構図は年齢が高い層からも支持をうけた。
親子じゃないのも新鮮だったみたい。
言われてみればそうかもね。
私達に関する問い合わせとチラホラあったよ。
お盆の時期からはやっと音楽に集中出来る環境も整ってきた。
この時期から商工会からの紹介で、プロの職人さん達の助言と、実際の現場作業も手伝ってもらえることになりステージが組まれていく。
いよいよ、お爺ちゃんのラストステージが始まろうとしていた。




