わかれ、のこされしもの
庭園の中で、黒髪の青年と、白髪の娘が、お茶会をしている。
優雅にお茶会を楽しむ二人から、離れたところで、庭師達が庭の手入れをしていた。
「そう言えば、『縁』とは、不思議なものね。実に様々で、出会いもだけど、別れなんて特に不思議ね。」
白髪の間から紅の瞳を覗かせて、娘が言った。
「確かに・・・・よくそれを『糸』として例えられるが、上手く例えられていると思う。切られた縁は、まるで糸が切れたみたいに、プツリと切れ、次の縁に繋がる。」
黒髪の青年は、蒼い瞳をカップから目を離し、庭師達の方を見つめる。
一人の庭師は、剪定バサミでバラを手入れをしている。
パチンッ
紅茶の入ったカップを覗きながら
娘は、話す。
「日常でも、共に過ごして、別れ、また会う。次に会うことが出来る、些細なことだけれど、それも、また一つの別れよね。」
庭園の外から、遊び帰りの子供達 が『バイバイ、またね。』という声が賑やかに聞こえてくる。
パチッ パチンッ
「新たな道へ進むため、今いるとこから、遠くに離れる事も。それは、生きての別れだけでなく、死という形での別れもある。」
遠くで、もの寂しげな弔いの鐘の音が鳴り響く。
鐘の音が鳴り始めた頃合いから、生け垣の方で、庭師が刈込バサミで、剪定を始めた。
ザッ ザザッ
「別れは人と人だけの縁に限らないわ。もちろん、生きるものだけでもなく、全てのものに通じる。物や思い出、記憶もまた、そう・・・・。」
紅の瞳をそっと閉じる。
鐘の音とは、別の方向から、微かだが騒がしいサイレンの音が聞こえてくる。・・・・火事のようだ。
騒がしい庭の外の様子にはうってかわって、穏やかな庭で、お茶会を続ける二人と、庭師達。
「様々な形で、終わりは来る。意図的なもの、そうでなくても。」
庭の枯れ木に、ノコギリを持った庭師が行き、枯れ木を切り始めた。
ギッ ギッ ギッ
閉じていた紅の瞳を開け、遠くを見るように、再びカップを覗き。
「別れは容赦ないわ。必要なら、迷いなく、確実に、絶ち切られていく。」
蒼の瞳は、どこかを見るように、ぼんやりと空を見上げ。
「大も小も、形ある、ないも、見える、見えないも、例外なく。等しく、別れは与えられる。」
ドシンッ
先ほど、庭師が切っていた枯れ木が倒れた。
「・・・・そう等しく。その別れを経験したものに、必ず何かを残してね。」
庭師のラジオから、ニュースが流れる。
遠くの小さな国が、大国同士の戦争に巻き込まれ焼け野原になったそうだ。
「だが、別れがもたらした残された何かは種となり、いつかは芽吹く。どんなものであるかは、わからないが・・・・。」
「いいも悪いもなく、その種は花を咲かし、次の種を生み出していく。」
黒髪の青年の言葉を、白髪の娘が続ける。
そして、蒼と紅の瞳は、互いに見つめ、声を合わせる。
「「この世に、意味のない別れも無し。出会いもしかり。
ただ、そこから、何を感じるかは、
己の心しだい。」」
庭園に、柔らかな風が吹く。