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蒼月白兎こばなし集  作者: 蒼月白兎
物語
7/7

わかれ、のこされしもの

庭園の中で、黒髪の青年と、白髪(はくはつ)の娘が、お茶会をしている。


優雅にお茶会を楽しむ二人から、離れたところで、庭師達が庭の手入れをしていた。




「そう言えば、『縁』とは、不思議なものね。実に様々で、出会いもだけど、別れなんて特に不思議ね。」


白髪の間から紅の瞳を覗かせて、娘が言った。


「確かに・・・・よくそれを『糸』として例えられるが、上手く例えられていると思う。切られた縁は、まるで糸が切れたみたいに、プツリと切れ、次の縁に繋がる。」


黒髪の青年は、蒼い瞳をカップから目を離し、庭師達の方を見つめる。


一人の庭師は、剪定バサミでバラを手入れをしている。


パチンッ



紅茶の入ったカップを覗きながら

娘は、話す。


「日常でも、共に過ごして、別れ、また会う。次に会うことが出来る、些細なことだけれど、それも、また一つの別れよね。」


庭園の外から、遊び帰りの子供達 が『バイバイ、またね。』という声が賑やかに聞こえてくる。



パチッ パチンッ


「新たな道へ進むため、今いるとこから、遠くに離れる事も。それは、生きての別れだけでなく、死という形での別れもある。」



遠くで、もの寂しげな弔いの鐘の音が鳴り響く。




鐘の音が鳴り始めた頃合いから、生け垣の方で、庭師が刈込バサミで、剪定を始めた。


ザッ ザザッ




「別れは人と人だけの縁に限らないわ。もちろん、生きるものだけでもなく、全てのものに通じる。物や思い出、記憶もまた、そう・・・・。」


紅の瞳をそっと閉じる。


鐘の音とは、別の方向から、微かだが騒がしいサイレンの音が聞こえてくる。・・・・火事のようだ。



騒がしい庭の外の様子にはうってかわって、穏やかな庭で、お茶会を続ける二人と、庭師達。


「様々な形で、終わりは来る。意図的なもの、そうでなくても。」



庭の枯れ木に、ノコギリを持った庭師が行き、枯れ木を切り始めた。


ギッ ギッ ギッ




閉じていた紅の瞳を開け、遠くを見るように、再びカップを覗き。


「別れは容赦ないわ。必要なら、迷いなく、確実に、絶ち切られていく。」



蒼の瞳は、どこかを見るように、ぼんやりと空を見上げ。


「大も小も、形ある、ないも、見える、見えないも、例外なく。等しく、別れは与えられる。」



ドシンッ


先ほど、庭師が切っていた枯れ木が倒れた。




「・・・・そう等しく。その別れを経験したものに、必ず何かを残してね。」


庭師のラジオから、ニュースが流れる。

遠くの小さな国が、大国同士の戦争に巻き込まれ焼け野原になったそうだ。



「だが、別れがもたらした残された何かは種となり、いつかは芽吹く。どんなものであるかは、わからないが・・・・。」


「いいも悪いもなく、その種は花を咲かし、次の種を生み出していく。」


黒髪の青年の言葉を、白髪の娘が続ける。


そして、蒼と紅の瞳は、互いに見つめ、声を合わせる。



「「この世に、意味のない別れも無し。出会いもしかり。


ただ、そこから、何を感じるかは、

己の心しだい。」」



庭園に、柔らかな風が吹く。



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