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蒼月白兎こばなし集  作者: 蒼月白兎
物語
2/7

主役は君

これは、不思議な紳士と夢の話。


古びた映画館の中で僕はたった一人で、映画を見ていた。


見ていたのは、ある人物が奴隷のような扱いを受けつつも、それに耐え、最後には、自由を掴むというものだった。


主人公が、歯を食いしばりながら、辛い日々を過ごす姿に、誰にもわかってもらえぬ、その辛さがわかるような気がして、僕は泣いていた。


映画が終わり、さぁ帰ろうとすると・・・・・・・・

いつの間にか、一人の紳士がいた。


若いようにも、歳を取っているようにも見える不思議な紳士だった。


彼は、声を上げて笑っていた。清々しいくらいの笑いに、僕は泣くのを忘れて、ぽかんとしていた。




『なんて笑える映画なのだ。久しぶりに大笑いをしたよ。


生きることは確かに苦しいこともあるさ。だが、あのように、まるで世界一苦しんでいるのは、自分だけだと思いながら、生きることとは違うのだ。


きっと彼は、自由になろうとも、世界一不幸な自分を、演じ続けるのだと思うと、おかしくて笑えてくるよ。』


そう言うと、彼は、ぽかんとする僕を見て、尋ねた。



『君はどう思ったかい?』




僕は・・・・と言いかけ、そこで目が覚めた。


僕はなんて言おうとしたんだっけ・・・・・・・・忘れてしまった。でも、今日は、始まってる。




次に、見た夢は、夜空の下で見る野外映画だった。


前の時と同じで、どこを見ても、僕一人だけだった。


そこでしていたのは、ある人の一日。主人公は、朝から機嫌が悪そうで、些細なことでも、人に当たり散らし、喚き散らしていた。それも、朝から晩まで・・・・・・・・



僕は、うんざりし、それから、主人公が助けてもらっても、お礼なぞ言わす、逆に文句を言うそんな態度に対して、ものすごく怒っていた。


エンドロールが、流れ始めると、

あの一人の紳士がいた。


老いた様にも若者のようにも見える紳士は、涙を流して泣いていた。あまりにも、紳士の綺麗な涙に、僕の怒りは静まっていた。


『なんて可哀想なのだ。こんなに悲しい映画は、久しぶりだ。


あのように、人を寄せ付けぬような生き方をするのは、本当に孤独だ。あんな生き方しか知らぬとは悲しすぎる。


きっと他の生き方を教われなかっのだろうね。なんと悲しいことだ。』


紳士はハンカチで涙をふき、僕を見て


『君はどう思ったかい?』



また、そう尋ねられたが、僕は答えることができぬまま、起きてしまった。


ぐらぐらする心を感じながらも、僕はその日を始めた。




三度目の映画は、ホームシアターだった。


映画は、平和な国の幸せな日々を写していた。ずっとずっと終わるまで、悲しいことも、辛いことも、彼らは幸せそうに笑い、日々を過ごしていた。


幸せな気分に浸りながら、僕はそれを眺めていた。




画面が消え、ライトが灯る。そして、老いた様にも若者のようにも見える紳士がいた。


彼は、穏やかそうな外見からは想像出来ない、怒りの顔で消えた画面を見ていた。その姿に、僕の幸せな気分など、震えてどこかにいってしまった。




怒りに震えた声で、紳士は語った。


『なんてつらい事だ。悲しい別れや、うまく行かぬ時も、あるだろうに、そんな時でも、あの国に生きる彼らは、すべて笑顔で過ごさねばならない。


確かに、幸せばかりの国は素晴らしい。けれども、そこに泣く、怒りなどの感情を捨て去ってしまえば、感情のない人形と同じではないか。』


紳士は、真剣な顔で僕を見、問おた。


『君はどう思ったかい?』


これまた、僕は応える暇などなかった。朝が来てしまったからだ。


くすぶる心を抱える僕などお構いなく、今日が動き始めた。




そして、今日も夢を見る。


オペラでも、上演しそうな豪華な劇場に、僕はいた。


幕が上がる、劇の始まりだ。




舞台の上で演じる主役は、僕。


劇は、僕のある一日。朝、起きて、ご飯を食べ、支度して仕事へ出かける。


いつもの仕事をして、些細なことでミスをし、上司に怒られ、落ち込んだ。


困ってた人を助けたら、ありがとうと言われて、嬉しくなって、元気が出てきたり。


かと思いきや、先輩にトゲのある言い方で注意されて、ひどく腹を立てた。


帰り道、夕暮れから夜に変わる瞬間があまりにも綺麗で、目を輝かせて、見ていた。


いいも悪いもごちゃごちゃな、そんな一日。




今なら、紳士の問いに答えられそうだ。


いろんな人がいて、いろんな世界があって、いろんな考え方があって、それから、僕がいる。


その時、その時で、同じものでも感じることも違うけれども、それでもいいんだ。だって、その時の自分と、今の自分は同じでも、違うんだから。



夕暮れの場面に差し掛かり、僕は、セリフであり、紳士への答えを言った。


『あぁ、こんな世界があったんだ。』





そろそろ、幕が降りる。


降りる瞬間、観客席から、盛大な拍手とともに、あの紳士の声が聞こえた。


『素晴らしい!!なんて素敵な劇だ。泣き笑い、時に怒り、そして感動する。これこそ、生きているという事だ。


いろんな世界が、君を待っている。さぁ、遠慮はいらぬよ。


しっかり、その道を歩み給え。』



僕は、きっと満面の笑みの紳士の言葉を聞きながら、僕の世界へと目覚めて行った。



さぁ、今日は、何が待っているんだろう・・・・

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