女神様と戦乙女の勝負
水車の回る音がする。木の擦れる音、歯車の音、水の跳ねる音、そして女性のうめき声。
そろそろ1万回に達するであろう回転。
ずぶ濡れになりながら策をめぐらす女神。
そろそろ終わりね。それにしても1万回転はさすがにきついわ。途中、イケない世界に目覚めるところだったもの。本当にあの無駄巨乳は容赦がないわ。ちょっとくらいまけてくれてもいいのに!ビクトンもビクトンよ。こんな無茶な要求しちゃってもう酷いんだから。こんな屈折した愛情表現じゃなくてストレートな表現の方が私はうれしいわ。
「女神、これで1万回です。これに懲りたら真面目に仕事をしてください。」
やっと、終わりね。私は真面目に仕事をしているのに何が不満なのかしら?
『まったく何度も言うようだけど真面目に仕事をしているわ。あの子を見守るのは立派な仕事ですもの。』
これだけは譲れない私の楽しいお仕事。
「私も何度も言うようですがそれはい事とはいいません。他の神々を見習ってください。」
うーん、このままだといつもとかわらず平行線なのよね。
もの想いに耽る女神。
―――――!!
いいこと思いついちゃった!あるじゃない、無駄巨乳をぎゃふんと言わせることができて、あの子を愛でることができ今後仕事をサボっても怒られない方法が!
『いいわ。なら勝負をしましょう!あなたが勝ったらあなたのいう仕事を真面目にこなすわ。』
不敵に笑いながら自信を持ってそう告げる。
「勝負ですか…。ちなみにどんな勝負でしょう?」
怪訝に思いながらも戦乙女も思案する。なにせ勝てばあの女神が真面目に仕事をするというのだからよほどの勝負が待っているのだろうと。
『簡単よ。女として魅力で勝負をしましょう。判定はビクトンにお願いするわ。』
なるほど、美を司るものとしての自信からきているのでしょうが甘いですね。判定がビクトンである以上この勝負私の勝ちなのですよ。ですがそうはいっても油断は禁物ですね。具体的な内容を確認しないけません。
「具体的にはどのようにするおつもりですか?」
自身の勝ちを確信しつつ努めて冷静に女神にそう問いかける。
『授乳、子守唄、そして抱かれ心地よ。ビクトンはまだ幼いわ。ゆえにそれに合わせての勝負内容よ。まぁ一度、授乳をしてみたかったっていうのもあるけどね。授乳は当然お乳の味も含めるわ。子守唄は安らぎはもちろん、歌の上手さも審査対象よ。最後に抱かれ心地ね。ビクトンが大きければ抱き心地でもよかったのだけれど今は無理だから抱っこされた時の抱かれ心地とあとは絵面も審査してもらうわ。抱かれ心地がいくら良くても絵面がダメなんて持ってのほかでしょ?神らしく神々しく慈愛に満ちた絵面でなければならないと思うのよ。』
戦乙女はどう出るかしら?ふふ、私の勝ちは決まってるのよ。あの無駄巨乳で美味しいお乳が出せるはずがないし、あの大きさから考えて大味とそう決まってるの。それに戦仕事一筋のあの女が歌なんて歌えるはずがないわ。良いとこ雄たけびが精々ね。ビクトンに怯えられギャン泣きされればいいわ。そして、戦うものであるあの子が慈愛に満ちた感じを醸し出すなんて無理よ。ましてや抱かれ心地なんて悪いに決まってるわ。馬鹿みたいに力もちなんですもの硬くて抱かれたもんじゃないわ。
『どう?簡単でしょ?』
ずぶ濡れになりながらもいい笑顔でそう問いかける。ちなみにいまだ括りつけられているため若干上からの目線で少し滑稽だ。
「いいでしょう。その勝負受けましょう。私が勝ったら必ず約束は守っていただきます。」
女神よ。あなたは大きな勘違いをしている。私はあなたとは違い清く正しい生活をしている。食生活では完璧な栄養バランスを考えそれを実施している。間違いなく私のお乳は美味しい。それにあなたは無駄巨乳というが魅力とは個性ですよ女神。あなたは確かに美しい。しかしそれは完璧なバランスの上で成り立っているのです。あなたの普段の態度を知っているビクトンから見ればそれはもう結果など言うまでもない。それに比べ私はこの圧倒的な個性。大きいだけではなく形、柔らかさ、手触り抜群です!神界で一番と言っても過言ではない。食事とは味だけではないのですよ。舌触りもそして量も重要です。きめ細やかなやわ肌、そして重量のある胸からはかなりの量が期待できるはずです。ただ歌はちょっと苦手ですがいくつかレパートリーはあるのです。最後の抱かれ心地も余裕で私の勝ちです。この大きな胸の柔らかさ、そして幾千幾万の戦を潜り抜けてきましたが無傷なやわ肌、無駄な脂肪などない引き締まった体に神界で唯一12の銀翼。これら圧倒的なまでの魅力を駆使すれば神々しさましてや慈愛など容易い。もともと私は慈愛に充ち溢れている!そして最も重要なのはビクトンは私に借りがある。そう“無駄巨乳様”と呼んだことへの借りが。つまりどう転んでも私の勝利は揺るがないのです。
『よし!では準備期間を設けてそのあとに正々堂々と勝負をしましょう。それまで精々練習をしておくことですね。』
「女神、お互いにいい勝負をしましょう。それでは私は仕事が残っているのでこれで失礼いたします。」
そう言って羽ばたき何処かへ向かう戦乙女。
『さて、私も準備をって、待ちなさい!戦乙女!縄を解いてから行きなさいよ!』
水車に括り付けられたままの女神。あわてて叫ぶが声はもう届かない。
水車は今日も元気に回る。
ギィギィと木の歯車が擦れる音、パシャパシャ水の跳ねる音、女神の叫び。
今日も世界は平和である。
『お水が冷たいわ。今度から水車周りの水はぬるま湯にしようかしら。それなら長風呂的な感じで楽しいでしょうし。予算余ってると嬉しいのだけれど。』




