歓迎の準備
なんか、昨日からうちの両親の様子がおかしい。
パパはいつも以上にボロボロで泥だらけ。時折、パパに任せておけ。とか言ってるし、ママはずっと壁に何か書いてはひたすら多様の剣を飾ってる。その眼は本当に真剣で思い詰めているのがわかるほどだ。
これは本当におかしい。またあのろくでもない女神が原因な気がする…。しょうがない、確認しますか…。
“こちらビクトン。女神様ご相談があるのですが、今よろしいでしょうか?”
『どうしたの?ビクトン?また問題でもあったのかしら?』
またって、大抵はあなたが原因だった気がするよ。そんなこと言ってもしょうがないし、今は兎にも角にも両親のことだ。
“実は両親の事なのです。昨日から様子がおかしく母上は壁に何かを書き綴り、多様の剣をとても真剣に飾りだしたのです。そして父上はいつも以上にボロボロで泥だらけになって帰ってくるのです。何か思い当たる節はございますか?”
『なるほど!簡単よビクトン。それは歓迎準備ね!当然よね。この美の女神たる私が行くのですから歓迎の準備に他ならないわ!ふふっ、壁に芸術を施しているのよ。それにしても剣とは奇抜ね。いったいどの様なものが書かれているのかとても楽しみだわ!そして御父上は間違いなく多様の花を探しているのよ!だから泥だらけなのね!素敵だわ!』
立ち上がりながら両手を広げそして自身を抱くようにしながら、喜びからくる震えを抑えるようにしながら確固たる自信をもって宣言する。
「それは間違いですね。女神よ。」
美しい銀翼を広げながら降り立ち戦乙女がばっさりと切り捨てる。
「こんにちは、ビクトン。先ほどのお話ですが、女神のためではなく、間違いなく私のためでしょう。なぜなら私は戦乙女です。剣とは武器です。つまり私の歓迎のために多種多様の剣を用意しているのでしょう。そして御父上は私のために狩りをしているのです。泥だらけでボロボロなのは戦っているからです。当然ですね。私の勝利は揺るがないのですから、祝勝会用のお肉を取りに行っているのです。勝利とは戦う前に既に決まっているのです。」
大きな胸を張りながら自身の勝利を宣言する戦乙女。それに対し歓喜の震えを怒りの震えに変えた女神が即座に否定をする。
『ふっ、それこそありえないわ!私の勝利と決まっているもの。あなたは敗北者よ。ゆえに貴方はお肉ではなく敗北を味わうのよ。』
「それこそありえませんね。女神よ。勝利とは、戦とは常に備えた準備を怠らなかったものにこそ与えられるのです。決して仕事をないがしろにするものが得れるものではないのですよ。」
『忘れているのかしら?これでも私は高位神よ。あなたとは格が違うのよ、戦乙女?』
「女神よ。あなたこそ忘れているのではないでしょうか?私の役目、そして私の実績を。実績が証明しているのですよ。」
互いににらみ合い譲らない。険悪な空気と今にも殺しあいそうな雰囲気があたりを包む。
“あ、あの…、そろそろ切りますね。えっと、ありがとうございました。”
とりあえず一声かけてから連絡を切る。
怖かった…。でも、参考になったぞ。そうだよね神様が来るんだから歓迎の準備は必要だよね。そう考えればあんなにも真剣に取り組んでいるのにも納得がいくよ!不安もなくなったしお昼寝でもしようかなー。
のんきな親の心子知らずなビクトン。
勝負の日まで後4日。