第15話 悪魔の医術 その2
和真と鬼の間に一本の巨大な刀が地面に深く突き刺さっていた。
(なんなんだ。一体この刀は?!目に見えるぐらいの霊気が立ち込めて陽炎を見せるなんて。物凄い力だぜ)
和真が使った武神流”斬命”の影響で、体はボロボロ、足は痺れたように力が入らず立つことも困難な状況だった。
そんな時に目の前に降ってきた巨大な一本の刀から受ける影響かはわからないが、霊気を見ていると少し足に少し力が入るようになった。
(あぁ。暖かい。なんだこの感じ。戦いの最中で危機が迫っていると言うのに何か優しく包まれるように安心感が湧いてくる)
和真は無意識に体が刀に引き寄せられるように、少しずつ足を地面にこすりつけるようにして体を移動させながら刀に近づいていく。
鬼が和真に刀を取らせないと動きを開始し、刀に近づいた途端、急に苦しみ始める。
「ぎ、ぎざまーーーー。なん&%%$ば!」
鬼は瘴気で体を回復させていたが刀の霊気が鬼の瘴気に影響を与えたのか、回復していた部分が急に和真に切られた部分から泡が吹き出し、泡を必死で鬼は両手ですくい上げる。
「ゆ、ゆるばばばばば%$#」
鬼は動ける状態ではなくなり悔しそうに叫ぶ。
和真は疲れきった状態で鬼が何を言っているか理解できなかったが、焦っているのは伝わってくる。
ようやく刀を手にした和真の体が発光し、意識が宙に浮いた感覚に襲われる。
「ここは?」
目の前に広がる白い世界。
和真はそんな世界を見ているのに恐怖より安らぎを感じていた。
問いかけに答えたのは性別が判別しづらい声だった。
『初めまして。島津左近の従者 宮平和真でよろしいか?』
「あぁ。そうだがあんたは誰なんだ?姿も見せないとなると神か何かそういった存在なのか?」
『いやいや。人間だよ。ただ訳が合って顔と名前を出す事が出来ないのだ』
確かに相手の声は聞こえるが、耳に届くものではなくどちらかといえば和真の脳に直接伝えてくるような感覚だった。
「そうか。あんたがあの刀の持ち主か?」
『もうわかっていると思うが”それ”であの鬼を退治してほしい。ただし”それ”は君には強すぎる力で右腕一本を頂く事になるかもしれないがよろしいか?』
「右腕一本?あの化物を倒すのにそんな安い買い物でいいいのか?俺はてっきり命を差し出せと言われると思ったぜ」
本当にこのまま、何もせずただ鬼に食われるのを待つことを考えれば右腕の一本で生き延びる事ができ、しかもあの鬼を倒せるなら安いものだと和真は思っていた。
『では契約成立だ。本来なら陰陽術 叢雲の契約を行わなければならないが、あいにく男と”口吸う”をする趣味はないんで、仮契約ということで君が使う力の半分を肩代わりする事で契約成立という事にしよう。もしかすれば右腕もなくさなくて済むかもしれない』
「どういうことだ?」
『済まないが説明している時間がもうなくなった。ようはあの鬼を”消滅”させてくれればいい。では頼んだよ』
「・・・。わかった」
ろくな説明もなく、ほぼ一方的に話が進められ和真が気がつくと白い世界ではなく、目の前に鬼のいる状況であの大きな刀を手にしていた。
それと、さっきまでボロボロだった体が嘘のように軽く、美雲と一緒に作り出した甲冑とは別の甲冑を着ていた。
美雲との叢雲で作り出した甲冑の形状は狼を意識させた物だが、今身につけてる甲冑は、大陸の絵巻に出てくる大虎を彷彿とさせる物だった。
とても力強く、甲冑から霊気が溢れ出ており、刀と同じく霊気が陽炎のように目に見えた。
ただ、本能的にこの刀を持ち続ける事は危険だと感じており、和真はすぐにでも鬼に一撃を加える必要があった。
(なんだろうな。俺の気とこの刀から感じる霊気の波長が、あの女確か名前は・・・。そういえば鬼が何か言ってたようだがちゃんと聞いてなかったわ。まぁそれは置いておいて波長があの女より同調している。この刀を寄越したのは多分男だし。俺も男と”口吸う”なんてまっぴらごめんだが一度会ってみたいかもな)
刀から発せられる霊気との同調率が高いと、その分力が大きくなるのだが、混ざり合っていく霊気と己の気の混ざり合っていく速度も非常に高くなり、気を大量に消費する事になる。
それを刀を持った時点で、和真は本能で感じ取っていた。
「しかし、これなら絶対いける。あの糞野郎(鬼)を”消滅”させられるぜ」
和真が考えた不死身のような鬼を退治する方法は鬼を完全に”消滅”させる事だった。
鬼を肉片も残さず完全に消滅させれば、もう2度と蘇ってくる事はないだろうと、和真は自分の身長の2倍ほどある刀を構える事が出来ずとりあえず振り切れるようにするため肩に担ぐ。
ようやく体から泡が消え、元に戻った鬼は浅い呼吸を繰り返している。
「ぎざまーーーー!!一体なにをじだーーー?!」
大分人間らしい声で鬼が叫ぶ。
未知の体験にかなり怒っている様子だった。
和真としてはそんな事正直知った事ではないと、声には出さず心の中でつぶやく。
刀を持つ本人にしてみても推測で状況を把握しているだけで本当の所はわからない。
時間も限られており、和真は意識を集中させる為に目を閉じる。
本来、鬼を前にやるような行動ではないが、集中力を高めて一撃にかけないとこちらがやられてしまう可能性があった。
(大丈夫。やれる。目を閉じていても野郎は感じる。この一撃に意識を集中するんだ。あいつを消滅させる事だけに意識を向けろ)
和真は心の中で、つぶやきながら精神を集中させていく。
そんな和真に警戒しているのか、鬼も動くに動けず両手を垂れ下げて身構える事しか出来ない。
意識を集中させればさせるほどに力が湧いてくるが、どんどん肩の辺りから重くなっていき今では体全体が地面に引っ張られるほどに体が重い。
これではあの鬼に近づく事も出来ないかもしれないが、一撃が当たればどうにかなると和真は目を開け鬼に向かって大地を一歩蹴り出す。
(な、なんだこれ?)
物凄く周りの景色が移り変わるのが遅い。
肉体的感覚では和真が鈍重になり走れていない事を意味していたのだが、実際はそうではなくあまりの速さに目に映る景色の移り変わりがなく、自分の感覚がこの速さについて来れていないだけだった。
(体が千切れそうだ!)
肉体が悲鳴を上げている事で自分の感覚が、刀の力に追いついていない事に気がつく。
筋肉が引きちぎれそうな感覚に襲われ想定以上の力を使っているらしく、本人にも認知出来ないような”物凄い速度”で駆け出した事で襲いかかる重力圧に体が耐えれず加重された方向に筋肉が移動し断裂する寸前になっていた。
(右腕をなくすとはこの事だったのか。生半可な気持ちじゃあ俺自身がこの刀の力に負けて腕が吹っ飛ぶわけだな。だがなこの宮平和真をなめるなよーー!)
まだ鬼とは少し距離があったが、肩に担いている刀を振りかぶる準備に入る。
鬼がとてもゆっくり逃げ出そうと体を後ろに向けようとしているのが見える。
逃げ出そうと必死に後ろを振り返る直前に、和真の刀が振り下ろされ、轟音と共に霊気を帯びた斬撃波が地面を削りながら鬼に直撃する。
鬼がいた辺りは直撃した轟音と共に辺りの確認が出来ないほどの砂が宙に巻き上がり、状況の確認が出来ない。
(確かに直撃した。手応えはあった。だがなんだこの嫌な感じはまだ奴は生きているのか?)
和真の中で、確かな手応えと今度こそ消滅させたと確信はあったが、今までの経緯から嫌な予感が頭をよぎる。
それから、何事もなかったように風が砂煙を運んでいくと、地面には体がなくなり、頭半分だけの鬼が転がっていた。
「くそ、本当か。仕留め損なった・・・。しぶといやつだぜ」
和真は大きな刀地面に突き刺し、杖の代わりに刀にしがみつき体を預けて立っているのがようやくだった。
もう一歩も動く事ができず、筋肉痛のような痛みが全身を襲う。
少しでも筋肉を動かそうものなら激痛が襲ってくる。
和真はそんな状況だったが、目の前の鬼の頭からいつものような、体を再生させていく禍々しい妖気は感じられなかった。
口も半分なくなっているにも関わらず鬼が最後に恨めしそうに言葉を吐く。
「ふん。こんがい・・・は。ぎざま・・・の・がちだ。だが・・ま・だ・」
最後まで言い切る前に鬼の顔が、炭の残りかすのように灰になり、青い炎を上げて燃え終わると何も残っていなかった。
それを見届けてようやく和真の緊張が解ける。
「あーーーーまじで今回はしんどかったぜ」
その場に仰向けで和真は倒れ込み、砂が体につく鬱陶しさより今は体を休めたかった。
和真が倒れ込むと同時に大きな刀は光の粒子となり天へと帰っていく。
そこには小太刀が一本地面に突き刺さり残っているだけだった。
それを見て和真は刀に手を伸ばそうとするが筋肉が悲鳴を上げて触る事が出来ない。
「いでーーーーー体中が悲鳴を上げてるぜ!!」
横になった時点で至る所の筋肉を使ったせいで、筋疲労が極限に達したらしく嫌な音が体中から聞こえる。
(消滅させなくても何とか殺せる事がわかった。これから検証してみねーとわからんがあの鬼に対して対策はあるってこった。しかし、あの鬼最後に何か言いかけたな。嫌な予感がする。左近・・・無事でいろよ)
体全体の筋肉が痙攣を起こし、動けなくなった和真だったが主の左近を早く見つけて安否の確認をしたかった。
しかし和真の祈りも虚しく、左近に危機が迫ってた。
手術を初めて順調に術式を進めて約30分。
物凄い手際の良さと左近の経験、知識の高さが冴え渡り最速で手術を進めていく。
だがあと少しとなった所で異変が起こった。
「あとは、開閉した局部を縫い合わせて終わりです。ここまで来たら後はかんじゃ・・・の」
左近は自分の目を疑った。
和真が鬼を倒す少し前から患者の容態が急変し、胸の辺りから徐々に体の一部分が紫色になっていくのである。
「左近これは?」
兄、右近からの質問に目を細めて、左近は自分の記憶にあること似た症状を脳内検索を行う。
「鬼の芽が急激に体のどこかで成長をしています。しかし初期診断では鬼の芽がある場所なんてなかったはずです。一体どこから?」
そう左近の言うとおり、左近が初期診断を誤ったわけではなかった。
左近の初期診断は”完璧”に行われており、目の前で起こるような現象は起こらないはずだった。
しかし、現実に目の前で徐々に患者の容態が変化している。
「とにかく、まずはどこに鬼の芽が広がり初めたのかを確認しなけ・・・・」
左近の体が左に傾きそのまま倒れる。
「左近!」
右近が左近を抱き上げの状態を確かめる。
心拍数が上がってはいるが、敵からの攻撃などではなくかなりの身体疲労が左近の意識を刈り取ろうとしていた。
顔も赤く熱も高い。
意識が朦朧とする中で、何かをつぶやいている。
右近は左近の口に耳を近づけながら、何を言っているのかを確認する。
「ぜったいたすける。ぼくはだれもころしはしない・・」
医者は助けるものだ。
だが左近がつぶやいたのは”殺しはしない”という言葉だった。
死なせはしないだったらわかる。
殺しは、殺意の意思を持った者がやる事だ。
右近は左近がそうつぶやいた意味を考えた。
(左近。お前は・・・)
双子ではないが、それ以上に繋がるような感覚を持つ自分にはわかると右近は左近の気持ちを感じ取る事が出来た。
常に左近は患者と戦ってる。
いや、患者に取り付いた病魔と戦っているのだと気がつく。
左近は”病魔を殺す事”が退魔医術士の役割だと思っているらしい。
医者とは違う存在。
病魔と戦って勝つ事が、患者を救う方法。
病魔に自分が負ければ、患者を殺してしまう。
つまり命を救うには負けるわけには絶対行けない戦いを毎回左近は行ってきたのだ。
「鬼に負けても最悪逃げれる陰陽師達とは、気概が違うな。誇らしい弟を持てて俺は嬉しく思う。ならば左近俺の体を使え!」
右近が右手で呪符を持つと真言を唱え、左近の唇に自分の唇を押し当てた。
更新が遅くなって申し訳ありません。




