第8話「卒業生送迎会」
淵上がもどってきたことで、演劇部は活気づいた。
さっそく、卒業生送迎会にむけての準備がすすめられた。
淵上は、新しい台本をたった一日で書きおろしてきた。
題名は『百獣』。今回はなんと無言劇だ。
話の舞台はサバンナ。そこに生息する動物達の弱肉強食のドラマを、それぞれの動物の扮装をした役者達が、台詞無しの動きだけで表現するというものだった。
これなら台詞を覚える必要がないぶん、練習時間を短くすることができるので、卒業生送迎会に間に合うかもしれない。しかし動きだけでドラマを作りだすには、相当な演技力が必要とされる。人間じゃないものを完全に演じるのは、プロの役者でも難しいのだ。
しかし、そんなことにたじろぐような人間は、演劇部にはいなかった。初めてやる無言劇というスタイルに好奇心と興奮をかきたてられ、全員が顔を上気させていた。
すぐさま配役が決められて、練習がはじまった。
屋上にひびく部員達の大声はいつも以上に気合いがはいっており、下校する生徒が思わずふりかえるほどだった。
役者達が屋上で練習している間、洋平と藤沢は、部室で舞台設計について話しあった。藤沢は言った。
「今回はさすがに時間がないけん、図案はわたしが書くわ。麻見君は次の機会にがんばって」
「ちょっと待ってくださいよ」洋平はあわてた。「おれに描かせてくださいよ」
藤沢はきびしくにらんできた。
「描けるの?」
「描けます」
洋平は力強くうなずいた。
「時間ないのはわかっとるよね。いつまでに描けるの?」
「明日までに」
藤沢はますますきびしくにらんできた。
「ほんまやね?」ゆっくりとつぶやく。「描けんかったなんてことになったら、ぶっ殺すけんね」
「はい」
家に帰ると、洋平は夕飯を食べずに机にむかった。図案はすぐに描くことができた。淵上の台本を読んだとき、ある舞台の風景が頭に浮かんでいた。忘れないうちに、そのイメージを図案に描きうつしていった。
次の日の放課後、部室で洋平の図案を見た藤沢は、しばらくの間だまりこんだ。そして静かにつぶやいた。
「なるほどね。よう、こんなん思いついたわ。うん、おもしろい」
「いやあ」
洋平の頬がゆるむ。
「でも、これを作るのに、どれくらい時間がかかると思う?本番に間に合うかな?」
痛いところをつかれて、頬のゆるみが消えた。
「間に合わない、ですかね?」
「常識で考えたらね」
「そうですか。じゃあ、だめ、ですか」
描きたいものを描くことに夢中になったあまりに、本番までの日数を計算しなかったことを恥じて、洋平は拳を握りしめた。
「だめとは言っとらんよ」
「え?」
藤沢は、図案をクリップでまとめながら言った。
「常識で考えて無理なら、非常識で考えるんよ」洋平をにらむ。「今日から、わたし達の睡眠時間は一日三時間。残りの学校の授業以外の時間は、君の図案をもとにして、大道具、小道具、衣装を製作にあてる。ええね?」
数秒ぼうぜんとしてから、洋平は笑って、はいっと返事をした。
さっそく作業を開始した。
洋平は大道具と舞台セットを、藤沢は小道具と衣装を作ることにした。
「それじゃあ、行くでえ」
藤沢は叫んだ。
「押忍」
洋平も叫んだ。
ふたりは材料の準備のために、いきおいよく部室を飛びだした。
「明日やな」
「明日やね」
昼休み、洋平はミツキといっしょに学校の中庭で弁当を食べていた。
卒業生送迎会は、翌日までにせまっていた。ぼんやりと花壇を見つめながら、洋平は心の中で、いままでの自分の頑張り様をほめたたえた。
大道具と舞台セットはどうにか完成した。昨日、他の部員達に手伝ってもらって、体育館の舞台裏にそれを運びこんでおいた。
製作を始めてから十五日間、藤沢に言われたとおり、一日三時間睡眠の生活をつづけた。
死ぬかと思った。
三日で目の下にくっきりと隈ができた。五日で時々まっすぐに歩けなくなった。十日で耳鳴りがするようになり、完成した日には、眠気のあまりに、食べ物をうまく噛めなくなっており、三食流動食ですませた。
毎日コーヒーを入れた水筒を持ち歩き、意識が飛びそうになると、あわててそれを摂取した。それでも眠りそうになった時は、友人や家族に頼んでぶん殴ってもらった。
藤沢も頑張った。彼女も、自宅で小道具や衣装をどうにか完成させていた。しかし、体調を崩してしまい、今日は学校を休んでいた。明日の朝、その小道具と衣装を学校へ運ぶことになっていた。
物思いにふける洋平の横で、ミツキは台本を読みながら弁当を食べていた。今回彼女には、キリンの役があたえられていた。毎日必死でキリンの動きを練習したおかげで、弁当を食べる口の動きも、どことなくキリンに似るようになっていた。
「明日やな」
「明日やね」
ふたりはまたそうつぶやくと、晴れわたる空を見上げた。
その日の夜、洋平の家に藤沢から電話があった。
「ああ、ごめんなさい」
受話器の向こうで、藤沢はいきなり泣きそうな声をあげた。
「どうしたんですか?」
「麻見君、いまからわたしの家に来てくれん?」
切羽詰まった口調だ。
「何かあったんですか?」
「うちの飼い犬が、衣装の上で遊んで、衣装をぼろぼろにしてしもたんよ」
「ええ?」
洋平が大声をだすと、藤沢はまた、ごめんなさい、と言ってつづけた。
「すぐ直すつもりなんやけど、半分くらいだめになってて、わたしひとりの手じゃあ、明日に間に合いそうにないんよ。それで」
「わかりました。すぐ行きます」
受話器を置くと、すぐさま家を出て、藤沢の家に向かった。
藤沢の家は材木業を営んでいた。住居の隣に大きな作業場があり、昼間はいつも、木を切ったり削ったりする音がやかましく響いている。周囲の道路には、作業場から飛びだした木の粉がたくさんちらばっている。
藤沢の家に着き、玄関の呼び鈴を鳴らすと、パジャマ姿の藤沢が出てきた。まだ体調が回復していないらしく、顔色が悪い。
中に入ると、廊下に一匹の犬が寝そべっていた。大きな黒い犬だった。
「この犬がやったんですか?」
「うん」
犬はふたりの視線など気にせずに、あくびをもらしていた。
藤沢に案内されて、洋平は和室に入った。そこのテーブルには、二台のミシンが用意されていた。畳の上に、破れた衣装がならべられている。
衣装の破損具合はかなりひどかった。中には一から作りなおさないといけないものもいくつかあった。ふたりはすぐに作業にとりかかった。
破損が大きいものから順番に、ていねいに修繕してゆく。ふたり共無言で手を動かした。ふたつのミシンの音だけが、部屋の空気をゆらした。
午後十時を過ぎた頃、藤沢がとつぜん激しくせきこみだした。
「大丈夫ですか?」
洋平はミシンを止めた。藤沢は、目に涙をためながらうなずいた。全然大丈夫そうではなかった。
「もう休んだほうがいいですよ。あとはおれがやりますから」
「でも」またしばらくせきこんでから、弱々しくうなずいた。「わかった。悪いけど、そうさせてもらうわ」
藤沢はおやすみ、とつぶやくと、和室から出ていった。洋平は、ふたたびミシンを動かしはじめた。
午前二時頃、どうにか全てを直すことができた。ミシンの電源を切ると、洋平はため息をついて畳に寝転がった。天井をぼんやりと見つめているうちに、たまっていた眠気がおそってくる。
そのとき襖がひらいて、お盆にホットミルクをのせた藤沢がはいってきた。洋平は、あわてて起きあがった。
「まだ寝てなかったんですか」
「昼間たくさん寝とったけん、目がさえちゃって」
藤沢は湯気のたつカップをテーブルの上に置いた。洋平は礼を言って、それを一口飲んだ。
「衣装、もう全部直してくれたん?」
「ええ、なんとか」
「よかった」深いため息をつく。「ありがとう。ほんまにありがとう」
「いえ」
「あとは朝になったら、衣装を学校に持っていくだけやね。麻見君、今日はもう帰る?」
「いえ、ここにいて、朝、衣装を運ぶんを手伝いますよ。いいですか?」
「うん、そうしてくれると、助かる。麻見君、眠たいやろ?寝るなら布団敷くけど」
「いえ、寝たらもう起きられそうにないんで、このまま朝まで起きてます」
「そう。じゃあ、わたしも付き合うわ」
藤沢は、洋平の隣に座った。
「体の調子はいいんですか?」
「うん、だいぶ楽になった」
「明日の発表、うまくいくといいですね」
「せやね」
ミシンを片付けたあと、ふたりはしばらくの間、他愛のない話をつづけた。
ホットミルクを飲み終えたあと、話がふと途切れた。なぜか気まずくなり、ふたりは視線をそらしあった。まだ外は暗いのに、雀の鳴き声が聞こえてきた。時計を見ると、もう朝の四時だった。
何か言おうとして口をひらいたとき、唐突に藤沢が、洋平の手の甲をなではじめた。汗のにじんだ感触が、指先が、手首のあたりまでをゆっくりとわたってゆく。
「何ですか?」
いぶかしげに聞いたが、藤沢はこちらを見つめたまま、無言でなでつづけた。
「あの、何やってるんですか?」
もう一度聞くと、とまどうような返事がかえってきた。
「誘惑してる、つもりなんやけど」
「へ?」
まぬけな声が口からもれた。
「あれ、なんかちがうかな?」
「いや、誘惑って、え?」
「そっか、もっとすごいことせんと、誘惑にはならんのかな?」
そう言って、藤沢はパジャマの前ボタンを外そうとした。洋平はそれをあわてて止めた。
「ちょっと待ってくださいよ。なんで誘惑なんかするんですか?」
藤沢は唇をとがらせた。
「そんなん、理由なんかひとつしかないやん」
ふと、藤沢の寝間着のしわに目がいった。そのしわから身体の線を思いうかべて、彼女が女性であることを意識した。そして、ようやくわかった。
「うそでしょう」
「うそやない」
「だめですよ。おれ、川本と付き合ってるんですから」
洋平は身をひいた。
「いやよ」
「いやって言われても」
「わかっとるけど、いやよ。納得しとうない」
子供みたいにすねた顔をして、洋平の手を強くにぎってきた。ふりはらおうとすると、すごい力をこめてくる。
「痛て、だめ、ですよ」
「川本さんと付き合うのやめて、わたしにのりかえてや」
「だめなんです」
「そこをなんとか」
「すいません、だめなんです」
声を大きくすると、藤沢はうつむいて黙りこんだ。
居心地の悪い雰囲気がふたりを包む。洋平がもう一言つけたそうとすると、藤沢は手をはなして立ち上がった。そして、
「わたし、やっぱり寝るね」
とつぶやいて部屋から出ていった。
そのあと時間がたつにつれて、洋平は告白されたという事実にだんだんと興奮してきた。藤沢の手のやわらかさが、頭を支配する。彼女が着ていたパジャマのしわから、裸の姿を思いうかべる。
あほ、何考えとんで、おれは。
頭をたたいて寝転がった。わきあがってくる妄想を必死で打ち消そうとしているうちに、だんだんと瞼が重くなり、洋平は眠ってしまった。
朝、目覚めると同時に、洋平は青ざめた。
腕時計を見ると、午前十時を過ぎていた。本番まであと一時間しかない。
あわてて藤沢を起こしにいった。藤沢も、目覚めると同時に青ざめた。
ふたりは玄関前に置いてあるリヤカーに、衣装を入れた段ボール箱を急いで積んだ。
「藤沢先輩はまだ体調悪いみたいですから、家で休んでてください。これはおれが運びますから」
「間に合うかな」
「走ればぎりぎりでなんとか」
洋平はリヤカーをひいて駆け出した。車輪が古いせいで、走りにくくてしょうがなかったが、それでも足に力をこめて、必死で駆けつづけた。
ところが二十分くらい走ったところで車輪のタイヤがパンクしてしまい、リヤカーは歩道の真ん中で動かなくなった。ひきずりながら進もうとしてみたが、それでは本番に間に合いそうになかった。
「勘弁してくれや」
洋平は頭をかかえてその場にしゃがみこんだ。
今回の発表は、部員全員が三田村の死から立ち直ろうと努力して準備をした大切なものなのだ。絶対に成功させないといけない。
洋平は寝坊した自分を心の中ではげしく責めた。
そのとき、道路の先から軽トラックが走ってきた。
洋平は、あせる頭である方法を思いつき、それをすぐに実行にうつした。
軽トラックの前に飛びだして、両手を広げて叫んだ。
「乗せえ」
にぶい音と共に、洋平の体は後ろにふっとんだ。
「衣装はまだか?」
校門の前に立った仁さんが、いらだった声をあげた。まわりにいる他の部員達は、不安げに顔を見合わせている。
本番まであと二十分をきっていた。
いま体育館ではブラスバンド部が演奏をしており、にぎやかな曲が校門まで届いてくる。その明るいメロディを聞いて、部員達の顔にますますあせりが浮かぶ。
やがて音楽がやみ、拍手が鳴りひびいた。
ブラスバンド部の演奏が、予定よりも早く終わってしまったようだ。
部員達はざわめいた。
「嘘やろ?なんでこんなに早よ終わるんで」
「とりあえず、舞台装置の組み立てだけでもやっとこうや」
「あかんわ。麻見がおらんと、どういう風に設置すればいいかわからん」
「マジけ?」
「くそ、どうすればええんで」
そのとき、一台の軽トラックが走ってきて、部員達の前に止まった。
その軽トラックの窓から、金髪の若い男が顔を出して、面倒臭そうに仁さんに話しかけた。
「なあ、おまえら、ちょっとこの学校の演劇部のやつを誰か呼んできてくれんか」
「演劇部は、おれ達ですけど」
仁さんが言った。
「ああ、そうなんか。おまえらの芝居の衣装、運んできたで。荷台に積んでるけん、さっさと持っていってくれ」
部員達は首をかしげた。仁さんが聞いた。
「あの、どうしてあなたがおれ達の衣装を運んできてくれたんですか?」
男は顔をしかめて言った。その顔には、いくつか青痣ができていた。
「おまえらの仲間に頼まれたんよ。無理矢理な。衣装を学校まで運んでくれって」
すぐに洋平のことだとわかった。
「それで、そいつはどうしたんですか?」
仁さんは、眉間にしわをよせながら聞いた。
男の言う通りなら、洋平も一緒に軽トラックに乗せてもらって来るはずだ。裏方の仕事があるのだから。しかし見たところ、軽トラックに洋平の姿はない。助手席にも、荷台にも、誰もいない。
「ああ、それなんやけどな」
男は眉間にしわをよせて下を向いた。
部員達は息を呑んだ。誰もが嫌な予感を顔に浮かべている。
「麻見に、何かあったんですか?」
仁さんがつめよると、男は下を向いたまま頭をかいて言った。
「そうか、こいつ、麻見っていうんか。おい、麻見君、学校に着いたで。ええ加減離してくれや」
「え?」
仁さんは窓から運転席をのぞいて、男の視線をたどってみた。
運転席の床で、泥まみれになった洋平が男の足にしがみついていた。
「ああ?ほんまに着いたんやろな?もし嘘やったら、おれはこの足を一生離さんけんな。どんなに蹴ろうが殴ろうが離れんのはさっき証明したやろ?もし、はがしたとしても、おれをひいたことをネタにしてゆすったるけんな。ナンバー覚えてるぞコラ。ほんまに学校に着いたんか?」洋平は顔をあげた。「あ、仁さん」
役者達はすぐさま衣装に着替えた。他の部員達は、洋平の指示にしたがって、急いで舞台装置を組み立てた。そして、少し遅れたが、どうにか上演をむかえることができた。
芝居がはじまった。
体育館の舞台の幕がゆっくりと開く。
観客の生徒達がざわめいた。
舞台の上には草原が広がっていた。
作り物ではない、本物の草が、舞台の上にびっしりと生い茂っているのだ。
今回の芝居、「百獣」の舞台であるサバンナを表すために、本物の草を使う。
それが洋平の考えた舞台装置だった。
具体的な製作手順はこうだ。
まず山から腰の高さくらいの草を大量に集める。次に蓙と接着剤を用意する。そして草の一本一本を、接着剤で蓙につき立てるようにくっつけて、蓙の上に草むらを作り出すのだ。
草を蓙にくっつける前に、全て草の中に、細い針金を刺しこんでおいた。
そうしないと、草がしおれて倒れてしまい、草原にならないからだ。
洋平は、何千本という草のひとつひとつに、細い針金を刺しこんだ。それは、とても気が遠くなる作業だった。
洋平のアイデアはそれだけではなかった。
観客の生徒達の視線は、草原を見たあと、舞台の中心に注がれた。
そこには、木が生えていた。
舞台の天井にまで届くくらいの高さの、本物の木が、草原の真ん中からのびていた。本物の木も、舞台装置に使われているのだ。
洋平は、いままでバイトで貯めていた金と部費で、家族から庭にある木を買いとった。そしてその木を引っこ抜き、根元の部分を切り落とし、舞台の上に置けるよう、支えをとりつけた。
文章にすると、それだけの作業だが、まっすぐではなく、やや斜めに伸びたその木の支えをとりつけるために、必要な重りをうまく作ることが難しく、何度も作り直さなければならなかった。
一日三時間睡眠の苦痛に耐えながら、洋平はその作業をやりとげた。
そしていま、こうして、舞台の上にリアルな自然の風景を持ち込むことに成功したのだ。
背景の壁には、拡大コピーした巨大な青空の写真、舞台の上には土をふりまき、その臭いがかすかに観客席まで届いて、見る者に、「自然」を感じさせた。
洋平が十五日間、ほとんど眠らずに作り上げた草原は、観客の心をうまくつかんだようだった。
舞台袖に立つ洋平は、観客のざわめきを聞いて、思わず泣きそうになった。そのざわめきだけで、いままでの苦労がすべてむくわれたような気がした。
おれ、やっぱこの仕事、好きやわ。この裏方の仕事、めっちゃ好きやわ。
涙がこぼれないように、上を向いて、何度もまばたきをした。
芝居がはじまった。
ミツキや仁さんをふくめた役者達が、舞台の上の草原で様々な動物を演じる。
ライオンに自分の子供が食われるのを、遠くからながめることしかできないシマウマ。
足を一本失った象の日常。
恋をしてしまったキリンとサイ。
様々な動物の物語を無言劇のスタイルで演じてゆく。
役者が動くたびに、体が草とこすれて、その音が、自然の臨場感を生みだしている。
音楽や演出はまったくない。
はりつめた沈黙が体育館を支配している。
観客達の目は舞台に釘付けになっている。
それをちらちらと見て、舞台裏の部員達はガッツポーズをとる。
芝居が終わり、舞台の幕が閉じると、観客達は小さく息を吐いてから、大きな拍手を鳴らした。舞台裏で役者達は、互いの肩をたたきあった。洋平は涙をふいて笑いながら、他の部員達といっしょに舞台装置の後片付けを始めた。
こうして、卒業生送迎会での演劇部の芝居、『百獣』は無事に終了した。