八話「 勝負種目発表 」
俺は今、我が校のグラウンドの真ん中にいる。
放課後のこの時間、いつもなら運動部が活動しているはずなのに今は誰もいない。そして俺は自分の足の下にある空き缶を踏みしめなければならなっかた。この状況を説明するには、また回想話になってしまうが理由は簡単だ。十数分前の部室棟を思い出そう。
お嬢様、不良、剣道最強、忍者。この四人の新遊部の顔ぶれをコーヒーを飲みながら順番に見ていた俺。よくもまぁこんな個性的な生徒ばかりが集まったもんだ。それとも重松が強制的に集めたのか。その事を考えるのはやめておくことにしよう。この四人はこの仮部活をどう思っているのか、本当に自分の意志で参加しているのか、質問したい事は山ほどある。
「あの、何かあったら言って下さいね?私にできる事でしたらいたしますので。」
特にこの人だ。さっきからずっと俺に気を使ってくれているお嬢様系の咲野桜花さん。この人がいるだけで華になるからと、頼まれたら断れなさそうな人の良い咲野さんを強制的に入部…。なんて事もあの重松ならやりかねない。それに小佐鬼先輩もだ、剣道部部長を辞退してまでこの仮部活に参加する理由はなんだ?本人は色々な事情があると言ったが何か弱みでも握られてるんだろうか?
他二名、コーヒーを飲んで黙っている朝比奈大斗。腕を組んだまま壁にもたれかかり微動だにせずに黙想している通称忍者の成瀬二葉先輩。この二人に関しては何も分からん。どういう意図で重松と知り合い入部にいたったか、俺の頭では恐らく何十年かかっても分からぬ課題となるだろう。
考える事が多すぎてこの仮部活は退屈を与えてくれないようだ。だが次の瞬間、俺の第六感と思わしき感覚が警告してくれた。
廊下を走ってくる足音だ。軽快なフットワークで古い校舎の床を鳴らしてやってくる。あまり運動が得意な者がいない文科系部員では聞けない音だろう。足音がだんだん近づいてくる、そして音がピタリとやんだ瞬間…バン!まるで扉を消し飛ばすかのように勢いよく入ってくる生徒がいた。
「ソロモンよ、私は帰ってきたーー!。」
今さら言うまでもないだろ。そいつは俺を見ると満足そうな笑みでうなずいた。そう、重松茂美の不吉な笑顔だ。
「よく逃げなかったわね?それだけは褒めてあげるわ。」
色々と面倒事を増やしたくないんでね。重松はイスに座ってる俺に対して上から目線で言ってきた。ちょっと癪に触ったんで、俺はイスから立ちあがった。俺の身長は178センチ、完全に立場が逆になった。俺を見上げるように顔をあげると重松は黙ったままゆっくり俺の両肩をつかんでまたイスに座らせた。
「さぁ!それじゃ今日の勝負の内容を発表するわよ!」
なかった事にしやがった!?。俺は心のツッコミをいれた。そしてもう一つの方も気づかされた。
そうだ。俺は一方的に押し付けられた勝負をさせられるんだ。その事についてはまだ何も考えてなかったが、重松は勝手に話を進めていく。
「本日、新遊部VS統括委員会との部室争奪決戦の種目は~…缶けりです!。」
………は?缶けり?。缶けりってアレか?昔小学生とかがやってた遊びの事か?俺の質問対してに重松は、
「その通り!。一見幼稚な遊びに見えるけどあれこそシンプルイズベスト!。知略と身体能力を引き出すいわば戦争なのよ!。」
人指し指を天井に向かって突き上げた。その光景を見た新遊部の四人は感心するように拍手していた。ここにいる奴らは全員アホなのか?。そう思うのと同時に少し安心感もあった。
また無理難題な勝負を申し込まれると思っていたが、まさかその種目が缶けりとは。これならば自分にも勝てるチャンスもあるんじゃないか。そう思ったからだ。
「分かった。その勝負受けてみよう。」俺も男だ。一度言ったからにはもう後には引けない。
「いい度胸じゃない。わめこうが泣き叫ぼうがあたし達は容赦しないわよ?。」
俺とお前の頭の中にある缶けりの定義は同じでいいんだよな?今缶けりにはほど遠い単語が聞こえたが…。
こうして俺と新遊部の五人は部室棟を出て、グラウンドに向かったのである…。