六話「 咲野桜花&朝比奈大斗 」
新遊部の部屋で待っていること数十分、誰にもいない部屋に最初に現れたのはブルジョア系お嬢様風の女生徒だった。制服の青いリボンは俺と同じ二年生。おそらく迷子だろう。
「こんにちわ。昨日はお恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね。」
その言葉を聞いた瞬間俺は固まった、あるいは世界が停止した。こんな大人しそうな人が新遊部の一員のはずがない。もしそれが本当ならこちらを見て微笑む女生徒は昨日、重松の後ろにいた四人のうちの一人になる。
「自己紹介がまだでしたよね。私の名前は咲野桜花と言います。どうぞお見知りおきを。」
綺麗な桜色の髪をなびかせる豊満で礼儀正しい彼女はとても重松茂美と関わっているようには見えない。相手がお辞儀するとついこちらもお辞儀をしてしまう。でも一つ安心した、新遊部にもマトモな人がいてくれた。
彼女は自分の持っている鞄を机に置いた。どうやら長机に置いてある鞄は別の人物のモノらしい。鞄を置くとイスに座る事なく部屋の奥に行き何かの準備を始めている。
「なにかお飲み物をお入れいたしましょうか、紅茶やコーヒーしかありませんけど。」
振り向く彼女の手元にはティーカップなどの品々である。学校だよな?ここ。一応断るのも失礼だと思い、コーヒーを頼む事にした。お湯を沸騰させる音を聞きながら窓の外を眺めていると、足音と共にまた扉が開いた。
「ういっす。ってまだ一人かよ…。」
男子生徒だった。でも俺の第一印象はとても良いものとは思えなかった。黒いバンダナを頭にまいた金髪の少年、俺と同じ青いネクタイを鞄に突っ込んである。どうみても不良だろう。俺がそんな事を思っていると相手が俺に気がついた。
「あぁ、昨日の……ちっす。」
軽く会釈するように頭を向けると彼はすぐに俺の向かいの席に座った。
「大斗君、ちゃんと挨拶しないと。一宮さん、こちらは朝比奈大斗君と言います。人見知りな方ですので何かあっても気になさらないで下さい。」
俺の目の前にコーヒーカップを持ってきてくれた咲野さんが本人の代わりに自己紹介をしてくれた。
「咲野、俺にもコーヒーくれ。」
「はい、わかりました。」
彼、朝比奈大斗はそう言うと咲野さんは言う通りにコーヒーを作りに行った。俺の手元にきたのはブラックのコーヒー、匂いは好きだがあまり飲んだ事がない。少し大人ぶってしまったのがあだとなったか。少し我慢して飲もうとティーカップに手をかけた時、カップの受け皿の横に小さな瓶に入ったミルクと砂糖が置かれた。
誰が置いたのか顔をあげると、先程までこちらに無関心だった朝比奈大斗だった。
「無理するなよ、俺も苦いのは苦手だ。」
そう言うとまた黙って席に戻った。この人は不器用なだけで意外といい人かもしれないと少し思ってしまった。そして彼の好意に甘えてコーヒーにミルクを入れて飲む事にした。
そんなこんなして時間が過ぎるとまた部屋の扉が開いた。
「いやぁ、遅れてごめん。担任との会話が長引いちゃって。」
そう言って部屋に入ってくる男子生徒を見た瞬間、飲んでたコーヒーを全て吹き出すようにむせかえった。なぜなら俺はその人を知っているからだ。