五話「 嵐の前の静けさ 」
回想終了、そして現在。
気がつくと六限目が終わりいつの間にか放課後だ。今になっても部室棟に行こうか悩んでいる自分がいる。少し教室で考えていると、
「どうした一宮、帰らないのか?。なんか今日元気ないんじゃないか?。」
俺の前の席に腰掛けて勝手に話しかけてくるこの阿呆は佐藤。中学からの同級生で二年になってクラスが一緒になった。いつも能天気で危機感を感じない絶賛彼女募集中のこの性格を見ていると俺の内側に眠る何かが噴火しそうだ。そうだな、確かに今日は元気がない。だから殴らせてくれ、顔に三十発くらい。
「死んじまうよ!?。相変わらず冗談キツいぜ。それでどうなのよ委員長とは?惚れたからあんな委員会入ったんだろ?。」
コイツ、馬鹿のくせにこんなときに頭が働くんだな。しかもそんな単刀直入に。オブラートに言葉を包む事もできんのか。
別になんもないよ、まず委員長そんなに顔出さないし。この言葉を聞くと佐藤はニヤケ面を向けて「男かな?」とつぶやいた。当然俺は反射運動的に佐藤の顎にフルスロットルのアッパーを喰らわせノックアウト、佐藤は机に横たわった。
委員長に限ってそんな事はない、もしあったとしたら俺は学校中の窓ガラスを割りまくったあげくに叫び散らして校舎から飛び降りてやる。撃沈している佐藤を横目にそんな事を思った。
「あ、相変らずいい腕してるじゃねぇか…さすがの俺もこたえたぜ。」
自分の腕を杖の代わりにして顔を起こす佐藤、何だ今日は随分と復活するのが早いじゃないか。それにしても自分が殴られてるのに返す言葉がそれだけとは、お前はアレか?Mか?
「人を殴っておいて次にかける言葉は変態扱いですか、容赦ないねアンタ。」
お前は元気が取り得だからな。お前から元気を取ったら残るのは三ミクロにも満たない微生物くらいだろう。
「そうだよな!やっぱり俺の良いところは元気と笑顔だよな!。サンキュ~一宮!。」
俺の悪口に気づいてるのか気づいてないのか突然ハイテンションになった佐藤は鞄を持って教室を出て行った。アイツは本当に馬鹿だな、たぶん駅前にいる女子高生にナンパでもしに行ったんだろ、どうせ成功もしないくせに。
佐藤のおかげで時間つぶしもできて丁度いい時間に部室棟についた。そして例の新遊部たる奴らがいる部屋の前までつくと俺は昨日以上の緊張感で扉をノックした。
…返答がない。もう一度ノックするがやっぱり返答がない。仕方なくドアノブをひねると扉が開き、恐る恐る中を覗いたが誰も居なかった。元倉庫に使われていた部屋には机四つに長机一つ、パイプイスが七つある。五人が動き回るには充分な広さだ。
よく見ると長机の脚に鞄が一つ置いてあった。誰のかは分からないが、少なからず誰か一人はここに来て現在席を外しているのだろう。とりあえず適当にイスに座り待ってみる事にした。
時計がないこの部屋では時間が分からない。だが恐らく数十分は待っていた事だろう、さすがに暇になって帰ろうと思ったそのとき、扉がゆっくりと開けられた。
そこにはブルジョア系お嬢様風のような女生徒がこちらを見ながら立っていた。