四話「 宣戦布告 」
「……それで俺、なんか勝負するはめになったらしいんです。」
自分でも理解しているのか曖昧なのに話を聞いてくれている鳴海先輩は困惑とした表情を隠せないのは当たり前のようだ。
ほんの数分前の事だ。謎の仮部活、新遊部自称部長の重松茂美との口論の末、この結果になるまでのくだりはこうだ。
「だから正式な部活にしたかったら部活申請書に具体的な活動内容を書いて提出して下さい。」
「活動内容は読んで字の如く、新しい遊びを作る部活よ。新遊部第一条“童心は忘れずに”よ。」
そんな自信満々な笑顔をこっちに向けられてもね。なんか面倒だなこの人…。
「童心は構わないけどそんな活動内容で審査が通るわけないだろ。」
「何がなんでもこの部屋は渡さないからね。」
こいつは俺の話を聞いているのかね、それとも声が耳まで届いてないのか。一方的すぎる。
「とにかく明日からこの部屋は使わないで下さいよ?」
さっさと会話を終わらせたかった俺は適当に注意をして引き上げようとしたがその時だった。女生徒、自称部長の重松茂美の笑いを堪える声が耳に入った。
不気味に思いながらもゆっくりと振り返ると彼女はこう言った。
「いいこと思いついたわ!あたし達と勝負しなさい!あんたが勝ったらあたし達は大人しく身を引くわ。でもあたし達が勝ったらこの部屋の使用を許可する。いいわね?勝負は明日の放課後、この部室棟よ。勝負内容は明日説明するわ、じゃあね!」
俺が声を出す前に全て話し終えた彼女は手を振って扉を閉めた。え?…ちょっと!?俺はすぐに扉を開けようとしたが中から鍵がかかっていて開けられない。その後何度問いかけても返答がくる事はなかった。
…という訳なんですよ。今までの出来事を全て伝えるとまた疲れが出てくるような感覚があった。
「それはまた大変でしたね。噂には聞いていましたが。」
事を理解してくれたようにうなずくと俺を励ますように声をかけてくれた。そして心配するような表情で続けてこう言った。
「岳人君はどうするんですか?明日の勝負。嫌なら別に行かなくても。」
鳴海先輩が俺に気を使ってくれているのは表情をみれば一目瞭然だ。本来なら俺も勝負なんてしたくないし、新遊部の訳分からん連中とも関わりたくない。でも今回は俺の役職柄そういう訳にもいかないらしい。俺が明日の挑戦から逃げれば、アイツは何かしらのケチをつけて余計手に負えなくなるのは目に見えてる。
「とりあえず明日また部室棟に行ってみます。勝負するかはその時にならないと分かりませんけど。」
そう言うと俺は自分の鞄を持ってパイプイスから立ちあがった。俺の言葉に対して鳴海先輩は優しく微笑んで何も言わなかった。下校しようと会議室から出るときに委員長はいつ帰ってくるのかを先輩にたずねた。
「えーと確かですね、他校との交流もあるみたいであと五日は来れないそうよ?」
その言葉を聞いて俺は少しローテンションになってしまった。軽く先輩に会釈すると会議室の扉を閉めて廊下の壁に手をついた。あぁ委員長、あなたがいないとやっぱり俺はダメなようだ。早く委員長成分を吸収しないと栄養不足で死んでしまう…。
廊下でうなだれるように歩きながらその日は下校した。
案の定、その日は勝負の事で頭がいっぱいになって中々眠れなかった事は言うまでもないだろう…。