三話「 重松 茂美 参上! 」
「………………………え?」
お面でこもった相手の声なんか気にならないぐらい頭の中が真っ白になった。それとも俺の耳が機能を停止させたか、寄生虫がとりついたか、エイリアンが洗脳を始めたかのどれかだろう。でなければこんな意味不明の言葉が出てくる訳がない。あいにく俺にはその言語を解読する知能はないんでね。
「失礼ね、人を変人扱いしないでよ。」
お前が変人じゃなければこの学校の生徒はほとんど変人じゃない。強いて言うなら後ろにいる四人と教師の田畑ぐらいなものだろう。
「ふふ、そんなにあたしの正体が気になる?」
「実際そんなに興味はない。いや結構興味ない。むしろ知りたくない。」
「少しくらい気にしなさいよ!。ある時は普通の女子高生、またある時は部室棟に現れる謎の女生徒…果たしてその正体は!」
俺の目の前にいる女生徒は自分のお面を取り外し天井へ向かって投げた。
「二年一組の重松茂美!。この新遊部部長よ!。あたしのこの手が真っ赤に燃え…いてっ!」
何かの決め台詞を言おうとしたらしいが上に投げたお面が自分の頭に戻ってきた。彼女は自分の頭をおさえながらその場にしゃがみこむ。
お面を取った女生徒の素顔は茶髪混じりのショートカットに右上に小さなヘアピン、中々いい顔立ちをしている。
町や学校の廊下ですれ違ったら“可愛い子だな”くらいのリアクションはあったかもしれないが、出会い方が悪かったな、今はそんな思いは微塵も感じられない。
「…あの新遊部ってなんですか。聞いた事もないんだけど。」
相手のよく分からない自己紹介を頭の中で整理して一番疑問に思った事を最初に質問した。すると彼女は立ちあがり、
「あたしが発足した部活よ?。部員はあたしを含めて五人。なに?入部希望者?」
おいおい話を勝手にもって行くな。この重松という女生徒は俺の質問の意味が分かってない。新遊部なんて部活名簿にも無かったし部活申請書にも無かった。つまり勝手に活動している非公認部活という事か。
「部活動統括委員会副委員長の一宮岳人だけど。部活等に所属しない生徒はこの部室棟から立ち退いてほしいんだ。」
俺の言葉を聞くと重松の目つきが変わった。
「くそ、なんでここの場所が…さてはそちらに凄い情報網をもった情報屋がいるのね、なんて委員会なの末恐ろしい…」
あぁアホらしい、そんな人でなしと訴えるような目でこちらを見ないでくれ。
「いろいろと他の部活から苦情もきてるんですよ、どこか他所でやってもらえないかな?」
「いやよ、ここは部室棟よ?あたし達新遊部も居れる権利があるわ。」
「だったらちゃんと部活申請書を提出して下さい。」
「なら約束してよ、絶対部活承認してくれるって。」
「こんな訳の分からない部活無理に決まってるでしょ!」
これがあれだ。まさにイタチごっこというものだろう。同じようなやり取りが何度か繰り返され、数分後にやっと一つの結論が出た。
俺は第二会議室に戻ると部屋に置いてあるパイプイスに座り、長机に突っ伏すような体勢をとった。正直なところ疲れただけだ。
「どうしたの岳人君、随分疲れてるみたいだけど。」
俺に声をかけてくれたのは同じ部活動統括委員の“鳴海先輩”だ。先輩は綺麗で優しくて眼鏡属性で巨乳でしかもドジっ娘というハイスペックの持ち主。気がきくし根が真面目なので仕事もしっかりやってくれる。
委員長がいないこの現状で俺が委員会の仕事に圧迫されていないのは先輩が仕事を手伝ってくれたおかげだからだ。まさに女神。
しかし俺が委員長一筋な気持ちは変わらない。
「委員長が帰ってくる前に何か問題でもありましたか?私で良かったら相談に乗りますよ。」
本当にこの人は天使ですか、そんな眩しい笑顔を俺に向けないで下さい。俺は感激しながらも気を落ち着かせてさっきの出来事を説明した。
「……それで俺、なんか勝負するはめになったらしいんです。」
これが俺の記念すべき不幸の始まり第一号となった。