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034-2

「そうですか、今開拓村にいるスタフ族たちやりおなさんが創ったぬいぐるみたちとも話して見てはどうですか」


「あーそうじゃね」

 ――言われてみると、ぬいぐるみたちとは創ってすぐあいさつしただけでちゃんと話したことなかったわ。


 ――考えるとこの異世界に来てからすぐ宿屋でパーティー開いてもらったのう。

 んでもりおなヒト見知りやけんスタフ族たちもそうだし、自分で創ったぬいぐるみたちともあんまし打ち解けられなかったわ。


 今夜新たにバーベキューだなんだと開いてくれたのは住人同士の交流もそうだがりおなに対しても同様の配慮のようだ。


 ――ただつくっただけでほったらかしっちゅうわけにもいかん、ここは親睦を深めるためにもお話せんと。


 なんにんかりおな自身が創ったぬいぐるみや持っている道具を『ウェアラブル・イクイップ』に変えた住人たちと話してみて解ったのはりおなに対する認識だった。

 ――ふつうに話は通じるし、自分らぁがりおなに創られたっていうこともわかっとるけど、だからてって生まれたてやけん記憶が無いわけではないんじゃな。

 元になってる絵本の世界観やら自分自身の事もちゃんと覚えている。


 それに、創ってくれたりおなの事も神様か仏さんみたいに(あがめ)(たてまつ)るっちゅうわけでもない。

 だけども、変に下に見たり馴れ馴れしくするっちゅうのもない。

 りおなはけっこう尊敬されとるみたい。


 そんで、ぬいぐるみ同士も誰それのことは知ってる? とか聞くとおおよそのことはわかるらしい。


 例えばぬいぐるみのひとり『さばくとかげのガジェット』にミーアキャットの末っ子について尋ねると、【ああ、『ミーアキャットのパン屋さん』のパーニスだろ】と絵本のタイトルと名前をはっきり言ってきた。

 互いのことをちゃんとわかっているらしい。


 ――ただ、いつ生まれたかとか、子供のころは何してたの? とか聞くと両方とも答えるんじゃな。

 生まれてきたのはついこの間じゃけど、子供のころはどこそこにいたかというのはみんな同じ返事じゃ。少なくとも本人たちの中で混乱しとる様子はない、言ってまえばダブルスタンダードとかいうやつけ。


「なるほどのう」


 りおなはスペアリブを食べながらきこりのジゼポに話を聞く。

 ――絵本に載ってないジゼポ本人の『生まれる前』の話を聞くのはなかなか面白いにゃ、おそらく作者も知らん隠し設定じゃろ。


 また、Rudibliumにに元から住んでいたはいいろグマのヨーゼフの話もりおなには興味深かった。


 ――ヨーゼフは人間世界からRudiblium(こっち)に『転生』してきてそんなに間がないけん、転生前の事ははっきりと覚えとるわ。


 前の持ち主、主人とどんな遊びをしていたか、どれだけ大事にされていたかりおなに身振り手振りを交えて楽しそうに教えてくれた。


 ――話聞いてるとRudiblium(こっち)で長く生活しとると『生前』の記憶はだんだん忘れてくみたいじゃけど、こっちには仲間がたくさんいるからにゃ。


 ただ、とヨーゼフはピンクサーモンの燻製を食べながら話を続ける。


 ぼくがRudibliumに来たのと同じ時期から新しい仲間があまり増えなくなってきた。

 ノービスタウンで、森も畑も草原も無くなるという『大消失』の話を聞いたんだ。

 せっかく転生できた世界が悪くなっていくのは耐えられない。それで今回の開拓に参加することにしたんだ。


「うん、りおなも応援するわ、がんばって」


 ふとりおなが気づくとキャンプファイヤーの炎はすっかり低くなり、熾火が赤々と燃えていた。

 そこにはオーバーオールを着て赤いスカーフを首に巻き、意気揚々と現れた部長の姿があった。

 手にはフォークギターを持ち口元にはホルダーで固定したハーモニカをつけている。

 キャンプファイヤーを背にして丸太に腰かけた部長はギターを爪弾きながら歌い始める。


 その歌声を聞きつけた開拓村の住人たちが手に手に酒や食べ物を持って一斉に集まって彼の歌声に聞き出した。

 少し離れた所にいるりおなが聞いてもその歌声はなかなか上手だった。


 ――にしたってなんじゃってみんな体育座りになって、あんなに聞きほれているのかがぜんぜんわからん。歌ってるのはぶちょうじゃぞ。


 少し気になってチーフに尋ねてみたら「ああ、『ノービスタウン』近辺は娯楽などが少ないですし歌などが聞こえると思わず聞き入ってしまうんですよ」と返ってきた。


 説明しながらチーフは残った食べ物をタッパーに移し替え、食器をてきぱきと片付けだしている。

 さすがにぬいぐるみたちじゃな。みんな食器とかゴミ散らかしたりしとらんわ。


 手持ち無沙汰気味のりおなは言われるでもなく片づけを手伝いだす。


「おそらく火が消える頃くらいにはお開きにするでしょうから、片づけが済んだら私たちもいっしょにリサイタルに参加しましょう」


「えー、あれ聞かにゃいかんのー?」


 りおなは眉をひそめる。部長が歌っているのは少年四人が線路を歩いて旅をする、アメリカ映画の主題歌だ。

 遠目に見ると住人たちは部長の歌に合わせて上体を揺らしてリズムを取っている。

 ――りおな普段の部長のこと知っとるからにゃあ、あの光景はぬいぐるみがスペアリブにかじりつくよりシュールな絵面じゃ。


 よく見るとエムクマとはりこグマ、それに部長の孫ふたり、このはともみじも最前列でリサイタルに参加している。

「りおなちゃんも片づけが終わったら参加したら?」課長も水場で洗い物をしながらりおなに提案する。


「え? ああー、うん」


 ――りおなからすっと、そんなに部長の単独ライブに思い入れはないけど、これも付き合いか。

 ううっ、さぶ。星空はきれいじゃけど、放射冷却現象で寒くなってきたわ。


 バーサーカーイシューの上から肩にブランケットをかけ、課長が淹れてくれたショウガ入りのココアを手にして最前列の端に座る。

 ちょうど歌い終えた部長が観客(オーディエンス)に向かって語りだす。


 ――丸太の椅子に座ってギター弾きながら足を組んでんのは逆にちょっと面白いわ。


「ありがとう。みんな、なにかリクエストがあればそれを歌うが何かないか?」


「じゃあ、あれ歌って」

 当然といえば当然だが、誰も手を挙げる様子が無い。

 仕方なくりおなが手を挙げて、五人組の男性グループの冬の名曲をリクエストする。

 ――どうせ歌えるわけないじゃろ、このはちゃんともみじちゃんには悪いけど、ちょっと恥かいてもらおうか。

 と少し意地悪で言ってみたが、部長は表情を変えずにギターのキーを確認しだす。


「ああ、あの曲ならよく知っている。俺の十八番(おはこ)だ」


 部長はギターを弾きながらりおなのリクエストした曲を朗々と歌いだし、間奏にはハーモニカまで器用に吹いて見せた。

 Rudiblium Capsaの夜空のもと、部長の渋い歌声が暗闇に溶けて広がっていく。

 その中に下を向いて頭を抱えているりおなの姿があった。


 開拓村の住人たちが静かに聴き入っているのを背中で感じながらりおなが上を見上げると、今にも降ってきそうな星空が広がっている。

 だが目で追ってみてもりおなが知っている星座が一つもないのに気付く。やはりここは地球とは異なる異世界なのだ。

 その後何曲かりおながよく知っている日本のポップスを中心に部長のリサイタルは続いた。


 ふと気づくと部長の孫の双子が座ったまますやすやと寝息を立て眠っているのに気付く。

 りおなが中腰になるのと同時に後ろで立ち見していたながクマが客席の前まで来て薄くて幅が広く長い腕を伸ばし、このはを抱きかかえてくれた。りおなはもみじを背負い広場を離れる。


「あら、ふたりとも寝ちゃったの? じゃあ今夜はキャンピングカーで休ませましょう」


 バーベキューパーティーの片づけを終えた課長に双子を見せるとすぐに状況を察した彼は携帯電話を操作する。

 白いキャンピングカーを広場の外れに出現させた。


「開拓村の住人たちと一緒っていうのもなんだからここに寝かせましょう。部長も後でここに寝てもらえばいいわ」


 双子を備え付けのソファーに横たえ毛布を掛けてやる。ふたりの寝顔は天使そのものだ。

「それにしても」りおなは小声で課長に話しかける。


「本当に部長の孫? 全然似とらんけど」


「確かにね」と返ってきたので二人で少し笑いあった。

 りおなと課長が広場に戻ってくると、部長とそのオーディエンスは立ち上がり合唱している。どうやらリサイタルも大詰めらしい。


「もうすぐお開きみたいですね、りおなさんはどこで休まれますか?」同じく後片付けを終えたチーフがりおなに尋ねる。


「うーん、今のキャンピングカーは部長らで寝るじゃろし、部屋用のコンテナっていま出せる?」


「ええ、大丈夫です」


「んじゃ、それ出して。んで、明日の予定はどうなっとるん」


「今日と(おおむ)ね同じですね。村の開拓のためのぬいぐるみ創りとレイピアと各装備の技の確認と応用、そんな所ですかね」

 キャンピングカーのそばに仮設コンテナを出現させてからチーフが答える。


「うーん、盛りだくさんだにゃー。明日ってぬいぐるみのノルマどれくらいあると?」


「他との兼ね合いもありますがだいたい12にんくらいですかね」


「わかった」

 りおなは大きく伸びをしながら遠慮なくあくびをする。

「んじゃ、歯磨きして寝よ――」

 りおなは言いかけた途中で全身に不快な違和感を覚えた。全身に鳥肌が立つ。それと同時にバーサーカーイシューのネコ耳が激しく震えだした。


「富樫君、これって」


「ええ、間違いありません。我々、いやこの開拓村一帯に向けられた『悪意』です」


 チーフと課長も異変に気づき周囲を警戒しつつ携帯電話の画面を覗きこみ悪意の出所を確認する。


「チーフ、もしヴァイスフィギュアじゃとしたらどこに何体くらいおる?」



「特定……できません。悪意が大きいのかヴァイスとまた違うのか、まずは広場の住人たちを守りましょう!」

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