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033-2

「まあ、突き詰めて言えばとある場所で二つの異なる魂が交わって誕生するというのが簡潔な表現になりますかね」


「……え? それってまさか……」

 聞きたくないような答えが返ってきそうでりおなの声が渋くなる。外の風景に目をやると赤茶けた大地が広がっている、『ウェイストランド』に来たのだ。


「ああ、交わるといっても地球上の大多数の生物や人間のように、異性同士が交配して妊娠、出産するとかではないです」


「……(ヒト)を実験動物みたいに言うな。っちゅうかもう少しマシな言い回しは無いんか」

 りおなのツッコミに対しチーフは口に(こぶし)を当てて咳払いを一つして説明を続ける。


「失礼。えーといわゆる『保健体育的』な行為ではないです。ですがやはり親から子、孫へと形質や性格などが似てくるのは人間と同じです。

 それで、具体的に我々が増える方法ですが……」


 チーフが説明を続けようとすると部長からアナウンスが入った。

【あー、運転手の皆川だ。そろそろウェイストランドの開拓村に到着する。乗客のみんな、降りる準備をしとくように】


「ああ、もうすぐ着きますね。説明の続きはどうします? バスを降りてからにしますか?」


「んーー……んや、また今度でいいわ。こっちでもだいぶ忙しいじゃろ」


 ――りおなとしては興味が無いでも無いけど、とりあえずチーフが言う『保健体育的』行為で生まれるわけやない。

 それがわかっただけでも安心したわ。理由はわからんけど。

 もしそうじゃったらチーフたちはぬいぐるみでなくて、『布と綿でできた生命体』になってまう。

 それこそりおなの理解を遥かに超えたしろものじゃな。


 りおなは考えすぎて少しくらくらしてきた。


「大丈夫ですか? りおなさん。顔色が悪いようですが」


「えー、あーちょっと考え事したら酔ってきたわ。んでももう着くんじゃろ」


 言いながらりおなは腕を上げ上体を伸ばす。三時間近くも舗装が行き届いていない道路で揺られて身体がこわばっていた。

 二階建てのバスは村の手前でゆっくりと停車する。


「さ、みんな開拓村に着いたわよ。降りましょう」


 課長が立ち上がりバスの乗客たちに声をかける。

 りおなが創ったぬいぐるみ、スタフ族、ティング族、ウディ族、ラーバ族は立ち上がり次々と降りていった。

 りおなは昇降口、ドア付近の席に座っていたが、いつもの習慣で降りるのは最後にした。

 座席に座ったまま横目でぬいぐるみ達、移住者を眺める。


 ――やっぱし自分で創ったぬいぐるみが生きて動いてるんはけっこう感動するにゃあ。

 チーフが二階をくまなく調べて残っている者がいないのを確認するのを待って、りおなもバスを降りた。



「ではみなさん、来たばかりで疲れてるでしょうが、開拓村の作業を手伝って下さい。

 こちらで『ウェアラブル・イクイップ』を希望する方はこちらへ集まってください。

 こちら、人間界からはるばる来ていただいたソーイングフェンサー大江りおなさんです。

 この型が皆さんの衣服や道具、武器などに『心の光』を吹き込んでくれます。それではりおなさん、一言お願いします」


 チーフたち業務用ぬいぐるみ三人は開拓村に先行して来た者、バスでこちらに来た者全員を木造で納屋のようながらんとした大きな建物の前の広場に集めた。

 そこで木箱の上に乗せられたりおなを紹介する。

 大勢のぬいぐるみやブリキ製のロボット、ゴム製の人形が拍手喝采でりおなを出迎えた。


「そんな大仰に紹介せんでもいい」


 一方のりおなはネコ耳メガネで黒のパンツスーツ姿の『インプロイヤーイシュー』に装備を替えていた。

 眉間にしわが入るのをこらえて作り笑顔のまま、心の中でチーフに毒づく。


 ――異世界に来て三日目やけど大勢の前でスピーチって一番疲れるわ、んでも黙ったままっちゅうわけいかんし。


「……えーと、ご紹介に預けられました(・・・・・・・)大江りおなです。

 皆さんの装備を強化したりなんだりしますんで、皆さん村の開拓、開墾頑張ってください」

 へどもどしながらなんとか言い終え一礼すると、周りからまた拍手が起こる。りおなは何とも複雑な気分で木箱を降りた。チーフは続けて村民に伝える。


「では皆さん、自分の持ち物に『心の光』を吹き込んで貰いたい方はこちらに来てください。

 りおなさん、ソーイングレイピアを出して木箱の上に乗ってください」


 ――また上がるんか。


 言われたりおなは不承不承下りたばかりの木箱に乗り直し、右手を前にかざす。 日中陽が射す中、陽射し以上ににりおなの掌が強く輝いた。

 中から縫い付ける能力を持った突剣ソーイングレイピアが現れる。初めて見たおもちゃたちは驚きを隠せず再度歓喜の声を上げた。


「それでは皆さん、強化してほしい道具を出して上に持ち上げてください。

 りおなさん、レイピアを上に掲げて『心の光』を吹き込んでもらえますか」


「え? ひとつずつやるんじゃなかと?」


「昨日なんびゃくにん単位でやりましたから、りおなさんのレベルは相当上がっているはずです。イメージさえきっちりできていれば可能です」


 そんなもんか? とりおなは内心(いぶか)る。

 ――昨日ひとりずつやっていった苦労はなんじゃったんじゃ。

 レベルが上がるなら上がったで、トランスフォンからファンファーレでも鳴らすとか対応しといてほしいわ。


 色んな考えが渦巻いたが、言われた通りレイピアを頭上に高く上げる。


 続けてメガネ越しに住人たちが捧げるように上げている道具を目視で確認した後、呼吸を整え深くゆっくり息を吸い込む。

 そのまま目を閉じて全身の細胞一つ一つ、そしてソーイングレイピアが光り輝くさまを思い描くと、それに呼応してレイピアが強い光を放つ。


 そのまま念じ続けると住人たちの持っているハンマーや麻でできたエプロン、革手袋、手斧やナイフ、鎌や(クワ)(すき)などが呼応して光り輝いた。

 やがて光が収まると村人たちは各々の道具をしげしげと見つめる。

 使い込まれた感じは変わらないがそれぞれの錆びや汚れが落ちて先ほどより見栄えが良くなっていた。


「成功ですね」

 チーフが感慨深げにつぶやく。

「では皆さん、それぞれ各々の作業に入ってください。足りない所や困った所があったら遠慮なくこちらに申し付けて下さい」



 チーフに告げられたぬいぐるみたちや他のRudibliumの住人たちは、すでに打ち合わせでも済んでいるかのように作業をを始め出す。

 よどみない作業は全体がひとつの生き物のようだった。


「少し、村のなかとか周り見てきてもいい?」

 りおなは装備をバーサーカーに変更しチーフに尋ねる。


「はい、あとで魔法の訓練もしますのでなるべく遅くならないで下さいね」


「はーい」


 とはいえ、外周一回で10分もかからず回れそうな規模だ。

 見渡す限り殺風景な荒野の中にある小さな村とも呼べない集落はその中にあってもなんとなく誇らしげというか健気にも見えた。


 住居用に作られたであろう平屋建てで瓦葺きの建物は壁を土でモルタルの様に塗り固めてあり、多少の風雨にも十分耐えられそうな作りになっている。

 続いて家畜小屋らしい屋根と柱だけの建物に近づくと、不意に大きなものがりおなに近寄ってきた。


「わっ!」


 りおなは反射的に目を閉じて少し後ずさる。目を開けると牛に似た大きな動物が五頭そこにいた。


「なんじゃ、こりゃ」

 テレビで見た牛とはだいぶ違う。まず頭に角が無い。両耳の上はラクダの背中のこぶのように大きく二つ盛り上がっている。

 体毛の色は茶色でビロードのようにしっとりとしていてなめらかな印象だ。

 二本の後ろ足の間には大きな乳房があるのは乳牛、ホルスタインと同じだが、牛と決定的に違うのは顔の部分だ。


 両目の下あたりから口元にかけて固い殻のようなものに覆われている。口の先はアヒルのくちばしのように長く伸びて先が丸くなっている。牛に似てはいるがだいぶ違う変わった生き物だ。

 

 そいつはカモノウシって動物だ。乳を出してくれる貴重な動物だよ。


 りおなが声のする方を振り向くと、そこにはぬいぐるみがいた。

 丸っこいウォンバットの姿は忘れようもない、りおな自身が創った『やまの番人ラマンチャ』のラマンチャだ。手にブリキ製のバケツを持っている。

「あんたが、この、カモノウシだっけ? 育ててんの?」


 ああ、新鮮なミルクがみんなに提供できるからな。こいつを飼い馴らせてよかったよ。

 チーフさんの話じゃ地球のカモノハシがRudibliumで進化したらしい。

 卵を産んで温めて(かえ)す変わった動物だ。あと、後ろ足の蹄の後ろに隠れた爪に毒がある。

「え! 毒!? そんなん飼ってて大丈夫なん?」


 だいじょうぶ、捕まえて来るとき爪は切ってあるし毒があるのはオスだけだ、心配いらない。

「それで、乳しぼりできんの?」


 ああ、できる。こいつの先祖のカモノハシは乳首が無くて乳腺からにじみ出る乳を子供たちに与えていたらしい。

 だが、これはウシのように乳房と乳首がある。卵を産むとこの乳房をかぶせて温めるんだ。


 言いながら木製の台に腰かけカモノウシの乳房の真下にブリキ製のバケツを置いてラマンチャは乳搾りを始める。手慣れた様子で交互に両手を動かし大量のミルクを搾っていった。


 どうだい、搾りたてだ、一杯飲むかい?


「いや、今はいいや」

 ラマンチャに対して丁寧に断りを入れたあと、りおなは畜舎を後にする。不意に視界の端に妙な物を見つけた。

 また地球では見ない変わった動物がいた。その動物はフォルムこそウマに似ているが肌の質感は似ても似つかない。


 全体の体色は灰色で前足や後ろ足と胴体の間にひだのような折り目があり白サイのようにも見えた。

 謎動物は荷車を引いていて荷車には材木が何本も積まれている。

 りおなが創ったぬいぐるみ、きこりのジゼポともりづくりのフリッカが仲良く荷車を引いた動物を連れていた。



「なんじゃ、こら」

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