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003-2

 改めて眼前の敵サージェントフロッグマンに相対する。


 フロッグマンは最初に受けた目くらましを警戒してか、すぐに攻撃せずある程度距離を保っていた。

 だが、やがて焦れたのか剛腕を振り上げ、りおなに向かって踏み込みつつ襲いかかってきた。


りおなは相手が振り上げてきた腕の反対側、向かって右わきをすり抜けようと一歩踏み出した。

 りおなにとってはほんの一歩のつもりだったが信じられない距離をひとっとびで進んだ。

 勢い余ってフロッグマンの(もも)に自分の肩が当たる。


「ぐっ」

 決して小さくない痛みが肩に走った、が相手の背後に回り込めた。

 そのまま腰めがけてレイピアを突き刺す。


 だが、フロッグマンは振り返らず真上に跳んで攻撃をかわした。

 苦も無く両手足の吸盤でビルの壁に貼りつき、りおなの様子を窺う。

 そのまま片腕を振り上げ、高い位置からりおなに一撃を見舞う。


 頭上からの攻撃をバックステップでかわしたりおなは、雑居ビルのすき間から駆け出した。


 ――戦いに関してはこっちは素人やけん。そんでも冷静に分析できた方が勝ちじゃ。

 むこうはジャンプ力があるけん、攻撃も回避も有利。

 んでこっちはスピードが上がった分小回りがききにくくなっちょる。

 狭い場所は今のりおなには不利じゃな。


 普段から携帯ゲームをやりこんでいるりおなは、瞬時に自分と相手の能力を分析した。


「どこか広い場所で迎え撃ちましょう」


 りおなの考えを察知したチーフはネコ耳フードから上半身を出し、提案する。


「何か作戦でもあるっと?」


 りおなは走りながら首の後ろ側に問い質す。

 チーフはりおなの耳元に手を当て何事かつぶやく。りおなはそれを聞いて小さく頷いた。


 辺りは人通りはまばらだが、不思議な事に誰もりおなと、後方15m程後ろをついてくるフロッグマンには気づいていないかのように無関心だ。

 りおなは不審に思ったがすぐに気持ちを切り替える。


 程なく、りおなはビルの新築工事現場を発見した。

 最近通りがかった時は鉄板が敷かれているだけで、資材や重機などはほとんど無かったはずだ。

 現場入口のゲートに飛び乗り振り向く。

 フロッグマンが追跡して来るのを確認してから、りおなは現場の内側に飛び降りた。

 すぐに振り向きレイピアを構える。


 フロッグマンは高さ2mほどのゲートを易々と飛び越え、場内に入って来た。

 りおなに対して一定の距離を保つように横に移動する。


 りおなが戦闘の口火を切った。

 レイピアの刃の部分、剣針(けんしん)を敵の足元めがけて撃ちこむ。


 フロッグマンは造作もなく跳躍してかわす。針は鉄板と鉄板のすき間に刺さった。剣針と刀身の間には糸がめぐらされている。


 フロッグマンはりおなとの距離を詰め両手を振り下ろす。りおなは敵をぎりぎりまで引きつけ後ろに跳んでかわした。


 レイピアの柄を指揮棒(タクト)のように振るとレイピアの穂先、剣針が柄に戻ってくる。軽い金属音と共に剣針が元の位置に納まった。


 その様子を見てフロッグマンはさらに警戒を強めた。

 一旦飛ばしてもそのつど剣の刃が戻るなら、飛ばしている間は無防備にならない。

 逆に言えば剣針を撃ち出す、その時がチャンスだ。


「と、向こうは思うでしょう。こちらの最後の目論見が見破られないよう慎重に行動しましょう」


 チーフからの耳打ちを頭の中で復唱しながらりおなは心の中で舌打ちする。


「全く、軽く言ってくれるっちゃ」


 さっきと同じく、剣針をやや下向き、相手の足めがけて撃ち込む。手元のスイッチに親指を乗せたままだ。


 フロッグマンはかわすのと同時にりおなに向かって来る。後ろから戻ってくる剣針にさえ気をつければ相手は丸腰のはず。


「―――そう思わせられれば、攻撃の起点が作れます」


 りおなは剣の柄を腰のホルダーに差し込む。

 新たに剣針を付け替えて一歩踏み込むと、フロッグマンが振り下ろしてきた腕を斬りつけた。

 だが浅い。相手の攻撃力を奪えるほどではない。


「丸腰だと思っていた敵から反撃を受けたら、今度はこちらを動き回らせて疲弊させにかかるはずです。

 ですが、敵の機動力を奪えば勝機が見出せるのは、こちらも同じことです」


 フロッグマンはりおなの攻撃が届くかどうかぎりぎりの距離を保ちつつ、つかず離れずを繰り返す。

 工事現場のフェンスを背にし、左右にステップを踏む。


 りおなは剣針を撃ち込むが剣針はフェンスに突き刺さるだけで、針の付け根から糸が(むな)しく垂れ下がる。

 また剣の柄を振り剣針を呼び戻して剣針を撃つが、今度は砂利を敷いた地面に刺さる。


 そんな攻防を二十余り続けた頃、不意にりおなの足がもつれだした。

 左手を膝に置き肩で呼吸(いき)をしだす。


 とうとう相手が疲れ切ったのだ。フロッグマンはそう考え、悠然とりおなに近づく。


「今です!」


 チーフは鋭く叫んだ。りおなはそれを合図にレイピアを真上に振り上げる。

 押しっぱなしにしていた手元のスイッチを離す。


 その瞬間、現場のあちこちで伸びたままになっていた糸がレイピアに向かって巻き戻される。

 ピンと張った糸同士をかわす間もなく、フロッグマンは糸の結界に捕らえられた。

 逃げようにも、糸が身体に食い込み、先ほどまでのようには動けずにもがきだす。


 その様子を見たりおなは、ふう、と大きく息を吐き爪先立ちで軽く跳んだ。


 フロッグマンはそれを見て急に悟った。


 ――何度も剣針を撃ち込んできたのも、急に疲弊して動きがとまったのも――


 ―――全てこちらの陽動です。今言ったのが駄目でもあと二、三手はあります。レイピアの能力を信じて戦って下さい。


 この作戦をりおなが聞いたのは、フロッグマンに目くらましを仕掛けて逃走している時だった。

 当然、逃げながら全部把握できる訳も無く、ネコ耳フードの中からアドバイスを受けて、今の相手を捕縛する状況を作り上げた。

 フロッグマンは力任せに身体に絡みついている糸を引きちぎり、右腕の戒めを解き放つ。


 だがりおなの方が一手分速かった。

 相手が腕を振り下ろすより先に懐に飛び込んだ。

 両手でソーイングレイピアの柄を握りしめ、その切っ先をフロッグマンの脇腹に押し込む。

 そしてその勢いのまま上に跳びあがり、腹から肩口まで一気に斬り上げた。


 りおなが着地して振り返ると、切り裂いた傷口から黒灰色の煙のような粒子が立ち昇った。

 粒子は上に上るにつれ、輝くオレンジ色に変わり虚空に消えていく。


 フロッグマンはりおなの攻撃を受け驚愕の表情を浮かべ、断末魔の声を上げていた。

 傷口から光る粒子が出だすと、次第にその表情は和らぎ、粒子が出尽くすころにはふっと消えたように見えた。


「勝っ……たと?」

 りおなはフードに入っているチーフに確認する。


「はい、初戦でこれほどレイピアを使いこなせるとは、さすがはりおなさんです」チーフは落ち着いた声でりおなを激励する。


 りおなは内心思う。こいつには色々言いたい事があったが、迫りくる脅威を何とか撃退できた。今はそれでよしとしよう。



 りおながその場を立ち去ろうとすると、チーフから「りおなさん、あれを」と呼び止められた。

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