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028-2

「ことわざにもある通り『百里を行く者は九十を半ばとす』とあります。この世界だけでなく人間世界でも肩書きや数字は記号に過ぎません」


 そのリクツはりおなにもわからないでもない。

 好きなSFホラー漫画の『(いくさ)は兵力よりも勝機だよ』というセリフが自然と脳裏に浮かぶ。

 RPGのLv上げは嫌いな作業ではないが、例えばボス敵などと対決するとき、Lv頼みでゴリ押しするのはなんとなく相手に対して失礼な感じがする(あくまでりおな自身の気分の問題だが)。


「いや、それはわかるんじゃけど、チーフがLvが一番高いのに、役職は一番低いのは何で?」


「それは単純に私が一番入社時期が一番遅いからですね。Rudiblium本社には人事部はありますが社長、いえ伊澤の独断と偏見により急に昇進や降格、時には左遷などもあり得ます。ほぼ、やつのワンマン経営といって差し支えありません。 

 だから、というわけではありませんがせめて極東支部だけでも年功序列でいこうと、誰が言うともなしにですが決まりました。

 まあ、役職なんてものは記号に過ぎません。要は会社、いえ社会にどれだけ貢献できるかどうかがサラリーマンの本懐ですから。

 人間界のとある教育学者は『大多数の上司は無能である』とまで断言しています。ま、私はそうは思いませんが。

 話がそれましたね、これで街の住人たちの装備品に『心の光』、こちらでいう祝福ができるというのを印象づけられました。街を回ってソーイングレイピアで街の住人たちの装備を強化して行きましょう」


 チーフに言われるままりおなは街を巡り商店の主人の着ている服や道具に『心の光』を吹き込んでいく。

 住人たちからは当然のように感謝され、市場の主人などはりおなに対してしきりに果物などを勧めてくるが、当のりおなは『心の光』を吹き込む作業で手一杯でとても受け取る余裕などは無かった。


次に、ダンジョン内からの拾得物を売買する古道具屋『ローグ商店』に向かう。 店構えはよく言えば古風、悪く言えば日本で言えば戦後に建てられたバラックに毛が生えた程度の造りだった。

 出てきたのは向かって左側の耳に赤いサクランボのような髪飾りを着けた灰色の小さな女の子の仔猫、それに大きなワニ、さんにん組のスタフ族が奥から出てきた。


 ―――いらっしゃい。


 小さな仔猫があいさつしてくる。


「こんにちわ。えっと、この店のヒト? 店主さんて()る?」

 ひざを抱えて相手に目線を合わせて話すりおなに対して灰色の仔猫はぶっきらぼうに話す。


 ―――ウチやけど。


「え!?」と驚くりおなに対して、仔猫のスタフ族は話を続ける。


 ――本当はお父はんが店主なんやけど『大消失』で入荷がぜんぜんのうなったから、どっかいってもうたわ。 

 それでのうても『この店は品ぞろえがようない』言われてたから。だからウチがお父はんおらんあいだ、このこたちとおるすばんしとんねん。

 ウチはラーウス、みんなからはラーウとかよばれとるわ。


「ラテン語で『灰色』という意味ですね」チーフがさりげなく補足する。


このこたちは『アーター』『リーター』『ゲーター』さんにんあわせて『アリゲーター』ってほかからよばれてんねん。


「お父さんはいつぐらいかえって来ると?」


 ―――わからんわ、ある朝ウチがおきたら置き手紙があって『しばらくたびにでる。さんにんとなかよくやれ』ってあっただけやから。


 仔猫の話を聞きながらりおなはチーフに尋ねる。


「お父さんおらんのじゃったら、どうしよう、この子の服に『心の光』そそいじゃうか?」


「そうですね、冒険者ギルドが復活すれば入荷も増えるでしょうし、この子自身も見た目以上にしっかりした様子ですから」


 少し思案したあとりおなは灰色の仔猫に提案する。


「ねえ、ラーウス」


 ―――ラーウでええって。


「じゃあ、ラーウ、あんたがこの店の店主やっとるんなら、あんたの服に『心の光』入れるけんじょ、それでもいい?」


 少し考えたあと、灰色の仔猫のスタフ族は店の奥に引っ込んだ後、白いブラウスと黒いスカートを着て表に現れた。


 ―――これでええ? っちゅうかこれしかもってへんけど。


「うん、んじゃ結構まぶしくなるから、終わるまで目、つぶってて」


 言われるままに仔猫のラーウが目を閉じたのを確認してから、りおなは着ている服と赤い髪飾りに『心の光』を吹き込む。


「終わったから、目開けて」


「これであなたもここの正式な店長です。〈冒険者ギルド〉も営業を再開しますから、これから忙しくなりますよ」


 りおなとチーフから一通りの説明を受けると、仔猫のラーウは少し悲しげに天を仰ぎ一言つぶやく。


 ――ああ、ウチはRudiblium(いち)不幸な少女や。


「いや、アンタならじゅうぶんたくましくやっていけそうじゃけ、頑張って」


 りおなの一言で仔猫のスタフ族は表情を変えずりおなに返す。


 ――うん、できるはんいでやってみるわ。この子らもおるし。


 言いながらラーウはさんにんのワニに目を向ける。

 どうやら上下関係はラーウの方がはるかに上らしくさんにんがお揃いのベストを着られたことよりもラーウが商店の真の店長になったのを心から喜んでいる様子だった。

 念のためにりおなが眼鏡越しにラーウのステータスを確認すると



 名前:【ラーウス】

 種族:一般スタフ族、雑種ネコ

 職業:『ローグ商店店長』

 Lv:15

 装備品:☆白いブラウス+3 ☆赤い髪飾り+5 

 特技:商才Lv5

    鑑定眼Lv3

    値切りLv5

    高値で売るLv3


 

 

「んじゃ、色々大変だろうけんど頑張って」

 りおなは仔猫のラーウに何か自分と似た境遇を感じながら手を振りその場を離れる。当のラーウは竹ぼうきを持ってりおなに手を振り返す。


午後一杯街の中を一巡し住人たちの衣服や装備品に『心の光』を吹き込んだりおなは爪先立ちをして大きく伸びをする。

 途中途中、脳に直接栄養補給をするため『アメバケツ』から柔らかく押し固めたブドウ糖の粒を一息に何個か口に入れるが、それでもぼんやりした気分は晴れないし、無意識にあくびばかり出る。

 気晴らしとばかりに街中にあるタルやツボの中を調べてみるが、当然のように体力を一発回復してくれるアイテムが出てくるわけもなく、そのたびやんわりチーフにたしなめられていた。

 ノービスタウンを一周し一通り希望する住人の衣服や持ち物や道具、装備品に『心の光』を吹き込め終えた。

 最後にりおなとチーフは修復されて間もない建物、酒場こと〈冒険者ギルド〉の前に着いた。

 その建物は宿屋と同じくらいの大きさで修理が済んだばかりだが妙な貫禄すら漂う。


「ダンジョンとかモンスターがいて、それをやっつける仕事が〈冒険者〉っちゅうのはわかるけんど」

 りおなの問いかけにチーフは答える。


「はい」


「そもそも、ダンジョンとかモンスターってどんなんがでんの? まさか、普通のファンタジーみたいにゴブリンとかオークとかは……」


「その質問にははいともいいえとも言いかねますね。まず、ダンジョンやモンスター、クリーチャーがなぜ現れ、それを基本的に善良なスタフ族たちが討伐するか、そのあたりから説明しなければなりません」


 生真面目な、スーツを着た細身のぬいぐるみは〈冒険者ギルド〉の前でりおなに説明を始める。

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