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026-2

「えー、まだあんのー?」りおなは露骨に顔をしかめる。


「ひと通り続けて訓練した方が、全体の威力の底上げにつながります。方法ですが―――」


 チーフの講義はしばらく続き、りおなは(表面上は)おとなしく従ってイメージ訓練に励んだ。

 ――お寺のお坊さんでもこんな修行はせんじゃろなーー。


「今日はこれくらいにしましょう。たまに一連の流れを反復してトレーニングしてください」

 チーフは腕時計をちらりと見る。

「もう午後四時ですか、夕食にはだいぶ早いですし、休憩がてら外を散歩してみてはどうでしょう」


「えっ? 街の外出てもいいっと?」


「ええ、あまり遠くへ行かなければ大丈夫です。

 街の外へ出るときは門番が常駐しています。どこへ行くのか尋ねられますから、散歩に出ると答えてください」


「わかった」


 三毛猫柄のバーサーカーイシューに装備を替える。宿屋を出たりおなは人目もはばからず思い切り伸びをする。


 ――思い出すだけでもしんどかったわ。一般の女子中学生のスケジュールやないじゃろ。

 それでも何とかこなせたんは、チーフのスケジュール管理能力……じゃないわ、アメとムチじゃな。


 今までの面倒な作業や訓練を頭から追い払い、りおなは町の中心、時計台の周辺にある屋台村を賑やかす。

 そば粉のクレープ、ガレットを買ってぱくつきながらあちこち回ると、風船を持った小さめのぬいぐるみ、スタフ族がやたらに目につく。


 絵本朗読会の終わりしな、課長が無料で配っていたものだ。


 ――念入れて『バーサーカーイシュー』の外見(そとみ)を三毛猫に変えといてほんとよかった。今は声かけられても普通に返せる自信ないし。

 今は町にぎやかして買い食いに専念したいわ、いや、する。


 街の外に出るとき、街の壁の内側の小さな小屋に詰めている大きな牛のスタフ族がいた。

 少し外に散歩に出かけると告げて、りおなは街の外に出た。


 ――きのう酒場に現れた、天野たら言うはらたつぬいぐるみ おったな。

 チーフの後輩らしいけんど、思い出したらまた腹立ってきた。

 あれも最初から人間と同じかっこうじゃったら門番のひとも危ないやつじゃっちゅうて門前払いをしたんじゃろうな。

 んでもスタフ族と同じかっこうしてたからなーー。門番さんが警戒しないのもわからんでもないか。


 街に来た時一番興味を持った街の前のゲートモノリスを見上げる。


 ――チーフの話じゃとこの世界に住んでるひとたち限定で? 条件さえちゃんと一致さしたら、一回でも行った街のモノリス同士で瞬間移動できるってことじゃったな。

 んーーーー、異世界っぽいのう。


 街の外は遠くに小高い丘が見えるが、耕作地や果樹園などは見える範囲には何もない。

 ――りおなが初めてこの世界に来たとき見た荒れ地よりはまだましじゃけど、ただだだっ広いだけで、あとはなんもないな。

 チーフの話じゃと小麦とかお米、んで野菜、果物なんかの食べ物ははこっからだいぶ離れた畑とか田んぼから農家のひとらが運んでくるってことじゃったな。


 赤茶けた土しかない広い大地をぼんやりと眺めているうちに、りおなは遠くで何か動くものに気付いた。

 紺色で細長いシルエットは遠くからでも間違えようもない、ながクマだ。何かを探しているのかあちこち眺めている。


 りおなが小走りに近づくとながクマの周りには、今朝創ったばかりのミーアキャットの家族がいた。

 りおなが近づいてくるのに、ミーアキャットの子供が気付き、わらわらと集まってきた。

 ――創ってる時はしんどいだけやったけど、こうして見るとけっこうかわいいのう。


 りおなはその中の一番小さな子を抱えて、ながクマに近寄る。見ると彼は手に大きな紙を持っていた。


「ながクマ、あんたこんなとこでなにやっとうと?」


 フゥム、りおなか。頼まれてこのミーアキャットたちのパン屋を作ろうとしている。これはこの大地の地図だ。


 言いながら、ながクマは手描きの大きな地図をりおなに広げて見せた。


 ここがいまわたしたちがいる『ノービスタウン』、そしてこちらが『何もない荒れた土地』、『ウエイストランド』だ。

 ミーアキャットたちはこの荒れた大地を開墾するスタフ族たちのために、パン屋を開きたいと言っている。私はそれを手伝いたい。

 彼らは『大消失』が起こった土地に近い場所にパン屋を作りたいそうだ。


「ふーん、そうなんじゃ」


 りおながミーアキャットたちに確認すると、(せわ)しなく辺りを見回していた彼らが一斉にりおなに向き直り、こくこくと首を縦に振る。

 ――動きがハモり過ぎじゃろ。

 りおなは少し引いた。


「じゃあ、チーフとか部長に相談して、もっと南の方にパン屋作ったらどう?」


 フゥム、それはいい考えだ。街に戻って相談してみよう。

 わたしたちはもうすこしここいらの土地を見ておくがりおなはどうする?


「うーん、もう少し散歩していく」


 そうだ、『きこりのジゼポ』や『森づくりのフリッカ』、『さばくとかげのガジェット』も街の住人から荒れ地の話を聞いて、街の外の様子を見に来ているようだ。


 ながクマは地面に着きそうな長い腕を伸ばし小高い丘の上を指さす。


 あの丘の向こうにジゼポとフリッカがいる。木を植えるための準備で苗木や木の実を集めている。


「え? なんでわかると?」


 りおなは素直に驚く。

 ――身長がりおなの倍近くあるけんど、慎重高いとそこまで見通せるもんけ?


 フゥム、われわれはりおなのソーイングレイピアによって創られた。りおなの『心の光』が込められた綿が詰まっている、いわば『魂の同士』だ。

 目を閉じて少し意識を集中させれば、どこにだれがいるかはだいたいわかる。りおな、君もできるはずだ。


 ――創られてまだ間もないのに、りおなより長生きしてるみたいに話しするのう。

 りおなは言われるままに目を閉じて、先ほどまでしていたイメージトレーニングのように呼吸を深くゆっくりする。


 瞼を閉じた状態の視界に、ぼんやりとした光の塊をりおなは自分の周りに感じた。

 比較的小さくて多いのはミーアキャットたちで、ひときわ大きくて光も暖かく感じるのはながクマのものらしい。

 ――不思議な感じやね、目を閉じた状態で光の塊みたいに見えるんじゃな。


 りおなは目を閉じた状態のまま、遠くに目を凝らす要領でながクマが示した方向に意識を集中させる。

 言われた通り、ジゼポとフリッカが幼木を根っこごと掘り起こし土ごと麻袋に入れる作業を楽しそうにこなしていているのがわかった。


 ――今さらじゃけど、イヌのジゼポとワオキツネザルのフリッカが仲良く作業をしているのは少しシュールだのう。

 んでもそこがおもちゃの国ならではなんか。

 今ので分かったけど、話の内容まではつかめんけど、りおなが創ったぬいぐるみたちの位置とかどんな行動してるかは、意識を集中射してる間はなんとかわかるみたい。

 まあ、それで得があるか、まではわからんけど。


「みんな頑張ってるんじゃのう」


 フゥム、私は人間界でりおなに創られたが、この世界、Rudibliumが故郷(ふるさと)だと思っている。

 ほかの連中もそう思っているだろう。この荒れた大地を甦らすのはごく自然なことだ。


「『フゥム』、そんなもんか。んじゃ、チーフが心配しよるけ街に戻るわ。ながクマ、がんばって」


 そう言いながらりおなは一番小さなミーアキャットの子を抱いたまま街へ戻ろうとして、ミーアキャットの家族全員に厳重に抗議された。


 創った時はルーティンワークに近い作業で、りおなにとってはだいぶ辟易していたミーアキャットの家族だった。


 ――んでも抱いているうちにかわいく思えてきたっちゅうんは、特にチーフには教えんほうがいいにゃ。

 さらにぬいぐるみノルマが増えるさけのう。

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