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013-2

 身長は180cm位に縮んでいるし(それでもりおなから見ると十分大きいが)、顔立ちや服装も一般のサラリーマンと変わりがない。


 ――姿変えられるくらいなら、声もやった方がいいんじゃなかと? まあこだわりなんかもしれんけど。


「おう、すまんな」


 部長は袋を受け取ると、白牛乳とアンパンを取り出し食べ始める。

 その姿はどこからどう見ても、ドラマで見た事がある冴えない探偵そのものだ。 だが、本人たちは特に気にした様子も無い。


 ――業務用ぬいぐるみっちゅうのは、なんでも形から入るんじゃろか。

 りおなが心の中でつぶやいていると、携帯の画面を注視していたチーフが声を上げる。


「りおなさん、動きがありました。あの部屋から『種』が出ます。一旦隠れて様子を見ましょう」


 チーフに促され、りおなは監視していたアパートから少し離れて様子を窺う。

 程なくアパートの通りに面したガラス戸が開いて、小さな物体が内側から飛び出した。


「『種』だ。これで中のやつは完全にクロだな」


 ――嬉しそうじゃのう、ぶちょーー。

 夜の暗がりの中でもりおなにははっきりわかった。奇怪な生物じみた、ぬいぐるみを悪意に満ち満ちた動くフィギュアに変貌させる謎の物体―――

 りおなたちが『種』と呼んでいるモノだ。


 だが以前に見たのとは少し外見が違った。一対、二枚しかなかった羽のような葉が四枚に増えて長くなっていた。


 ――動きも前と違う。

 前のはふわふわ浮かんでいるだけじゃったけど、あれはテレビで見た小さい鳥ハチドリみたいじゃ。ホバリングしたまま動かん。


 かと思うと、『種』は高速で四枚の羽を素早く羽ばたかせ一気に飛び去った。りおなは目で追う。


「この携帯で場所を補足しているので追跡可能です。私達は後を追いましょう。部長と課長は」


「おう、引き続きやつを張っとく。今の『種』を生かして持って来い。奴に突き出せば動かぬ証拠になる」


「お願いします。ではりおなさん行きましょう」


 言うが早いかチーフは車に向かって駆け出す。りおなは部長と課長に手を上げチーフの後に続く。

 車に乗り込み、シートベルトを掛けながらりおなはチーフに尋ねる。


「変身して追っかけた方がよくない? まあ、車でもいいけんど」


「いえ、この画面を見る限り今回の『種』は時速40kmほどで移動しています。 ソーイングフェンサーの脚力では瞬発的にならまだしも、遠くに移動されたら相手を補足する前にりおなさんが疲れてしまいます。まずは普通に追跡しましょう」


 チーフは車を発進させ、りおなに携帯電話を渡す。


「携帯電話を操作しながら運転するのは、道交法違反になります。

 りおなさんは画面上の『種』の行き先を教えて下さい」


「わかった、とりあえず道なりに進んで」


 りおなはハンドル奥の速度メーターに目をやると、時速40kmをずっと指している。

 画面上部の緑色の点で表示されている点との距離が変わらないのは『種』も同じ速度で飛んでいるからだろう。

 しばらく一直線に移動していた緑の点は、直進をやめ、例えば羽虫のような不規則な動きな変わった。

 りおながチーフにそれを告げるとチーフは頷き、車や人通りの少ない路肩に車を停める。


「ここからは徒歩で『種』を追いましょう。りおなさん、携帯電話を私に」


 りおなは携帯電話をチーフに渡し車を降りる。

 チーフは運転席のドアを閉め、周りに人や車がいないのを確認し、車に携帯電話を向けボタン操作をする。車は瞬時に縦のマトリクスに変換され虚空に消える。


「『種』はこの近辺を飛んでいるようです。ぬいぐるみに憑りつく前に生け捕りにしまでょう」


 チーフは元の姿の、ミニチュアダックスの頭部を持つ小さな人形に戻る。

 それと同時にりおなはトランスフォンを耳に当て変身の文言を唱える。


「ファーストイシューイクイップ・ドレスアップ」


 りおなは瞬時に、ネコ耳バレッタを着けたソーイングフェンサーに姿を変えた。そのままチーフをネコ耳フードの中に入れる。

 ふと気づくと、ゴーグル越しに見える視界の左側にはチーフの携帯の画面にあった、周辺地図と移動する緑の点が表示されている。


 ――どうやら携帯の情報と、同期しているらしいにゃ。


 ゴーグルの内側に表示されている緑の丸印は不規則に移動し、飛び去る気配はない。

 が、相手の姿が見えないことでりおなは不安を募らせる。


「りおなさん」


 注意を促すようにチーフが声をかける。

 ――いっつも予想っちゅうんは、悪い方にだけ当たるにゃあ。


 緑色だった点は黄色に変わり、点滅するのと同時に移動をやめる。

 ――『種』がぬいぐるみに憑りついて、怪人フィギュアに移行する状態になったってかい。

 地図じゃと、人気(ひとけ)がない広い公園にいるみたいじゃけど。


 厚い雲に覆われて、湿度の上がった空気がりおなの不安をさらに煽る。


「あれです」


 チーフの声に反応しりおなは顔を上げる。

 広葉樹の葉に遮られて見えにくかったが、地面から10m程離れた中空にそれは浮かんでいた。


 おもちゃ屋に行くと、必ずと言っていいほど目にするオーバーオールを着たトラのぬいぐるみだ。

 短い手足のあどけない姿は、りおなには禍々(まがまが)しい力に捕らえられた小さな()(にえ)のように見えた。

 追撃者が来るのを待ち構えていたように、『種』はぬいぐるみに『悪意』を注ぎ込む。


 間もなく、内に抑えきれないほどの暴力性を(たぎ)らせた異形、ヴァイスフィギュアが地響きを立てて着地する。


 やり場の無い怒りを辺りにまき散らすように、咆哮を上げるフィギュアと対峙したりおな。

 目の前にいる異形に違和感を覚える。

 頭のデザインは確かに虎のそれだが、片腕や肩のあたりに生白く突起のついた細長い触手で覆われている。

 暗闇の中でもその姿は醜悪そのものだ。

 りおなはレイピアを下段に構えた状態で下唇を突き出し見たままを口にする。


「トラと……イカ?」


 ――今更じゃけんどルールがおかしい。フィギュアは元になったぬいぐるみのデザインのまま怪人になるんじゃなかと?

 能力どーのこーの言う前に、見た目が気になってしょーがない。

 シリーズ後半の合体怪人か?


 りおなが一瞬の間に色々考えていると、チーフがりおなの疑問に冷静に答える。


「今、ヴァイスフィギュアに憑いている『種』は、一度他のぬいぐるみに憑りついてから宿主を変えていますね。

 一回他のぬいぐるみに寄生すると、そのぬいぐるみの特性を引き継ぐようですね。

 おそらく目の前にいるのは今朝のニュースで報道されたのと同じ個体です」


「と、いう事は」


「『種』は放置すると、その都度ぬいぐるみの形質を取り込んで強化するようです。現段階での限度は解りませんが」


 チーフが説明を終える間もなく、目の前の異形がりおなに跳びかかってきた。

 反射的にりおなは右にかわす。

 うまく避けたはずだったが、触手を持つ虎の異形は、グネグネと動く触手をりおなに向けた。

 飛びのいた体勢を立て直すより先に、左肘に鋭い痛みが走る。

 りおなが目をやると、体長40cm程の烏賊(イカ)が腕にまとわりついていた。


「うぎゃあ!」


 生理的な嫌悪感で、思わず品の無い悲鳴を上げた。

 レイピアの切っ先を烏賊(イカ)の胴体に突き刺す。

 幸い、一撃で腕の異物はオレンジ色の光になって消えた。


 息つく間もなく虎の頭を持つ怪物は、りおなに突進し左の剛腕を振り下ろす。

 それに対してりおなは右腕の攻撃を警戒して、前に踏み込まず腕の軌道を逸らすためにレイピアで合わせる。


「ぐっ」


 予想はしていたが、派手な衝撃音と共に右腕が痺れる。さっき烏賊に喰いつかれた以上のダメージだ。

 今の攻防で相手の手の内が少しは読めたが、それは同時に楽には勝てないという事実をりおなに突き付けていた。


 ――今まで何人かフィギュアと戦ってきたけど、前のやつより強くなっとるわ。


 以前二体同時に戦ったことがあったが、今感じているプレッシャーはその時の比ではなかった。


「ふむ、あまり(かんば)しくありませんね。

 『種』にとりつかれたフィギュアは一定時間暴れるなどして悪意を周りにまき散らした後、『種』とぬいぐるみが分離するようですが」


「そん時またパワーアップするってこと?」


「そうです。だから、『種』をなるだけ傷つけず、依り代になっているぬいぐるみを分離させるように切り離すのが必須条件ですね。

 状況証拠だけで、あのアパートの住人に詰め寄るのは少々弱いでしょうから」


「今度こそ、火の玉とか出せん? 焼きイカにしちゃるけ」


 軽口を叩きながらりおなは状況を整理する。

 相対する怪物の地力は今までのよりはるかに上、接近戦は不利になる、とはいえ―――


「火の玉は無理ですが魔法は有効かもしれません。グミショットの連射で牽制しつつ攻撃しましょう」


 だがこの試みは失敗に終わる。

 相手が右腕から紡錘状の烏賊を撃ち出すのを魔法の砲弾で相殺し、もう一発を相手の胴体に命中させた。

 しかし、筋骨隆々とした異形の身体は、吹き飛ぶどころかたじろぎもしない。痛痒(つうよう)を感じていないように臨戦態勢を取る。


「スーパーアーマーじゃと?」


 りおなは思わず口走る。実際に相手にダメージを与えた様子は無い。

 ――いっそのこと持久戦に持ち込むか? 


 突破口が見えない現状で、思考が後ろ向きになる。こんな時に、と思うが湿度の高さと汗で、額に前髪が張り付き焦燥感を煽る。




 その時だ。


 りおなは不意に背中に涼しい風を感じた。視界の下方に、黒く切り取られた自分の影が飛び込んで周りの砂がやけに白く感じる。


 雲の切れ間から月光が差し込んだのだ。


 面前の虎の視線がりおなに向けられず、はるか後方に注がれているのに気付いたりおなも、思わず後方を振り向く。



 その視線の先には、満月の光を背負った女性が一人立っていた。

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