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009-1 異 形 magna-roaders

 しおりからの返信メール。二人とも

【一旦家に帰って着替えてからマグナに集合する】

 とあった。

 りおなはしおり宛に返信し、さらにママ宛に少し遅くなるからとメールを送った。


 それから、マグナに寄る前に雑居ビルの間に入り、トランスフォンの機能を使って一瞬で早着替えする。


 ――トランスフォンの機能で着替えるんは便利じゃけど少し後ろめたいにゃあ。

 ビルの間から通りに出るとき、必要以上に左右を確認してしまう。


 二人と合流する前に、よく利用している書店に立ち寄った。

 チーフが説明していた絵本

 『エムクマとはりこグマ』を買った。


 ――ちゃんと売ってあってよかったわ。

 もし無かったら本屋で注文しょうかと思ってたけど、ちょうど一冊だけ置いてあったわ。

 やっぱしりおなは日頃の行いがいいからのう。

 平積み売りじゃないけん、いうほど部数出てる絵本やないみたいじゃな。


 すぐ読みたかったが、りおなはマグナローダースバーガーに向かった。


 マグナに到着、カウンターではちのすワッフルのホイップクリーム添えとコーヒーを注文した。

 自分の財布で会計しようとしたら、麻袋に入ったチーフがりおなが財布を出すのをやんわりと手で制してきた。

 

 ――うーん、やっぱし罪悪感あるにゃあ。


 トランスフォンの電子マネーで精算する。

 三階まで上がると、窓際の席でしおりとルミが待っていた。二人を見つけたのでりおなは手を振って二人がいる席に座る。


「ああ、りおな、よかった無事で。あの小っちゃい子どうしたの?」しおりが尋ねてくる。


「ああ、(けい)ちゃん? うん、無事家まで届けたけ、心配いらん」


「りおな、あの公園のなんだったの?」


 と、ルミ。目の前で起こったことが、少なからずショックだったらしい。


「あー、あれ、ドッキリかなんかじゃなかと? テレビクルーみたいの何人かおったし」


 ――まさか本当の事言うわけにもいかんし。


「ねー、あれってさー」しおりが声のトーンを一段低くする。


「昨日の学校の屋上であった、ポルターガイストと同じじゃない?」ルミも声を潜める。どことなく楽しんでいる風でもある。


「あー、そうかもしらんね」


 ――必要以上に違うとか言うとすると、かえって怪しまれるけんのう。


「ねえ、話変わるんだけど」と、今度はしおり。話題を変えてもらうのはりおなとしてはありがたい。


「その人形、交番に届けるとか言ってなかった?」


 麻袋に入ったチーフを指さして言う。


「あーこれ?」


 りおなはチーフを袋から取り出す。

 チーフは当然のように物言わぬ人形として、顔の前に両手を出す妙なポーズのまま動かずにいる。

 りおなはもう見慣れたが、頭身の高いスーツ姿で首から上がミニチュアダックスフントの人形は、二人には新鮮に映るらしい。


「ああー」


「やっぱりねー」


 しおりとルミは顔を見合わせ口々に言う。


「え、何が?」


 りおなは二人の言っていることが何か呑み込めなかった。


「交番に届けるって言ってからねー」


「ずっと持ってるよねー」


 二人してドロボーだ着服だと騒ぎ出す。

 どちらかというと面白がっているような口ぶりだ。

 

 ――どうせそうは思ってないんじゃろが、チーフをダシにしてからかわれるんは居心地悪い。


 何とか弁明しようとして言葉をつなごうとするがうまい説明が出てこない。


「これを拾った放課後、持ち主の人に偶然会って。

 んで、前破けてたんで縫い合わせて返したら、持ち主の人に感激されて、持ち主の人がこれは運命だから差し上げますとか言われてそのまま持っとる。

 変なケータイはモニタリングして欲しいって渡された」


 ――言い訳っぽいけど嘘は言っとらん、よな?


「あー、それたぶん一回破けたからいらないって事だよ」


「よくあるよね。

 妙にリアルだけど、どういう人形なの?」ルミが訪ねてくる。


「えっとね、なんか知らんけど、どっかの会社で開発中の試作品のおしゃべり人形」

 ――一番ボロが出ない説明じゃとそうなる。


「おしゃべり人形?」


「うん、お腹押しながら顔に向かってしゃべると、リピートしてくれるっちゃ。

 あと、調子がいい時は、鼻の先がひんやり湿ってるって」


 後の情報は、いつだったか本人が言っていた。

 さっそくしおりがチーフを持って鼻の先をそっと触る。


「ほんとだー!」


「え、うそー、ほんとにー?」


 しおりとルミは、かわるがわるチーフの鼻を触る。

 完全に文字通りのオモチャにされていた。

 ひとしきり鼻を触って面白がったあと、ルミはチーフの腹部を押しながら彼の顔に自分の口を近づけて話しかける。


「こんにちは、ルミちゃん。あの、辛い事があってもくじけずに頑張ってね」


 りおなの同級生、藤島ルミは普段はともかく、時たま周りが引くぐらいネガティブな発言をする事がある。

 ――いっつもそんな事無いって言っとるんじゃがなあ、なかなか治らんわ。


 りおな達は毎度の事なので特に気にしないが、他のクラスの生徒にはやはり奇異に映るらしく、他のクラスのりおなの小学校からの同級生からは

 『少女マンガでたまにヒロインになる不幸自慢の(さち)うっすい子』

 という評価を受けていた。


 ――りおなは……まあ間違っとらんと思うけど、本人にそれ言うとさらにヘコむじゃろうから言わんとこう。


 その『くじけずに頑張ってね』攻撃の尊い(?)犠牲になった、おしゃべり人形を演じているチーフは、最初に聞かされた台詞を健気(けなげ)に連呼している。

 事情を知っているりおな、事情を知らないしおり。

 それぞれが言いたくもないだろう台詞を延々と繰り返すぬいぐるみ相手に同情し、心の(うち)でそっと合掌した。


 心ゆくまで台詞を繰り返して言ってもらい、満足したルミはチーフをテーブルに寝かせた。

 かわりにバッグから携帯ゲーム機を取り出すと、りおなとしおりもそれに倣いそれぞれゲーム機をテーブルに出す。


 ――チーフの仲間が作ったらしいけど、りおな用のシュミレーション(・・・・・・・・)プログラムじゃけど、本当のことを言う訳にいかんからなあ。


 公園では図らずも実戦で戦う羽目になってしまったため、ゲームで訓練というのは流れてしまった。  が、今はファーストフードの店内だ。

 りおながふとチーフに目をやると、友達や二人や他の客に気付かれないようりおなに向けて目配せをしている。

 りおなは、すぐ彼を指定席の麻袋に入れる。メールで指示を仰ぐためだ。


 携帯ゲーム機に電源を入れ、起動中にブラン入りのはちのすワッフルにホイップクリームをたっぷり載せて紙ナプキン越しに(つか)んで一口頬張(ほおば)る。


 ――りおなはゲーム中にお菓子食べるときはものすごい神経使うけんね。

 特にボタンに油汚れつくんは理由なんて関係ない、万死に値する大罪じゃ。


 ワッフルの香りや歯ごたえを楽しんでいると、無機質な選択画面が現れた。

 画面に目をやるとバージョンアップしたのか、アバターが三人に増えている。

 いつの間にモデリングしたのか、しおりとルミらしきデザインで、動物の耳を模したカチューシャを着け変身ヒロインものによく見られるような派手な衣装を身に着けていた。


 りおなは当然ソーイングレイピアを装備した、ネコ耳のアバターを選択する。

 他の二人は自分そっくりのアバターを見て無邪気にはしゃいでいる。

 しおりは黒のロングヘアでうさ耳のアバター、ルミはショートボブでビーグル犬のようなたれ耳のアバターをそれぞれ選択した。


 さて始めようか、という時にりおなの自前の携帯にメールが入る。開いてみると案の定チーフからだ。


【今回は移動や回避のスキルを重点的に訓練します。

 敵の攻撃を避け反撃に転じるためのスキルは、時として攻撃そのものよりも重要な場面が多々あります。

 敵に攻撃させる出掛かりを封じて戦いを有利に勧めましょう】


 メールに目を通したりおなは、魔法の訓練じゃないのか、と内心(いぶか)る。

 が、まあいってもゲームでの話だ。やられても死ぬわけじゃ無いけん、楽しもうと移動や回避の特技のリストを開きボタン操作や技の名前を確認する。

  

 ――なんじゃ? 関係なさそうなんあるけど。一応確認だけしとくか。


 市街地を模した仮想空間で対戦が始まると、りおなはアバター間の理不尽ともいえる戦力差に驚いた。

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