第五章‐2
セントラルピラーの外部では、テロ対策部隊が突入を開始している。第一首星防衛師団第一連隊第一大隊の隊員のうち、飛行魔法が使える者たちは、地上数十メートルの高さでセントラルピラーを囲み、そこから上に行くことを阻止している魔人兵たちと戦闘を繰り広げていた。ここを突破しないと、爆発物処理班を爆発物が仕掛けられているという高度五百メートルほどの地点まで送り届けることが出来ないのだ。上からもたらされた情報で、魔人兵の弱点は眉間の紅い石だと聞いてはいたが、動きが素早く、なかなかその小さな石を狙うことが出来なかった。動きを止めようにも、拘束魔法を仕掛ける端からその拘束を力任せに引き千切られてしまう。その上、その装甲は硬く、攻撃力は常識外れに高い。隊員たちは五人から十人掛かりで、ようやく魔人兵一体と互角に渡り合うことが出来ていた。それでも、時折、魔人兵の安全装置の掛かっていない光弾や光剣を受けて、負傷者が出ている。幸いなことに、現在のところは死者は出ていないが、それも、戦闘が長引けばどうなるかわからない。
そして、今まさに、隊員の一人の目の前に高速移動してきた魔人兵が、唸りを上げる巨大な光剣を振り上げて襲い掛かろうとしていた。
「っ!」
その隊員は、絶望的な思いで、自分の光剣でその巨大な光剣を受けようとする。と、その瞬間、魔人兵が眉間の紅い石を撃ち抜かれて頭を仰け反らせた。遅れて、ドンッという重い号砲が辺りに響き渡る。
「……狙撃!?」
どこからかはわからなかったが、狙撃兵に援護してもらえているらしい。その事実が、隊員たちの士気を上げる。彼らは意気を高くして、次の魔人兵に向かっていった。
「命中を確認。次の標的を選定します」
「あいあい」
セントラルピラーから一キロほど離れたビルの屋上で、伏射姿勢で長大な銃身を持つアンチマテリアルライフル型の魔装銃を構えているアリーセ=フィアリス軍曹は、観測手であるサーニャ=ストラビニスカヤ伍長の言葉に、軽く返事をする。
「新たな標的を選定完了」
十秒もしないうちに、サーニャが再び口を開いた。
「データリンク。座標転送。重力偏差、コリオリ偏差、修正」
観測魔法用の一対の青白い魔力のアンテナをこめかみの左右から生やしたサーニャが肩に置いた手から、弾道に影響する様々な要素の修正を加えた標的の位置座標データが、アリーセの脳裏に映像付きで送り込まれてくる。
「データ受領ぉ。魔力増幅ぅ。たーげっと、ろっくおん。有象無象の区別なくぅ、あたしの弾丸は容赦はしないわぁ」
アリーセは、魔装銃の照準用ディスプレイに映る魔人兵の眉間の紅い石に照準を合わせた。そのディスプレイに映し出されているのは、サーニャから送り込まれてきた、修正済みの座標データを反映した映像だ。そのサーニャが修正を施してくれた座標データがあるおかげで、アリーセは難しいことを考える必要もなく、照準を標的に合わせるだけで済む。アリーセとサーニャも、先ほどのエリカとアマーリアの念話を聞いていたので、魔人兵の弱点が眉間の紅い石であることはわかっていた。故に、狙うのはその一点だけだ。その石を破壊すると魔人兵の命を奪ってしまうということも聞こえてはいたが、アリーセに迷いはなかった。あれは、先日の事件のときにアッシュに取り憑いていた、よくないものだ。それを取り外して元に戻す手段がないことは、そのときにサーニャが保証している。ならば、速やかにそれを破壊し、取り憑かれた人の魂に平安をもたらしてあげるのが最善だろう、と思い込むことにした。躊躇ってはならない。狙いがぶれてしまう。アリーセは口の中で小さく祈りの祝詞を呟くと、誰にも真似の出来ない最速の射撃魔法を起動した。
「『スカーレット・ソニック・ライフル』、しゅーとぉー!」
魔装銃が内蔵する魔力増幅装置を通って増幅された膨大な魔力の大半を、その初速度の為の運動エネルギーに転化した、実に音速の五倍近い初速度の魔力弾が発射される。発射された魔力弾は、あまりの速さで目に見えない。ただ、ドンッという重い号砲が響くだけだ。サーニャの観測魔法による望遠モードの視界には、狙い過たず、狙撃用の超音速魔力弾が標的の魔人兵の眉間の紅い石を見事撃ち抜くところが映る。
「命中を確認。次の標的を選定します」
「あいあい」
淡々と射撃の結果を告げるサーニャに、アリーセは先ほどと変わらぬ軽い返事をした。彼女とて、魔人兵の命を奪っていることをなんとも思っていないわけはない。しかし、アリーセがそれについてなにも言わないのならば、自分もそれについて触れるべきではない、とサーニャは思う。
「あと、どれくらいいるのかなぁ?」
魔装銃を構えた姿勢はそのままに、アリーセが残りの魔人兵の数を尋ねてきた。おかっぱ頭の左右から一対の青白い魔力のアンテナを生やしているサーニャは、セントラルピラー周辺の様子を常駐型の観測魔法で常に広域探査している。サーニャは、その観測の結果を簡単に要約してアリーセに伝えた。
「この高度に残存する魔人兵は十三体です。そのうち七体は、ここからではセントラルピラーの陰になって狙えません。狙撃ポイントの移動を推奨します」
「あいあい。……エリカとアッシュは大丈夫だよねぇ?」
アリーセは、今度は展望台に突入しているはずの二人を心配した発言をする。展望台の内部には、テロリストの魔法使いによって観測魔法に対抗する妨害魔法が仕掛けられており、サーニャの広域探査でもその内部の様子はわからないのだ。
「済みません。展望台の内部には、妨害魔法が仕掛けられていて、観測魔法が効かない為、お二人の現在の様子もわかりません」
こんなとき、きっと大丈夫ですよ、とでも言えればいいのだろうが、サーニャにはこういう言い方しか出来ない。その不器用な性格をよく知っているので、アリーセは気にしていないことを表すように、屈託ない言葉を返す。
「うん。そうだったねぇ。じゃあ、出来るだけ早くみぃんなやっつけて、上のエリカたちを助けに行かなきゃねぇ」
一見、暢気にも聞こえるアリーセの言葉だったが、彼女なりに真剣な思いが込められていることをサーニャは知っている。だから、黙って頷いた。魔装銃のディスプレイを注視しているアリーセには、その仕草は見えなかっただろうが、なんとなく気持ちは伝わっただろうという確信がある。サーニャは広域探査で捕捉した新たな魔人兵の位置座標データを、その気持ちと共にアリーセに送った。
「新たな標的を選定完了。データリンク。座標転送。重力偏差、コリオリ偏差、修正」
「データ受領ぉ。魔力増幅ぅ。たーげっと、ろっくおん。『スカーレット・ソニック・ライフル』、しゅーとぉー!」
アリーセが、狙いを定めてコマンドを唱える。長大な銃身を持つアンチマテリアルライフル型の狙撃モードの魔装銃から、また一発の狙撃用超音速魔力弾が発射され、新たな魔人兵の眉間の紅い石を撃ち抜いた。




