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第四章‐2

「アッシュ。傷は大丈夫ですか?」

 祈りを終えたエリカが強風になびく長い黄金色の髪を押さえながら、左肩を押さえて呼吸を荒くしているアッシュに近付いてきて、声を掛ける。アッシュは、痛みに左目をきつく閉じながらも頷いた。

「ああ……。油断したぜ……。どうやら、左肩と腕の骨が折れて、腕の筋肉もズタズタに千切れちまったみたいだ」

「えっ!? 大変ですわ! 早く治療しないと!」

 予想以上に酷い負傷具合に、エリカが焦って治療魔法を起動する。

「『ヒーリング』」

 エリカがコマンドを唱えるが、彼女の持つ簡単な治療魔法では、骨折も筋肉の断裂も治せない。せいぜいが痛みを和らげ、皮下での出血を抑える程度だ。千切れかけたアッシュの左腕の上にかざしたその手の下に、黄金色の魔法陣が浮かび上がる。

「あぁ、サンキュ」

 エリカの数十秒の魔法治療によって、とりあえず痛みだけは和らいだが、肩の骨が砕け、上腕部の筋肉が断裂したアッシュの左腕は、ぶらんと垂れ下がったままでほとんど動かせなかった。しかし、それでも、あの魔力弾が頭や胴体に命中しなかっただけ、幸いだったと言えるのかもしれない。頭は勿論のこと、内臓でもやられていたら、下手をすれば即座に命に関わっていただろう。その魔力弾を受けた左腕には外傷はないので出血はなかったが、破れたシャツの袖から覗く肌色は、その治療魔法では治しきれなかった内出血で酷い色をしている。

「申し訳ありません。私の治療魔法では、この程度が限界です。魔法治療はサーニャの担当なもので……」

 済まなそうにエリカが言った。しかし、アッシュも同じ治療魔法しか持っていないので、どちらにしても同じことだ。

「いや、十分だ。とりあえず、これでなんとかいけるぜ。後で、サーニャにきちんと治療してもらうまでは、どうにか保つだろう」

 アッシュは強がるが、エリカは首を振った。

「魔法治療はこれ以上出来ませんが、せめて出来る限りの応急手当をしましょう。アッシュ、服を切りますよ」

 エリカは、アッシュのシャツの破れた左袖を肩から切り取る

「なにか、棒のようなものは――」

 添え木にするつもりなのだろう。そう呟いて、エリカは身の周りを探ってみるが、使えそうなものは身に着けていなかった。思わず辺りを見回してしまったものの、生憎ここは地上一千六百メートル以上の空中だ。応急手当に使えるようなものが見付かるはずもない。エリカの意図を察して、アッシュが言う。

「魔力剣じゃ、ずっと維持しておかないとならないから現実的じゃないな。――そうだ。エリカ、それ、貸してくれ」

「どうするおつもりです?」

 問い返しながらも、エリカはアッシュに切り取った彼のシャツの左袖を渡した。アッシュはそれを適当な長さに折り畳む。

「『硝子の棺』」

 アッシュのコマンドで、箱型の断熱結界が、その切り取られた袖を包み込んだ。結界内の分子の運動が停滞する。空気中の水分が凝固して、切り取られた袖が凍り付いた。

「こうすれば、添え木として使えないか?」

「ですが、それでは、今度は縛るものがなくなってしまいましたよ?」

 エリカは苦笑して、アッシュのシャツのもう片方の袖か、自分のブラウスの袖のどちらを切り取ろうかと思案する。しかし、アッシュは凍って棒のようになった袖を左腕の患部に当てながら言った。

「それなら問題ない。こいつを固定出来ればいいんだよな? ちょっと、押さえててくれないか? いい手がある」

 エリカは首を傾げながらも、言われた通り、アッシュの左腕に凍って棒のようになった袖を当てて押さえる。アッシュは魔装具を着けた右手をその左腕にかざして、目を細めていつも以上に集中した。

「『茨の冠』」

 細心の注意を払って座標指定をした拘束魔法が起動する。アッシュの左上腕部の周りに三つの小さな影色の光輪が出現し、きゅっと締まると、そこに添えられた凍った袖をその左上腕部に固定した。エリカは驚嘆する。この座標指定型拘束魔法が、これほどまでに精緻に座標指定が出来るものだとは思わなかった。それに、このように小さな拘束用光輪は見たことがない。その左腕の具合を確かめながらアッシュが言う。

「これで大丈夫だろ?」

「……えぇ。確かに、きちんと固定出来ているようです。ですが、拘束魔法を自分に掛けてしまっては、ここから動けなくなってしまいませんか?」

 エリカが不安要素を挙げるが、アッシュは首を振った。

「この拘束は絶対座標じゃなく、自分の重心を基準にして相対座標で指定したから、左腕がここに固定されちまうってことはないよ。むしろ、身体の重心に対して固定されるから、ちょうどいいくらいだ」

 エリカは、そのような座標指定方法が出来ることを初めて知る。本当にこの人は拘束魔法に習熟している、と感心した。しかし、不安要素はもう一つある。

「そうなのですか。ですが、この拘束魔法で、魔力の働きも阻害されてしまうのでは?」

「あぁ、魔力の働きを阻害する効果も、この小ささならほとんど影響ないな。ちょっと左腕に魔力が通り難くなるくらいだ。どうせ左腕は使えないから、問題はないだろう」

「それならいいのですが……。それにしても、この拘束魔法が、このように小さなサイズで構築出来るものだとは知りませんでした」

 エリカが言うと、アッシュは平然と言葉を返す。

「いや。こいつはサイズを任意に変更出来るように改良したんだ。ほら、チッピィと戦ったとき、相手が大き過ぎて、ちゃんと全身を拘束出来なかったろ? そういうサイズの違う相手対策に、カスタマイズしてみたんだ。逆の用途で使うことになるとは思わなかったけど。昨日の晩、新しい魔法のインストールをした後、時間があったからやっておいたんだけど、ちょうどよかったな」

 エリカは再び驚嘆した。アッシュは簡単に言うが、一晩でこれだけのカスタマイズを行うことは、自分には不可能だろう。それをいとも容易くこなしてしまう彼の才能と腕は、やはり相当のものだ。

「腕はこれで千切れる心配はなくなったけど、肩の骨折はどうにもならないな……」

 アッシュは左肩に手を当てて言う。

「そうですね。本当は、肩のほうもどうにかして固定するべきなのでしょうけれど……」

 エリカは憂い顔で言うが、アッシュは口の端に笑みを浮かべた。

「いや、逆だ。どうにか動かせるようにならないかと思ったんだけど」

 危機感のないアッシュの言葉に、エリカは少し叱るような口調で言う。

「なにを仰っているんですか。左腕は決して動かさないようにして下さい」

「そいつは難しい注文だな」

 アッシュが苦笑する。

「この後、戦闘がなければいいけど、そうもいかないだろうしな」

「……はい。そうですね……」

 アッシュの言葉に、エリカも渋々ながら同意せざるを得なかった。彼の言う通りだ。おそらく今後の戦闘は避けられないだろう。エリカは顔を上げた。

「アッシュ。貴方だけでも地上に――」

「先に逃げろ、なんて言うなよ? エリカ一人に任せて休んでたんじゃ、男として格好が付かない。足手まといにはならないからさ。断られても、一緒に行くぜ」

 アッシュは不敵な笑みを見せて言う。口調は軽いが、その決意は固いのだろう。エリカは、それ以上のことを言えなくなってしまった。

「……わかりました。でも、けっして無茶はしないで下さい」

「ああ」

 エリカの言葉にアッシュが頷くが、おそらく、彼は無茶をする。先日の事件の経験から、エリカはそう思った。止められないのならば、出来る限りのサポートをするしかない。エリカはもう一度、彼の負傷した左腕の具合を診て、まだ出来る手当がないか、士官学校で習った応急手当の講義を思い返してみた。しかし、彼には悪いが、エリカにもこの状況ではこれ以上の手当は出来そうにない。

「申し訳ありません。出来る応急手当も、これで精一杯です」

「いや、十分だ。サンキュ」

 十分な手当が出来ず謝るエリカに、アッシュが応じる。どちらにせよ彼は、治療魔法の痛み止めだけで済ませようとしていたのだ。これだけの応急手当をしてもらえただけでもありがたかった。エリカも頭を切り替える。出来ないことやこの先のことを思い煩っても、どうにもならない。今、出来ることをやっていくべきだろう。

「では、アッシュさえよければ、手分けをして、セントラルピラーの外縁部を調べてみましょう」

 エリカが強い風に乱れる長い黄金色の髪を押さえながら提案する。高度一千六百メートルの高空は、相変わらず風が強い。流されないように飛行魔法を制御しながら、アッシュは彼女の言葉に頷いた。

「ああ。OKだ」

「私の推測が正しければ――」

 エリカは思案顔で、独り言のように呟く。そうして、二人は展望台の周囲を警護する魔人兵の反応する範囲に入らないように注意しながら、展望台の下辺りまで戻った。そこから二人で手分けをして、二重螺旋を描くようにセントラルピラーの外側を回りながら下へ向かって飛行し、なにか変わったところはないか調べていく。そうして調べていくと、セントラルピラーの地上から四分の一くらいのところでエリカが下降するのを止め、アッシュに念話で呼び掛けてきた。

(――やはり。アッシュ、ありました)

 なにかを見付けたらしいエリカの言葉に、セントラルピラーの反対側にいたアッシュは、それを回り込んで彼女のほうへ近付いてみる。彼女が指し示す辺りを見ると、複雑に組み合わされたセントラルピラー外縁の柱の二十本以上に、なにかの装置が仕掛けられていた。アッシュが読み方を覚えたばかりの、このセレストラル星系の数字をカウントダウンさせているそれらは、どう見てもスパイ映画等で見るような――、

「これ、時限爆弾じゃねぇのか!?」

「はい。おそらく」

 アッシュはエリカを振り返った。

「エリカ、なんとか出来るか!?」

「申し訳ありません。爆発物は専門外です……」

 エリカがしゅんとして言う。だが彼女も、そう、なんでも頼られても困るだろう。アッシュは、無意識に彼女に頼り過ぎていたことを軽く反省する。そこで、自分の持つスキルでなんとか出来ないかと考えてみた。

「――こいつを一個一個、耐物理結界で覆ってみたらどうだろう?」

「そうですね……。いえ、どのように結界を張っても、爆発物の仕掛けられているその柱だけは、どうしても破壊されてしまいますね」

 エリカは、そのアッシュの提案を検討してみたが、結局、首を振る。自分の考えをまとめるかのように、言葉を継いだ。

「建築学も専門外ですけれど、これだけの柱が破壊されれば、おそらく、セントラルピラーの倒壊は避けられないでしょう。そうすると、折れたセントラルピラーは、こちらの方向へ倒れて――」

 と、エリカはそれらの柱が爆破されたときに、セントラルピラーが倒れると思われる方向へ振り向く。その方角には、先刻、展望台を観光していたときに教えてもらった、このセレストラル星系連邦の立法府が見えた。

「連邦議会議事堂! このセントラルピラーを倒して、あれを破壊するのが、彼らの真の目的ですの!?」

「なんだって!? あんなもんを壊して、なんの意味があるって言うんだ!?」

「……おそらく、意味などないのでしょう。単なる、彼ら、ディーダ・ギルガル民族解放戦線の示威行動ですわ」

 愕然としたアッシュの疑問にエリカが答えるが、彼女とてそれほど冷静なわけではない。内心では、アッシュ同様、大きな衝撃を受けていた。ただ、軍人として受けた訓練が、彼女を少なくとも表面上は冷静でいるように見せているだけだ。

「くそっ! そんなくだらないことの為に! なんとか、爆弾を止めないと!」

 焦ったアッシュが叫ぶが、現実問題として、爆弾解体の技術など持ち合わせてはいない。スパイ映画等では、時限爆弾を分解してみると中には赤と青のコードがあって、そのどちらかを切ればタイマーが止まる、という展開が古典的定番だが、現実にはそう簡単ではないはずだ。これもマンガかドラマ等で得た知識だが、解体されるのを防ぐ為、振動や感光で起爆するような機構が仕掛けられていることもあるらしいので、素人が迂闊に、とりあえずで分解していいようなものではないだろう。

「タイマーは、あとどれくらいだ!?」

 アッシュはカウントダウンされている数字を読んで、自分の星の時間の単位に換算しようとする。だが、それより早く、エリカが答えてくれた。

「もう、十五分ほどしか残っていません」

 彼女は、このセレストラル星系の時間の単位で答えたのだろうが、自動翻訳されたそれは、アッシュの星の時間の単位に換算されて耳に届く。

「十五分!?」

 その残り時間を聞いて、アッシュは焦った。たったそれだけの時間で、なにが出来るのか。彼は素早く考えを巡らせた。

 ――この時限爆弾を止める方法を知っている相手に、それを聞くしかない。

「その時間内に、なんとかテロリストの親玉を取っ捕まえて、時限爆弾の止め方を聞き出すしかないな」

 エリカが、少しの思案の後、賛同した。

「はい。その方法しかないと思います。ですが、展望台内の武装集団を制圧しようにも、あれだけの数の人質がいては……」

「人質のほうは、なんとか出来ると思う。ただし、それには、人質の近くにいるテロリストどもを引き離さないとならないけど」

「でしたら、それは、私が引き受けましょう。私が囮になって彼らを引き付けます。アッシュは、その間に人質の安全を確保して下さい」

 アッシュの提案する方針に、エリカがすぐさま頷く。それから、思い至って、再び口を開いた。

「私たちの今後の行動指針はそれとして、それとは別に、念の為、下で待機しているはずの対策部隊に連絡して、爆発物処理班を呼んでもらいましょう。もしかすると、爆発物の解体が間に合うかもしれません」

 エリカの提案に、アッシュも頷く。

「ああ、そうだな。じゃあ、エリカは念話で下のアリーセとサーニャに連絡してくれ。その間に、すぐに展望台の中へ――ちぃっ!」

 言いかけたアッシュが舌打ちをする。見ると、上から、また新たに一体の魔人兵が下りてくるところだった。魔人兵が不気味な唸り声を上げ、先ほどの個体と同じように、五十発ほどもの光弾を射出する。アッシュは先刻の経験から、今度は常駐魔法の防御魔法陣(シールド)を展開するような愚は犯さない。しかし、彼らの背後には、時限爆弾が仕掛けられたセントラルピラー外縁部の柱があった。この魔人兵の物理的破壊力を備えた魔力弾の流れ弾が、セントラルピラー外縁部の柱や、最悪、時限爆弾に当たるようなことになっては目も当てられない。咄嗟にそう判断したアッシュは、強固な防御魔法を起動した。

「『魔神の掌』!」

 アッシュの眼前に、迫る光弾の弾幕の全ての弾道をカバーする、直径二十メートルほどの巨大な影色の防御魔法陣(シールド)が展開する。五十発ほどの光弾の群れが、次々にその防御魔法陣(シールド)に衝突した。アッシュは過剰なくらいの魔力を注ぎ込んで、その防御魔法陣(シールド)を維持する。

「くぅ……おぉぉー!」

 アッシュの喉から、自然と雄叫びが漏れた。ドカンドカンとまるで連続で砲撃を受けてでもいるかのような手応えが伝わる。彼の鉄壁の守りを誇る防御魔法陣(シールド)は、五十発の桁外れの威力を持つ光弾を見事に防ぎきった。

「アッシュ! 無事ですか!?」

 大きく移動してそれらの光弾の弾幕から逃れていたエリカが、アッシュに安否を問う。

「ああ、なんともない! だけど、こんなこと、何度も繰り返してられねぇぞ!」

 アッシュは巨大な『魔神の掌』を消して答えた。エリカが言う。

「先ほどと同じように、セントラルピラーから離れたところまで誘い出して戦いましょう!」

 二人は顔を見合わせて頷き合うと、セントラルピラーから離れる方角へ飛行した。魔人兵がその後を追ってくる。やはり、どうあっても、この二体目の魔人兵の相手もしなければならないようだ。だが、爆弾の件も一刻を争う問題だった。エリカは魔人兵の相手をしながら、念話で通信をする。

「『ライトニング・サーベル』!」

(アリーセ! サーニャ!)

(あぁー! エリカぁ! 心配してたんだよぉ?)

 アリーセ=フィアリス軍曹から、彼女の身を案じる返事がくるが、それに答えている余裕はなかった。エリカは無駄と知りつつ、向かってくる魔人兵に牽制の突きを放ちながら、必要事項を彼女らに尋ねる。

(先ほどの情報は、軍の対策部隊に伝えましたか!?)

(はい。伝えました)

 サーニャ=ストラビニスカヤ伍長が簡潔に答えた。

(あのねぇ、ロスロレンツィ少尉がいたのぉ。だからぁ、あの少尉殿に伝えておいたよぉ)

(アマーリアが?)

 最低限のことしか言わないサーニャを補足するようなアリーセの言葉に、エリカは魔人兵の振り下ろす光剣を避けながら考える。それならば、今後のことは、直接、アマーリアと通信したほうが話が早いだろう。

(あのいけ好かない高飛車女か)

「『鋼の(あぎと)』!」

 アッシュが念話に割り込みながら、先ほどと同じ手で魔人兵を拘束しようと、コマンドを唱えた。しかし、少し距離が遠かったのか、次のコマンドを唱える前に、魔人兵は閉じる拘束魔法陣から脱出してしまう。アッシュは舌打ちして、魔人兵との距離を詰めようと前進した。だが、せっかくエリカが魔人兵を引き付けてくれているのだ。近付き過ぎて、攻撃目標をこちらに変更されるようなことは避けたかった。

(そういや、あの高飛車女は首星防衛隊だってエリカが言ってたな)

 アッシュは念話に半分意識を割きながらも、魔人兵との距離を慎重に測る。高空を吹き渡る風は強く、油断すると押し流されてしまいそうだった。アッシュは自分の位置を維持する為、飛行魔法の制御に注意を払う。

(えぇ。彼女の部隊が、テロ対策部隊として出動したのでしょう。……アッシュ、その呼び方は、彼女に失礼です)

 光剣で散発的に攻撃を仕掛けて魔人兵の注意を自分のほうへ引きながら、エリカがアッシュの言葉に応じた。

(あぁ、悪い)

 あれでも、彼女はエリカの友人だ。アッシュは素直に謝った。

(アッシュも会ったのぉ? 高飛車少尉殿ぉ)

 アッシュの、アマーリアを評した感想に、アリーセが笑っている気配がする。

(ああ。昨日、陸軍本部の食堂でな。まったく、むかつくぜ。人を散々サル呼ばわりしやがって――)

(アッシュ、今はそのような話をしている場合ではありません)

(あ、ああ。そうだな、済まん)

 エリカに窘められ、アッシュは謝って口を噤んだ。今は、余計な口を挟むべきではないだろう。エリカが、アリーセとサーニャに向かって指示する。

(では、二人はアマーリアの指揮下に入りなさい)

(それは、断られました)

 しかし、サーニャからは端的に否定的な答えが返ってきた。

(そぉなのぉ。だからねぇ、勝手にお手伝いすることにしたのぉ。現在、突入時のサポートに備えてぇ、近くのビルの屋上で狙撃の準備して待機中ぅ)

 続けて、アリーセがあっけらかんと、とんでもないことを言う。

(貴女たち……)

 エリカは部下たちの独断専行に頭を抱えたくなったが、今はそんなことをしていられる状況ではない。

「『ライトニング・アクセル』!」

 近距離から魔人兵が射出した桁外れの弾幕を、高速移動魔法を起動して回避する。高速移動魔法は魔力消費が大きい為、これを使いながら光剣を維持するのは難しい。不可能なことではないが、彼女にとっては慣れない光剣の維持だ。そちらに魔力リソースを取られて、高速移動魔法の起動に失敗したら、洒落にもならない。無理せず、いったん光剣を消した。エリカは光弾を避けきると、消えてしまった光剣をもう一度発生させる。

「『ライトニング・サーベル』!」

(わかりました。よろしいでしょう。好きにおやりなさい。後の責任は私が取ります)

 エリカが宣言した。

(いえす、まぁむ!)

(了解)

 二人からの返事は、心なしかやけに張り切っているように聞こえる。エリカは、魔人兵の巨大な光剣をかわして、自分の光剣でその装甲を切りつけながら、今度はアマーリアに念話を繋いだ。

(アマーリア!)

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