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予鈴後の教室

  翌日。

 俺はいつもより早く学校に来ていた。

 いつも登校時間ギリギリで、チャイムと同時に教室に入って来るのが俺の朝の恒例だけど、今日は違った。

 昨日いきなり任された木島先生の教師補佐(俺の変わり)探しとか、帰りにいきなり出会った美少女とか、昨日の帰りは色々あって、その延長ということも含めて今日は早く来ていた。

 まあ、心構えとか必要だし……

 それに昨日彼女は去り際に『明日になれば分かる』と言って自分の正体を明かさないまま消えちゃったから、今日会えると思うといつもより早く目が覚めてしまったのだ。

 出せば他にも理由はあるが、まぁ大きな理由はこれくらいである。

 教室に入ると既に半分位の生徒がいた。仲のよい友達に分かれて、各々違う話しをしている。

 昨日のテレビの話や、アニメや漫画の話。あるところでは付き合っている相手の話なんかも上がっている。

 でも俺はどの集団にも入ることはできない。

 せいぜい話のネタにされるぐらいだ。

 だから俺はいつものようにイヤホンをしてうつ伏せになり、話しかけないでくださいオーラを出す。

 これが俺の暇な時間を潰す最良の手段なのだから。

 まさか朝早く来ると休み時間と同じ目にあうとは思わなかった。早起きは三文の得って言うけど嘘だな。明日からいつも道理来よう。

 そう心に誓って俺は額を机に押し付けた。

 

 あれからどれ位の時間がたっただろうか。

 しばらくして辺りを見渡してみると教室には誰もいなかった。

 確か一時間目は体育だからみんな着替えの時間を含めて早めに移動したんだろう。

 ってかなんで誰も起こしてくれないんだよ。……俺、ホント空気だな。

 虚しくなった俺は早く授業に向かおうと立ち上がった時、背後から小さくつつかれる感覚があった。

 振り返ってみるとそこには見覚えのある顔が……

「ってお前、昨日の――」

「そう、やっと会えたね。っていうのは少し違うかな、昨日会ってるし。えーっと…それじゃあ、やっとちゃんと話せたね、藤間君」

 そう言って彼女は自然に手を差し伸べる。

「お、おう」

 俺はそんな振る舞いに動揺しつつ、なるべく平静装ったつもりで握手を交わした。

「ってか同じクラスだったのかよ」

「そうだよ、知らなかったの。失礼だなー」

 彼女はそう言いつつも何も気にしてないかのように笑う。

 だから明日になれば分かるだったのか。

「ちなみに私の席はここ」

 と、今座っているを人差し指で軽く叩く。

 ここって俺の後ろの席なんだけど……

「こんな近くにいたのに、まさか名前どころか存在まで認識されてなかったなんて私は悲しいなー」

 などと彼女はあざとく笑う。

 そんなしょうがないじゃないか。

 俺の席は最前列の一番左端。

 横三列までは見えるけど、それ以上は体を動かさないを見えないし、見ようとも思わない。

 ましてや真後ろの席なんて振り向いて見たら何こいつと思われると思っていたから、振り向いたりすることなんてなかった。

 それに登校初日の自己紹介の時、後ろの席の奴は女子と言う認識はあった。けど話す機会なんて一生ないと思っていたから、ついつい記憶から消していたんだ。

「悪い悪い、俺、話したりする相手もいないから名前覚えたりしないんだ」

「なんかさらっと悲しい事言うね」

「そうか? そうでもないだろ」

 俺は平然とした顔でいると、彼女は引きつった顔で愛想笑いを浮かべていた。

 無理して笑うことないのに……

「そういえば、なんでまだいるんだよ。次体育だからみんな着替えに向かっただろ。もしかしてぼっちか?」

「藤間君には言われたくないわ。それに私、ぼっちじゃないし」

「じゃあどうしているんだよ」

 すると彼女は少しの間考え込んでから上目づかいで言う。

「藤間くんを待ってたってだけじゃダメかな……」

「嘘だな」

「えーっ、即答!?」

「だって、なんかその上目づかいからわざとらしいし、第一俺を待つ奴なんていねえんだよ。その証拠にほら、次体育だってのに誰ひとり俺を起こさずに行ってるだろ」

「確かにそうだけど、少し悲観的になりすぎじゃない?」

「正確な自己分析だ」

 そう言うと彼女は少し呆れた表情をしていた。

「でも、あながち間違いでもないんだけどな……」

 彼女がそう言うとタイミングよく授業の予鈴が鳴る。

「何か言ったか? うまく聞き取れなかったんだけど…」

「い、いや別に、何も。それよりも藤間君は先にやらなきゃいけないことがあるんじゃない?」

 先にやること? 何かあったか。次体育だから早く行けってことか。それともトイレに行きたそうだから早く行けってことか? 別に行きたくないんだけど……

 などと暫く考えていると、耐え切れなくなったのか語気を荒げて言った。

「私に名前、聞かなくてもいいの?」

「え、名前? でも昨日聞いたら教えてくれなかったじゃん」

 あれは俺の中では結構勇気を出して聞いた方である。後になって考え直して、なんであの時あんな事したんだろうって恥じたぐらいだけど……

「だって、席が前後だから今日になれば自然と分かると思ったし、その方がサプライズ感があっていいと思ったんだけど、まさかクラスでも認識されてないなんて思わなかったんだもん」

 それは俺が悪いのか。

 確かに他人に関心がなくて名前すらまともに覚えたりしないけど、彼女も勝手に思い込んでいたんだからお互い様じゃないのか。

「じゃあどうすればいいんだよ」

「もう一度」

 もう一度?

「もう一度聞いてよ、私に名前を」

 そんなんでいいのか。そんなんで納得してくれるんだったら幾らでも聞いてやる。

「……分かったよ」

 そう言うと俺は小さく深呼吸してから問いかける。

「俺に君の名前教えてくれないか。君のことが知りたいんだ」

「何カッコつけてるのよ。気持ちわるいな」

 俺なりにセリフ選んだつもりだったんだけど、お気に召さなかったようだ。

 そう思いながらも彼女の口元が少し微笑んでいるように見えた。

「……私は三峰杏みつみねあんずよろしくね」

「ああ、よろしくな」

 その時、俺たちはようやくお互いを認識したような気がした。


「それで、これからなんて呼んだらいい」

「どういう風でもいいよ、そんなの」

「じゃあ、あんちゃんとか」

「それはいや。なんか馬鹿にされてる気がするから」

 どういう風でもいいって言ったのに。でも流石にあんちゃんはないか。

「じゃあ、あん、あんこ、アンパンマン。どれがいい?」

 そう問いかけると杏は眉をヒクつかせて

「藤間君、私をまともに呼ぶ気無いでしょ。何で三択なの? しかもなんであんこ押しなのよ!!」

「それはその方が面白いかなと思って」

「呼ばれる方は全然嬉しくないんだけど……」

 目に見えて怒っているのが分かるくらい不機嫌な顔をしている。

 流石にこれ以上はまずいか。

「じゃあ、どう呼んだらいい?」

「呼び捨てでいいよ。みんなそう呼んでるし」

「分かった。それにしても本当にぼっちじゃなかったんだな」

「何、信じてなかったの?」

 と、頬を膨らませながら俺に詰め寄って来る。

 うわっ、可愛い。こういう仕草の一つ一つが男子にモテるんだろうなと俺は思った。

「それよりも藤間君、こんな所で油売ってていいの? もうとっくに授業始まってるのに」

「いいんだよ俺は」

「どうして?」

 杏はなんもためらいもなく聞いてきたがここは俺の地雷だぞ。覚悟あんのか。

 などとと、思ったが、聞かれたので渋々答える。

「俺は多分、今体育の授業を受けていることになってる」

 完結に、わかりやすく言ったつもりだったけど、やっぱり今の俺の状況が曖昧でうまく伝わらなかったらしく、杏は首を傾げている。

「どういうことか分からないから、分かりやすく教えてくれない?」

 おい、空気読めよ。どこまで踏み込んでいいのか分かってないのか。人の地雷って重いんだぞ。言いたくないの察しろよ。

 内心そう訴えるけど、本当にこれ以上説明したくなかった。だから最後の抵抗として精一杯に嫌な顔をしてみせるか、そのかい虚しく効果なく、またしても杏は平然とした顔をしている。

 俺はそれを見て諦めたのか小さくため息をつき、少し不機嫌になりながら今ある現状を全て話した。

「俺はさ、他人をあまり認識しないけど、他人からもあまり認識されないんだよ。簡単に言って極端に影が薄いってこと。だから俺は普段からいるのか、いないのかも分からないような曖昧な存在で、多分誰もそこに俺がいるのかいないのか分かっていない。だから取り敢えず、俺がそこにいるものだと思い込んだろうな。その証拠にこの間俺が風邪で欠席したことがあったけど、後で確認したら出席したことになってた」

「……それはいい事なのか悪いことなのか私には判断しかねるわ」

 杏は引き気味にそう言った。

 いや、正直引いていただろう。だから言いたくなかったんだ。

「でもそれって要するに単に影が薄いだけってことでしょ。黒○のバスケみたいなことでしょ」

「ま、まぁ、そういうことだな」

 何で例えが漫画なんだよ。

 まさかこの俺の体質は漫画ばりのスペックってことか。……いや、それはないな。

 でも、俺にはこの影の薄さにそんな使い道はないし、とくにこの体質が嫌と思った事もないから改善するつもりもないけど。

「でも、私は藤間君をちゃんと認識できるんだね。やっぱり席が近いからかな」

 杏は笑顔で嬉しそうに言った。

 そんなはずないんだけど……まぁ例外もあるか。昨日から話してるし。

「でもさ、何でみんなは有名なのに藤間君を認識できないのかな?」

 確かにそれは俺も思っていた。けど、そんなこと考えない筈もなく、俺はその答えを昨日の下校中に出していた。

「それはあれだ。テレビの中の有名人と同じで、居ることは分かっているけど、どこに居るかは分からない。だから俺は有名になっても俺の存在自体はそこまで有名になったりしなかったってことだよ。人の噂や話ずてに伝わった事なんてそんなもんだよ」

 杏は顎に手を当て難しそうな顔で考えている。

「……やっぱ、よく分からないよ」

 俺が今節丁寧に説明したのに、理解していないようだった。

 まあ俺もイマイチよく分かってないから仕方ないんだけど。

 

「それよりも杏はいいのかよ、行かなくて。」

「大丈夫よ、私は。ちゃんとこの時間体調悪いから保健室で休むって言ってあるから」

 なんだよ。ちゃっかりサボる口実作ってきやがって。

「でも俺、もう行くぞ。さすがに」

「え、なんで?」

「体育の終わりはな、人数チェックがあるんだよ。だから行かないとサボったのがばれる」

「あー、そういうばそんなことしてたね。あの先生」

「ああ、だから怒られるんだよ、行かないと」

「でもあの先生って怒らないって有名でしょ。私でさえ怒ったとこ見たことないよ」

 何故に杏基準で話てんだよ。そんなの俺でさえ見たことねえよ。

 とは思ったものの、口には出さず話を進める。

「あの人は自分で怒らない代わりに別の人に怒ってもらうんだよ」

「別の人って誰?」

「それはうちの担任だ」

「うわっ」

 今の話を聞いた途端、杏があからさまに嫌そうな顔をする。

 まあ誰だってそうだろう。

 担任には弱みは握られたくない。それで一年間脅され、こき使われる。今の俺みたいにな。下手したら来年まで持ち越しで二年間よろしくなんて事になりかねないし。

「藤間君も苦労してるんだね」

 杏は同情の眼差しを向けて来る。

「そんな憐れむような眼で俺を見るなよ。俺はそんな風に思ってないし、これが普通だと思ってるくらいだよ」

「何、藤間君ってドMなの」

と、憐れむ様に向けていた視線が軽蔑する視線へと変わる。

ちょ、ちょっとそんな目で俺を見るなよ、耐性ないんだから。

「ち、違う。そこまで俺は変態じゃねぇ」

「アレを許容しちゃっている時点で、十分変態だと思うけど」

と、言いながら杏は微笑む。

そんな会話をしていると、体育終了の時間が迫っていた。

「じゃあ、俺行くよ」

 俺は体操着を持ち、立ち上がる。

「私はもう少し話していたかったんだけどな」

「ん? 何か言った?」

そう聞くと杏は小さく首を振り、微笑み返す。

俺は腕時計を一度確認すると、じゃあと言って足早に教室を出た。

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