進路の教師はパンチがある
俺は教室を出て進路指導室に向かう。
進路は校舎第二棟の二階にある為、移動距離も結構あっていくのが面倒だった。
俺は第一棟の教室から階段を降り、渡り廊下を渡った第二棟に向かっていた。
俺が先生と論争を繰り広げいていたからか、校舎ですれ違う生徒が少なかった。もう各生徒、各々の部活や家路に向かったらしい。俺は学校が終わったら速攻で家に帰るからこんなに生徒がいない高校は初めてかもしれない。 気づけばもう4時を回っていて、空も紅く染まり始めていた。
こんな面倒事終わらせて早く帰ろう。そんなことを思いつつ、俺は進路の教室のまえについた。だが、そこから先になかなかになかなか踏み込むことができない。
俺にはもう一つ進路に行きたくない理由があった。
俺の通う高校はいたって普通の高校で、偏差値もそれほど高くなく、他の高校とはいたって変わりない生徒が登校している。生徒はね。
この高校が他の学校と違うといえば教師だろう。
よく言えば個性が強すぎる。悪く言えば変人・変態の集団なのだ。
とくにこの進路には今までにないパンチの効いたメンツがそろっているらしい。そんな中に入るなんて、わにがいると分かっている川に裸で入っていくようなもの。
まったく自殺行為もいいところだ。
ただでさえ担任が俺のことを奴隷扱いにするくらいなのに、それよりパンチのある教師ってどんなだよ。
まっ、俺もよくは知らないんだけど…。
などと教師の偏見ばかり並べていたら、気づくと俺は進路の扉の前で数十秒が過ぎていた。が、やっぱりその先に進むことが出来ない。
俺にとってはまだ開拓されていない未知の世界なんだろう。人はこういうところに行くのって勇気がいるもんだな。
そして俺は心を決めて、ドアを二回ノックするとガラガラッとドアを開け部屋に入った。
「失礼します」
あれ、意外と普通だった。部屋の中には大学や専門学校の資料などが本棚に積まれていて、特に変わった様子はなかった。
俺の思い過ごしか。
てっきり拷問道具や、調教道具が普通に置いてあると思ってた。俺は少し落ち着いて部屋に入った。
「1年3組の藤間陽斗です。安海先生の言われて来ました」
「君が藤間陽斗君か、武内先生からは聞いているよ」
と、言って出てきたのは真面目そうな男の先生だった。年齢も30半ば位だろうか、服装もそこらの先生よりピシッと着こなしてエリートの風格を漂わせている。
意外と普通そうな先生を見て拍子抜けしたように息を漏らす。
やっぱり噂は噂でしかないのか……
するとせんせいは頭の先から爪先まで舐めまわすように俺の服装を見た。 これが進路の洗礼なのか。と軽く身構えた次の瞬間、
「いやぁ~あん、君、かわいいわね」
へ、何、何今の……。衝撃的過ぎて声が出ない。
「あら、ごめんなさい。我慢できなくて。私、生粋のオネイなの。今日は新しい生徒が来るから真面目な対応をして下さいって言われたけど、やっぱ無理ネ。もう、もうあなた食べちゃいたい」
なんでこんな堅物で真面目そうな人がこんな……こんな。
言葉にならない声が息を詰まらせる。
うまく思考が働かない。もう思考停止状態になってる。
そして俺は思い出した。この学校のことを、この進路のことを。
あまりにも普通だったから油断していた。
変なのは部屋じゃなくて先生だった。このことを忘れちゃいけなかったのに。
「紹介が遅れたわね。私の名前は木島善人。よっちゃんって呼んでネ」
バチン。と効果音が出るくらいのウィンクが送られる。
一気に背筋に寒気が走る。
怖え、この人怖えよ。あのウィンクに絶対殺傷能力あるよ。
しかも見た目とのギャップがさらに怖いわ。いくらなんでもパンチ効きすぎだろ。
もう、いやだ、早く出たい、帰りたい。
先生は俺にいろんなことを語り掛けているようだったか、俺は心、ここにあらずで、ただ、笑っていることしかでいなかった。
ハハ、内容全く覚えてないよ……。
いろんな願望が渦巻く中、俺は一つ恐ろしいことを思い出していた。
俺をこの部屋に呼んだのは誰なんだ。
考えたくないことが脳裏を過ぎる。
逃げ出したい気持ちを抑え、俺は聞いてみた。
「あの~、俺呼ばれてここ来たんですけど、誰が呼んだんですか?」
先生は即答で返す。
「もちろん、アタシよ。自由に使っていい生徒がいるって涼ちゃんが言うから頼んでもらったの。ムフフ」
やっぱりあのドS教師が。なんで俺よりこっちに話が先に通ってるんだよ。俺が奴隷になるのは決定事項だったのか、くそ…
いろんな意味で騙された。
俺、もう誰も信じれないかも…。
「今日は自己紹介程度にね。明日からヨロシク」
早速明日から、お約束の奴隷業務ですか…しかもよりによってこの先生は……嫌だおもちゃにされる。
俺の心の叫びは誰にも届かず、そして消えていく。
結局、ここは噂以上の地獄だった。
そして俺の平穏な日常は一日にして壊れた。俺を待っている日常…誰か教えて!!