プロローグ
季節は初夏。
高校入学をして3か月が経とうとしていた俺、藤間陽斗はいつもと変わらぬ平凡で退屈な毎日を過ごしていた。
周りは高校生デビューなどといって変わっていく中、そんな事に全く興味がなく取り敢えず過ごしている毎日に、一人取り残されたように教室の端で顔をうつぶせて寝ていた。
「礼」
帰りのショートホームルームが終わる。
次の瞬間、荷物を持って勢いよく教室を出ていく生徒がいる。多分、部活なんだろう……ご苦労なことだ。
他にも仲の良い友達の所に行く人もいれば、別教室から入ってくる奴もいる。
荷物をもってさっさと帰る生徒もいれば、真面目に掃除を始める奴もいる。
俺もこの波に乗じてさっさと帰ろうとすると
「藤間、ちょっと来い」
と、いつものようにお呼びがかかる。
はいはい、呼ばれるのは分かってましたよ。重い足取りで先生のもとへと向かう。
俺を呼んだのは安海涼加。俺の担任だ。
独身で自称26歳。だが実際は28歳で2歳のサバを読んでいることを俺は知っている。
職員室に呼び出されることが多かった俺はたまたま先生のプロフィールを見て知った。まぁ、そのことがきっかけで先生に目付けられたんだけど……
大体、スタイルはよくて美人の方なのに28まで結婚できないのは性格に問題があると相場が決まっているんだよ。
「で、何の用なんですか」
聞いてみると、先生は掃除をしながら
「進路からお呼びがあったぞ」
なん……だと。進路指導室といえば校内三大危険区域に指定されているところ。
入ったものは必ず大きな傷を負って再起不能になる、いわば暗黒空間だ。
「そんな所に行けっていうんですか?」
「もちろんだ。何か問題でもあるのか?」
一間置くことなく切り替えされた。
「いえ……。」
ここで反論するとさらに長い説教が待っている。だからいつもの俺なら生返事して聞き流しているだろう。けどな、今日の俺はいつもとは違う。今日というか今回だけ。
だって行き先が進路指導室なんだもん。
「なら行ってこ」
先生が言い終わらぬうちに切り出す。
「待ってください。まだ、俺行くなんて一言も言ってないじゃないですか」
と、言った瞬間、とんでもない殺気が俺に襲い掛かる。
ひいい。やっぱやめようかな。マイナスな思考が俺の頭を過る。
しかし、あそこまで言った以上、男として後には引けない。
「俺は進路指導室なんかに行きたくありません」
「ほう、一様理由を聞いてやろう」
「俺、まだ1年なんで進路はいいかなーって」
すると先生は壁にもたれ、腕を組んだ。
「あのな、一年から進路に行ったって損はないよ。むしろ良いくらいだ」
少し呆れた感じに言われたが、思っていた通りの答えだったので俺はさらに理由を付け加えた。
「いや今のは建前でして、人って嫌いな人に会うと自然とさけますよね。それと同じで俺も進路嫌いなんで極力行きたくないなーって」
その瞬間先生の目つきが一瞬にして殺気に変わる。が、すぐにいつもの感じに緩んだ。
そして俺を見て憐れみ、溜息交じりに俺に言った。
「君は進路に何か偏見を持っているのかね」
「それは……暗黒空間?」
「何だそれは……」
あれ、通じないのかな?クラスの奴らにはこれで通じるんだけど……
「まあいい。とっとと行け」
「だから行きませんって」
先生は俺を見て再度憐れみの目を俺に向け、そして言い放った。
「藤間、お前の行きたくないという気持ちは分かった。しかし、お前に行かないという選択はない」
ん?何言ってんだこの人?
俺は少し頭が混乱していた。しかし、先生はそんな俺にお構いなしに続ける。
「君が行こうが行かまいが、君に拒否権はないんだ。」
さらに困惑することを言われた俺はまだ理解しきれていなかった。
俺に拒否権がない?どゆこと?
しかし、次の瞬間、この困惑をも一瞬で吹き消すセリフを吐いた。
「君にはこれから私の奴隷となって働いてもらうことになった」
なにー奴隷だとー
「なにー奴隷だとー」
衝撃的過ぎてつい心の声が出ちまったじゃないか。
「奴隷はいやか。なら下僕で」
どっちも同じだろ。
ツッコミどころが満載過ぎて処理しきれない。
でも、ここであえて聞いておく。
「俺、先生の奴隷にいつからなったんですか。それと、理由も」
「そりゃ、今日からだけど……。理由は進路から自由に使える生徒を一人出してくれってなのまれてな。藤間でいいかと思って。ついでにこういう面倒事を全部藤間にやらせようと思って奴隷にした。以上だ。」
しばし沈黙が流れる。そして俺はすべてを理解した。
「それってお前が俺をこき使いたかっただけじゃねか。それと、俺が進路に呼ばれたのってお前のせいじゃねえか!!」
「だからさっきからそう言ってるだろ!! それと教師をお前って呼ぶな!!」
「いやいや、分かりにくいですって」
怒号が飛び交う教室の中で、二人は息を切らしていた。
「ふぅ、まぁなんでもいいじゃないか。進路には私の指名で来たといえば特に何も言われないだろうと思うから安心して行ってこい!」
説明が面倒臭くなったのか最後の方は投げやりな感じで俺に行けと促した。
俺もこれ以上の抵抗は時間の無駄だと思ったのか行くことにした。
「分かりました。行ってきますよ」
そういうと、俺は進路指導室に向かう。
とっとと済ませて早く帰ろうと思ったが、その考えが甘かったことに後で気付かされることになる。