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セカンドハウス  作者: ことわりめぐむ
2/4

無職の時間


バイトをクビになって、今日から本当に無職になった。


家に一人で居ても気分が重いから、とりあえず目的なしに外に出た。


むしむしする気候の中では、目的なしで長時間うろうろすることは不可能で‥‥、とりあえずの避難所にゲームセンターを選んだ。


平日のゲーセンなんて、あまり人が居なくて快適かと思っていたが‥‥理想と現実は少し違う。

人が居ないのは正解だったが、会いたくない人が居たのは、ここから出て行けと神様が僕に言っているのだろう。



この間の、自殺志向の女の子だ。

彼女が居るって事は、あの変な男もいるはずだ。


つかまれた顎がちくちく痛い。

体がそこに隠した痛みを思い出したように、突然痛み出した。


ただ、彼女の隣には、金髪、黒いスーツの男が居たが。あの変な男は見当たらない。

まぁ、平日に、金髪、黒のスーツでゲーセンなんて、普通の人じゃないだろうけどね。


「空音。何食べたい?」


「‥‥さくらもち。それ以外は嫌」


それだけ言うとまた額をテーブルにつける形で上半身を倒れこむ。そのまま彼女は動かない。



「なんで桜餅なんて言うんだよ。

そんな古臭いもの、こんなとこで売ってる訳ないじゃん」


 両手で頭を抱え、絶叫する男。


「そこのお前」


そして僕を指差し近寄ってくる。


「お前。ニートだろ。いやそうに違いない。今から俺は桜餅を買いに行って来る。その間、俺の空音に何か危害は無いか、側で見張ってろ。

暇なはずなんだからいいよな」


僕の承諾も無いまま男は手を引っ張り、眠ってる彼女の横に座らせるとゲームセンターから出て行った。



桜餅を買いに行くって。

暇なのは間違いないが、何でこの子を押し付けられるのだろうか。



両手をだらんと下にたらし、額だけで上半身を支える形で机に倒れこんでいる女の子。不気味さが漂うこの女に、危害なんて加わるはずはないだろう。



律儀に側に居てやる必要もないし、とりあえず帰ろう‥‥。



席から立ち上がろうとして、うっかりテーブルを動かしてしまった。


ほとんどの体重を乗せていた彼女の体がバランスを崩しテーブルから落ちそうになる。このまま落ちたら額からコンクリートに打ち付けることになる。びっくりして彼女を抱えた。


彼女の席に座らせて、ガラスの壁にもたれさせる。


彼女はまだ目を覚まさない。

どんなに疲れているというのだろう。


ぐちゃぐちゃになった髪を綺麗にしてあげると、自然と寝顔を正面から見る形になる。そして気が付いた。



ものすごくかわいいということに。



初めて会った日に殺されそうになって、笑顔でびっくりする言葉を語る、完全に変な女というレッテルが僕の目を曇らせていたのだろう。


さらさらの長い髪。ちょっとブラウンがかった長いまつげは目じりだけがくるんとカーブしている。僕の知ってる他の女の子はまつげをベタベタに黒くして、なんかの機械で無理やり挟んで全体的にカーブを付けている。そんないやらしい感じはしない。

ちょっとピンクかがった頬と、全体の肌の色がいいバランスでマッチしていて、なんだかかすみかがって見える。



前言撤回。



こんなにかわいいんだから、このままほおっておいたら確かに誰かになにかされそうだ。


僕が守ってあげないと、そんな思いが席にとどまらせた。


「知らない香り」


そう呟いて、彼女の目が開く。


「あれ。あいつは?」


びっくりして見ていた目をそらす。


「さくらもちを買いに‥‥」


「そお。で、君はなんでここにいるの」


「帰ってくるまで、ここに居ろって」


「そっか、悪いね。あいつ病気だから。しっかし何で桜餅なんだねぇ」


それは貴方が先ほど食べたいっておっしゃったからです。


さくらもち、完全に寝言なんだな。

あの男かわいそうに。


「昨日セイスケが食べたいっていってたからかなぁ」


大きなあくびをしながら、そう呟くと彼女は又夢の世界へ。

せっかく、立ち上がらせたのに、またもやガラスの机に倒れこんだ。


ごんって鈍い音がする。


し‥‥死んだんじゃないのか。



てか、セイスケってだれ?


第1条

 第4号

 生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついた者

 

 僕は無職ですが、まだ、おうちがあるので軽犯罪法違反じゃありません。


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