変質者
珍しくファンタジーではありません。
残酷な表現はたぶんありません。
出てくる人はだいぶ痛んでますが、
登場人物のモデルは、主人公以外、ほとんどリアルな僕の友達です。
(要は、友達が痛んでいるっていうワケネ)
んでも、フィクションです。
今回、携帯サイドから読みやすいように、かなり改行入れてます。
文書規則無視ってるので、パソコンからだと読みにくいかも。
「んなとこで、自殺なんかしたら失敗したら金かかるって」
高架の下には電車が走っていた。
10分に一本。三つの会社がお客をとりあう、この路線に飛び込めば。賠償金がいっぱいかかるに違いない。
うまい具合に死ねれば、家族が辛い思いをするだけだが、もし生き残ったら、僕が賠償することになるだろう。
一生かけて。
一本止めただけで賠償金は何百万とか聞いたことあるし、
これが何本もだとどれぐらいになるのだろう。想像もつかない。
そんなことを考えてると、足は自然に逆のほうを向いていた。
こうやって自殺を止める人が居るんだなぁ
と思っていたら、男はビックリすることに
「俺が手伝ってやるよ、自殺」と言うと、
無理やり背中を押しはじめた。
えーーーーーーーー
無理やりつれてこられたのは河の大きな橋の上。
「こっから飛び込むんだわ」
先ほどの会話で死んでしまおうかなんて気分どっかに言ってしまった僕には、川へ飛び込むなんてもう出来る話じゃない。
嫌そうな顔で相手を見ていると男は水を指差して続ける。
「死ぬ直前になって勇気がないってか。
ほれ、あの白いのに頭がぶつかるようにだな」
逃げ出さないようにか背中をがっしりつかまれる。
ありえないだろう。
「白いの?」
川を良く見ると、流れの中に白い物が見えた。白っていうか、黒と肌色‥‥人だ。
「あれって‥‥」
それが人であると確認できたかそうでないかの瞬間に、背中を押された。というより抱えられて投げ込まれた。
「えぇぇ」
びっくりして「え」が口から漏れる。
人間、真昼間に飛び込んだだけで死ぬわけが無い。
大丈夫だった。
体が水にぶち当たり、痛い。
「え」が漏れて口が半開きになったせいか、口と鼻にいっぱい水が入り込んでくる。
それが感じられるから僕は生きている。
「何するんですか」
「あれーはずれたか。もう一回かなぁ」
男は悪びれる様子も無くそう言った。
「あんたばかか。こんなこと二度もするか」
「ちっ。新しい奴探してこないとだめか、
おーい、ソラネ~また探してくっからもうちょいまてや」
何てことだ。僕が死なないから、誰か他の人間を探すだって?
オカシイ男が橋の上にいる。
てか、ソラネってだれだ。
「がんばってね~」
水の中にソラネはいた。
上から見てた白いもの‥‥それがこの人だ。
あいつ、この人と俺とをぶつけて殺すつもりだったのか。
何考えてるんだよ。
あいつも、この人も。
「おまわりさん。あそこです」
いまどき警察官におまわりさんだなんて名称で呼びつける事になるとは思わなかった。
だらだらと歩いてくる中年の警官にイライラしながら大声を出す。
「早くしないと、誰か知らない人が殺されちゃうでしょ」
さっきの川にたどり着く。
上から見下ろすと、女の子はまだそこで浮かんでいた。
「おまえ。おまわりって‥‥冗談じゃねえ」
後ろを振り返るとさっきの男が白いビニール袋を下げて仁王立ちしている。
「おまわりさん、あの人。あいつが僕をここから突き落としたんです」
「はぁ。あんた、この子殺そうとしたってホント?」
「いやあ。こいつが自分で落ちたんですよ、
ふらふらって。
っていうか、こんな平和な真昼間に殺人未遂なんてある訳ないでしょ」
あろうことか、男はそう答える。
っていうか、容疑者にしましたか?って普通聞くのかよ、この警官。
「だよねぇ~。ほら、自分の不注意を他人に押し付けてないで、ちゃんと現実見なさい。こんなに太陽は明るいんだから」
「なっ。見てよ、あそこに他の犠牲者浮かんでるでしょ」
川を指差すとぷかぷかと浮かんでる女の子は手を振った。
「あれが犠牲者‥‥」
ものすごく怪訝そうな顔で警官はこっちを見る。
「ソラネ。今日はもうやめとくぞ。上がって来い」
「はーい」
この男と河の中の女の子。
二人は会話が成り立っていることから、知り合いだという事は誰が見てもわかる。
そのおかげで、僕がうそつきというレッテルを貼られてしまった。
「何してたんだか知らないけど、
誤解を招くから、もうここで遊ばないように。
世間にはさあ、ちょっと誤まった記憶に操られる人だって居るんだからね」
それは、僕の頭がおかしいとおっしゃっているのですか、公務員さん。
「迷惑な人がいるんですねぇ。きおつけます」
「気をつけまーす」
素直な二人と悪者の僕を置き去りにし警官は帰っていった。
「おまえ、死にたいんじゃなかったのかよ」
「がっ、やっぱりわざと。おま‥‥」
まだ見える警官の後姿に声をかけようとすると、口を押さえられた。
押さえられたというよりは、前から顔をつかまれた、の形が正しいか。
唇が指と歯につままれて痛い。
言葉は当然閉ざされる。
「嫌なんだったらいいけど、ソラネの邪魔するなよなぁ」
そう言うと手を離す。左右の顎の付け根がへこんだままのような痛みがじわじわと歯茎を攻めて来る。
どんなに強い力でつかんだんだ。
「ソラネ。今日はもうおしまい。また明日なんか考えようか」
「はーい」
また明日、考えようか‥‥それは、彼女を殺す方法をってことだろ。
「君は、こんなのに殺されていいの」
女の子は振り返って、とびっきりの笑顔で言った。
「ん。ソラネがお願いしたのよ。生きてるのめんどくさいから」
びっくりする言葉を、満面の笑みで言われたせいか、
僕の意識はそこで固まったまま動かなくなった。