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新人類の「ペイ・トゥ・ボーン(課金誕生)」と、大公閣下の絶対的・視覚認識フィルター

「……アリス。どんなに素晴らしい商品を作っても、どんなに完璧なインフラを整えても、ある『一つの要素』が欠けていれば、経済は絶対に回らないわ。それが何か、分かるかしら?」


 私たちが古い宇宙を破壊し、物理法則からすべてを再構築した【新宇宙】。

 その中心で輝く超時空・魔導豪華宇宙船『A&Lグランド・リヴァイアサン』の最上階、CEO執務室にて。

 ルミアは、ヒマ端末から投影された『新宇宙の人口統計データ:0人(※私たちとA&Lの従業員を除く)』というグラフを見つめながら、氷のように冷徹な声で問いかけた。


「欠けている要素? うーん……広告宣伝? それとも物流?」

 私が空間転送で取り寄せた『新宇宙・第一号の星産・奇跡のマナ・イチゴタルト』を頬張りながら首を傾げると、ルミアは美しい顔で盛大なため息をつき、バインダーで机を叩いた。


「違うわ。『消費者カモ』よ」


「消費者……。つまり、お客さんね」


「ええ。いいこと、アリス? 私たちは新しい宇宙を創り、星々の配置も、資源の量も完璧に設定したわ。でもね、今のこの宇宙には、私たちが提供するエンタメやガチャに課金してくれる『人間』が一人もいないのよ! これでは、せっかく立ち上げた【株式会社・新宇宙】の売上がゼロのままじゃない!!」


 ルミアは、真っ白な新宇宙の星図を忌々しげに睨みつけた。


「前の宇宙から持ってきたバッテリーは、地下でサーバーの動力源として使い潰しているから顧客にはならない。……つまり、私たちはこの新しい市場で、ゼロから『最高に都合の良い消費者』を量産しなければならないのよ!」


「なるほどね……! 顧客がいないなら、私たちの手で直接創り出せばいいのね!」

 技術者としての私の脳髄に、またしても強烈なインスピレーションの電流が走った。

 私はタルトのフォークを置き、白板の前に立ってガリガリと新たな魔法陣と、一つの『巨大な培養カプセル』の計算式を書き殴り始めた。


「いい、ルミア。これを実現するためには、新宇宙の生命誕生システム(進化のプロセス)を完全にすっ飛ばすわ! 私の空間魔法と生命錬成陣を組み合わせて、星々の大地に直接【超自動・生命創生プラント(ジェネシス・インキュベーター)】を設置するの!」


「素晴らしいわ! つまり、泥から人間を創った神様のように、工場で人間を量産するということね!」


「ええ! 名付けて、全自動新人類生成システム……【A&L ヒューマン・ファクトリー】よ!! このプラントでは、魔力と現地の資源を合成して、わずか数時間で成人した『新人類』を無数に出力できるわ! もちろん、彼らの脳には最初から言語や一般常識、そして『A&Lペイの使い方のチュートリアル』がプリインストールされているわよ!」


「…………ッ!!」

 ルミアの瞳孔が、限界まで拡大し、美しい三日月の形に歪んだ。


「あはははは!! えげつない! えげつなすぎるわアリス!! これぞ究極の市場開拓! 顧客の全自動養殖よ!!」


 ルミアは歓喜の声を上げ、猛烈な勢いでヒマ端末にビジネスモデルの構築を始めた。


「いい、アリス! 当然、ただで命をあげるわけにはいかないわ。彼らには、プラントから出力(誕生)される直前に、意識だけの状態で【出生ガチャ】を引かせるのよ!」


「出生ガチャ!?」


「そう! 名付けて【ペイ・トゥ・ボーン(課金誕生)】システムよ!! 彼らは生まれる前に『A&Lペイの借金』を背負うことに同意させられる。そして借金の額面に応じてガチャを引き、来世……いえ、最初の人生の【種族】と【初期ステータス】を決めるの!」


 ルミアは悪魔そのものの笑顔で空中にガチャの排出表を投影した。


「【SSR:絶世の美貌を持つエルフ(初期魔力カンスト)】の排出率は0.01%、価格は一兆ゴールドの借金! そして無料のノーマルガチャで生まれるのは【N:ただの村人A】や【N:ゴブリン】よ! 良い人生を歩みたければ、生まれた瞬間から我が社のために死ぬ気で働き、借金を返し続けなさいってこと!!」


 生まれる前から負債を背負わせ、人生のスタートラインをガチャで売りつける。

 もはや「命の尊さ」すらも資本主義のギャンブルに変換する、究極のえげつないビジネスモデルだった。


「さ、最高ねルミア社長! じゃあ、今すぐこのプラントの試作機を起動して、新人類の第一号をプリントアウトするテストを――」


「――私の許可なく、この宇宙に『君を見るための眼』を、無数に増やすなど、許されると思っているのか?」


 ふいに、執務室の空気が物理的に凍りつき、絶対零度の冷気と、宇宙の膨張すらも停止させるかのような極上の威圧感が部屋中を満たした。

 重厚な扉が開く音すらなく、漆黒の軍服に身を包んだ新宇宙の影の支配者(皇帝)、ユリウス大公が私の背後に立っていた。


「ゆ、ユリウス様! お疲れ様です! どうですか、私たちの新人類量産ビジネス!」


 しかし、ユリウス様のアメジストの瞳は、これまでに見たことがないほど剣呑で、ドロドロとした独占欲と、これから生まれてくる新人類すべてを産まれる前に間引くかのような殺意に満ちていた。

 彼はスタスタと白板に歩み寄り、私が描いた『ヒューマン・ファクトリー』の図面を鋭く睨みつけた。


「アリス。君はこの工場で、億単位の人間を創り出すと言ったな。……それはつまり、この宇宙に数億組の『視神経』が誕生し、それが何かの間違いで、私の最愛である君の美しく無防備な姿を【視認】する可能性があるということか?」


「えっ? あ、いや、私たちが直接地上に降りることは滅多にないですし、監視はアストラル・ルナ越しに行うから、直接見られることは……」


「絶対に許さん」


 ドゴォォォォォォンッ!!!

 ユリウス様から放たれた圧倒的な魔力プレッシャーで、執務室の壁が消し飛び、私の手元にあったプラントの起動スイッチが、一瞬にして彼の指先で完全に握り潰された。


「ゆ、ユリウス様!? 私の試作品が!!」

「私以外の有象無象が、君の銀髪の輝き、君の愛らしい瞳、君の柔らかな輪郭をその網膜に映すなど……想像しただけで、この新しい宇宙の『光』という物理法則そのものを消滅させたくなるほどの殺意が湧く。君の姿を認識していいのは、この大宇宙において私一人だけだ」


 それは、常軌を逸した、宇宙規模での【絶対視覚隔離(モザイク処理)】の要求だった。

 妻が他の男(※これから生まれる赤ん坊含む)に見られるのが嫌だから、光の概念をぶっ壊すと言い張る男など、全次元を探してもこの魔王パトロンだけだろう。


「大公閣下。いくら貴方でも、過保護が過ぎますわよ。アリスの姿を隠すためだけに宇宙を闇に閉ざしては、我が社の『絶景リゾートプラン』の売上がゼロになってしまいますわ!」

 ルミアが呆れたように抗議するが、ユリウス様は氷のような視線で彼女を一瞥しただけだった。


「私の妻の純潔な姿は、宇宙の絶景よりも遥かに重い。……アリス、この『新人類生成システム』に、私の魔力波長による【絶対認識阻害フィルター(認知の壁)】を組み込め」

「に、認識阻害?」


「そうだ。これから生まれてくるすべての生命体の脳と視神経に、強制的なパッチ(修正プログラム)を当てる。……もし彼らが君を直視しようとした場合、彼らの脳は君の姿を『アリス』として認識できなくなるようにしろ」


 ユリウス様は、不敵に笑って私を見下ろした。


「君の顔の代わりに、彼らの目には【直視すれば発狂するレベルの、高次元の神聖な光の塊(エラー映像)】が見えるように設定するのだ。彼らは君の美しさを理解する前に、脳の処理能力が追いつかず、ただひれ伏して祈ることしかできなくなる。……これで、君の姿を正しく愛でることができるのは、永遠に私だけだ」


「ひゃっ……!? ゆ、ユリウス様、それじゃあ私、新人類たちから見たら、ただのクトゥルフ的な『名状しがたき光の神様』になっちゃうじゃないですかっ!!?」


 私が顔から火が出るほど真っ赤になって抗議するが、もはや暴走した大公閣下の愛の暴力を止めることは誰にもできない。

 私の純粋な生命創生革命は、彼の手によって「妻を全宇宙の視線から完全に隔離し、不可視の神として強制的に崇拝させるための絶対防衛プログラム」へと完全に組み込まれてしまったのである。


「(……ほんと、どこに行ってもこの二人のイチャイチャには頭が痛くなるわ。まあ、大公閣下の魔力が遺伝子にリンクしたことで、新人類が我がアリスに逆らうというバグが物理的に不可能になったから、宗教ビジネスの観点からは最高ね)」

 ルミアは、呆れ顔でヒマ端末を叩きながら、悪びれる様子もなく新人類の利用規約(DNA配列)を完成させた。


 ◆◆◆


 それから数日後。

 新宇宙の第一号の惑星にて。

 『A&L ヒューマン・ファクトリー』から、莫大な借金(出生ガチャの爆死)を背負った数百万人の新人類が、次々とプリントアウトされ、大地に降り立った。


 彼らは生まれた直後、空を見上げた。

 そこには、視察のために宇宙船から降り立っていた、私たち三人の姿があった。


「おぉ……! あれが、我らを創りたもうた神々……!!」

「ルミア様! ユリウス様!」


 新人類たちは、ルミアとユリウス様の姿ははっきりと認識できた。

 しかし、彼らが私の姿アリスを視界に収めようとした、その瞬間。


『ピロロン! 大公閣下のセキュリティ・システムが作動しました。権限のない視線を遮断します』


「――ガァァァァァッ!!? 目が、目がぁぁぁぁ!!」

「おおおお……! なんという、なんという恐れ多い光……!! 直接見てはならない! 脳が、脳が焼き切れるぅぅぅ!!」


 新人類たちは全員、私の姿を認識した瞬間にバタバタと地面に倒れ伏し、涙を流しながら土下座を始めた。彼らの目には、私が【数万の銀色の太陽が凝縮されたような、超次元の神聖なる光のバグ】として映っているのだ。


「あーあ。みんな土下座しちゃった。これじゃあ、普通に会話もできないわね」

 私が苦笑いしながら首を傾げると。


「それでいい。君の美しい声も、笑顔も、彼らのような地を這う虫どもに向ける必要はない」


 ユリウス様は、私の腰を強く引き寄せ、何百万という新人類がひれ伏すその光景のど真ん中で、私の唇を深く塞いだ。


「君の姿を、その熱を、すべて独占しているのは私だという事実。……こうして彼らに見せつけることで、私の独占欲はかつてないほどに満たされている」


 新宇宙を創り、新しい生命を産み出してもなお、彼の重すぎる愛の焦点は、ただ一点「アリス」にのみ注がれ続けている。

 私は、圧倒的な庇護と熱に脳を溶かされながら、ただ彼に寄り添い、背中に腕を回すことしかできなかった。


「……はい。私、誰の目にも見えなくていいです。ユリウス様の瞳にだけ、一番可愛く映っていれば、それでいいですから」


 新人類に莫大な借金を背負わせるえげつない計画の裏で。

 私たち二人の、誰にも邪魔されない、そして新人類の視力ですら絶対に干渉できない甘すぎる愛の時間は、新しい宇宙の歴史の第一ページに、深く、熱く刻み込まれていくのだった。

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