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第23話:世界で一番甘く重い誓い(結婚式)と、狂乱の『VIP限定・魔導ライブオークション』

 超巨大・魔導豪華客船『A&Lグランド・リヴァイアサン』。

 その最上階に位置する、ユリウス大公と私だけの絶対不可侵領域ペントハウス


 今夜、この船は波一つない穏やかな夜の公海上に停泊していた。

 見渡す限りの満天の星空と、海面に映る月光だけが、私たちを照らし出している。

 私は、先日ユリウス様から贈られた『絶対防塞・ウェディングドレス』に身を包み、バルコニーの中央に立っていた。


「……息を呑むほどに美しい。いや、言葉などでは到底表現しきれないな」


 月光を背にして、漆黒の礼服タキシードを完璧に着こなしたユリウス様が、ゆっくりと私に歩み寄ってくる。

 彼のアメジストの瞳は、純白の流体ミスリルと天空竜の絹糸に包まれた私を、まるで世界でたった一つの奇跡を見つけたかのように、熱く、そして深く見つめていた。


「ゆ、ユリウス様……。あの、本当に二人きりなんですね」

 私が緊張で声を上擦らせると、彼は私の手を取り、その手袋越しの冷たい指先で私の掌を優しく撫でた。


「当然だ。君のこの姿を、私以外の誰の目にも触れさせるわけにはいかない。……神父も、立会人も不要だ。私と君の契約(結婚)は、帝国の法や神の教えなどというちっぽけなもので縛れるものではないのだからな」


 彼は極上の低音で囁きながら、私の腰に手を回した。

 ドレスに仕込まれた『絶対不可侵・次元断絶結界』は、彼自身の魔力波長を完全に『マスター(所有者)』として認識しているため、彼が私に触れることには一切の抵抗を示さない。

 むしろ、彼の魔力とドレスに組み込まれた極大魔力結晶が共鳴し、私たちの周囲に淡く幻想的な光の粒子を降らせていた。


「アリス」

 ユリウスは私の銀髪をそっと掬い上げ、そこに口付けを落とした。


「私はこれまで、帝国の影の支配者として、冷徹に、ただ合理性のみを追求して生きてきた。感情などというものは、目的を達成するための障害でしかなかった」

「ユリウス様……」


「だが、君に出会ってすべてが狂った。君の創り出す常識外れの魔法と、どんな権力にも媚びないその無邪気な笑顔が、私の氷のような世界を極彩色の炎で焼き尽くしたのだ」


 彼の手が私の頬に添えられ、その親指がそっと私の唇をなぞる。

 心臓が、早鐘のように高鳴る。

 帝国最強の権力者が、たった一人の女(私)に向けて、その魂の底からの愛と執着を吐露しているのだ。


「私の命、私の持つすべての権力と富。……そして、私の心臓の鼓動すらも、今日から永遠に君のものだ。君を害する世界のすべてを私は破壊し、君の望むすべての世界を私が君の足元に創り出そう。……だから、私に君のすべてを捧げてくれ、アリス」


 重い。

 控えめに言って、重すぎる誓いだった。

 国家を滅ぼせる男からの、逃げ場のない、絶対的な独占の愛。

 でも、不思議と恐怖はなかった。彼が私に向けてくれるこの狂おしいほどの愛が、私にとって何よりも心地よく、絶対の安心感を与えてくれる最強の防壁パトロンであることを、私はもう魂のレベルで理解していたから。


「……はい、ユリウス様」


 私は彼のアメジストの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、満面の、とびっきりの笑顔を向けた。


「私の魔導技術も、この狂った頭脳も、全部ユリウス様にあげます。その代わり、これからも私の一番近くで、私の作る最高の魔法とビジネスを、特等席で見ていてくださいね。……私、ユリウス様のこと、大好きですから」


「…………ッ!!」


 私の言葉に、ユリウスは一瞬だけ息を呑み、そして限界まで理性のストッパーを破壊されたような瞳になった。

 彼は私を強く、自分の身体に溶け込ませるような勢いで抱き寄せた。


「アリス……! ああ、君は本当に、私をどこまで狂わせれば気が済むのだ……!」


 夜の海に、甘く熱い吐息が溶けていく。

 彼は私の唇を深く、息もできないほど強く塞いだ。

 星空の下、世界で一番豪華で、世界で一番隔離されたペントハウスのバルコニーで。私たち二人の、誰にも邪魔されない極秘の結婚式が、永遠の誓いと共に執り行われたのだった。


 ◆◆◆


 ――その頃。

 私たちが甘すぎる誓いの口付けを交わしていた、まさにその真下の階層。

 グランド・リヴァイアサンの船体中央部に位置する、千人を収容可能な『超巨大・魔導ドームシアター』にて。


「さあさあ、世界中の王族、ならびに大富豪の皆様! 本日は我が『魔導商会A&L』が主催する、一夜限りの【VIP限定・魔導ライブオークション】へようこそ!!」


 シャンデリアの眩い光に照らされたステージの上で。

 純白のイブニングドレスに身を包んだルミアが、黄金のマイク型魔導具を片手に、高らかに声を張り上げていた。


 会場には、この船に乗り込んでいる他国の要人たちがズラリと席に着き、さらにそれぞれのテーブルには『ヒマ端末』の大型モニター版が設置されている。

 このオークションは、船の上の客だけでなく、帝国や旧王国跡地、さらにはクシャーン帝国など、世界中のネットワークに繋がった超富裕層たちにも『リアルタイムで生中継』されていたのだ。


「本日の目玉は、なんと言っても! 我が社の最高技術責任者(CTO)、あのアリス・フォン・ローゼンバーグが開発の過程で生み出し、お蔵入りとなった【幻の試作品ガラクタ】の数々です!!」


 ルミアの言葉に、会場がどよめいた。

 あの常識を破壊し続ける天才・アリスの試作品。それは他国からすれば、国家の軍事バランスや経済をひっくり返すレベルの『オーパーツ(超兵器)』に他ならない。


「ルミア社長! もったいぶらずに早く見せてくれ! 我々には莫大な『A&Lペイ』の残高があるのだ!」

 最前列に座る大商人が、目を血走らせて叫んだ。


「ふふふ。せっかちな殿方ですね。では、早速第一の品から参りましょう!」


 ルミアが指を鳴らすと、ステージの中央の床が開き、ガラスケースに入った一つの『小さな鉄の箱』がせり上がってきた。


「出品番号1! 【全自動・魔力圧縮式・携帯型お掃除ゴーレム(失敗作)】!!」


「お掃除ゴーレムだと? そんなもの、ただの家庭用魔導具ではないか」

 会場から落胆の声が漏れる。しかし、ルミアは悪魔のような笑みを崩さなかった。


「ええ、アリス本人は『部屋のホコリを吸い取るために作った』と言っていましたわ。……でも、彼女の魔力圧縮回路の計算が狂っていたせいで、この箱のスイッチを入れると、半径五十メートル以内の【大気中のマナ、酸素、さらには小石や人間まで】すべてを超高圧で吸い込み、ブラックホールのように圧縮して消滅させてしまうのです!」


「なっ……!?」

 会場が静まり返った。


「つまりこれは、敵の軍隊のど真ん中に投げ込めば、一瞬にして一個大隊を空間ごと物理的に消去できる『戦略級・局地殲滅兵器』よ! ちなみに暴走を防ぐ安全装置セーフティは付いていないから、使う時は術者も巻き込まれる覚悟が必要だけどね!」


「す、凄まじい! それはもはや神の兵器ではないか!」

「我が国が買おう! それがあれば、隣国の城など一瞬で塵にできる!」


 ルミアは扇を広げ、妖艶に笑った。

「開始価格は、一億ゴールド! さあ、入札タップを開始しなさい!!」


『ピロロン! 一億五千万!』

『ピロロン! 三億!』

『通信入札! クシャーン帝国の元老院より、十億ゴールド!!』


 ヒマ端末のネットワークを通じて、世界中の大金持ちたちが理性を失ったように数字を吊り上げていく。

 アリスが「吸い込みが強すぎて絨毯ごと破けちゃったからボツね」とゴミ箱に捨てていた失敗作が、わずか一分で国家予算レベルの金額に跳ね上がっていた。


「あはははは! 素晴らしいわ! 落札、十五億ゴールド!! 続いて出品番号2! アリスが『家庭菜園の肥料メーカー』として作った、【土壌強制変異・超活性化プラント(※ただし副作用で周囲の生態系が数百年単位で狂い、新種の魔獣が大量発生する)】!!」


「おおおおっ!! それを敵国の農地に撃ち込めば、食糧難と魔獣被害で国を内側から崩壊させられるぞ!!」

「五十億出す! 我が国に売れ!!」


 もはや狂気の沙汰であった。

 アリスの純粋な「生活を便利にしたい」という発明(の失敗作)が、ルミアという極悪非道なプレゼンターの手に掛かることで、世界を滅ぼす兵器カタログとして超高額で売り捌かれていく。

 ルミアは、ただの「ガラクタ」を「脅威」というパッケージで包み直し、他国の相互不信と軍拡競争パラノイアを煽ることで、底なしの富を強奪していたのだ。


「ふふふ……ちょろい、チョロすぎるわ。アリスが適当に作ったゴミを売るだけで、一晩で旧ローゼンバーグ王国のGDPの百倍の現金が手に入るなんてね」


 ステージの裏側で、ルミアはA&Lペイの天文学的な残高メーターを見つめ、恍惚の表情を浮かべた。


「(……アリス、今頃ユリウス様と甘い夜を過ごしているんでしょうね。貴女がベッドで愛を囁かれている間に、私は貴女のゴミを売って世界経済の首根っこを完全にへし折っておくわ。感謝しなさいよね、CTO)」


 結婚式という究極のイチャイチャの裏で、世界史上最悪の死の商人ルミアによる、究極の錬金術が完成の時を迎えていた。


 ◆◆◆


 その頃。

 グランド・リヴァイアサンの地下最下層、魔力自家発電プラント(懲罰房)。


「ぜぇ……はぁ……! ぎ、ギルバート先輩!! 助けてください、もう足が限界ですぅぅぅ!!」

「泣くなザイード!! お前がペダルを止めたら、この部屋の温度がマグマレベルに跳ね上がるんだぞぉぉ!!」


 巨大な鉄の回しハムスター・ホイールの中で。

 全身に汗と泥をこびりつかせたギルバートとザイードは、白目を剥きながら全速力で車輪を回し続けていた。


 彼らの目の前に設置された巨大モニターには、上の階で開催されている『VIP限定・魔導ライブオークション』の熱狂の様子が、リアルタイムで映し出されている。


『続いての出品は、アリスが「夏場の避暑用」として作った【超広域・局地氷河期発生装置(※ただし起動すると半径十キロが絶対零度に凍りつき、術者も凍死する)】! 開始価格、五十億ゴールド!!』


「な、なんだあの狂ったオークションは……!?」

 ギルバートが絶望の表情で画面を見上げる。


「あいつら……アリスが作った『ガラクタ』を、国家予算レベルの金額で売り捌いてやがる! 俺が……俺がかつて『そんなゴミを作る暇があるならマナー講座を受けろ』と叱責したあのガラクタが……!!」


 ギルバートの心に、これまで以上の強烈な後悔の念が押し寄せた。

 もし、あの日。

 卒業パーティーでアリスを婚約破棄せず、彼女の才能を理解して、あの「ガラクタ」を王国のビジネスとして運用していれば。

 今頃、あの上階のステージで黄金のマイクを握り、世界中の富をかき集めて高笑いしていたのは、ルミアではなく自分だったはずなのだ。


「俺の……俺の金が! 俺の栄光がぁぁぁ!!」


『ピロロン! 落札、百二十億ゴールド!! 素晴らしい入札ですわ!!』


「や、やめろぉぉ! その金は俺のものだぁぁぁ!!」


 モニターから流れる天文学的な数字を見るたびに、ギルバートのプライドと強欲が物理的に切り刻まれていく。

 しかし、残酷な現実は彼を逃がさない。


『あらあら、元・殿下たち。随分と回転のペースが落ちているんじゃなくて?』


 頭上のスピーカーから、ルミアの自動音声(AI)が冷酷に響く。


『現在、世界中からの超高速・同時通信入札(オークションのリアルタイム処理)によって、我が船の魔力サーバーはかつてないほどの高負荷に達しているの。貴方たちが生み出す運動エネルギー(魔力)が、このオークションを支える重要なインフラになっているのよ。……さあ、世界の経済を回すために、もっと死ぬ気で足を動かしなさい!!』


「ふざけるな! なんで俺が、あいつらのぼろ儲けのために足を棒にして走らなきゃならないんだぁぁ!!」


『文句があるなら、足を止めればいいわ。……熱板の温度、MAX(最大)に設定完了。十秒後に床が溶岩レベルに達するわよ』


「ひぃぃぃっ!! 走る! 走りますぅぅぅ!!」

「ザイード! もっと腰を落として踏み込めぇぇ!! 足裏が焦げるぞぉぉ!!」


 完全なる因果応報にして、究極の搾取。

 かつて私を無能と嘲笑い、自らの地位にあぐらをかいていた愚かな男たちは、私が生み出した「ガラクタ」が世界を動かす莫大な富に変わっていく様をモニターで見せつけられながら、そのシステムの『奴隷動力源』として一生走り続ける運命にあった。


「アリスぅぅぅ……! 頼む、俺にも……その百二十億ゴールドの、一パーセントでいいから恵んでくれぇぇぇ!!」


 ギルバートの血を吐くような絶叫は、オークション会場の熱狂と、豪華客船のエンジンの轟音にかき消され、誰の耳にも届くことはない。

 彼らの流す後悔の涙と絶望の汗は、魔導商会A&Lの天文学的な利益を叩き出すための極上のスパイスとして、今日も一滴残らず吸い尽くされていくのであった。


 ◆◆◆


 ――そして、夜明け前。

 グランド・リヴァイアサンの最上階、ペントハウス。

 世界中の富を吸い尽くしたオークションの狂乱など一切届かない、絶対不可侵の静寂の中で。


「……んんっ……」


 私は、ユリウス様の広い胸の中で、心地よい疲労感と共に目を覚ました。

 シーツ越しに伝わる彼の体温と、私を絶対に逃がさないとばかりに固く回された逞しい腕。

 私が少し身じろぎしただけで、彼は目を閉じたまま、私のおでこに優しくキスを落とした。


「……おはよう、私の妻。昨夜は少し、愛しすぎたか?」

 彼の極上に甘く、少し掠れた声が耳元をくすぐる。


「ゆ、ユリウス様……。おはようございます。……その、色々と、激しすぎました……」

 私は昨夜の甘すぎる出来事を思い出し、顔から火が出るほどの恥ずかしさに襲われ、シーツに深く顔を埋めた。


 ユリウスは低く笑い、私の銀髪を愛おしそうに撫でた。


「君が私に見せてくれたあの表情も、声も、熱も……すべてが私だけのものだ。この世界のいかなる富も、権力も、君の存在そのものには及ばない。……アリス、君を愛している。永遠にな」


 帝国最強の影の皇帝からの、この世で一番甘く、そして重い愛の誓い。

 私はシーツから少しだけ顔を出し、彼のアメジストの瞳を真っ直ぐに見つめ返した。


「……私も、愛しています。ユリウス様。私の創り出す魔法とビジネスのすべてで、貴方の隣の世界を、世界で一番面白くて幸せな場所にしてみせますからね」


 私たちの唇が、再び重なり合う。

 窓の外では、新しい朝陽が大海原を黄金色に染め上げていた。


 世界経済を物理的に飲み込むルミアの経営手腕と、私の常識外れの魔導技術。

 そして、それらすべてを絶対の武力と財力で完璧に保護(独占)する、最強の魔王パトロン


 無能な元凶たちを地下で走らせながら、魔導商会A&Lのえげつなくも痛快な覇道は、もはや神すらも止められない高みへと達し、永遠の黄金時代ブルー・オーシャンを突き進んでいくのだった。


(第23話 終わり)

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