第20話:超次元・魔導ガチャの底なし沼と、他国の皇帝を平伏させる絶対君主
超巨大・魔導豪華客船『A&Lグランド・リヴァイアサン』が、帝国の港を出港してから二週間。
私たちの船は、大海原を越え、東の巨大な大陸に位置する軍事と黄金の覇権国家――『クシャーン黄金帝国』の領海ギリギリの公海上に停泊していた。
「……ふざけているわね。本当に、心の底から腹立たしいわ」
最上階のペントハウスのバルコニー。
完璧なサマードレスに身を包んだルミアが、ヒマ端末の画面に表示された『クシャーン帝国・外交省からの通達』を睨みつけ、冷たい声で吐き捨てた。
「どうしたの、ルミア? クシャーン帝国の港への入港許可、下りなかったの?」
私が空間転送で取り寄せたトロピカルパフェを頬張りながら尋ねると、ルミアは忌々しげに画面をスワイプした。
「入港自体は許可するそうよ。……ただし、『A&L商会が持ち込むすべての商品および技術に対し、一律八十パーセントの超高額関税をかける。さらに、船の売上の半分をクシャーン皇帝に上納せよ』ですって。完全に私たちの足元を見て、利益を根こそぎ奪い取ろうとしているのよ」
「はちじゅうパーセント!? ほとんど利益が出ないじゃない! ぼったくりもいいところよ!」
クシャーン黄金帝国は、大陸東部を武力で統一した巨大な軍事国家だ。彼らは自国の経済と技術に絶対の自信を持っており、他国からの輸入品には異常なほどの関税をかけて国内産業を保護している。
要するに、「お前たちの船の噂は聞いている。商売をしたければ、俺たちのルールに従って上前を跳ねさせろ」という、絵に描いたような傲慢な要求だった。
「どうするの? このままじゃ、東の大陸でのビジネスが展開できないわよ」
「……アリス。貴女、私を誰だと思っているの?」
ルミアの瞳が、スッと細められた。
その顔は、聖女の微笑みなどではない。完膚なきまでに相手を搾取し、絶望の底に叩き落とす『資本主義の悪魔』の顔だった。
「関税というのはね、『その国の領土(港)に商品を持ち込む』から発生するのよ。だったら、港になんて入らなければいい。私たちはこの公海上に停泊したまま、クシャーン帝国の富裕層から、彼らの国家予算ごと資産を根こそぎ吸い上げてやるわ」
「港に入らずに? でも、どうやって商品を売るの?」
「貴女の作った『ヒマ端末』と『空間転送』があるじゃない。……そして今回、東の大陸の連中の強欲なプライドを完璧に破壊するために、貴女に新しく組んでもらった『あの狂った集金システム』を稼働させるわよ」
ルミアの言葉に、私は「あっ」と声を上げた。
「……アレね。人間の射幸心(ギャンブル脳)を限界までぶっ壊す、悪魔のシステム」
「ええ。名付けて、超次元・魔導封入抽選システム……『A&Lプレミアム・ガチャ』のサービス開始よ!!」
ルミアが高らかに宣言した瞬間、私の背筋にゾクッと冷たいものが走った。
◆◆◆
その日の夜。
クシャーン黄金帝国の首都にある、大貴族の屋敷。
密輸業者の手引きによって、すでにクシャーン帝国の貴族たちの間でも、帝国の『ヒマ端末』は裏で高値で取引され、密かに普及し始めていた。
「ちっ……我が皇帝陛下も頭が固い。あの船の技術を素直に受け入れれば良いものを、関税で追い返そうとするとは」
大貴族の男が、ワインを飲みながら隠し持っていたヒマ端末を開いた。
その時。
ヒマ端末の画面に、ド派手なファンファーレと共に、新しいアプリケーションの通知がポップアップした。
『A&Lグランド・リヴァイアサン到達記念! 超次元・魔導ガチャ開催!!』
『一回一万ゴールド(※A&Lペイ決済のみ)! 幻の【若返り美容ポーション・極】や【大公邸仕様・完全自動防衛ゴーレム】が当たるチャンス!!』
「な、なんだこれは……? ガチャ……?」
大貴族は訝しげに画面をタップした。
画面には、宝箱の立体映像が表示されている。
そして、『提供割合(排出率)』という小さな文字があった。
ノーマル(ただのポーション)……90%。
レア(高級魔導具)……9%。
SSR(若返りポーション等の超絶限定品)……0.01%。
「ふん、一回一万ゴールドだと? はした金だな。このSSRとやらが出れば、妻の機嫌も直るだろう。試しに十回ほど回してみるか」
大貴族が『十連ガチャを回す』というボタンをタップした。
その瞬間、画面の宝箱がガタガタと揺れ、青い光を放ってパカッと開いた。
『ノーマル! ノーマル! ノーマル……』
出てきたのは、街の薬屋でも買えるような下級ポーションばかり。それらは空間転送で、屋敷のテーブルの上にポロン、ポロンと転がり出た。
「ちっ、なんだ。ハズレばかりではないか。……だが、次こそは」
大貴族は、無意識のうちに再び『十連』のボタンを押していた。
青い光。またハズレだ。
「ええい、舐めるな! 我が資産は豊富にあるのだ! 出るまで回せばいいのだろうが!」
大貴族の指が、止まらなくなった。
百連、二百連。彼がA&L魔導銀行に預けていた資産が、一秒ごとに『数字』として溶けていく。
そして、三百連目。
画面の宝箱が、突如として青でも赤でもない、眩い『虹色の光』を放った。
『キュインキュインキュイーーーン!!!』
『SSR確定!! おめでとうございます!!』
脳内麻薬が爆発するようなド派手な確定演出と共に、テーブルの上に、見事な装飾が施された『若返り美容ポーション・極』が空間転送されてきた。
「おお……! おおぉぉぉぉっ!! 出た! 出たぞ!!」
大貴族は立ち上がり、狂喜乱舞した。
実際には三百万ゴールドもの大金をドブに捨てて、ようやく一つのポーションを手に入れただけなのだが、彼の脳は『虹色の光を見た快感』と『超低確率を引き当てたという優越感』によって、完全に麻痺していた。
そして、このシステムの真の恐ろしさはここからだった。
彼がSSRを引き当てた瞬間、クシャーン帝国内でヒマ端末を持っている『すべての貴族の画面』に、テロップが流れたのだ。
『速報! ガルシア伯爵が【若返り美容ポーション・極(SSR)】を引き当てました!!』
「なっ……ガルシアの奴が、あの幻のポーションを!?」
「くそっ、あいつに出るなら俺にも出るはずだ! 回せ! 俺もガチャを回せ!!」
他人が大当たりを引いたという『見せつけ(射幸心の煽り)』。
これによって、クシャーン帝国の貴族たちのプライドと嫉妬心に完全に火がついた。
「俺は公爵だぞ! 伯爵なんぞに負けてたまるか! 五百連だ!!」
「資金が足りない!? ならば領地の徴税権を担保にして、A&L銀行からキャッシングしろ! 虹色を見るまで回すのをやめるな!!」
ガチャ。
それは、実体のないデータと確率の壁を利用して、人間の理性を根底から破壊する究極の集金装置だった。
一晩のうちに、クシャーン帝国の国家予算の数年分に匹敵する莫大な資産が、ただ画面のボタンをタップするという行為だけで、公海上に停泊する私たちの船へと吸い上げられていったのである。
◆◆◆
「あはははははは!! 凄まじい!! 本当に凄まじいわアリス!!」
翌朝。グランド・リヴァイアサンのCEO執務室。
ルミアは、ヒマ端末の画面に表示された『一晩のガチャ売上総額』を見て、腹を抱えて笑い転げていた。
「クシャーン帝国の貴族ども、完全に理性を失って廃課金と化しているわ! 彼らの領地の権利書や、国債の半分以上が、すでにガチャの担保として我が社の金庫に転送されてきている! 関税をかけるどころか、国ごと私たちに貢いでいるのよ!!」
「……本当に恐ろしいシステムを作ってしまったわね。人間の脳って、確率と光の演出にこんなに弱いのね」
私は自分で組んだ『絶対ランダム・魔力抽選陣』のえげつない威力に、少しだけ引いていた。
いくらなんでも、一晩で国家が傾くレベルの課金をするなんて。
「これでクシャーン帝国は、事実上、我が社の属国に成り下がったわ。皇帝がいくら強がっても、貴族たちの首根っこは完全に私たちが握っているんだから」
ルミアが勝利の美酒(朝から高級シャンパン)を煽ろうとした、その時だった。
ブォォォォンッ!!
突然、船全体を覆う絶対防護結界が、激しい衝撃を受けて大きく揺れた。
「な、何事!?」
「ルミア社長! アリスCTO! クシャーン帝国の無敵艦隊が、我が船を包囲しました!!」
通信魔導具から、警備担当の兵士の焦った声が飛び込んできた。
「無敵艦隊ですって!?」
私とルミアがバルコニーに飛び出すと、公海上であるはずの私たちの船の周囲を、数百隻に及ぶクシャーン帝国の巨大な軍艦がぐるりと取り囲んでいた。
各艦の甲板には、大口径の魔導砲がズラリと並び、その砲口はすべて私たちのグランド・リヴァイアサンに向けられている。
そして、最も巨大な旗艦の甲板から、風魔法で増幅された怒声が響き渡った。
『――我が国を愚弄する魔導商会A&Lの者どもに告ぐ! 余はクシャーン黄金帝国皇帝、バシュラールである!!』
黄金の鎧を着た、筋骨隆々の巨漢――クシャーン皇帝が、怒りで顔を真っ赤にして叫んでいた。
『貴様らの悪魔の遊戯のせいで、我が国の貴族たちが一晩で破産し、国家の経済が崩壊寸前である! これは明らかな我が国への経済侵略行為! 直ちにサーバーとやらを停止し、奪い取った全資産を返還せよ! さもなくば、この無敵艦隊の一斉射撃で、貴様らの船ごと海の藻屑にしてくれる!!』
完全な逆ギレだった。
自分たちが関税でぼったくろうとした挙句、自分たちの貴族が勝手にガチャに狂って破産しただけなのに、それを武力で取り返そうというのだ。
「……野蛮ね。経済の敗北を武力で覆そうとするなんて、三流国家のやることだわ」
ルミアが冷たく見下ろすが、相手は数百隻の軍艦。いくらこの船の結界が強固でも、一斉射撃を何時間も受け続ければ、いずれ結界の魔力炉が焼き切れてしまう。
「アリス、結界の出力はどれくらい持つ?」
「私の海流マナエンジンなら、三日は持つわ。でも、反撃用の武装は積んでないから、ジリ貧になるわね……」
私たちが対応策を練ろうとした、その時。
『……おい。そこにいる銀髪の女』
クシャーン皇帝の好色な視線が、バルコニーに立つ私を捉えた。
『貴様が、この悪魔の技術を作った最高技術責任者(CTO)とやらだな。……ふん、遠目にも分かるほどの極上ではないか。どうだ、我が国の資産を返還し、さらに貴様自身が余の【三十八番目の妾】として後宮に入るというのであれば、特別に命だけは助けてやってもよいぞ!』
「…………は?」
私がポカンと口を開けた、その瞬間だった。
――ピキッ。
世界が、凍りつく音がした。
比喩ではない。
夏の強い日差しが照りつける南の海が。
私たちの船を囲む、数百隻の巨大な軍艦の足元が。
そして、大気中のすべての水分が。
一瞬にして、文字通り『絶対零度』に凍結し、巨大な氷の平原へと変貌したのだ。
「な、なんだ!? 海が……海が凍ったぞ!!?」
「魔導砲の機関部が凍結しました! 撃てません!!」
クシャーン帝国の無敵艦隊が、氷の牢獄に閉じ込められ、パニックに陥る。
「……私の最愛(妻)を。私の命よりも大切な宝を……『妾』にするだと?」
極寒の地獄の中心。
最上階のペントハウスのバルコニーに、いつの間にか、漆黒の軍服を纏った一人の男が立っていた。
ユリウス・フォン・ヴァルハイト大公。
帝国の影の皇帝にして、私への愛情と独占欲で理性のストッパーを完全に破壊された、最強の魔王。
「ユ、ユリウス様……!?」
彼のアメジストの瞳は、もはや人間のそれではなく、純粋な『殺意』と『破壊の意思』だけで構成されていた。
ユリウスが、バルコニーから凍りついた海面へと、音もなく飛び降りる。
彼が氷の上に降り立った瞬間、その足元からさらに恐ろしい漆黒の魔力がドーム状に広がり、クシャーン皇帝の乗る旗艦を完全に包み込んだ。
『展開・絶対零度領域』
「ひぃっ……!? き、貴様は何者だ!!」
クシャーン皇帝が、黄金の鎧をガタガタと震わせながら、目の前に降り立った死神を見て悲鳴を上げた。
「私は、貴様らが今、最もその逆鱗に触れてはならなかった男だ」
ユリウスはゆっくりと右手を上げ、指を鳴らした。
パチンッ。
その瞬間、クシャーン皇帝の乗る旗艦の巨大な主砲が、まるで飴細工のようにグシャァァァッ!と圧縮され、空間ごと捻じ切られて粉々になった。
数百トンの鋼鉄が、ただの指鳴らし一つで塵に変わる。
その圧倒的すぎる暴力の前に、クシャーン帝国の無敵艦隊の乗組員たちは全員、腰を抜かして甲板に這いつくばった。
「私の妻を穢らわしい瞳で見た罪。……貴様の命と、この艦隊すべてを氷の底に沈めても足りない」
ユリウスが一歩踏み出すごとに、周囲の重力が異常な数値に跳ね上がり、クシャーン皇帝は自らの鎧の重さに耐えきれず、無様に甲板にうつ伏せに叩きつけられた。
「ぐはぁっ……!! ま、待て! 降伏する! 降伏するぅぅ!!」
「遅い。貴様の存在そのものが、私の不快だ」
ユリウスが本当に皇帝の首を空間ごと切断しようとした、その時。
「待ってください、ユリウス様!!」
私が、バルコニーから空間転送魔法で一瞬にして彼の隣に転移し、彼の右腕にギュッと抱きついた。
「アリス……離れろ。この羽虫は私が処理する」
「ダメです! ここで一国の皇帝を殺しちゃったら、国際法違反で私たちの船が世界中から指名手配されちゃいます! それに、ルミアが『殺すより生かして搾取した方が利益になる』って言ってます!」
私は必死に、暴走する大公閣下の腕にしがみついた。
「……君は、この豚が君を妾にすると言ったのが許せるのか?」
「許せませんけど、ユリウス様がこうして私のために本気で怒ってくれたから、もう十分です。……それに、私は絶対にユリウス様以外の人のところなんて行きませんから」
私が上目遣いで、彼の極寒の瞳を見つめてそう言うと。
ピタッと、周囲の重力と絶対零度の冷気が止まった。
「…………アリス。君は本当に、私の理性をコントロールする天才だな」
ユリウスは深い溜息をつき、私をその腕の中に強く抱き寄せた。
「いいだろう。君の可愛い懇願に免じて、命だけは取らずにおいてやる」
ユリウスは、床に這いつくばるクシャーン皇帝をゴミのように見下ろした。
「聞け、愚王。貴様の命は今、私の妻の慈悲によって繋ぎ止められた。その代償として……クシャーン帝国の全領土の九割を、我が魔導商会A&Lの直轄領(担保)として差し出せ」
「きゅ、九割だとぉぉ!? そ、そんな無茶な……!」
「断るなら、今ここで貴様の首を刎ね、残りの一割も焦土にするが?」
極大の殺気を突きつけられ、クシャーン皇帝はガチガチと歯を鳴らしながら、絶望の涙を流して首を縦に振るしかなかった。
「……よろしい。契約成立ね」
バルコニーから悠然と降りてきたルミアが、すかさず電子契約書(ヒマ端末)を皇帝の顔面に押し付け、血のサインを奪い取った。
こうして、東の巨大国家クシャーン黄金帝国は、ガチャによる経済崩壊と、ユリウス大公の圧倒的すぎる武力(愛の暴走)によって、たった一日にして魔導商会A&Lの完全なる支配下に落ちたのであった。
◆◆◆
その日の夜。
グランド・リヴァイアサンの最上階、ペントハウス。
クシャーン帝国の艦隊を追い払い、海を元の青さに戻した私は、ユリウス様と共に夜の海を眺めていた。
「……すまない、アリス。また君の目の前で、理性を失ってしまった」
ユリウスはソファに深く腰掛け、私を自分の膝の上に乗せて、背中から抱きしめていた。
彼の顔が私の首筋に埋められ、少しだけ疲れたような、しかし狂おしいほどの熱を帯びた声が響く。
「君があまりにも魅力的すぎるのがいけない。他の男が君を見るだけで、私の内なる破壊衝動が抑えきれなくなる。……いっそ、この船の最奥に君を永遠に閉じ込めてしまいたい」
「ユリウス様……。そんなことしたら、私が新しい魔法陣を作れなくなっちゃいますよ?」
私が優しく彼の頭を撫でると、彼は私の指先にそっとキスをした。
「分かっている。君のその翼を縛り付けることだけは、絶対にしたくない。……だが、今日だけは、私に君を完全に独占させてくれ」
ユリウスは私の身体を反転させ、逃げ場のない熱い瞳で私を真っ直ぐに見つめた。
その瞳の奥にある、パトロンとしての庇護欲を超えた、一人の男としての圧倒的な愛と欲望。
「……はい。今日は、ユリウス様の好きなようにしてください」
私が顔を真っ赤にして頷くと、彼は狂おしいほどの強さで私の唇を塞いだ。
海に浮かぶ完全な密室で、最強の魔王による甘すぎる独占愛の時間は、夜が明けるまで続くのだった。
◆◆◆
――そして。
その夜、グランド・リヴァイアサンの地下最下層、魔力自家発電プラント(懲罰房)。
「ぜぇ……はぁ……! ぎ、ギルバート先輩!! なんですか今日のこの狂ったような魔力消費量はぁぁぁ!!」
「知るかぁぁぁ!! 昼間に急に海が凍ったかと思ったら、今度は夜通しで『SSR確定ガチャ演出』のド派手な光が止まらねぇんだよぉぉぉ!!」
巨大な鉄の回し車の中で。
ギルバートとザイードは、白目を剥きながら光の速さでペダルを回し続けていた。
昼間、ユリウス大公が海を凍らせた際の『結界維持』による魔力消費。
そして今夜、クシャーン帝国の貴族たちが国を失ったストレスから現実逃避し、一斉に『ヒマ端末のガチャ』を回しまくっていることによる、サーバーの超絶負荷。
『キュインキュインキュイーーーン!!!』
『SSR確定!! おめでとうございます!!』
サーバーがガチャの虹色の光(確定演出)を処理するたびに、懲罰房の魔力吸い上げポンプがフル稼働し、ギルバートたちの回し車の負荷が十倍に跳ね上がる。
さらに、足を止めれば床の超高熱プレートから容赦なく炎が噴き出す地獄の仕様。
「あっちぃぃぃ!! 頼む! 誰か、ガチャを回すのをやめてくれぇぇぇ!!」
「俺たちの足が! 足がちぎれるぅぅぅ!! SSRなんて出るなぁぁぁ!!」
かつて私を嘲笑っていた無能な元王子たちの絶叫は、カジノとガチャの熱狂に包まれた豪華客船の騒音にかき消され、誰の耳にも届くことはない。
彼らの流す血の涙と汗は、すべて『魔導商会A&L』の莫大な利益と、私とユリウスの甘い新婚生活の夜を彩るための『極上のエネルギー』として、今夜も一滴残らず吸い尽くされていくのであった。
(第20話 終わり)




