最初の会話
更新が遅くなりました。
他の登場人物たちも段々と登場します。
是非お楽しみください。
朝、廊下に出ると、人が増えていた。
昨日は点だった存在が、
今日は線になりかけている。
張 律は、足を止めて様子を見た。
誰も声をかけない。
だが、誰も完全に無関心でもない。
「おはよ」
最初に声を出したのは、
背の低い少年だった。
場違いなほど軽い。
「……元気だね」
誰かが小さく言う。
「だってさ」
少年は肩をすくめる。
「昨日の時点で、
もう普通じゃないでしょ、ここ」
否定する声はなかった。
「で?」
少年は続ける。
「みんな、
どんな感じ?」
「……何が」
「力」
その一言で、
空気が少し沈む。
「聞くな」
低い声が割り込んだ。
背の高い少年だ。
「ここは、
そういう話をする場所じゃない」
「へえ」
背の低い少年は、
面白そうに目を細める。
「じゃあ、
どんな場所?」
答えは返らない。
「まあ、いいや」
少年は笑った。
「どうせ、
そのうち分かるし」
律は、その言い方に引っかかった。
――“そのうち”。
先延ばしにできると思っている。
それ自体が、
余裕の証拠だ。
「なあ」
背の低い少年が、
今度は背の高い少年を見る。
「君はさ」
「昨日の試験、
何だった?」
一瞬、沈黙。
背の高い少年は、
ゆっくり息を吐いた。
「……めんどくさい」
そう言って、
壁の方を向く。
「言葉で説明するより、
早いだろ」
「ちょっと――」
誰かの声が、
途中で切れた。
鈍い音がした。
乾いた、
嫌な音だった。
「……今の」
誰かが呟く。
背の高い少年は、
何事もなかったように振り返る。
「触っただけ」
「壁が」
「壊れた?」
少年は首を傾げる。
「だから?」
その言い方で、
全員が理解した。
――ああ、
そういう人間なんだ。
「大丈夫だろ」
「人じゃない」
その一言で、
距離が変わった。
明確に、
一歩分。
「次はない」
官の声が、
唐突に入る。
いつからいたのか、
分からない。
「ここで“次”を作るな」
背の高い少年が、
初めて表情を変えた。
「……試しただけだ」
「結果は出た」
官は淡々と言う。
「もう一度やれば、
お前はいなくなる」
「いなくなるって」
誰かが、
冗談めかして言いかける。
官は、何も答えない。
それで十分だった。
背の低い少年が、
乾いた笑いを漏らす。
「なるほど」
「そういう感じか」
誰も、
さっきまでと同じ位置には立っていなかった。
張 律は、
一言も発していない。
だが、胸の奥だけは、
はっきりと冷えていた。
――書かなくてよかった。
今、
何かを書いていたら。
壊れたのは、
壁だけじゃ済まなかった。
誰かが言う。
「……これが、
最初の会話?」
答える者はいない。
だが、
それで十分だった。
ここでは、
言葉一つで、
立場が決まる。
張 律は、
一歩だけ後ろに下がった。
今は、
まだ話さない。
話すより先に、
見ているべきだ。
そう判断した。
閲覧ありがとうございます。
どんな場所でも初めの会話ってなんだか印象に残っていること多いなと思うくらいには大事な部分だと思います。
これからどのように話が進むのかお楽しみに。
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