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言命の律  作者: 松井環


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6/7

選ばれたものたち

こんばんは。

少しずつ進んできました。


これから人物も増え始めてきます。


ゆっくり読んでいってくだされば幸いです。

馬車が止まる。


合図もなく、扉が開いた。


張 律(チョウ リツ)が降り立ったのは、

町とも、城とも違う場所だった。


高い塀に囲まれた一角。

建物は整っているが、装飾はない。



「ついて来い」


短く告げられ、

律は歩き出す。


通された広間には、すでに数人の同年代がいた。


誰も騒がない。

誰も話さない。


それぞれが、

少しずつ距離を空けて立っている。


律は、空いている壁際に立った。


しばらくして、官の一人が前に出る。


「ここにいる者は、

 天選を通過した者だ」


誰も反応しない。


「だが、

 同じ力を持つわけではない」


律は、視線を巡らせた。


背の高い少年。

腕の太さが目につく。


目が合った瞬間、

空気が張りつめる。


(……普通の人じゃない)


理由はない。

ただ、そう感じた。


別の場所には、

静かに目を伏せている少女がいる。


何もしていないのに、

近づきにくい。


存在感が、

他と違う。


「天命は、多様だ」


官は続ける。


「武に現れる者もいれば、

 感覚に宿る者もいる」


「言葉に宿る者もいる」


最後の言葉で、

律の胸がわずかに反応した。


だが、

誰もこちらを見ない。


「ここでは、

 力の優劣はまだ決まらない」


「だが――

 扱いを誤れば、

 即座に隔離される」


隔離。


その言葉が、

静かに重く落ちる。


「今日から、お前たちは共に過ごす」


「学び、

 観察され、

 必要とあらば、

 選別される」


誰かが、わずかに息を呑んだ。


「質問はあるか」


沈黙。


官は、それを当然のように受け取る。


「では、案内する」


移動が始まる。


廊下を歩きながら、

律は自分の足音を聞いていた。


ここでは、

言葉よりも先に、

“何を持っているか”が見られる。


それは、

町とはまったく違う世界だ。


部屋に通される。


簡素な寝台。

机。

筆と紙。


また、書くための場所だ。


「個室だ」


官が言う。


「不用意に言葉を交わすな」


その一言で、

律は理解した。


ここでは、

沈黙も選択だ。


扉が閉まる。


一人になる。


律は、机に向かい、

紙を見下ろした。


書けば、

何かが起きる。


書かなければ、

何も起きない。


どちらも、

自分の責任だ。


――明紀の顔が、浮かぶ。


“変な人にならないで”


その言葉が、

胸の奥に残っている。


律は、筆を取らなかった。


今日は、

まだ書かない。


ここで急ぐ理由はない。


集められた者たちの中で、

自分が何者なのか。


それを知るのは、

これからだ。


張 律(チョウ リツ)は、

静かに椅子に腰を下ろした。


ここが、

新しい日常の始まりだった。


閲覧いただきありがとうございます。


次回以降一気に話は進んでいきますので、ぜひお見逃しなく。


励みになりますので、コメント、評価、ブックマークなど、していただけると嬉しいです!


よろしくお願いします。

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