選ばれたものたち
こんばんは。
少しずつ進んできました。
これから人物も増え始めてきます。
ゆっくり読んでいってくだされば幸いです。
馬車が止まる。
合図もなく、扉が開いた。
張 律が降り立ったのは、
町とも、城とも違う場所だった。
高い塀に囲まれた一角。
建物は整っているが、装飾はない。
「ついて来い」
短く告げられ、
律は歩き出す。
通された広間には、すでに数人の同年代がいた。
誰も騒がない。
誰も話さない。
それぞれが、
少しずつ距離を空けて立っている。
律は、空いている壁際に立った。
しばらくして、官の一人が前に出る。
「ここにいる者は、
天選を通過した者だ」
誰も反応しない。
「だが、
同じ力を持つわけではない」
律は、視線を巡らせた。
背の高い少年。
腕の太さが目につく。
目が合った瞬間、
空気が張りつめる。
(……普通の人じゃない)
理由はない。
ただ、そう感じた。
別の場所には、
静かに目を伏せている少女がいる。
何もしていないのに、
近づきにくい。
存在感が、
他と違う。
「天命は、多様だ」
官は続ける。
「武に現れる者もいれば、
感覚に宿る者もいる」
「言葉に宿る者もいる」
最後の言葉で、
律の胸がわずかに反応した。
だが、
誰もこちらを見ない。
「ここでは、
力の優劣はまだ決まらない」
「だが――
扱いを誤れば、
即座に隔離される」
隔離。
その言葉が、
静かに重く落ちる。
「今日から、お前たちは共に過ごす」
「学び、
観察され、
必要とあらば、
選別される」
誰かが、わずかに息を呑んだ。
「質問はあるか」
沈黙。
官は、それを当然のように受け取る。
「では、案内する」
移動が始まる。
廊下を歩きながら、
律は自分の足音を聞いていた。
ここでは、
言葉よりも先に、
“何を持っているか”が見られる。
それは、
町とはまったく違う世界だ。
部屋に通される。
簡素な寝台。
机。
筆と紙。
また、書くための場所だ。
「個室だ」
官が言う。
「不用意に言葉を交わすな」
その一言で、
律は理解した。
ここでは、
沈黙も選択だ。
扉が閉まる。
一人になる。
律は、机に向かい、
紙を見下ろした。
書けば、
何かが起きる。
書かなければ、
何も起きない。
どちらも、
自分の責任だ。
――明紀の顔が、浮かぶ。
“変な人にならないで”
その言葉が、
胸の奥に残っている。
律は、筆を取らなかった。
今日は、
まだ書かない。
ここで急ぐ理由はない。
集められた者たちの中で、
自分が何者なのか。
それを知るのは、
これからだ。
張 律は、
静かに椅子に腰を下ろした。
ここが、
新しい日常の始まりだった。
閲覧いただきありがとうございます。
次回以降一気に話は進んでいきますので、ぜひお見逃しなく。
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