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8話 銅貨を一枚

 その後も会話が途切れることはなく、というか主に俺がルクレツィアに質問攻めを続ける形で、順調に大きな道まで辿り着いた。


 「ルシアン、あれ」

 

 突然ルクレツィアが俺たちが今通ってきた道と枝分かれした道の一つを指差した。

 

 ──ガタッ…ガタッ…。


 よく目を凝らしてみれば、遠くから馬車が近づいてくるのが見える。

 ルクレツィアの自慢の一つで、目がいいという。

 よく気付いたものだ。


 「おーい。もしや、旅のお方ではないですか?」


 馬車に乗った商人が話しかけてきた。

 ちょっとばかし膨よかな顔立ちから察するに、彼の商売は順調なのだろう。


 「よかったら次の村まで乗っていきませんか?

 お代はいただきますけどね」


 なんとも商売上手だ。

 しかし、その申し出はありがたい。

 日が傾き始め、今から村に着いて宿を探すのは一苦労だと思っていたのだ。


 「ありがとうございます。すぐそこの村までで、大丈夫ですので、銅貨二枚でお願いできますか?」


 「もちろんだとも。

 私は世界中を旅する行商人──バンクホルンと申します。今後ともご縁があれば何卒、ご贔屓に」


 「こちらこそ。僕はルシアーノ、こっちは旅の連れのレティと言います。

 アンネル教王国まで向かう途中でして」


 他の人の前では、ルクレツィアという名前を伏せる代わりに、レティと呼ぶことは事前に打ち合わせてある。そして、俺はルシアンではなくルシアーノだ。


 (俺の名前はともかく……ルクレツィアの方は気をつけないとな)


 魔女の名前ってのは案外知れ渡っているもので、容姿は知らないが名前だけなら聞いたことがある、という人間は少なくない。

 これからも旅を続けていくためには、そういう部分にも気を付けなければならないのだ。


 「その服は……。寒くないのですかい?」

 

 怪しいと言わんばかりの目が俺に向けられている。

 仕方ないのだ。これには深いわけがある。

 

 あの教会には男物の服の着替えがなかったのだ。

 だから俺は、胸にこぶし大の穴が開いたままの服を着るほか無かった。


 「いやぁ……。ちょっと事情がありまして、それにあいにく着替えの持ち合わせもなかったもので」


 「……そうでしたか。お金は持っておられてですかい?」


 「まぁ、多少は……」


 実は俺たち、異端者審問官というのは国の役人だ。

 つまり薄給なのだ。

 もちろん、働きぶりによっては特別給金が出ることもあるが……。

 定額使い放題ってのが実態に近い。

 

 「じゃあ、これ。銅貨一枚でお売りしますから、とりあえず着替えたらいかがですか?」


 「すみません。ありがとうございます」


 銅貨を商人に手渡し、服を得た。

 胸に穴がないだけで、なんと素晴らしいことか。

 

 そんな感動を噛み締めている俺に、こそっとルクレツィアが耳打ちする。

 

 「言ってくれれば、直してあげたのに……」


 「──まじか……」


 まぁ、これも何かの縁だ。

 ついでに馬車に乗せてもらうことができたし、俺の払った銅貨一枚も無駄ではなかったと言い聞かせることにする。

 

 「てか、ルクレツィアはそんな魔法使えたのか……?」

 

 「魔法じゃない……。私の手縫いよ」


 それは少し惜しいことをした。馬車代の銅貨一枚で十分だっかもしれない。

 

 (言ったら返してくれたり──しないか)


 すでに商人は千両箱に俺から受け取った銅貨をしまっていたのだ。

 

 (仕事のできる男は、手が早いね……)


 荷台に登り、空いてる場所に座ることができた。

 馬車の揺れは心地よく、すぐに眠気に襲われた。


 「──ルシアーノさん、起きてください。着きましたよ」


 「……ん? う……あ、あぁ。もう着いたのか……」


 バンクホルンさんに肩を叩かれ目を開くと、馬車はすでに村の宿屋の前に着いていた。

 

 「ありがとうございました」


 「いえいえ。お疲れのようでしたので、お部屋の方も手続きしてありますから」


 「何から何まで、すみません」


 「これも何かの縁です。お二人の旅路に女神様の祝福があらんことを」


 バンクホルンは胸の前で十時を切り、俺たちの旅の安全を祈願してくれた。

 良い人だ。


 (女神様の祝福ね……)


 そんな善意に、少しだけの反抗心を抱いた事は口には出さないでおく。

 魔女を連れた元神官に祝福を与えてくださるほど、女神様とやらはお優しいのだろうか。


 「ルシアン……っ!? あ、いやルシアーノ!」


 寝ぼけ眼のルクレツィアの失言に、冷や汗が噴き出る。焦って、何か言い訳をしようとタジタジしている俺に、バンクホルンが優しく言う。


 「大丈夫ですとも。我々は商売人です。

 見た事、聞いた事を誰かに容易に話したりしませんよ。

 それに、ルシアーノさんの服装を見た時から、何か訳ありなのでしょうと思っていた次第ですから」


 「……すみません。ありがとうございます」


 「いえいえ。その代わりと言っては何ですが、我々も明日の朝にはこの村を出発します。

 お代はいただきますが──どうでしょうか?」


 「わかりました。よろしくお願いします」


 訳ありの俺たちが、村で馬車を借りるのは難しい。

 少しくらい強気な価格設定でも、バンクホルンさんの申し出はありがたいのだ。




ここまで読んでいただきありがとうございます!


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