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6話 まずは北へ

 出発の準備は思ったよりも早く済んだ。

 俺はここに仕事に来てたんだから、当然と言えばそれまでだ。

 騎士団の連中は相変わらず寝たままだが、皆呼吸は安定している。ルクレツィアが睡眠が深くなるようにと、何か飲ませていた。

 一応、詳しく聞いてみたのだが、人体に害があるものではないらしい。

 

 「荷物は……それだけでいいのか?」


 ルクレツィアは、体躯に似合わない大きさの革製の鞄を手にもっている。

 

 「だって、沢山持って行っても困るんでしょ?」


 実は、なかなか荷物が選べないルクレツィアの荷造りが一番時間がかかっていたりする。

 さすがは『所有』の二つ名を冠する魔女だ。

 教会の奥の部屋には、数々の本や地図、用途はわからないがなんか頭がよさそうな道具がたくさん置かれていた。その全てが、彼女がこれまでに収集してきたものだという。


 「なぁ、ルクレツィア。お前たち、魔女に寿命ってあるのか?」


 「うんしょっと……。ん?」


 ルクレツィアはパンパンに膨らんだ鞄を背負いながら振り返る。


 「寿命はあるよ。別に魔女は不死じゃないから」


 何が面白いのか、子供みたいな笑いを浮かべている。


 「じゃあ、今ルクレツィアは何歳なんだ?」


 「二十三」


 「……?」


 「だから二十三歳だよ」


 何度も言うが、ルクレツィアの見た目は十代そこらである。

 それでも魔女だから、実は俺の祖父母と同じくらいの年齢ってオチだと勝手に思い込んでいた。

 それが二十三歳なんて、絶妙な年齢に戸惑いが隠せない。


 「なに? 馬鹿にしてる?」


 目が笑っていない。

 荷造り中にいろいろ軽く話をしたところ、ルクレツィアは自分の容姿が若すぎることが悩みらしい。

 魔女にも、人間みたいな悩み事があるんだなぁ、と感心した。


 「そういう君は、何歳なの?」


 「……二十二」


 「なぁ~んだ、年下なのか」


 どこか誇らしげな態度で、俺を見下す。

 身長的な意味ではなく、態度でだ。


 「それで、どこへ向かうつもり?」


 「えっと……とりあえず、北だな」


 「なんで?」


 「帝国がここから南西にあるから、その反対方面に行く方が動きやすいかと……」


 「ふぅ~ん……。まぁ、私はどこでもいいけど」


 聖セントリア帝国には、俺が務めていた教会がある。

 俺たちがこれから、ひとまずの目的地とした【アンネル教王国】とは、同じ宗派ではあれど、そこまで国交が盛んではなかったはず。

 そんな記憶を頼りに行先を決定したのだ。


 「さて、そろそろ行くか」


 「そうだね……」


 「どうした?」


 急にルクレツィアの口数が減る。


 「いや、なんだかちょっと楽しみだなぁと思ってね」

 

 「そうか──」


 きっと楽しいだけの旅じゃ済まない。

 けれど、なぜか心躍っているのは俺も同じだった。


 「俺も、楽しみだ」


 「ふふっ……。やっぱり君は、変わってるね」




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