表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/28

4話 所有の権能

 『君はもう、私のものだって言ったよね?』


 その声が耳をかすめた瞬間、

 床の石畳がびり……と震えた。


 え……?

 地震か──?


 違う。

 教会の空気そのものが、軋んでいるんだ。


 聖騎士団の誰かが叫んだ。


 「魔女が動いたぞ!! 構えろ!!」


 次の瞬間、

 銀の鎧が一斉にきらりと光り、十数本の剣が一斉に抜かれる音が重なった。


 ──シャッ!!


 刃の軋む音が教会全体に響き渡る。


 「総員、突撃──!」


 号令が轟き、重い甲冑の足音が一気に襲いかかってきた。


 (来る……! 殺される!)


 身体が本能で後ろに下がった。

 けれど腕を掴まれる。


 「大丈夫だよ、ルシアン」


 ルクレツィアは微笑んでいた。

 信じられないほど落ち着いて。


 ──その瞬間。


 「行けぇぇぇッ!!」


 最前列の騎士が剣を振りかぶり、

 真っ直ぐルクレツィアの首めがけて斬り下ろした。


 俺の心臓が跳ね上がる。

 嫌でも目を瞑れない。


 (ッ──斬られる!!)


 ……斬撃が届くはずだった。


 なのに。


 ──バンッ!!


 まるで空気が固体になったような衝撃音が鳴り、騎士の体が後方へ弾き飛ばされた。


 「う、わ……っ!?」


 鎧ごと石畳に叩きつけられ、動けなくなっている。


 何が起きたのか、理解できなかった。


 ルクレツィアは、指一本動かしていない。


 「っ……に、逃げろ! 防護壁だ!!

 魔女の権能だ!!」


 誰かが叫んだ。

 その声を皮切りに、全員の動揺が広がる。


 だがもう遅い。


 ルクレツィアの足元の床に、薄い光が浮かび上がった。

 それはじわり、じわりと教会全体に広がっていく。


 そこに触れた騎士たちが──

 ひざから崩れ落ちた。


 「く……っ、重い……!? 体が……!」


 倒れた?

 違う。

 体を押さえつけられているんだ。


 天井から巨大な石が降りてきたように、

 全員が床にねじ伏せられていく。


 ルクレツィアが俺の横で、小さくつぶやいた。


 「“所有の領域”だよ。

  この空間にいるのは、君と私だけ」


 (俺も……?)


 立っていられるのは、俺だけだ。


 いや、俺だけ特別扱いされているのか……?


 聖騎士団長が、呻きながら俺に手を伸ばした。


 「ル……ルシアン……!

 魔女の……魔法を……!

 神の……審問官だろ……!」


 その呼びかけに、胸が痛んだ。


 (……俺はもう、何なんだ?

  人間か? 神敵か?

  それとも、ただの魔女の“所有物”か?)


 答えられない。


 聖騎士たちが床に顔を押し付けられていく音が、ぞわりと耳に刺さる。

 ルクレツィアは足取り軽く、拘束された騎士の一人に歩み寄った。


 彼は必死に言葉を絞り出す。


 「か……神は……魔女を……許さぬ……!」


 ルクレツィアは微笑んだ。


 「ねぇ、ルシアン。

  人間って、こんな状態でも吠えるんだよ?」


 そう言って振り返る目は──

 人間のものじゃなかった。


 俺の心臓が、ぐらりと揺れる。


 「ルクレツィア……やめろ!」


 思わず叫んでいた。

 止めなければいけないと、身体が勝手に動いた。

 だが彼女は俺を見つめ、笑った。


 「だいじょうぶ。殺さないよ。

  私はそんな乱暴な魔女じゃない」


 (……本当に?)


 疑問が喉に詰まる。


 ルクレツィアは囁くように言った。


 「でも、痛い目くらいは見てもらわないと。

  君を私から奪おうだなんて……。

 その罪は、軽くないからね?」


 その穏やかな声に、俺の背中だけがゆっくり冷えていった。




ここまで読んでいただきありがとうございます!


「面白い!」、「続きが気になる!」と思っていただけたら、


下にある【ブックマーク】や【評価(☆☆☆☆☆)】を押していただけると嬉しいです!


よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ