3話 逃避
「まぁ、いいや。見たところ君に悪気は無さそうだし」
すーっと冷たい空気がどこかへ消え、彼女の目の色も綺麗な深紫に戻っていった。
「すまん。
なにか…そんなに気に触るような言い方をしてしまったみたいだ」
頭を下げてすぐに、自分は何をしている?という疑問が浮かんだ。
審問官である俺が、魔女に頭を下げて詫びているという事実に驚いたのだ。
それは奇しくも彼女も同じなようで、大きめの目が丸くなっている。
「君は変わってるって、よく言われないかい?」
「初めてだ。でも、驚いている。
こんなにも純粋な気持ちで、魔女に詫びる日が来るとは思ってもいなかった」
「そうだろうね……。
そんな素直さに免じて、一つ良いことを教えてあげるよ」
不敵な笑みを浮かべているが、悪意は感じられない。
むしろ、善人にさえ見える表情だ。
「人間達は、私たち魔女を化け物のように扱うけど、私たち魔女は人間をそんな嫌っていないよ」
なんだと?
そんなわけがない……。
魔女は人間嫌いだなんて、一般常識だ。
それが、人間を嫌っていないだなんて。
「私たち魔女は、世界の真理を探究する者。
君たちの国ではなんて言ったかな──」
眼前の魔女──ルクレツィアは人差し指を頬に当て、わざとらしく考えるふりをしている。
しかし、目がふざけてない。
なんなんだ、こいつは。
何が言いたいんだ。
魔女が真理の探究者?
魔法という世界の理を覆す力を使う存在が、この世界の何を探究すると言うんだ。
──バンッ!!!!
「──っ!?」
「動くな! 我々は教会所属の聖騎士団である!」
なんだコイツら。
突然、扉を蹴り壊して入ってきたと思ったら。
──教会の聖騎士団……。
あれ?
滝のような冷や汗が目に染みる。
バクバクと大きな心臓の音が、耳に木霊す。
まずい。
非常にまずい。
何がまずいって、結局俺が人間なのか神敵なのかわからないことが多すぎることだ。
そもそも、魔女と二人きりで廃教会にいる俺の話なんて聞く耳すら持ってくれないはず。
俺の人生で、今が一番の危機かもしれない。
「そこにいるのは──ルシアンか!?
なぜ君がここにいる」
「やぁ。歓迎されてるみたいだよ、ルシアンくん」
名前を呼ぶのはやめてくれ……。
「貴様が、かの『所有の魔女』か。
神に敵対する悪の権化よ。大人しくしていればすぐに楽にしてやる」
「随分な物言いじゃないか。
別に私は君達に何かしたわけじゃないんだけど?」
なんでコイツは、こんなにも敵意剥き出しなんだ。
魔女だからってそんな、相手を煽るような言い方──
「黙れ! 貴様ら魔女は神が定めし、全人類の敵である!」
(ほら、怒っちゃったよ……)
そんな俺の心配を気にもせず、ルクレツィアがわざとらしく俺の肩に手を置く。
それだけで審問官たちが一斉に表情を歪める。
「ルシアン! 君も神に謀反を働くというのか!」
(あぁ、なんかもうどうでもいいな
てか次死んだらどうなるんだ?)
ルクレツィアがここで、死んだら俺は人間に戻るのか……?
それとも、俺も道連れになるのか。
思考が止まる。
薄らと騎士団の頭らしき男と、ルクレツィアの会話が聴こえる。
「魔女! その手を離せ!」
「ルシアンを解放しろ、さもなくば我らは──」
もうどうでもいいか。
ゆっくりと目を閉じよう。
次に目を開く時、俺は俺なのだろうか。
「無理だよ?」
そんな風に自暴自棄になることさえ、魔女は許さない。
「君はもう、私のものだって言ったよね」
その声は優しいのに、背中が冷えるほど残酷だった。
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