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2話 その魔女、『ルクレツィア』と名乗る。

 「さて。そろそろ意識もしっかりして、身体も馴染んできたんじゃない?」


 そういえば、さっきまで感じていた痛みも暑さも消えてる。


 「あぁ……」


 ゆっくりと体を起こすと、頭に上っていた血が一気に下に落ちてクラッとする。

 指は……大丈夫そうだ。

 少し痺れた感じはするが、ちゃんと動く。


 「それで、僕はこれからどうしたらいいのでしょうか?」


 「なにその口調? 君って、本当はそんな固い人間じゃないでしょ?」


 なぜか全てを見通されたような感じに、違和感がすごい。

 でも、まぁなんかどうでもいい気もしてきた。


 「じゃあ……普通に話するけど。俺は、どうなったわけ?」


 それが今は一番気になる。

 

 俺は死んだ。

 それは間違いないはず。

 教会から支給された、浄衣は胸の部分だけ穴が開いているのがその証拠だ。


 「う~ん……。君たちはこういうのをなんて言うんだろうね。

 生き返り? 蘇生? 

 まぁ、そんな感じだよ」


 柔らかい口調と、幼げな見た目から錯覚しそうになるが、目の前にいるのは間違いなく魔女だ。

 

 「なに?」


 「あんたは何者なんだ? 魔女なのはわかるが……」


 「人に名前を聞くときは、まずは自分から名乗るのが礼儀って、修道院では習わないの?」


 「……すまん。それもそうだな」


 (聖職者に礼節を指摘する、魔女ってどうなんだ……?)


 「俺は『ルシアン=ミストヴェイル』。見ての通り、教会の異端者審問官だ」


 「うん、私はルクレツィア。君たちで言うと……『所有の魔女』かな?」


 (やっぱり……。彼女が、司祭様の言っていた魔女で間違いないな……)


 「そうだね。君が探していた、ターゲットだよ」


 「──!?」


 「いやだなぁ。そんなに驚かなくてもいいじゃん。

 君が何を考えているのか、何をしにここまで来たのかなんて、顔を見たらわかるよ」


 「そうか……。で、俺は今どんな状態なんだ?」


 「ん? 哲学的な話? それとも、生物的に人間かどうかってことかな」


 「両方で答えてくれるとありがたいな」


 ルクレツィアと名乗った少女は、首を傾げながら頬に手を当てて考える素振りを見せるが、その様はただの少女だ。

 歳は十代かそこらだろうか。


 「君は死んだ。それはわかる?」


 「あぁ、まぁなんとなくは……」


 「うん、それで生き返った」


 「だから?」


 「つまり、生物としてのは人間そのものだよ」


 何か含みのある言い方だ。


 「でも、人間社会で君のような存在は、はたして人間と呼ぶのかな?」


 それはそうだ。

 一度死んだ人間が蘇った。

 そんな話は神話にしか登場しない。

 それ以外で言えば──


 「悪魔憑き……か」


 「そうだね。私たち、魔女と同じく人類の敵。

 立派な神敵──悪魔の眷属だね」


 考えるまでもない。

 俺はもう、普通の人間として生きられないだろう。


 (じゃあどうする……?)

 

 教会に帰っても、おそらく殺される。

 どこかに逃げるか?


 いや、全土に支部のある教会から逃げ切れるか……?

 無理だ。

 いつか必ず捕まる。


 「終わったな……」


 ルクレツィアはいつの間にか、祭壇の上の司祭の椅子に座り、足をぶらぶらとさせている。

 人の気も知らず──って、何を魔女に期待しているんだ。


 そもそもなんで彼女はここにいる?

 俺がここに来ることを知ってたのか?

 

 「なぁ……?」


 「なに?」


 「俺を殺したのって──」


 言いかけた言葉が喉に引っ掛かり、言葉が続かなくなった。


 「……私じゃないよ」


 俺の様子に気づいたのか、ルクレツィアが先に答えを教えてくれた。


 「君が死んだのは、ただの偶然。

 そこに落ちてる悪魔が、私を殺そうとして。

 それにたまたま君が巻き込まれた。

 それだけだよ」


 ルクレツィアが指さした先には、灰となって崩れ落ちた何かが落ちている。

 生物としてあまりに歪な形。


 人の胴に羽が生え、鳥のような足が生えた何か。


 「悪魔、か……」


 「うん」


 彼女はつまらなさそうに肘をついている。

 時折見せるこの、冷たい態度。

 それに反する、幼い笑顔。

 どっちがルクレツィアの本性なのだろうか……。


 「なんで、悪魔がお前たち魔女を襲うんだよ」


 「なんでって……。そんなことも知らないの?」


 なんだその言い方。

 魔女と悪魔は、同じ悪だろ。

 人類の敵で、神に反する存在。

 それ以外ないだろ。


 「そっか。人間は、私たちをこんな奴等と同類だと言うのか」


 背筋が凍った。

 ルクレツィアの紫の瞳が赤く染まり、それは正に”血”の色で。

 それこそが、ルクレツィアを魔女であると裏付ける何よりの証拠だった。




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