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25話 次の街へ

 あれからアンネルの街は色々と騒がしかった。

 駆け付けた街の警ら隊や、カイルの従者の面々。


 その多くが、カイルに心配したと声をかけていたが、ミリア嬢に声をかける者は少なかった。おおよそ、王位継承権の序列が絡むが故だろう。



 「──それで、ルシアンさん……どちらへ向かわれますか?」


 カイルの計らいで、俺たち一行は追われることなく、でもできるだけ速やかに街を出た。とりあえずさらに北へ。そう思って乗った馬車の中で、隣に座るミリア嬢が話しかけてきた。


 「そうだな……とりあえず、俺とルクレツィアは聖セントリア帝国から離れた国を目指してるけど……特に目的地や、当てがあるわけじゃないんだよな」


 「それでしたら……水央都市アルミネラに向かうのはどうでしょうか?」


 「ああ、水の都って呼ばれてる国だな。でも、どうして? 何か心当たりでもあるのか?」


 「いえ……そういうわけじゃないのですが……」


 申し訳なさそうに口ごもるミリア嬢。これ以上追及しても、子供をいじめる悪い大人にしか見えない気がして、話題を変えることにする。


 「クラネッサは、どこか行きたい街とかないのか?」


 今度は俺の向かい側。荷台の乗り込み口の横に座る彼女に話題を振る。


 「そんなことより、ルシアン……だっけ? ルクレツィアとはどんな関係なの? 私はそっちの方が気になる」


 「……魔女ってのはどいつもこいつも、そう無神経に人の話を聞かないもんなのか?」


 「どういう意味よ。まさか!? すでにルクレツィアとやましい関係……とか……?」


 「はぁ……。なぁ、ルクレツィア……クラネッサが俺と、お前の出会いった日の話が聞きたいらしいぞ?」


 「んー? あっ……! そういえば、ルシアンさぁ。 なんで王太子なんかと一緒にいたの?」


 そういえば、ルクレツィアともゆっくり話しができないままだったということを思い出した。


 「わかったよ。そうだな……。まずは俺とルクレツィアの出会った、あの教会での出来事から話すことにするか。……時間は──たくさんあるしな」


 アンネル教王国から次の街ヘは、馬車を使っても最短で一週間くらいはかかる。アンネル教王国は、この大陸の中心都市と辺境都市を繋ぐ大事な国交路のひとつなのだ。

 次の街まで、これからのこと、これまでのこと──いろいろ話す時間は十分にある。人数も増えた。

 そろそろ旅の目的地をしっかりと定めるのにはちょうどいいのかもしれない。


 「──なるほど……。それで? ルシアンはルクレツィア……いや。私達、魔女のために何ができるの?」


 「なにって……」


 「アドルフに『魔女と笑える国を探すんだー』なんて宣言して……その実は何も考えがないとか?」


 辛辣な言葉が胸を締め付ける。

 確かに魔女と人間が友好的な関係の国なんて聞いたことがない。


 「東洋の国に……魔女が支配する地域があると、宰相達が話してるのを聞いたことがあります」


 「ミリア嬢、それは本当か?」


 「はい。父との謁見の場での話だったと思いますので……その……信憑性は高い方かと。

 あと、私のことはミリアと、呼び捨てで構いません。むしろ、そうしてくださる方が嬉しいです」


 「わかった。じゃあ、ミリア……次の街で、その東洋の国に関する情報を集めよう」


 「はい!」


 俺が呼び捨てにすると、ミリアは嬉しそうに頬を赤ながら良い返事を返す。


 ──ゴソゴソッ……。



 「へ? ……えぇぇぇ……!?」


 「すみません。盗み聞きするつもりはなかったのですが、つい気になりまして。あ、私はナナリム=ルノーア。お気軽に、親しみを込めて、リムと呼んでください」


 荷台に積まれた木箱の奥。ちょっと埃を被った掛け布の下から現れた少女に、俺たちは視線を集めた。

そんな俺たちの反応には構わず、赤毛混じりの少女は続ける。


 「その東洋の国への旅、是非とも私も一緒に連れて行ってください。もちろん、タダだとは言いません。

それに見合う働きはしてみせますとも。なので──」


 「いやいやいやいや……! ちょっと待ってくれ」


 「はい? なんでしょうか? ああ、私がどんな仕事ができるのかの説明ですか?」


 「いや、それもあるけどさ……。そもそも、君はどこの誰だよ?」


 「あっ、それは失礼しました。いやね、人と話すのなんて久しぶりでして。そういう例節? みたいなのに疎いんですよね……」


 「はぁ……?」


 「改めまして私の名前はナナリム=ルノーア。アンネルの街では、私のことを小人だなんて勝手に呼ぶ人もいた様ですが……こう見えて、少なくともあなたよりは年上です」


 小人……そういえば、宿屋で悪魔狩りの男達がそんな話をしていた気がする。

 となると、あの本が例のいつも大事に抱えてるって噂のやつか。


 「……!? 俺より年上だと!? 本当かよ……」


 「はい。だって私──」



 ダンッという音と背中に伝わる痛みで、自分が投げ飛ばされたのを自覚した。


 「ルシアン、離れて!」


 ルクレツィアの権能。無許可の人間を行動不能にする魔法。

 その領域の壁がナナリムと名乗る少女に触れた瞬間、ルクレツィアの壁が壊れた。


 「突然、何をするんです? 所有の魔女、ルクレツィアさん」


 ナナリムは汚れてもいない肩を払う仕草で、さぞ働きましたと言いたげだ。


 「……お前も魔女か?」


 「はい。私は魔女です」


 「で、何が目的なんだ?」


 短い会話の応酬が、警戒心が高まっていることを示す。しかし、ナナリムには警戒の色は見えず、むしろ足を伸ばして座り直した。


 「東洋の国。そこまで私も連れて行ってください。目的はそれだけ」


 「信じられねぇな。何企んでやがるんだ」


 ナナリムは「はぁ」と、短いため息をつく。


 「私は魔女──契収の魔女。二つ名の意味は、契約と収束。つまり私は約束を破らないし、全ての事象は勝手に収束するから、私が頑張って企み事をする必要はない。──どうです? 私のこと少しは信じれそうですか?」


 俺は彼女の言葉を信じても良いのか、クラネッサとルクレツィアを交互に見る。二人とも俺の視線に小さく頷き、これで彼女が魔女である事が確定した。


 「ははっ……。これで三人目かよ」


 「よろしくお願いしますね、ルシアン」


 ニコリと笑う、三人目の魔女。

 

 「旅の仲間が女の子ばかりで、辛いわー……」


 俺は不満を溢す。誰に言うわけでもないが、ただ無性にそうしたくなったのだ。

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